軍用義体を取り上げられてセクサロイドに脳殻移植されたTS重サイボーグ傭兵(元40代おっさん)が少年の性癖をバキバキに折る話 代表作

ぱふぇ

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ACT 2:ORIGIN

[6] 全身改造を終えたムコが戦闘服に身を包み、殺戮人形として生まれ変わる。

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 ムコの改造用パーツが大体手元に揃って、いよいよインストール作業に入った。
 3週間かけて、段階的に施術していった。ムコの脳殻を長時間オフラインにするわけにはいかないからな。
 これはサイボーグメンテの鉄則だ。義体との接続を断って72時間を超えると、シナプス劣化のリスクが一気に跳ね上がる。最悪、運動制御の不全が起きる。
 だからオンとオフをローテーションさせながら隔日で進めた。
 ムコは元々全身義体フルボーグだったせいか、長時間高頻度のメンテ拘束には慣れてるみたいだった。何時間も施術台に寝かされても、文句一つ言わない。

 関節強化、冷却系のオーバーホール、皮下装甲……作業は順調に進んだ。
 で、最後に残ったのが人工皮膚リアルスキンの全身換装。これが今回の改造でダントツで一番金がかかった。



 ムコの全身の人工皮膚リアルスキンを総取っ替えするかどうか――散々迷った末に、やることに決めた。
 問題は、どこから仕入れるかだ。

 この分野でトップオブトップといえば、カグラザカ・ニンギョウの純正スキンパーツ。これは誰も異論がない。あいつらの生体模倣技術は他のメーカーとは比較にならない。
 でも、手に入らないんだよな。価格がどうこうとかじゃなく。

 カグラザカってのは、そこらのコーポとは根本的に違う。奴らは物を売らない。
 顧客リストは完全クローズド。メガコーポの役員クラス、政府の要人、企業軍の将校、新興財閥のオリガルヒ、権力ピラミッドの頂点にいる連中だけが載る。しかもそこに名を連ねるには厳格な審査がある。資産調査、身元照会、素行チェック。全部パスして初めて「顧客」になれる。
 カスタムパーツのカタログを見るだけでも障壁がある。所有モデルのシリアルナンバーを入力しないとアクセスできない。それが本社のマスターデータベースと照合される。
 ムコのクグツメにはシリアルナンバーが残ってる。フレームのROMに焼き付けられた、消去不可能な製造ID。
 でもこれ、確実に盗品だ。
 ブッチャーがどうやって手に入れたか知らねえが――違法オークション、裏ルートの横流し、どっかの企業幹部を殺して奪ったか――とにかく、カグラザカのデータベースには100%盗難STOLENってフラグが立ってる。
 ムコのシリアルでカグラザカのシステムにアクセスするってことは、自分から「ここにいます! 殺しに来てください!!」って叫びながら照明弾ぶっ放すのと同じだ。セキュリティ部門がすっ飛んでくるだろう。

 だからカグラザカは最初から論外。
 選択肢は山ほどあるようでいて、実際はほぼない。

 絶対に論外なのは、ただの軍用グレード防弾皮膚バリスティックスキンで済ませることだ。その辺のサイボーグが全員つけてる、あのマットブラックのスキン。

 防弾性能があるスキンのカラーオプションは、基本的に二択だ。
 黒か、「それ以外」か。
 黒いのは安い。でもあれ着けたら、50メートル先からでも戦闘用改造してるって分かる。街に溶け込む気ゼロ、見た目なんてどうでもいい戦闘狂にはいいが。
 なんで安いかっていうと、単純だ。グラフェン混合・カーボンファイバー強化表皮は、製造過程で自然とあの色になる。
 俺自身の手、精密作業用の産業グレード拡張義肢サイバネティクスも、ベースはマットブラックだ。肌色のコスメティック層なんてつけてない。毎日クロームに突っ込む手に、そんな無駄金使えるか。

 防弾性能×リアルなスキンカラーってなると、一気に価格が跳ね上がる。
 でも俺が欲しいのは、まさにその両立だ。軍用グレードの耐久性と、本物の皮膚の見た目・触感。自然なテクスチャ。発汗・温感シミュレーション対応。皮下2ミリまで光が透過して、毛細血管パターンが透けて見えるクオリティ。

 そんな無茶な注文に応えてくれるところは……裏のルートを知ってりゃ、ちゃんと存在する。

 最終的に選んだのは、新ソ連圏のサイバネティクス製造業者。
 表向きは「火傷患者向け医療グレード人工皮膚リアルスキン」を製造してることになってるが、嘘っぱちだ。実際にやってるのは、グレーマーケット専門の供給。そして、アルファベット三文字の組織への直接納品。
 ……そう、諜報機関だ。

 ビジネスモデルは一点特化してる。軍用義体の工作員を、民間人に偽装すること。
 戦闘サイボーグを、ディナーパーティーでも国境検問所でもホテルのベッドでも、低換装率の一般人として通用させる――そのためのスペック。質感や体温は生体組織と一致。でも同時に、ナイフで刺されても裂けない、小口径弾なら打撲で済む。
 こういう需要に、メガコーポのブランド高級スキンは使われない。ここを使う。

 防刃性、防弾性、細胞レベルの自己修復機能付き。ガチの軍用スペックだ。でも手で撫でれば完全に皮膚。体温伝導、毛穴、産毛、人肌を人肌たらしめる全てのマイクロディテールが再現されてる。

 こいつらは広告を出さない。接触するにはダークネットの特殊なサークルに潜り込むしかない。
 暗殺工作員をコーポの中間管理職に見せかけたいとか、軍用義体を空港の生体スキャナに引っかけずに通したいとか、そういうな世界だ。
 俺には――っていうかこの工房には、そういうツテがある。
 「知り合いの知り合い」経由で購入した。
 
 クグツメフレーム全身分、カスタムカラーでオリジナルの色味合わせ。
 見積もりが出た瞬間、目元が痙攣した。
 総額で、うちの工房の年商が綺麗さっぱり消えた。

 納期は5週間。その間、自分でできる改造を全部済ませた。
 きっかり5週間後、屋上に貨物ドローンが着陸した。温度管理されたクレートに入って届いた。中身は無菌ジェルに梱包されてる。外装にメーカーロゴなし。キリル文字でステンシルされた追跡コードだけ。

 この時点で、自分でインストールするつもりは毛頭なかった。
 俺はフレームや電気系統なら得意だ。でも人工皮膚リアルスキンのフル換装は全く別のスキルセット。しかもこれは美的完成度を最も左右する部分で、皮下センサー統合を1パーセントでもミスれば感覚のデッドゾーンができる。接合を一箇所でも失敗したら、人生で最高額の特注パーツがオシャカ。そんなリスクは取れない。

 だから専門技師を呼んだ。
 スキンの調達に使ったのと同じダークネットチャンネルで依頼を出した。口が堅くて腕のいい奴、下層の弱小工房で高級ドールが戦闘用改造されてることに興味を示さない奴を探した。

 翌日現れたのは、4本腕の女だった。
 オリジナル2本、肩甲骨からの増設2本。高級義肢で、流体駆動だから音がしない。年齢は……わからん。俺はそうでもないが、義体技師ってのは自分の体を弄り尽くしてる。この手のアンチエイジングしまくってる輩は判別が難しい。

 最初に仕様を伝えた。
 フレームにメンテナンス用アクセスパネルを増設してある。顔、肩、肩甲骨の下、大腿部……普通のクグツメにはない開口部だ。今後内部アクセス頻度が跳ね上がるが、いちいち皮膚を剥がすわけにいかない。だからスキンに分割線パネルラインを作る必要がある。パネルの縁に沿って、目立たせず、でも簡単に開閉できるようにしてくれ、と。

 女は無言で道具を広げた。ムコのフレームに自分で診断を走らせて、作業に入った。
 一言も喋らない。
 「どのくらいかかる?」と聞いても無視された。諦めて黙って見てた。

 でも――マジでいい腕してる。
 4本の手が完璧に協調して動く。センサー接点を清掃し、新しい素材をマイクロメートル精度で適用していく。
 監視も兼ねて見てたが、途中でテクニックを理解するのを諦めて飯を食いに行った。戻ってきたら、最後の整合性チェックをしてた。ムコの頬を指でなぞって感触を確認してる。その仕草はほとんど敬虔だった。

 女技師は道具をまとめて、暗号化支払い転送を受け取り、ついに一言も発さず去った。
 
 ムコの新しいスキンは完璧だった。
 感覚統合も文句のつけようがない。カグラザカのオリジナル皮下センサーネットワークが劣化なく統合してる。アクセスパネルの縁に沿って作られた継ぎ目シームの処理もめちゃくちゃ美しい。
 あいつはプロ中のプロだ。尊敬する。

 ムコはピカピカになった。
 スキンの色は前と同じだ。カグラザカのモデル特有のあの色。青白い、ほとんど光ってるみたいな白。でも今は強化されてる。防弾だし、普通のナイフで斬られても刃が滑る。
 定期メンテ用に仕込んだ継ぎ目シームさえなけりゃ、カグラザカのショールームに並んでる展示品みたいに見える。ちょっと前に12.7ミリの徹甲弾と20ミリHE弾をモロに食らったなんて、誰も信じないだろう。

 ……だからこそ、ムコがそれを台無しにしたとき、本気でキレそうになった。



 ある朝、バスルームのドアを開けたら、ムコが洗面台の前に突っ立って鏡とにらめっこしていた。
 これだけで異常だ。
 ムコは鏡なんて使わない。自分の顔をまじまじ確認してるところなんて、一度も見たことがない。
 で、右手にはナイフ。俺のタクティカルナイフが握られてる。
 嫌な予感。

「……それ何に使うつもりだ?」

 ムコの目が鏡の中の俺の反射をちらりと見て、すぐに視線を戻した。自分の髪に。
 ナイフが持ち上がる。あの美しいプラチナホワイトの髪を一房掴んで――ザクッと切り落とした。

「おい待て何やってんだお前ッ!?」

 飛びついたが間に合わない。ムコはもう次の束を掴んでる。
 プラチナブロンドの房が洗面台に落ちる。もう一つ。さらにもう一つ。
 こいつ、左右対称もクソもなく、ただテキトーに掴んでバサバサ切ってやがる。

「うわああああやめろ! やめろやめろやめろ!」

 ムコの手が止まった。ナイフを宙に浮かせたまま、鏡越しにこっちを見る。

「何だ」
「それカグラザカの純正の合成毛髪だぞ!? どんだけ高価か理解してんのか!? カスタム培養強化ケラチンだ!! 絡まない、痛まない、メンテいらずで手触り神で、しかも色まで変えられるんだぞ!! カグラザカでもクグツメラインだけの専用機能!! ニューラルコマンドで髪も虹彩も色素をシフトできる! お前は白髪で目覚めて、赤毛で昼飯食って、黒髪で寝ることだってできんだよ!! それを――」

 ムコがまた一房、ザクリと切った。
 俺は喉の奥から絞り出すような悲鳴を上げた。
 洗面台の排水口の周りに、プラチナの美しい髪が積もっていく。

「ふーん……その機能は知らなかった」
「『ふーん』? それだけか!? 『ふーん』かよ!?」
「邪魔だった」
「何の邪魔だよ!?」
「近接戦で掴まれる。視界も遮る」

 俺はそこに無力に立ち尽くして、ムコがカグラザカの職人芸を破壊していくのを、ただ眺めるしかなかった。
 あのドールフェイスを完璧に引き立てるためにデザインされ、細心の注意を払ってレイヤーカットされた高級合成毛が……耳にギリかかるくらいの、ガッタガタのショートにされていく。あれこそカグラザカブランドのシグネチャースタイルだったのに。

 ムコはナイフをシンクに置いた。鏡を見つめ、短く不揃いになった髪に指を通した。小さく頷く。

「こっちの方がいい」

 ガキが反抗期の勢いで自分の頭にハサミを入れたみたいな見た目だ。
 俺はドア枠に背中を預けて、ズルズルとへたり込んだ。

「……せめて俺に頼めよ。ちゃんと切ってやったのに」
「お前は寝てた」
「なら起こしてくれよ!!」

 ムコはナイフを水道で洗って、軽く振って水気を切り、俺に手渡した。

「……お前のこと嫌いだわ」
「了解」

 罪悪感のかけらもねえ。
 俺は長い息をついて、気を取り直してムコを見つめた。
 髪の交換費用を脳内計算するのをやめて、もう一度、先入観なしでよく見た。

 上は少年っぽいショートヘア。自分でザクザク切った、パンクなガキみたいな髪型。
 でもそっから下は――ドカン。あの、どうしようもなくセックス専用のプロポーション。

 ……あー、
 ……いや。

 ボーイッシュ短髪 + 爆乳。

 これって実は……
 かなり……

 …………エロくね?

 咳払いした。

「まあ……しゃーない。切っちまったもんはもう戻らねえし」

 ムコがわずかに首を傾げて、こっちを見てる。

「っていうか……これはこれで、アリかもな。クグツメっぽさが消えた」

 実際、そうだ。ムコがクグツメの原型から乖離すればするほど、行動しやすくなる。
 クグツメのボディは目立ちすぎる。しかもあのプラチナボブはカグラザカ・ニンギョウのアイコン的ルックスの一要素。高級セクサロイドに詳しい人間なら、髪型だけでムコがドールだって分かる。

 でも今はパンクな短髪に、スキンの分割線パネルライン。これが妙に生身っぽく見せてる。だってカグラザカ純正の最高級スキンと髪を、こんな風にメチャクチャにする奴なんていないからな。

 ムコはただの女に見えた。
 異様に目を引く、背が高くて、エロくて、明らかに危なそうな女――ではあるけど。

 俺は呟いた。

「……せめて長さだけでも整えさせてくれよ」

 ムコが頷いた。







 ムコが施術台の上で横たわってる。
 全裸。項のアクセスポートから這い出た太いケーブル一本だけが、工房のメイン電源に繋がっている。今、脳殻を再起動して、ブートシーケンスが終わるのを待っている間、この電子的な臍の緒がムコの意識を繋ぎ止めてる。
 工房の薄青い光の中で、ムコは、なんつーか、これから生まれる何かみたいに見えた。羊水の中で眠る胎児。まだ目覚めてない命。
 いや、実際そうなんだろう。

 その目が開く。
 人工瞳孔が一瞬針の穴ほどに収縮してから、ミリ秒単位で最適開口まで拡張する。

 全てのパーツをインストールし、キャリブレーションも終わった。
 ムコはついに生まれ変わった。新しいボディを得て。

「おかえり」

 声をかけると、ムコがゆっくりと上体を起こす。背中のケーブルがピンと張る。
 自分を見下ろした。胸元に手を滑らせて、触覚応答をテストしてる。

「どうだ? 調子は」
「ああ、良い」

 そっけない返事だが、ムコからすりゃ最大級の賛辞だ。

「よっし。じゃ、まずこれ着ろ」

 俺はカウンターから丸めた布の塊を掴んで、ムコに放り投げる。案の定、視線も向けずに片手でキャッチしやがった。
 ムコが小首を傾げ、手の中のそれを検分する。

「これは……」
「お前専用のフルカスタム戦闘服だ」

 Kカップ爆乳に合う既製品なんてこの世に存在しねえからな。まあ、等身大ドールのために自分好みの着せ替え衣装を見繕うってのは、ちょっと楽しかったけど。
 ベースはネットランナー用の冷却ボディスーツ。頭蓋骨の中で脳みそが沸騰するレベルの演算処理をぶん回すときに着るやつだ。
 六角形が連鎖的に連なった幾何学パターンでうっすら覆われている。黒の上に黒、光の当たり方次第でしか見えないくらい微妙だ。この小さなハニカムセグメント一つひとつが熱を逃がすヒートシンクになってる。オーバーヒートしたサイバネからガンガン放熱できる仕組み。

 ムコはそれを掲げた。今の状態じゃただのデカい布袋にしか見えない。

「サイズは合うのか?」
「起動するまではブカブカだ。とりあえず脚通せ」

 ムコが動き、同時にケーブルが自動的に切断される。裸足が台から床に下りた。
 俺は――まあ一応な? 中身が男同士でも礼儀ってもんがあるし――背中向けて、ケーブル巻き取るフリして忙しそうにする。背後でシュルシュルって生地が擦れる音。妙に生々しい。
 ……やべ、あえて見ない方がかえってエロい気がするんだが。

「……着た。緩いぞ」
「ああ、襟のとこにスイッチある。押してみろ」

 俺が振り返ると、ムコが襟元をまさぐって、アクティベーションスイッチ見つけて押した。
 シュッ!! とスーツの真空密閉システムが作動する音。
 1秒もかからずダボついてた生地がギュッと収縮して、体の隅々まで完璧に密着した。六角形パターンが肌にピタリと吸い付いて、まるで液体の幾何学模様を全身に纏ったみたいだ。

 ただし、前面のジッパーだけは開いたまま。真空密着した黒いスーツの真ん中が左右に分かれて、その隙間から白い肌が覗いてる。下腹部から喉まで一直線に。
 最後にムコは股間に手を伸ばし、ジッパーのタブを一気に引き上げた。

 ――ジジッ!! と嫌な音がして、見ると、下乳のところでジッパーが引っかかってる。
 マジかよ。そのメートル級オッパイに対応させるために、まるまるワンサイズ分の生地追加したんだぞ。なのにまだ収まりきらねえって……!!

「キツいな」

 ムコは端的に言い、タブをぐいと引っ張った。力ずくで閉めた。スーツは保った。ギリギリで。ジッパーがついに降参して、なんとか双丘を通過して喉元まで登り切った。カチリと最上部でロック。

 ……お、おおお……。

 乳圧で六角形パターンが歪んで引き伸ばされてる。110センチを押し留めるのに必死。命からがら持ちこたえてる感じだ。
 
 ミチミチに拘束されたKカップ、想像以上の迫力だ。

 咳払いして、無理やり視線をムコの脚に逃がした。
 ブーツ部分はスーツの脚部にシームレスで一体化してる。ヌラリとした艶のある脚が永遠に続いて、最後は刃物級に鋭いヒールで終わる。
 見た目がエロいだけじゃない、これ自体が武器でありスタビライザーでもある。

「……あー。踵はお前のスパイクシステムと統合してあって、ブーツを直接貫通してブレードを展開できる仕様だ。神経接続だから、考えるだけで伸びるし、収納も同じ。筋肉を動かすのと同じくらい自然なはずだ」

 ムコが足元に視線を落とす。
 試しに片足を少し持ち上げて、凶悪な鋭さで先細ったヒールがコツ、と一度床を打つ。

 そして予備動作なしに、動いた。
 一瞬前まで何気なく立ってたのに、次の瞬間には右脚が垂直に跳ね上がってる。
 誰かの頭を粉砕するような軌道の上段蹴り。
 長い脚が俺の頭の高さを軽々超えて弧を描き、ブーツの踵が天井を指す。鋭い金属音とともに、踵から30センチのスパイクブレードが展開した。

「うおわっ!? 危ねえ!」

 反射的に飛びのいた。
 ムコはその体勢を微動だにせず維持してる。片脚は床、片脚は真上、立ったまま完璧な180度開脚。
 スーツは、可動域の限界を試すような極端な負荷を文句一つ言わずに処理してた。裂けることも突っ張ることもなく、あらゆる起伏、あらゆる曲線をピッチリと加圧してる。
 で、俺の位置からだと、ムコの股間を真正面から見上げる形になってて。
 つまり、がくっきり盛り上がってるのも見えちまうわけで。

「…………すっげ……」

 今度は違う意味で声が出た。
 このスーツでこの大開脚、完全におっぴろげじゃねえか……。

 ……真空密着されたあの縦スジは、後で思い出すために目に焼き付けた。

 ムコはゆっくり脚を下ろして、ヒールスパイクをシャキンと収納する。

「レスポンスがいいな。可動域も良好だ」

 声はいつも通りフラットな抑揚だが、その下に何かを感じ取った。満足、かもしれない。多分な。

 ムコの視線が工房の壁際に向いた。武器ラック。そこに並んでる刃物たちへ。
 あそこには俺がキャリブレーション用に置いてる刃物が数本ある。安物ばっかだ。振動機能もない普通の単分子刀モノ・ブレード。メンテ後の握力や反応速度をチェックしたい客向けのやつ。

 ムコがその中から無造作に一振り選んだ。
 そして指が柄を握った瞬間、安物の刀に何かが宿った。

 ムコが刃を動かす。手首のスナップで柄を回転させて、グリップを逆手に切り替える。それから順手に戻して、もう一度回す。指の間で柄が滑らかに回転していく。
 最後に一度、空中を短い水平弧で斬った。
 空気が切断される音が鳴った。

「……相当な刀使いだったんだよな、お前」

 俺は呟いた。
 ムコが動きを止めて、刃を下げた。切っ先が床を向く。

「覚えてない」
「嘘つけ。今、何年もやってきたみたいに型を披露しただろ」
「手が知ってる」

 ムコが静かに答える。

「でも俺は知らない」

 軍用義体に戦闘ファームウェア積んでりゃ、スキルウェアをインストールすることで技術は手に入る。
 でもムコが今やった刀回し、あのちょっとした見せ技。あれは癖だ。
 何年も繰り返して体に染み付いた、本物の訓練の痕跡。プログラムじゃ再現できない類のもんだ。

 お前は一体何者だったんだよ、ムコ。

 それ以上ムコは何も言わなかった。ただ黙って刀を握ってる。
 俺も追及するのをやめた。無理に昔のこと思い出そうとすると頭痛がするって、前に言ってたからな。
 ムコは刀をラックに戻そうと踏み出したが、何かを見つけて立ち止まった。

「ブラッド、あれは?」
「ん?」

 ムコが武器ラックに向かって顎をわずかにしゃくる。テスト用刀に半分隠れるようにして、鞘に収まったのが立てかけてある。
 振動刀ヴィブロブレード
 クソ、あれの存在をすっかり忘れてた。

「……客の預かり品。3年前に再調整で預かったやつ」
「それで?」
「取りに来なかった」

 そこまで歩いて行って、安物の群れの中からそいつを引っ張り出す。
 鞘はマットブラックの複合素材で、特に目立つところはない。
 フッと息を吹きかけて、埃を手のひらで拭った。

「よくある話だ。死んだか、どっか別の街にいるか。1年過ぎたら法的には俺のもんだけど、なんとなく取っといてる。悪い癖だな」

 ムコがテスト刀をラックに戻して、こっちに手を伸ばしてくる。
 俺は促されるまま、その振動刀ヴィブロブレードを差し出した。

 ムコがゆっくりと鞘から抜く。
 刀身そのものは、簡素なりに美しい。
 刃が滑り出て、完全な黒ではない色を露わにする。深い青紫に近い黒。刃紋が微かに浮かび上がって、光の角度で表情を変える。柄には小さく刻印が入ってる。カタバミ33-03。このモデルはもう10年以上前に生産終了してる。
 ムコの指が刃を撫でた。切っ先から刀身の峰を辿り、それからシンプルなハンドガードへ下りていく。青紫が表面を波打って、水面の油膜みたいに流れる。

「いいカスタムだろ? 前の持ち主は分かってる奴だった」
「借りていいか」

 ムコは俺を見ずに行った。

「いいよ。3年も音沙汰なしだ。持ち主は十中八九死んでる。仮に戻ってきたら……その時はその時だ」

 ムコが一度頷いた。

 そうだ。
 思い出した。まだ一つ残ってる。
 俺は隅の建付けの悪いロッカーをこじ開けて、用意してた最後のアイテムを取り出した。

 古いコンバットジャケット。
 ガンオイルの匂いが染み付いた、ODオリーブドラブグリーンの分厚いキャンバス地。肩と肘に防弾パネルが縫い込まれてる。ギア用のアタッチメントポイントがあちこちに付いてて、ポケットも多い。

 俺の親父が置いてったもの。

 あいつは傭兵だった。それとクソ野郎でもあった。
 その世界で生き延びるのは上手かったが、同時にその世界で生き延びちゃいけない理由の生きた見本でもあった。
 シラフでいる時間より酔っ払ってる時間の方が長かった。俺を殴ったのは2回。1回目は俺が10の時。2回目は、殴り返せるくらいデカくなった時。
 ジャケットは一度も着なかった。親父みたいにはなりたくなかったし、同じ道を辿るつもりもなかった。
 でも、捨てることもできなかった。

「ほら」

 ジャケットを投げた。

「お前にはちょっとデカいけど……そんなカッコで街中ウロつくわけにいかねえだろ」

 ムコが受け取って、広げて眺める。細い指が擦り切れた生地を撫でて、企業戦争時代の記章パッチや、修復痕をなぞった。

「古いな」
「……ああ、親父のだ」

 ムコが視線を上げてくる。
 俺は肩をすくめた。

「クローゼットで腐らせとくより、誰かに使ってもらう方がいい」

 ムコが腕を通した。
 肩幅が広めで、丈は短くカットされてる。袖が少し長かったが、ムコはそれをまくり上げた。前の合わせは開いたままで、圧着された2つの塊が激しく自己主張してる。
 なんつーか、意外なほど……様になってる。
 色褪せたODオリーブドラブと、無機質な幾何学パターン。男物のオーバーサイズジャケットと、女の体をピッチリ浮き彫りにするボディスーツ。それぞれが鋭く対比して、荒々しいエッジを生み出していた。

 ムコがジャケットの襟を直す。振動刀カタバミ33-03を腰のアタッチメントにカチリと留めた。

 今、完全装備で俺の前に立ってる。

 不気味なほど整った人形顔。白金の短髪。目元は影で暗い。
 その冷え切った表情とは裏腹に、ボディのプロポーションは卑猥の極みだ。蜂の腰みたいに細っそいウエストから、太い尻周りへ急激に広がる。ピッチリしたタクティカルスーツが、そのセックスアピール全開のボディラインを1ミリも逃さず拾い上げてる。
 ジッパーが胴体の中心線をまっすぐ下降し、110センチの膨らみを真っ二つに割って、そのまま下へ、下へ……股間ギリギリまで。その先を仄めかすような、絶妙にいやらしい位置にジッパーの始点がある。
 サイハイ・ブーツがもともと長い脚をさらに長く見せて、六角形パターンが爬虫類の鱗みたいにヌラヌラ光ってる。攻撃的に尖ったヒールが、さらに12センチを加算する。
 肩には、その滴り落ちるぐらいの女性性とは真逆の男物ジャケット。高い襟が立って顎のラインを鋭角に縁取る。前は開けっ放しで、下の女体を隠すっていうより、見せつけるための額縁になってる。
 腰に刀。刃が後ろに傾いて、さりげなく柄に手。浪人ローニンみたいだ。誰にも繋がれない流れのエッジ

 チグハグな組み合わせのはずだ。
 最高級セクサロイドのボディに、古いコンバットジャケットに、カタナ――本来どれも一緒になるようには設計されていない。
 だがムコという存在の上では、機能している。

「……これで終わり。お前は正式に戦闘準備完了ってわけだ」

 俺は声を出して、自分の思考から抜け出した。
 ふとムコが顔を上げて、俺の目を見た。

「ありがとう。お前はいい仕事をする」

 俺は瞬きした。
 え、今何て?

「……今、俺のこと褒めたか?」
「事実を言っただけだ」
「……そっか。ありがたく受け取っとくわ」

 悪い気はしない。つーか、正直めちゃくちゃ嬉しい。
 ムコみたいな元全身義体フルボーグ――メガコーポの専門設備で、専属技師がチーム体制で管理するような代物を使ってた義体乗りに、自作の出来を認められるなんて。
 下層の零細工房にとっちゃ最高の褒め言葉だ。

「でもな」

 と、俺は指を立てた。

「もう壊されんなよ。マジで頼む。今回ので俺の財布は完全に空っぽだ。もう一回この規模の改造やる余裕なんてねえからな」
「努力する」

 ムコが言い、俺を見た。

「次はどうする?」

 光受容体が何層にも重ねられた多重構造の人工虹彩が、俺を映した。
 深い。底知れない。
 暗い水底を覗き込むみたいに、美しくて、同じだけ危険。

 ムコをスクラップの山から引っ張り出したとき、俺は自分が何に首を突っ込んだのか理解してなかった。
 今は分かってる。
 完璧に。

 これは人を消すような類のヤバい事態に真正面から飛び込むってことだ。
 下層で生きてきた俺が、人生かけて避けてきたトラブル。記憶を失った、元メガコーポの機密資産。この手の案件に関わった奴がどうなるか、誰だって知ってる。

 でもな、俺はもう選択を済ませてる。
 拾ったムコをバラしてパーツ売りせず、工房で起動させた瞬間に。
 初めてヤった時。
 3徹で修理して、全財産ぶち込んで改造した時。
 さっき親父の形見を渡した時に。

 息を吸った。
 ゆっくり吐き出した。

「お前の元の体を取り戻す。お前が誰だったのか――それを突き止めに行こう」


 ACT 2:ORIGIN ―― 了
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