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第107話 旅 ④
しおりを挟むオーダイン王国 王都――――
フィラとヘイワードは、何とか王都までたどり着いていた。途中の街道ではモンスターと遭遇したが、連戦連勝だった。
「やっぱり、あんたに護衛してもらって正解だったな。」
ヘイワードはほぼ無傷で王都までやって来た。フィラの護衛のお陰だった。
これまでにも何度か危険な目に遭ってきたが、ことごとくをフィラが対処していった。
「約束ですからね、貴方の護衛をする事で、こうして王都まで迷わずに来れました。」
会話しつつも、しかし王都に目を向けると、そこは酷い有様だった。城壁の一部は崩れ、城壁内の街は崩れた箇所が至る所にあり、人も大勢負傷した様子だった。
「何があったのでしょうか? これは。」
「ちょっと聞いて来る。」
ヘイワードは街の人に事情を聴きにいった。フィラは辺りを見回して、大体の予想を立てた。
(モンスター被害でしょうか? しかし、城壁が破られるなんて、頑丈そうな壁なのに、一体どれほどの数が攻めてきたのでしょう。)
ヘイワードが戻って来たので、フィラは聞く事にした。
「それで、状況は?」
「ああ、やはりモンスター被害に遭ったらしい。街の人の話によれば、突然街中にモンスターの集団が現れたそうだ。それで、慌てて対処したらしいが、ご覧の有様だそうだ。何でも外と内から同時に攻め込まれたらしいな。」
「外からの攻撃は解りますが、中というのが解りません。」
「うーん、これは俺の予想だが、あんたの時と同じ様に転移魔法か装置か何かで、モンスターを送り込んできたんじゃないかと思うんだが。」
フィラはハッとした、アリシアでモンスターの姿が何処にも見当たらない事、そして、オーダイン王国でのこの有様。
「これは私の見解なのですが、アリシアに居たモンスターが、ここに転移してきた、又はさせられたのかして、城壁内にモンスターを送ったという事なのだと思います。」
ヘイワードは、嫌な予感が的中したかもしれない事に、冷や汗をかいた。
「兎に角、俺は魔の森の事を報告しに、王城へと上がる。あんたはどうする?」
「私はしばらくここに居ます。この惨状では、乗合馬車は出ていない様ですし。」
「そうか、折角ここまで護衛してもらっておいて何だが、あんたのお陰でここまで来れた。感謝するぜ。」
そう言って、ヘイワードはフィラから離れ、王城へと向かって走っていった。
「さて、私は………。」
フィラは辺りを見回す、街の一角には女性が倒れていて、それをぬいぐるみを抱いた少女が見つめている光景を目の当たりにする。
「親子………でしょうか………。」
モンスター被害における被害者は、いつだって力無き者達だ。
モノ言わぬ骸と化した母親を、静かに見つめる少女を見て、フィラは心を痛めた。
(ここをこのままにして、自分だけ逃げようとするのは、気が引けますね。)
フィラは俯き、考える。そして思い出す、ジャズの言った言葉を。
(それに、ご主人様はこう仰いました。自分の判断で行動しろと。)
フィラの目に力が宿る。
「ならば、私のすべき事は、戦う事です。ここをこのままにはしておけません。」
フィラは決意した、ジャズとの合流は、もう少し先になりそうだと。
一方、ヘイワードは、王城の中にある仮設司令所へと足を入れた。
「失礼します、自分は魔の森監視任務をしていた、ヘイワードであります。至急、お伝えしたき事があります!」
仮設司令所に居る、司令官に報告するヘイワード、だが。
「後にしろ! 今はそれどころでは無い。この街の惨状を見なかったのか!」
司令官は苛立ちを隠さず、ヘイワードの報告を無視しようとした。
しかし、ここで引き下がる訳にもいかないヘイワードは、気にせず報告を続ける。
「魔の森から無数のモンスターが這い出て来て、監視所は壊滅。多くの仲間が戦死しました。」
「後にしろと言った筈だぞ!」
ヘイワードは思う、こいつは駄目だと。状況をまるで理解しない司令官に、付いて行こうとは思わなかった。
「魔の森のモンスターの事と、この王都襲撃騒ぎは、何か関係があるように思えるのであります。」
「一介の兵士風情が、何をほざいておるか! もうよい! 下がれ!」
しかし、ここで待ったを掛ける声があった。
「焦っていては、見えるものも見えなくなりますよ。司令官殿。」
透き通った声、気品に満ち溢れた振舞、そして白銀の鎧、金髪の髪、女性騎士だ。
「これは、シャイニングナイツ団長、シャルロット殿。東門の状況は如何でしたかな?」
司令官は、シャルロットと呼ばれた女性が、司令室へ入って来た事に、心底嬉しそうに声を掛けた。
「問題ない、直ぐに片は着いた。今は一刻も早く街の人達を避難させる事が重要かと進言しますが、司令官殿は如何お考えか?」
凛々しくもキッパリとした口調で、司令官に対して意見を言うその姿は、ヘイワードにとって、心から信頼出来る人だと思わせる、何かを持った女性だと思った。
「も、勿論、私もそのつもりだったのだが、今度何時モンスターの襲撃があるかも解らないのでは、手の打ちようがありません。ここは、籠城すべきかと。」
「………王族が逃げ、上級貴族が逃げ、下級貴族である貴方が指揮を執っているのは、とても勇気ある行動かと思われます。ですが、住民を逃がさなければ、もっと多くの犠牲が出てしまいます。司令官殿、ご決断を。」
シャイニングナイツに詰め寄られ、司令官は慌てて考える。だが、時既に遅し。
民を逃がすには遅すぎたのだった。司令官の不味い判断、対応、そして状況がここまで事態を悪化させた要因の一つだった。
「籠城など、敵の思うつぼですよ。」
「し、しかし。」
「戦士は今も戦っております、戦い続けて、疲れています。このままこうしていても、事態は好転しませんよ。」
「い、いや、籠城だ。それしか無い。きっと救援が来る。それまで持ち堪えればいいのだ! シャルロット殿には引き続き門の防衛をお願いしたい。以上だ。」
司令官は聞く耳を持ってはいなかった。作戦はこのまま籠城戦となる事を、決めたのだった。
(愚かだな、城壁内に侵入されてるっていうのに、まだここが安全だと思っているのか? お目出たい奴。)
ヘイワードは呆れた。ここはもう駄目かもしれないと悟った。
ヘイワードとシャルロットは、そのまま司令室を後にした。
そこで、ヘイワードにシャルロットが声を掛け、呼び止めた。
「兵士殿、魔の森の状況を、詳しく聞きたいところですね。」
ヘイワードは、この女性ならば信頼できると直感した。
「はい、先程お話した通り、魔の森から無数のモンスターが這い出てきました。我等は対処しようとして、あっけなくやられてしまいましたが、自分はその事を報告しにここへ参った次第です。」
「そうでしたか、ご苦労様です。ここの状況は見ての通りです。モンスターにいいようにやられています。貴方のお力もお貸し下さると有難いのですが。」
「………自分は、只の兵士ですので、ご期待に添えるかどうかは解りません。ですが、やれるだけの事はやってみます。」
「頼りにしています。では、私は見回りがありますので、ここで失礼します。」
シャルロットは優雅に踵を返し、ヘイワードから遠ざかる。
それを見ていたヘイワードは、「ああ、こんな状況でも人物というのは居るものだな」と、感心していた。
そして、数刻。
フィラは、王都防衛の戦力として、戦列に加わった。勿論、ヘイワードもである。
フィラは先程の少女を見て、自分自身を奮起させ、ここに守るべきモノがある事を実感する。
「おいフィラ、あんたは客人だ。あんまり無茶はするなよ。」
「大丈夫です、こんなところでやられるつもりはありません。それに。」
「なんだ?」
「ご主人様が、私にお力を授けて下さっていますから、負けません。」
「………………そ、そうか、まあ、無理はすんなよ。」
こうして、オーダイン王国防衛戦が始まった。敵の攻撃は予想を上回っていた。
モンスターの数、内と外からの同時攻撃、おまけに司令官は融通が利かない。負け戦は必至だった。
だが、これ以上被害を増やさないという決意を胸に、それぞれの兵士や冒険者たちが、みな意気込んでいたので、士気は辛うじて高かった。
フィラは睨み付ける。前方からやってくるであろう敵を………。
「さあ! 私は何時でもいけますよ!!」
バトルアックスを両手に構え、闘志を燃やすフィラに迷いは無かった。
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