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―― 第四章 ――
【062】無意味な時間
しおりを挟むそれから僕達は、様々な街を通り過ぎていった。
何処へ行っても響いてくる悲鳴、魔王への恨み言。
僕は次第に、それらを聞いても、何も思わなくなっていった。ただ、人間の土地が、思いの外、悲惨な事態に襲われているのだという事だけは、理解した。どの街へ行っても、何らかの問題がある。しかし――対処している様子は無い。
なんて、無意味な時間を、皆は過ごしているんだろう。
問題を外界に押し付けて、ただ嘆いている人間達を眺めれば眺めるほど、心が乾涸らびていくようだった。
「大丈夫か?」
木に背を預けて、餓死し、骨と皮だけになっている遺体を見据えていると、オニキスに肩を叩かれた。確かにこの惨状の中を旅してきたのであれば、笑っているなんて無理なのかもしれない。その上、解決策であったはずの魔王は、なんの関係もなかったのだから。
やはり僕を倒して、めでたしめでたしで終わればよかったのに。
あるいは――僕を倒すなんて言う無駄な時間と出費を控えて、彼らに少しでも食料を渡せばよかったのに。勿論分かっている、この街だけを救ってもどうしようもないことくらい。
脳裏を、様々な雑音が駆けめぐっては、消えていく。
「顔色が悪い」
オニキスはそう言うと、僕の肩に手を置いた。
「魔族は死ぬと砂になるんだもんな。そりゃ、生々しい遺体を見たら、気分も悪くなるだろ」
フランが杖で肩を叩きながら呟いた。
ルイは十字を切っている。
――ああ、彼らは人の死に慣れているんだな。
慣れっこないはずだと僕は思っていたけれど、現実は違うのかも知れない。
あくまでも、僕が知る現実とは、と言う意味だけど。
結局の所僕は、綺麗事ばかりを考えて、何も出来ないのだ。
「早く抜けて、次の街へ行こう」
「そうだな」
オニキスの言葉に、フランが頷く。
僕は隣に立ったルイと共に、二人の一歩後ろを歩いた。
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