ゲームにはそんな設定無かっただろ!

猫宮乾

文字の大きさ
12 / 17

【第十二話】Side:グレイグ③

しおりを挟む



 ――グレイグは、『ライナが望むようにしてやる事』として、当然『復讐』を考えていたのだが、困ったように笑った己の徒弟を見た瞬間、思わず苦笑してしまったものである。

 そんな日々も懐かしく、新しい春が訪れた。
 春は、ライナと出会った季節でもあるから、グレイグは嫌いではない。
 無事にリュードとスコットの結婚式も終わり、二人は高等課程へと進学し、三年が経過した。今年からは、ライナも高等課程に進学した。高等課程は、特別な事情を除いて、全寮制なので、休暇以外は自由外出は出来ない。

「……」

 頬杖をつきながら、グレイグは窓の外を眺めている。
  現在グレイグは十八歳、ライナは十九歳である。今年一年は、学園内ではライナに会えない。それが無性に寂しいから、会える休日は、存分に楽しんでおこうと決意している。

 二人とも二次性徴を終えた結果、グレイグの方が長身になった。初対面の時は大人びて見えたライナであるが、今となっては、一歳年上である事が信じられないくらい純粋に見えるから困る。魔術の技巧は卓越している様子だが、筋力はグレイグの方がある。どちらかといえばライナは痩身だ。

 そのライナであるが、魔物討伐部隊で負った怪我を、無理に治癒魔術で塞いだようで、肉体に残存している痛みがまだ消失していない様子だ。

「……あと少しでも遅かったならば、俺は失っていたかもしれないんだな」

 呟きながらグレイグは怒りを覚えた。ライナを害する存在は、全て許す事が出来ない。ライナには自覚が無い様子だが、体はボロボロだった。本来、適切な医術でじっくりと負傷は治すほかない。それを無理に魔術で『修復』していたような状態であるから、これから時間をかけて癒すしかない。それが、それとなく呼び寄せた医術師に診させた結果だった。少なくとも、残り一年間程度は、安静が必要だという診断だった。

 ライナの事を考えると、胸が張り裂けそうになる。
 その時、迎えに行かせた馬車が停まるのが見えた。立ち上がり、グレイグは玄関へと向かう。すると丁度ライナが入ってきた所だった。

「ようこそ」
「お邪魔します」

 まだ慣れない様子のライナが、本当に初々しい。使用人達を見ては、ビクビクしているのが伝わってくる。微笑ましくてずっと見ていたくもなったが、それ以上に二人きりになりたかった為、グレイグはライナを促し自室へと向かった。

 そして執事が紅茶とティースタンドの用意を終えてから、いつものようにライナを膝にのせる事に決める。

「≪座ってくれニール≫」

 声をかけると、立ち上がり、僅かに頬を染めて照れながら、ライナがグレイグの膝に座った。今ではすっぽりと、グレイグはライナを抱きしめられる。片腕でライナの腰を抱き寄せ、もう一方の手でライナの頬を撫でながら、グレイグは微笑した。

「≪Good≫」
「……」

 グレイグが褒めると、ライナはいつも嬉しそうに両頬を持ち上げる。見ていて飽きない。だが、最近はそれだけではない。もっとずっと以前からではあったが、グレイグはライナの唇が欲しかったし、さらに言えば押し倒したかった。だが、ライナの体への負担を考えて、あと一年は待とうと考えている。今体を繋げば、恐らくライナの肉体は痛みに悲鳴を上げるだろうという判断だ。

 欲しいのは全てだ。例えば、心。別段、肉体だけを求めているわけではない。無論肉体も欲しいが、そうではなく『全て』が欲しいし、その全てをグレイグは、支配したいと望んでいる。信頼関係はある程度築いてきたと考えているが、まだまだ足りない。

 それに、まだ難題が一つある。
 結局のところ、後夜祭の日に言いそびれてから考え続けている告白の言葉だ。
 まだ、好きだという気持ちを、グレイグは伝えられないでいる。

 だが、その理由は、フラれるのが怖いからでは無い。フラれたとしても、己の全力をもってして、絶対に手放すことはしないし、心を占めつくすまで溺愛する所存だ。

「≪こちらを見ろルック≫」
「……ん」

 青いライナの瞳に、自分が映り込んでいるのがよく分かる。

「本当に、≪良い子≫だ」
「……」

 幸せそうに再びライナが頬を染めた。蕩けたように変化している瞳を見て、思わずグレイグはライナを抱きしめる。好きで好きでたまらないし、大切でならない。

「ライナは俺をどう思っている?」
「え?」
「≪教えてくれ≫」
「え、えっと……グレイグは、グレイグで……俺の徒弟だ」
「……好きか嫌いかで教えてくれ。≪答えは?≫」
「……っ」

 ライナの瞳が揺れた。頬がより赤く染まる。

「≪目を逸らすな≫」
「!」
「≪言え≫」
「ぁ……そ、そ、その……だ、だから……俺は……――好きだ」

 非常に小さな声音で、ライナがそう紡いだ。その言葉を耳にした瞬間、グレイグは幸せがこみあげてきた気がして、より腕に力を込めた。

「≪よく言えたな≫」
「……ああ」
「もっと聞きたい」
「……恥ずかしい」
「≪言え≫」
「……好きだ」
「≪Good≫」
「……っ、ぁ、好きだ。グレイグが好きだ」

 ライナの瞳が完全に蕩けた。力が抜けてしまった様子で、グレイグの胸板へと倒れ込み、そうしながらライナがぼんやりとしながら幸せそうな顔をしている。【Spaceスペース】に入り込んだ様子だ。

「グレイグ、好きだ……好き」

 とろんとした瞳を瞬かせながら、ライナが続ける。こうなると記憶があいまいになるようだとも知っている為、この時ばかりはグレイグも思う存分囁ける。

「俺も好きだ。俺は、ライナを愛している」
「うん、ぁ……俺も愛してる」
「どのくらい?」
「いっぱい」
「いっぱい?」
「好きだ……グレイグが好きだ……」

 そのままライナが眠ってしまったので、額にキスを落としてから、暫くグレイグは愛しい相手を抱きしめていた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

ゲーム世界の貴族A(=俺)

猫宮乾
BL
 妹に頼み込まれてBLゲームの戦闘部分を手伝っていた主人公。完璧に内容が頭に入った状態で、気がつけばそのゲームの世界にトリップしていた。脇役の貴族Aに成り代わっていたが、魔法が使えて楽しすぎた! が、BLゲームの世界だって事を忘れていた。

平穏な日常の崩壊。

猫宮乾
BL
 中学三年生の冬。母の再婚と義父の勧めにより、私立澪標学園を受験する事になった俺。この頃は、そこが俗に言う『王道学園』だとは知らなかった。そんな俺が、鬼の風紀委員長と呼ばれるようになるまでと、その後の軌跡。※王道学園が舞台の、非王道作品です。俺様(風)生徒会長×(本人平凡だと思ってるけど非凡)風紀委員長。▼他サイトで完結済み、転載です。

「今夜は、ずっと繋がっていたい」というから頷いた結果。

猫宮乾
BL
 異世界転移(転生)したワタルが現地の魔術師ユーグと恋人になって、致しているお話です。9割性描写です。※自サイトからの転載です。サイトにこの二人が付き合うまでが置いてありますが、こちら単独でご覧頂けます。

宰相閣下の絢爛たる日常

猫宮乾
BL
 クロックストーン王国の若き宰相フェルは、眉目秀麗で卓越した頭脳を持っている――と評判だったが、それは全て努力の結果だった! 完璧主義である僕は、魔術の腕も超一流。ということでそれなりに平穏だったはずが、王道勇者が召喚されたことで、大変な事態に……というファンタジーで、宰相総受け方向です。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

悪役令嬢の兄、閨の講義をする。

猫宮乾
BL
 ある日前世の記憶がよみがえり、自分が悪役令嬢の兄だと気づいた僕(フェルナ)。断罪してくる王太子にはなるべく近づかないで過ごすと決め、万が一に備えて語学の勉強に励んでいたら、ある日閨の講義を頼まれる。

左遷先は、後宮でした。

猫宮乾
BL
 外面は真面目な文官だが、週末は――打つ・飲む・買うが好きだった俺は、ある日、ついうっかり裏金騒動に関わってしまい、表向きは移動……いいや、左遷……される事になった。死刑は回避されたから、まぁ良いか! お妃候補生活を頑張ります。※異世界後宮ものコメディです。(表紙イラストは朝陽天満様に描いて頂きました。本当に有難うございます!)

婚約破棄されたSubですが、新しく伴侶になったDomに溺愛コマンド受けてます。

猫宮乾
BL
 【完結済み】僕(ルイス)は、Subに生まれた侯爵令息だ。許婚である公爵令息のヘルナンドに無茶な命令をされて何度もSub dropしていたが、ある日婚約破棄される。内心ではホッとしていた僕に対し、その時、その場にいたクライヴ第二王子殿下が、新しい婚約者に立候補すると言い出した。以後、Domであるクライヴ殿下に溺愛され、愛に溢れるコマンドを囁かれ、僕の悲惨だったこれまでの境遇が一変する。※異世界婚約破棄×Dom/Subユニバースのお話です。独自設定も含まれます。(☆)挿入無し性描写、(★)挿入有り性描写です。第10回BL大賞応募作です。応援・ご投票していただけましたら嬉しいです! ▼一日2話以上更新。あと、(微弱ですが)ざまぁ要素が含まれます。D/Sお好きな方のほか、D/Sご存じなくとも婚約破棄系好きな方にもお楽しみいただけましたら嬉しいです!(性描写に痛い系は含まれません。ただ、たまに激しい時があります)

処理中です...