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【四】翌朝
しおりを挟む翌朝は、早めにチェックアウトをして、一度自宅に戻った。大尉階級以上の軍人は、一人暮らしを許可されている。アリスとは一応連絡先を交換したが、付き合うというような口約束は何も無い。
マンションのエントランスホールに入ると、丁度エレベーターが降りてきた所だった。
「あ」
出てきた人物を見て、思わず周は立ち止まった。白永悠里大尉である。朝帰りを目撃されてしまう……。そう考えた時に、丁度視線が合った。
「おはようございます、晴宮博士」
「あ、うん。おはよう」
会釈した悠里は、何を言うでも無く、玄関へと向かって歩いていく。立ち止まって、周はその姿を見送った。
「――忘れ物を取りに戻った事にしよう」
呟いてから――何故、こんな言い訳がましい事を考えているのだろうかと、自分の思考に周は呆れた。別に彼女にどう思われても構わないはずではないか。頭を振ってから、周はエレベーターに乗り込んだ。そして自分の部屋がある八階へと向かう。なお、悠里の家も同じ階だ。ワンフロアに二軒しかない為、周にとっては唯一のお隣さんであるとも言える。
家の中に入り、周はシャワーを浴びる事にした。先程ホテルでも簡単に浴びてきたが、じっくりと体を流したくなった。幸い、出勤までにはまだ間がある。悠里はいつも朝、早く出かけるらしいから、特別なのだ。周が早く出勤する事も、ごくたまにある。
その後、新しいシャツを纏って、周は出勤する事にした。
モノレールの駅まで向かい、勤務先である第三兵器訓練所へと向かった。人型兵器や飛行艇は地下に収納されている。訓練施設も地下だ。その為地上階は、五階程度で、そう高い建造物ではない。
周の専用研究室は四階、普段教官として指導を行う場所は、三階の第二指令室である。地上勤務は久しぶりだ。ここ一ヶ月間ほどは、宇宙で護衛艦に乗っていた。そちらでは、メインの指令室で指示を出す事が多かった。
「おはようございます、晴宮先生!」
訓練所の玄関のゲートを通り抜けるとすぐ、壁際から一人の女性兵士が駆け寄ってきた。周と悠里が指導している、アマゾネス系人類の新人パイロットの一人だった。士官学校を昨年卒業したばかりの十九歳で、赤い髪を左右で結んでいる。アマゾネス系人類にしては小柄で、身長は173cmほどだ。
「おはよう、ララ軍曹」
ララ・バール軍曹は、周の言葉に微笑した。周の側は、職場での顔で、気怠げな眼差しである。声も平坦だ。別に彼女の事が嫌いなわけではない。職場で愛想を振りまく気になれないだけだ。
「あの、あの……! 今日のお昼、お時間ありますか?」
「何か用?」
「その……一緒にご飯でもと思って……!」
ララは、予てより周の事を誘う。彼女が周に恋をしているのは、誰の目から見ても明らかだ。周本人も気がついている。しかし直接告白されたわけではないので、適度な距離を保って接している。別段、職場の生徒だから、手を出したら面倒だという思いがあるわけではなく、手を出す状況に今の所なっていないだけだ。アマゾネス系人類は根本的には好みではないが、彼女のように愛らしければ余裕で抱ける。ただし、現在までに付き合うと思った事は一度も無い……無いのだが……職場結婚……。
――結婚したい。
改めて周は思った。ララも容姿は許容範囲内というか、どちらかといえば好みの部類だ。少々瞳がつり上がっているキツめ美人だが、整った顔立ちであるし、身長も許せる高さだ。
「お弁当」
「――へ?」
「明日俺に、お弁当を用意して。手作りで」
「わ、わ、私の手作りですか!?」
「うん。明日それを一緒に食べよう」
これならば、家庭的かどうかも分かる。周はそれだけ言うと、歩き出した。ララは真っ赤になって立ち尽くしている。
その後エスカレーターに乗り、まずは自分の研究室へと周は向かった。
「あら、早かったわね」
すると、周と同じ、特別職から大佐になった、医師のセリア・ロードが、周の椅子に座っていた。片目を細めた周は、地球系人類であるセリアの姿をじっと見る。
「俺の研究室に勝手に入らないでもらえるかな?」
「だって、面白い話を聞いちゃったんだもの」
「何?」
「昨日、周博士がお見合いパーティにいたらしいって。本当?」
妖艶な眼差しで、セリアが言った。右目の下の泣きぼくろが色っぽい。金色のゆるく巻いたセミロングの髪を見て、白衣の下の黒いレースが見えるインナーを見て、その後豊かな胸を確認しながら、周は現実逃避をしようとした。実はセリアとは、何度か寝た事がある。セフレというほど確固たる相手では無いが、タイミングがあった場合、ホテルに出かける事が、過去に数度あった。
「誰がそんな事を?」
「否定しないんだ。ええとね、最近婚活に熱心な、うちの看護師の子よ。ずーっと誰かと話し込んでたから、声をかけられなかったって話していたわ」
「ふぅん。その子、紹介してもらえる?」
婚活に熱心な者同士ならば、話が合うかもしれないし、会ってみて許せる範囲内ならば、結婚しても良い。周がそう考えながら机の上に鞄を置くと、セリアが立ち上がった。
「周博士、結婚したいの?」
「……良い人がいればね」
「私なんてオススメじゃないかしら?」
セリアは周の横に立つと、彼の両肩にそっと指先をのせる。香水の甘い香りがした。彼女は周の背中をつつく。
「私も今年で二十九歳だし、そろそろ落ち着きたいのよね」
「ふぅん」
「周博士なら完璧だわ。本当に理想的ね」
「そう言う君は完璧なの?」
「それを判断するのは、貴方でしょう?」
「――家事、得意?」
率直に周は聞いた。するとセリアが驚いた顔をして手を離し、腕を組んだ。
「家事? SEXじゃなくて?」
「うん、家事」
「家事ドローンは最先端のものを使っているし、バージョンアップは常にしているけれど?」
「俺もだよ。そうじゃない。手料理だとか、そう言うニュアンスだ」
「つまり家庭的な女性が良いという事かしら? 意外と庶民的ね」
「悪い?」
振り返りながら、周は目を細めた。するとセリアが頬に白い手を当てた。
「私としては、夫とは外食を楽しみたい方だから、あまり嬉しい情報ではないかしら」
「へぇ、そう。取り敢えず、君の家庭力、確認したいから、今日セリア先生の家に行っても良いかな?」
「そうね。価値観の一致は大切だものね――あ、ゴムは不要よ。ピルを飲んでるから」
「知ってる。十九時には仕事が終わるから、八時半頃行くよ」
「楽しみにしてるわ」
こうして夜の約束を取り付けて、セリアは研究室を出て行った。
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