マダム・シレーヌの文房具

猫宮乾

文字の大きさ
4 / 5

【004】出会い

しおりを挟む
 ――お客さんは、めったにこない。

 この日もだれもこないだろうと、ぼくはイスに座って天井を見上げていた。
 気配けはいなく声をかけられたのは、そのときだった。

「定規?」
「っ」

 ビクリとした。反射的に視線を向けると、そこにはぼくと同じくらいの男の子がいた。私立の小学校の制服をきているけど、顔に見おぼえはない。だけど、今たしかに、『定規』と口にした。ぼくは男の子を観察する。少しつり目の瞳は黒い。短いかみの色も黒で、どことなく犬に似ていた。

「怪我は大丈夫か?」

 目が合うと、男の子が小さく首を傾げた。やはりとぼくは思った。この男の子は、さっきの戦いを見ていたのだろう。

 だとすればこの子もまた、文房具の持ち主だ。

 ぼくはいつも死ぬとき、

何分なんぷんでたおれた』
『今日もよくたおされてる』
『早かった』
『さすがはコンパス!』

 という言葉を聞いているため、誰かに心配をされたのは初めての経験だ。
 新せんだった。

「大丈夫です。あの、どなたですか……?」
「なるべく早く楽にしてやりたくて、手加減てかげんできず悪いと、いつも思っていたんだ。これでもいつも、できるかぎり早く気絶させようとしてるんだけどな――いつも罪悪感ざいあくかんがあって」
「えっ?」

 その言葉に、僕はあらためて男の子を見た。首をひねってみる。
 言われてみれば、どこかで見たことがある気がする。
 けれどぼくは、この制服の学校に友達はいない。見覚えがない。まぁ、マホロバの街に移動すると、かってに衣服が変わるから、当然といえば当然なのかもしれない。

「もしかして、コンパス……さん?」

 ぼくは男の子の言葉から推測すいそくして聞いた。

「ああ。オレの文房具はコンパスだ。俺は紺野こんのという。お前は? ここは遠坂《とおさか》さんの店だから、遠坂……」
「夏織《かおる》です。遠坂夏織。遠坂春人はるとおいです」
「そうか。実はマダム・シレーヌの手記しゅき写本しゃほんを見せてもらうやくそくになっていたんだ」
「すみません、叔父は今ご飯を作っていて」
「――そうか」

 あっさりと頷くと、紺野くんは腕を組んだ。

「一度話がしてみたかったんだ。よかったら、少し話していてもいいか?」
「え? ええ……いいですけど」
「どうして敬語けいごなんだ?」
「べつに……なんとなく」

 だって相手はコンパスだ……。せいかくには持ちぬしだけど、みんな、もっている文房具の名前でよばれるから、〝マホロバの街〟では、ぼくも定規とよばれている。

 答えたぼくを見て、紺野くんが、このとき初めて小さく笑った。すると印象が全然違ったものになり、やさしそうに見えた。さっきまでの仏頂面ぶっちょうづらよりもずっといい。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

黒地蔵

紫音みけ🐾書籍発売中
児童書・童話
友人と肝試しにやってきた中学一年生の少女・ましろは、誤って転倒した際に頭を打ち、人知れず幽体離脱してしまう。元に戻る方法もわからず孤独に怯える彼女のもとへ、たったひとり救いの手を差し伸べたのは、自らを『黒地蔵』と名乗る不思議な少年だった。黒地蔵というのは地元で有名な『呪いの地蔵』なのだが、果たしてこの少年を信じても良いのだろうか……。目には見えない真実をめぐる現代ファンタジー。 ※表紙イラスト=ミカスケ様

童話短編集

木野もくば
児童書・童話
一話完結の物語をまとめています。

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

まぼろしのミッドナイトスクール

木野もくば
児童書・童話
深夜0時ちょうどに突然あらわれる不思議な学校。そこには、不思議な先生と生徒たちがいました。飼い猫との最後に後悔がある青年……。深い森の中で道に迷う少女……。人間に恋をした水の神さま……。それぞれの道に迷い、そして誰かと誰かの想いがつながったとき、暗闇の空に光る星くずの方から学校のチャイムが鳴り響いてくるのでした。

笑いの授業

ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。 文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。 それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。 伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。 追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

ノースキャンプの見張り台

こいちろう
児童書・童話
 時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。 進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。  赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。

処理中です...