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―― 第四章 ――
【061】悠久の刻
しおりを挟む悠久の刻を生きてきた魔王である僕と、勇者の間には、どうしようもない壁がある気がした。不思議なものだ。勇者だって、失う悲しみを、裏切られる悲しみを知っているはずなのに、なのにどうしてそんな風に真っ直ぐに生きる事が出来るのだろう。
彼のその言葉が、優しさが、僕は怖い。
「もう眠ろう。おやすみ」
「逃げるな」
僕はもう、答えずに、布団にくるまった。
眠れるはずなんて無かったけれど、ここのところの、旅に出てからは特に、ざわつく自身の心に、どうしようもない焦燥感を覚えていたから、何もかも忘れて眠ってしまいたかったのだ。そうすれば、きっと明日になれば、全部忘れる事が出来るはずだ。
結局その晩、僕は眠る事が出来なかった。
「うあぁ、眠い」
いつもの通り、朝食の席では、フランがぐったりしていた。
「僕は気分爽快です」
ルイもまたいつも通りで、明るい笑顔だ。
ちらりとオニキスの事を窺うと、彼もいつもの通り、ごく普通の、怒っているわけでも笑っているわけでもない、かといって無表情でもない顔で、朝食を見据えていた。
今日の朝食は、サラダと堅いパン、そして野菜のスープだった。
この辺りは野菜が特産品なのだろうか?
そんな事を考えながら、僕はパンを千切って噛んだ。そして吐き出しそうになった。固くて食べられない。みんなどうしているのかと思って見渡すと、スープにつけて食べていた。だから僕は慌ててスープを口に含む。
「普段の食事とは大違いだろ」
フランが僕を見て、楽しそうに笑った。大きく頷いてから、僕はサラダを食べる事にする。
勇者達が来るまで、ここのところは三食きちんと食事をする事など無かったから、なんだか新鮮な気持ちだった。
「それにしても野菜ばっかりだな」
フランの言葉に、オニキスが腕を組んだ。
「昨日酒場で聞いた限りだと、大量に鶏が死んだらしい」
「魔王のせいで、と聞いたよ」
ルイの声に、僕は、溜息をついた。
恐らく、鳥インフルエンザだ。《ソドム》では、既にワクチンを作って、対処している。
「だから、魔王は倒したって、盛大に話しておいたよ」
そのルイの言葉に、僕は思わず苦笑したのだった。
人への感染が起こらなければいいなと思いながら。
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