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【十】
しおりを挟むそれから、国王陛下と王妃様と、王宮の僕担当職員及び別のお偉いさんを呼んでもらうことにした。幸い本日の公務は、既に終わったところだった。
――この場にいる人々は、皆、僕の素を知っている。
「実は、結婚を考えている方がいるんです」
僕の言葉に、周囲がざわついた。一番驚いたのは父だ。
「ええええええええええええええええええええええええええええええ!? け、結婚!? その歳でかい? 若くないかな? 今の時代じゃ! 僕の倍近くも早いよ! っていうか出会いとかあったの!? 妥協はしないほうがいいよ!」
実は、国王陛下、かなり愉快なお人なのである。
国民にはとても見せられない。
「どんな方なの?」
王妃様は、腕と膝を組んでいる。上目線だ。これも国民には見せられない。
「留学時に一緒だった、現在大学四年生で、来年からは修士課程です。僕と同じ研究室です。彼女の修士課程が終わった段階で婚約発表、僕の博士課程が終わった後に結婚をと考えているんですが、とりあえず一年間付き合ってみようと思うので、調査をお願いしてもいいですか? 二年目からは、内々の挨拶や顔合わせがあると思うので」
「留学が一緒というと……春香さんは恋人がいるようだけど?」
「もう一人の方です」
僕の声に、母が沈黙した。ノーマークだったらしい。
しかし王宮の職員連中は、予想通り調べていたようだ。
……僕が想像していたよりも、職員たちは乗り気だった。
つらつらと礼の経歴を騙っている。
父は、目を丸くしている。
「ちょっとすごい経歴だね……柾仁を天才だと思ってたけど、上には上が居るというか、人類は進歩してるんだね……へぇ」
「そういうことなら、彼女の卒業に合わせて婚約発表でいいんじゃないのかしら」
母の言葉に、そこなんだよなぁと僕は思った。
本音を言うと、あと一年、ヤりまくりたいだけだ。子供のプレッシャー無しに。
だが、もうひとつ、尋常ではなく大きくてやばい問題があるのだ。
「――実は、まだ付き合ってないんです」
「「「「「「え!?」」」」」
「ただ本日、思いあまって、訴えられたら僕が負けるレベルで押し倒してしまって。強姦と言われて、ここにパトカーが来ても、僕は驚かないです。赤裸々ですが」
「「「「「「えええええええええええええ!?」」」」」
「今日まで自分の気持ちに気づかなくて」
「待って、柾仁。一人の父親として聞くけど、合意とってないの? 優しくしてあげたの?」
「強引に取り付けたというか、言わせたというか。物理的には優しかったと思いますが、彼女の心はズタボロじゃないでしょうか。初めてがこんな形ですからね。だけどそこがまた可愛くて」
「ちょ、惚気てる場合じゃないだろう! なんてことだ! 結婚どころか、男として、謝りに行け、このバカ!」
「いいえ、謝ればこちらの非を認めることになりますわ。強引であっても合意をとったのですから、どうとでもなります。このままなんとしてもお付き合いに持って行きなさい。二年は待ちません。一ヶ月だけ待ちます。いいですね?」
「ちょっと王妃! 僕、君の夫としていうけど、君は、女性の側にたつべきじゃないの? お嫁さんだよ? 王太子妃だよ?」
「王妃様、せめて半年」
「……二ヶ月」
「……四ヶ月」
「「三ヶ月」」
「ちょっと君たち僕のお話聞いて! 僕が国王なんだけど!?」
「わかりました。三ヶ月待って、四ヶ月目にこちらで食事会、五ヶ月目に先方の周囲を固め、半年後に内々定、卒業と同時に婚約発表。このスケジュールね」
「振られた場合と、食事会でお二人が気に入らなかった場合は、どうします?」
「振られたらというか、今回の強姦自体に関して本日から法律の専門家に意見を求めるわ。振られたら、その時点で賠償金をお支払いして、口止めよ。あたりまえでしょうが。気に入らない場合というのは、気に入らなくても迎えるから気にしなくて良いわ。とりあえず後継を設けてくれれば良いもの。あんまりにもおかしくてとてもお妃業が無理だとなれば、病気になってもらうしかないわね。ひきこもって過ごしてもらうだけよ」
「なるほど」
こうして、一番困難かと思われた王妃様も許可してくれたので、不安は消えた。
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