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―― 本編 ――
【五】意味不明理論の炸裂
しおりを挟む視察を終えた翌日。
俺は今日も執務室に向かい、書類の山を見上げた。これを見ていると、世界が滅べばいいと思う思考には、意外性は感じない。カリカリカリと羽ペンの先が音を立てる。
だが、いよいよ本日は、無事に乗り切ったので俺は、王宮レストランで食事をするという計画を立てている。何を食べようかなと考えていると、ローブの下で顔も緩みっぱなしだ。肉料理にしようか、魚料理にしようか、それともパスタ、あるいは……、と、世間に存在する料理について考える。さすがはBLゲームの世界、メニューはファミレスにありそうなものが大体存在している。
そんなこんなで午後の二時にはなんとか午前中の仕事が終わった。
俺の作業速度が遅いのではなく、断言して仕事量が多すぎる。
「……よし! 行くぞ!」
気合いを入れて、俺は立ち上がった。
回廊を歩いていると、ちらほらと視線が飛んでくる。黒づくめの俺の姿が怪しいのもあるのだろうが、俺は執務室と鍛錬場以外には基本的に行かないから目立つのだろう。
王宮レストランに到着すると、ぎょっとした顔をしてから、給仕の者が扉を開けてくれた。俺はきょろきょろと周囲を見て、窓際の席が空いていることに気づく。そちらに向かい、俺はパサリとフードを取った。続いて口布を外す。
すると周囲がざわっとした。
なにごとだろうかと首を動かしてみると、こちらを見ている人が多かった。
確かにな。俺は過去、王宮でフードを取ったことはほぼない。負傷時くらいのものだ。
その後子羊のステーキを頼んでから、俺はメニューを眺める。
明日からは毎日きたい。時間が許してくれるのならば、美食三昧したい!
「なにをしている?」
急に声がかかったのは、その時のことだった。メニューから顔を上げると、いつの間にか正面の席に宰相閣下が座っていた。
「昼食だが」
逆に問いたい。宰相閣下こそ、なんで俺の前に座っているのだろうか。
「珍しいな」
「ああ」
「とりあえずフードをかぶれ」
「?」
「かぶれ!」
「何故?」
「貴様の顔を見ていいのは、俺だけだ」
宰相閣下のよく分からない、意味不明理論が炸裂した。しかし人をいきなり押し倒して突っ込む相手の言動である。俺は気にしない。
「どうぞ、おもちいたしました」
そこへ明るい声を出して、給仕の者が頬を染めながらステーキの皿を運んできた。嬉しくなって俺が微笑すると、給仕の者が真っ赤になり、宰相閣下が舌打ちした。
「笑顔を振りまくのを即刻止めろ」
「?」
「し、しつれいいたしましたー! ごゆっくりー!」
給仕の者が下がっていく。俺はナイフとフォークを手に取りながら、宰相閣下を改めてみた。
「俺が笑ったらおかしいのか?」
「おかしくはないが、貴様は俺の前でのみ笑うべきだ」
「? だからそれは、またどうしてだ? 食べながら聞く」
俺は首を捻りつつも、空腹で大変だったので、美味な肉を口に運ぶことにした。宰相閣下はそんな俺の前でなにやら喋っているが、料理が美味しすぎて半分くらい俺は聞いていなかった。
「――ということだ。とにかく貴様の顔は無駄にいいのだから、俺の敵を……いやその、王宮の不埒な輩が……まぁこれも俺の自己紹介に等しいな……要するに、とにかく貴様の顔面は破壊力が高すぎるんだ!」
「宰相閣下」
「俺は忠告はきちんとした。クラウド隊長を押し倒せる猛者が多いとは思わないが、注意するように」
「おすすめのメニューはあるか? このステーキが美味しすぎて、明日も食べたいものがありすぎて、悩みが……」
「人の話を聞け!」
宰相閣下が俺を睨み付けるようにしながら、口元だけに笑みを浮かべている。
俺の顔面は、ステーキのおいしさで蕩けている自信しか無い。
「とにかく、今夜は俺の元へ来るように。じっくりと教えてやる」
「ん? おすすめのメニューか?」
「……」
「何時に行けばいい?」
「仕事が終わり次第だ。多忙な俺が時間を空けてやるのだから感謝しろ」
「別の日程にするか?」
「今日来い。ばらまかれたくなければな」
俺達の声は小声であったから、周囲には聞こえていないだろう。
しかしばらまかれても俺の方にはそんなに致命傷はないという点を、いかようにして俺は伝えればいいのだろうか。まぁ、いいか。メニューは知りたい。
「分かった。二十三時には、顔を出せると思う」
「そうか。では、その時間に。失礼する」
宰相閣下はそう述べると、立ち上がり、立ち去った。見送りながら俺は、宰相閣下なら王宮に詳しいだろうから、裏メニューなども知っているのではなかろうかと考える。
しかし、美味だった。
昼食後俺は、フード類をかぶりなおしてから、鍛錬場へと向かった。
するとルインが走り寄ってきた。
「隊長! 今日王宮レストランに行きましたか?」
「ああ」
「宰相閣下と会食のお約束をなさっていたんですか?」
「いいや」
「――ほう。もしかして、もしかすると、その、もしや、デートだったりしましたか?」
「まさか」
「ですよね! クラウド隊長に牢獄プレイみたいな趣味があるとは思わないし、よかったぁ!」
その後は鍛錬を視察し、俺は執務室へと戻って書類を片付けた。
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