転生したら悪役だった俺、実は勘違いしていたのかもしれない。

猫宮乾

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―― 本編 ――

【六】宰相閣下の自己解決癖

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 こうして夜更けまで仕事に邁進し、二十二時四十五分に仕事を終えた。移動時間を考えて、自分の執務室を施錠し、早めに外へと出る。既に特務部隊の部屋には俺しかいない。その後宰相府に向かい歩いて行き、昼間指定された宰相執務室の前に立った。

 そしてコンコンとノックをすると、扉がすぐに開いた。

「来たか。入れ」
「ああ」

 頷いて中へと入ると、本日も仮眠室へと促された。施錠した宰相閣下が、胸元の服を緩めている。それを一瞥しながら、俺が立っていると、溜息をつかれた。

「早く貴様も脱げ」
「なぜ?」
「何故? ばらまかれたくなければ――」
「メニューを教えてくれるんじゃなかったのか?」

 純粋に疑問に思って俺が尋ねると、宰相閣下が残念な者を見る顔をした。
 それからソファに移動して足を組むと、腕も組んで、退屈そうな顔でチラチラと俺を見た。

「確かに王宮レストランのメニューは美味だが、俺のアロフィスファード侯爵家のシェフの味は絶品だ」

 アロフィスファード侯爵家というのは、宰相閣下の生家だ。
 確かに多くの武官・文官に料理を提供している王宮レストランの食事があれだけ美味だと言うことは、侯爵家の専門の料理人の腕は凄いかもしれない。フードを取りながら、俺は瞳を輝かせた。

「シェフはどこで雇えばいいんだ?」
「? 俺の家は、母上が降嫁する際に、王宮のシェフを一人引き抜いたと聞いているが」

 確か宰相閣下のお母様は、亡くなった前国王陛下の叔母ではなかっただろうか。

「一般的には、前任の紹介や家令の手配だろう。レゼルヴ伯爵家のシェフの経歴は異なるのか?」
「いないんだ。これから雇おうと思っている」
「いない? どういうことだ?」
「寝に帰るだけだったから、雇っていなくてな」
「……ほう。使用人は何人いるんだ?」
「清々しいほどまでにゼロだ」
「なんだと? では、これから……伯爵家に、貴様はまさかその麗しすぎる顔を晒すたった一人を雇うと言うことか!? 不埒で邪なことをされたらどうするんだ!?」
「いやそんな、世界の人々の多くは宰相閣下ではないのだから……」

 俺が小さく笑うと、俺の顔を凝視してから、宰相閣下が顔を背けた。

「――クラウド。貴様は美味しい料理が食べたいんだったな?」
「ああ」
「そして使用人がいないから、自宅では食べられないと」
「まぁそういうことだが」
「俺の家に食べに来るか? いつでも用意するが」

 宰相閣下が素っ気ない声で言った。しかし俺にはこの提案が魅力過ぎた。

「行く! いつ行けばいい? 行く!」
「テ、テンションが上がっ……料理でそこまで上がるんだな!? 世界の多くの男は、俺と二人っきりになれて、これからベッドに入れると聞いた段階でテンションを上げるのが常だって言うのにな! ……とりあえず、家に招くとすれば、最速で二週間後の土曜日などがいいな」
「その日、出張が入らなければ行く。お招きに預かる! それはそれとして、王宮レストランの裏メニューの話はどうなった?」
「裏メニュー? そんな話を俺達はしていたか?」

 そうだった。裏メニューを宰相閣下が知っているかもしれないというのは、ただの俺の空想だった。

「知らないか?」

 俺は聞けないのかもしれないと思いしょんぼりしながら、宰相閣下をじっと見た。
 すると硬直した宰相閣下が、それから急に赤面した。

「……っ、今度、い、一緒に食べに行ったときに教えてやる」
「宰相閣下はよく行くのか?」
「日によるが……そ、そういうことではなくて、だ、だから……多忙なこの俺が、わざわざ貴様のために一緒に食べる時間を作ってやろうという……ああ、もう、なんだこれは!? 違うんだ! 俺は貴様のあんな姿やこんな姿が見たいのであって、別に貴様とデートしたいわけじゃ……わけじゃ……いや、したいのか? そうか? そうだったのか? なんだと!? この俺にデートしたいと思わせるなんて、さすがは顔面破壊兵器だな」

 宰相閣下がなにやら自己解決している。
 だが知っているようだ。

「では、ともに王宮レストランにいける日を楽しみにしておく」

 俺が嬉しくなって満面の笑みを浮かべると、より真っ赤になった宰相閣下が唇を震わせてから、舌打ちして立ち上がった。そして俺の手首に触れた。俺は反射的に護身術で投げ飛ばしかけたが、それは堪えて宰相閣下と視線を合わせる。すると宰相閣下が、俺の腕をそのまま引っ張り、ソファの上に押し倒した。それから強引に俺の服を、引き裂くように開けた。

「念のために聞くが」
「なんだ?」
「恋人はいるのか?」
「いないが」
「そうか。では、そ、その……好きな人は?」

 その問いかけに、俺は首を傾げた。仕事一筋で生きてきたせいで、嫌いなものが書類であることは分かるが、それ以外に好きや嫌いといった感想を抱いた記憶が一切無かったからだ。

「……いるのか」

 すると急に宰相閣下が不機嫌そうになった。

「まぁいい。すぐに俺を好きにさせてやる」

 宰相閣下がそういうと、俺の首の筋をペロリとなめて、そこに唇を落とした。
 ツキンと疼いたから、キスマークをつけられたのだと判断する。

 このようにして、この日の夜も始まった。


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