魔王の求める白い冬

猫宮乾

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―― 第四章 ――

【064】クレープ

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「――やっと笑ったな」
「え?」

 僕はそれなりに、この旅を始めてから、笑ってきたつもりだった。それは城にいる時から変わらない。笑っていようと決めたのは、僕自身なのだから、間違いない。

「いつも、悲しそうに笑っていたからな、お前」
「……そうかな?」
「ああ。そうだ」
「それも直感?」
「いいや。ずっと見ていたから分かる」

 僕は何度か瞬きをしてから、じっとオニキスを見据えた。
 すると勇者は苦笑するような顔をしてから、財布を取り出した。

「何か買ってやるよ。何が良い?」
「別に良いよ」
「俺が買いたいんだ」
「――じゃあ、これ」

 僕はクレープを指さした。
 オニキスが注文してくれて、僕は出来上がるのをただ眺めていた。

 それにしてもこれ程日本のお祭り文化が浸透していると言う事は、その昔にでも、日本から召喚された勇者が立ち寄ったのだろう。

 すぐに出来上がったクレープを食べながら、僕はオニキスの横に立って再び歩き始めた。

「美味しいか?」
「うん」
「甘い物が好きなのか?」
「別に」
「……好きな物は?」
「好きな食べ物? そうだなぁ、特にないかな」

 僕はクレープを食べながら考えてみたが、全く思い浮かばなかった。昔はあったはずなのだが、最近は旅に出るまで食べる事自体に興味がわかなかったのだ。

「――人間やエルフと言われなかっただけマシか」
「まさか。僕は食べないよ」

 思わず笑ってしまった。

「オニキスは何が好き?」
「お前」
「――? え、僕の事を食べるの? オニキスこそ、人間が好きとか? あ、僕は魔王だった」

 僕が目を見開くと、勇者が喉で笑った。

「本当はクレープが好きだ。一口くれ」
「良いけど」

 なんだかよく分からないが、オニキスはクレープを一口食べた。そんなに好きなら、自分の分も買えば良かったのにと僕は思う。

 それから僕らは、館へと戻った。

 ああ、つい先ほど人の死を見て胸が騒いだ僕は、結局の所それをすぐに忘れた。
 なんて言う偽善者なんだろう。
 我ながら、吐き気がしたのだった。



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