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ACT 3:BEGINNING
[9] 絶体絶命の窮地で、ムコは予想外の方法で交渉のテーブルをひっくり返す。[騎乗誘惑/淫語]
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俺の中で何かがプツンと切れた。
たぶん恐怖が臨界点に達したんだろう。
ある種の防衛機制だ。脳がこれ以上のストレスを処理できなくなって、代わりに全部燃料にして爆発させることにした。
「……あー……どうせこんなこったろうと思ったよ……」
止められずに言葉が出た。手のひらを外向きに、ゆっくり両手を上げながら。下層で育ちゃ嫌でも身につく降伏のポーズ。何度もやったことある、でも普段はここまでヤバい状況じゃない。
そして声がヒステリックに上がっていく。
「……ジャーゴン、あんのクロームチンポのクソ野郎……っ、ハメやがって!! 最初っから胡散臭えと思ってたんだ、案の定じゃねえかクソッ! エサみてえに仕事ぶら下げて、サプライズ、罠でした~ってか!? 何回てめえの無茶ぶりオーダー聞いてやったと思ってんだクソッタレがあああ!!!」
「ブラッド静かにしろ」
「うるせーよムコ!! どうだっていいだろもう、どうせ俺たち今から死ぬんだぞ!? コーポ野郎どもがドールに突っ込んで盛大にイってる真上でな! 最悪の死に方だろこれ!!」
「いや。死なない」
ムコが平坦に、ハッキリと、宣告するみたいに言った。
「銃を下ろせ」
もう俺に向けて喋ってない。
アダーが片眉を上げる。
「あん?」
「ブラッドに向けられてる銃だ。下ろせ。今すぐに」
俺の脇腹に銃をめり込ませてる傭兵は動かない。
「あのな、お嬢ちゃん。そういうルールじゃねえんだよ。俺が命令する。他が従う。逆じゃねえ」
「銃を。下ろせ」
「さもなきゃ何だ? そのキレーなお顔でプクーッと膨れてムク、」
アダーは言い終わらなかった。
一瞬前まで、ムコは俺の背後にいた。
次の瞬間にはいない。
テーブルに乗り上げて腰のカタバミ33-03を抜いて、アダーの喉に刃を押し当ててる。活性化した単分子エッジがPMCボスの頸動脈を開くまで、あと数ミリヒクつくだけ。
死の静寂。
そしてブースが爆発した。
ガチャガチャガチャガチャガチャ!! と銃という銃が一斉にスナップアップする。何人かの腕が文字通り割れて開いて内蔵武器が現れる。十数の銃口が、あらゆる角度からムコに収束した。
そこで止まる。誰も撃たない。撃てない。だってムコのポジショニングが完璧だから。誰でもトリガーを引いて、ムコを蜂の巣にできる。でもアダーの首は、最初の一発が着弾する前に床に転がる。
あーあ……最高だな。
正真正銘の膠着状態だ。
「お前らのボスの首が飛ぶぞ。次の行動を起こす前に、よく考えろ」
ムコが声すら上げずに言った。
誰も動かない。呼吸すらしてない。一つの間違った痙攣で、このフロア全体がスプラッタに塗り替わる。
アダーは流石というべきか、怯まなかった。
むしろご機嫌そのものに見える。4万ヘルツで高速振動するサイボーグスライサーを喉に当てられるのが、今週起きた中で最もエンターテイニングなことみたいに。
「その抜刀、ヒシガミのスキルウェアベースだな。どこの所属だった? 暗殺班か? 資産保護部門か? それとも新型義体のテストパイロットやってた口か?」
ムコが見下ろす。あの冷たい人工の瞳が何も明かさない。
「関係ない」
「まあそう言わずによ。ここにいるのは全員同業だろ」
声に嘲りが滲む。
「それとも俺たち下賤な兵卒と口きくのは、お前のプライドが許さねえってか。ええ? お高くとまったお嬢様よ」
ムコは瞬き一つしない。ただ繰り返す。
「俺の過去はお前には関係ない」
「つれねえな。まあいいさ」
アダーの口角が吊り上がる。
「じゃあお前の未来について話そうか。具体的には、敵陣ど真ん中で頭領にカタナ向けた後、マジでここから出られると思ってんのかって話だ」
そう言ってわざと首を傾ける。唸る刃がさらに迫って、防弾皮膚を破る一歩手前。
「俺を殺せるか? ああ、殺せるだろうな。で、その0.5秒後に俺の部下がお前を殺す。お前が何人か道連れにするかもしれん、しないかもしれん――どうでもいい。どっちにしろ、お前は死ぬ。そこのハナ垂れ小僧も死ぬ。奇跡が起きてこのビルを戦い抜けたとしても、バシリスクがお前を狩る。俺たちはこの一帯を所有してんだよ。あらゆる裏通り、下水道、お前が隠れられると思ってるネズミ穴全部、俺たちが押さえてる。小便一つしても、うちの誰かが痕跡を追うぞ」
目がムコを穿つ。
「だからここで質問だ、ソルジャー。お前の出口戦略は何だ? ドラマチックに退場するためだけに、事態をエスカレートさせたんじゃねえだろ。さあ、どうする?」
刃はまさにそこに留まってる。
ムコの目の裏で何かが回ってるのが見える。選択肢を並べて、勝率を弾いてる。こいつだって何十年もこの手のクソを潜り抜けてきた。もしかしたらアダーより修羅場を見てきてても全然おかしくない。
沈黙が引き伸ばされる。自分の心臓がドクドク暴れる音が、耳の奥で狂ったみたいに鳴り響いてる。
ついに、ムコが動いた。
でも誰一人として予想しなかったやり方で。
ムコがグリップを逆手に持ち替えて、カタバミ33-03を2人の間のローテーブルに真っ直ぐ突き立てた。
ズン、と単分子エッジが複合材を貫通して、床に刺さって墓標みたいに直立する。
戦闘放棄。その意思表示。
それから前に踏み出す。ブーツのヒールがテーブルを打つ。ブースの全ての銃が、この場にたったひとつの女体に追従する。
ムコは今、アダーの真正面に立ってる。無表情なドールフェイスで見下ろしてる。
そして――テーブルを踏み越えて、降りた。
アダーの膝の上に。
PMCのボスに、跨る形で。
「おおおおおっ、お前っ、なに……」
思わず立ち上がりかけた。
即座にアダーの部下に銃口で押し戻され、冷たい金属が頭皮にゴリッと食い込む。
が、そんなこと気にならない。
「……何やってんだよムコ!!!?」
2人の体勢は……親密なんて言葉じゃ全然生ぬるい。
ムコがアダーの太ももに跨って、あの卑猥で猥褻としか言いようがないデカ乳を、ちょうど目の高さに置いてる。110センチKカップ。視界を完全に埋め尽くす暴力的な質量。まともな男なら目を離すことなんて不可能。
あのタクティカルスーツが、ボディのありとあらゆる性的な起伏を高精細でマッピングしてる。今12人の男の前で、跨って大きく開いたデカ尻の食い込みも、くっきりと。長い脚が、交尾中の蛇みたいにアダーの脚に絡みつく。
ムコの手が上がって、軍用義体の広い肩に落ち着いた。
アダーに顔を近づける。耳に息がかかるくらい。セクサロイドOSにシミュレートされた吐息。呼吸の必要性からじゃなく、それがもたらす効果のために吐き出される。
「……俺がお前の役に立つと言ったら?」
静寂の中で、全員がそれを聞いた。
低い囁きのはずなのに、なぜかブース全体に届いて、テーブルの反対側からでも俺の背筋をゾクゾクさせる。
アダーの眉がピクリと持ち上がる。
「ほう?」
「俺は殺しが得意だ」
細い白い指がアダーの胸をなぞり上がる。防弾皮膚と有機組織の境目を、かり、と爪で軽く引っ掻く。
「でも他のことも得意だ。すごく。デモンストレーションが欲しいか?」
ムコの腰が前に転がった。故意の、ねっとりしたグラインドで、アダーの太ももを卑猥に擦り上げ、何について話してるのか一切の曖昧さを残さない。
ブース全体がゴクリと喉を鳴らした。
「マ……マジかよ」
部下の一人がかすれ声で呟く。
ああ、同感だ。マジかよ、だ。なんてこった。
こいつ……この状況で、PMCのボスを色仕掛けで丸め込もうとしてる。
アダーの手が、ムコの腰に動く。あのくびれたウエストの曲線を楽しんで、豊満なケツの上に悠々と落ち着く。一度強く揉んで、たっぷりした量感を試す。
叫び出したかった。テーブルひっくり返して、ムコをそこから引きずり上げて、肺が潰れるまで全力疾走したい。でも俺の頭には銃口、この狂気の賭けが目の前で展開するのを見てるしかできない。
「このボディが何のために作られたか、お前は知ってるだろう」
ムコの声がさらに低くハスキーに落ちる。
手が低く滑って、アダーの脚の付け根の内側をさする。奴が今確実に反応してる場所に、危険なほど近く。
「全ての肉、全ての感度が、男の愉しみのためにデザインされてる。――俺は、チンポで遊ぶオモチャだ」
……は?
お前、どこでそんな下品なワード……ッ!?
「このボディができることは、お前が所有するどの高級ドールも恥じ入らせるレベルだ。30秒以内に、神を見るほど激しくイかせてやる。あるいは何時間でも焦らせる。お前のチンポにキスして、しゃぶって、しごいて、もてあそぶ。そしてまさにここに連れて行って――」
ムコがアダーの手を絡め取り、自分の股間に導く。
「――先端だけを中に入れる。すぐに抜く。お前が俺をどれだけ濡らしたか教えてやるが、欲しいものは与えない。お前は震えて、汗だくになって、終わらせてくれって泣いて懇願する。俺の中に射精するためなら何でも差し出す気になるまで、何度も何度も繰り返す」
……っ、
マジかこいつ……っ!!
これはムコだ。あの寡黙な戦闘サイボーグ。感情の起伏がほとんどゼロの、機械みたいに冷静な元傭兵の男。
セクサロイドOSが並走してるせいでセックスには無頓着だが、それだって事務的で、セクハラされても眉一つ動かさないあいつ。
そのムコが……
頭がぶっ壊れそうだ。
今まであいつの口から絶対に、絶対に聞いたことのない言葉が次から次へと溢れ出てきて、脳の処理が追いつかない。
ムコの腰がゆっくりと円を描く。発情した雌猫みたいにアダーの脚に割れ目を擦りつける。スーツの生地越しに、グズった疑似膣の熱が伝わってるはずだ。
「……それとも手荒にやりたいか?」
声が危険な色を帯びる。
「溜まったフラストレーションを女にぶつけたい? いいぞ」
ムコの唇がフッと笑む。
「俺をレイプしろ」
その言葉がピンの抜かれた手榴弾みたいに空中に浮いた。
思考が一瞬真っ白になった。チンポがパンツの中で跳ねる。
レイプ。
ムコがレイプって言った。
ダメだ。
ダメダメダメダメ、考えるな。
「力づくで股を割り開いて、この乳を掴んで、髪を引っ張れ。面白くするのにちょうど十分抵抗してやる」
でも止められない。
俺の想像力がオーバードライブする。
脳裏に溢れてくるイメージ――
ムコがテーブルに、または壁に、手をついて前かがみ。顔のないデカいアルファ男が後ろに立って、手があの短い白髪に拳を作り、ムコが反抗すると即座に頭を引っ張り戻す。巨大なチンポが強引に入ってくる。華奢な背が弓なりに反る。
「お前は俺がもがく間、後ろから激しく突き上げる。俺が口走るノーだのストップだの全部――それがクソの意味も成さないって証明しながらな」
――……離せッ……抜け、っくそ、……抜け……ッ――
ムコの声を完全に無視して、あのバカ乳を後ろから乱暴に揉みしだきながら、焦って余計に締まるマンコをコキ穴にする。
「お前を世界で一番強い男の気分にさせてやる。このボディは何をしても壊れない。イラつくたび、パワーを感じる必要があるたびに……俺に全部ぶつけられる」
視界の端で捉えた。
アダーの部下の一人が手を下に持っていって、明らかにテント張ってる股間を調整した。さりげなくやろうとして派手に失敗してる。
別の奴は、ボスの膝の上を擦るムコのデカ尻に目が釘付け。
全員俺と同じことを考えてる。
ムコをそんな風に使うのがどんな感じか。
その気になれば誰でも瞬殺できる格上の男が、たまたま女の体に入ってるってだけで優位に立てて、オナホール扱いできるのがどんだけ気持ちいいか。
もれなく全員ビンビンになってる。
そして俺も……クソ、俺もだ。5分後には死んでるかもしれないってのに、完っ全に影響受けてる。
ムコがさらに近く身を寄せた。唇がほとんどアダーの耳に触れる。
「俺は武器だ」
囁く。
「それと同時に、お前が人生で経験しうる中で最もキツく、最も濡れて、最も反応のいい穴でもある。……好きに使えるぞ。今、正しい選択をすればな」
脳が溶けてる。
ムコの声――低い、まぎれもなく男性域の声が、クソみたいに下劣な言葉を連呼する。男の意識があのボディを性的に動かし、全力で男に媚びて、セックスで男を操作しようとしてる。
ムコが身を引いた。両手でアダーの顔を包み込み、アイコンタクトを強制する。
表情はまだあの完璧なドールマスクだが、目に何か捕食的なものが潜んでる。快楽と破壊を等しく約束する人外じみた何か。
セクサロイドOSの人格オーバーレイ。
「だからここで選べ。俺の脳殻を抽出して、ボディを売るか。車列襲撃の損失は回収できる。そしてお前はいつも通りのビジネスに戻る。それとも――」
親指がアダーの下唇をなぞる。
「――俺を手元に置いて、働かせる。一回きりの利益を超える価値を、このボディから引き出す。約束する、俺は自分の『仕事』が得意だ。殺し。セックス。またはお前が必要とするどんな下品なことでも」
◇
沈黙。
空気が濃くて窒息しそう。暴力寸前と性的な緊張感が等量で混ざり合って、ビリビリ荷電された空間に充満してる。誰かが咳でもしたら爆発する。そんな気配。
アダーがムコを見上げた。
その目にあるのは欲情じゃない。まあ、それだけじゃない。
評価だ。
「ハッ」
そして、笑い始めた。
「ハハハハハハハハハ!! 大したセールストークだ!!」
まだムコを膝に乗せたまま、心の底から可笑しいって感じで片手で顔を拭う。目尻に涙が浮いてるようにすら見えた。
「……ハーッ、クソ、参った。わかった、わかったよ。お前の勝ちだ。マンコ持ちのくせに、この場にいる誰よりもデケェ金玉ぶら下げてやがる。いや、ここ何年と見た中で最大級のタマだ。間違いねえ」
部下たちを見回す。
全員滑稽な状態で固まってた。ポーズは暴力を実行する直前の臨戦態勢なのに、股間はムコのパフォーマンスで半強制的に硬くさせられてる。
「おら、下ろせ下ろせ。全員だ。ショーは終わりだ。今日は誰も死なねえ」
銃口が一斉に下がって、ブースの緊張が解けた。テンションの張り詰めたワイヤーが弾けるみたいに。
隣の傭兵がようやく俺の頭からハンドガンを引く。俺は止めてた息を全部吐き出して、ソファに背中からドサッと崩れ落ちる。
アダーがムコに注意を戻す。
「俺はな、銃が出てきた時に態度を保てる奴が絶対的に好きだ。どう出るか見せてもらったぜ。パニクるか、戦うか、逃げようとするか。お前は真っ直ぐ俺の喉を狙いに来て、それが効かねえと見るや、この状況で唯一機能するカードを切りやがった」
ニヤリと笑う。
「クソ度胸もいいとこだぜ」
それから俺を指差す。
「お前もだ、小僧。そのヒョロヒョロで、パニクってはいたが逃げなかったな。命乞いもしなかった。いい根性だ。気に入った」
言葉が出ない。俺は口をバカみたいにパクパク開け閉めするしかなかった。
だって俺の脳みそはムコの「チンポで遊ぶオモチャ」のあたりで完全にブルースクリーン吐いて、まだ再起動が終わってないから。
「じゃあ仕事の件は有効か?」
ムコが何事もなかったかのように言った。今しがたPMCボスの膝の上で、ストリッパーみたいに腰をグラインドさせてたのが集団幻覚みたいだ。
「ああ、その申し出は最初から本物だぜ? ジャーゴンは嘘を言ってねえ」
肩をすくめる。
「ブッチャーの子飼い部隊を一人で切り刻んだ奴と、わざわざ戦争する気はねえよ」
アダーがムコに膝から降りるようジェスチャーし、ムコは応じた。
立ち上がり、そこに落ち着いた時と同じ流れるような優雅さで、テーブルに突き刺さった刀を回収する。そして俺の隣に座り直した。
ムコがもし今起きたことに動揺してるなら、それは欠片も見えない。
俺はというと、たっぷり2人分動揺してる。
アダーは残りの酒を一気に煽って、空のグラスをテーブルにバンと叩きつけた。
「合格だ。お前ら両方とも。バシリスクはイカれた奴を歓迎する」
たぶん恐怖が臨界点に達したんだろう。
ある種の防衛機制だ。脳がこれ以上のストレスを処理できなくなって、代わりに全部燃料にして爆発させることにした。
「……あー……どうせこんなこったろうと思ったよ……」
止められずに言葉が出た。手のひらを外向きに、ゆっくり両手を上げながら。下層で育ちゃ嫌でも身につく降伏のポーズ。何度もやったことある、でも普段はここまでヤバい状況じゃない。
そして声がヒステリックに上がっていく。
「……ジャーゴン、あんのクロームチンポのクソ野郎……っ、ハメやがって!! 最初っから胡散臭えと思ってたんだ、案の定じゃねえかクソッ! エサみてえに仕事ぶら下げて、サプライズ、罠でした~ってか!? 何回てめえの無茶ぶりオーダー聞いてやったと思ってんだクソッタレがあああ!!!」
「ブラッド静かにしろ」
「うるせーよムコ!! どうだっていいだろもう、どうせ俺たち今から死ぬんだぞ!? コーポ野郎どもがドールに突っ込んで盛大にイってる真上でな! 最悪の死に方だろこれ!!」
「いや。死なない」
ムコが平坦に、ハッキリと、宣告するみたいに言った。
「銃を下ろせ」
もう俺に向けて喋ってない。
アダーが片眉を上げる。
「あん?」
「ブラッドに向けられてる銃だ。下ろせ。今すぐに」
俺の脇腹に銃をめり込ませてる傭兵は動かない。
「あのな、お嬢ちゃん。そういうルールじゃねえんだよ。俺が命令する。他が従う。逆じゃねえ」
「銃を。下ろせ」
「さもなきゃ何だ? そのキレーなお顔でプクーッと膨れてムク、」
アダーは言い終わらなかった。
一瞬前まで、ムコは俺の背後にいた。
次の瞬間にはいない。
テーブルに乗り上げて腰のカタバミ33-03を抜いて、アダーの喉に刃を押し当ててる。活性化した単分子エッジがPMCボスの頸動脈を開くまで、あと数ミリヒクつくだけ。
死の静寂。
そしてブースが爆発した。
ガチャガチャガチャガチャガチャ!! と銃という銃が一斉にスナップアップする。何人かの腕が文字通り割れて開いて内蔵武器が現れる。十数の銃口が、あらゆる角度からムコに収束した。
そこで止まる。誰も撃たない。撃てない。だってムコのポジショニングが完璧だから。誰でもトリガーを引いて、ムコを蜂の巣にできる。でもアダーの首は、最初の一発が着弾する前に床に転がる。
あーあ……最高だな。
正真正銘の膠着状態だ。
「お前らのボスの首が飛ぶぞ。次の行動を起こす前に、よく考えろ」
ムコが声すら上げずに言った。
誰も動かない。呼吸すらしてない。一つの間違った痙攣で、このフロア全体がスプラッタに塗り替わる。
アダーは流石というべきか、怯まなかった。
むしろご機嫌そのものに見える。4万ヘルツで高速振動するサイボーグスライサーを喉に当てられるのが、今週起きた中で最もエンターテイニングなことみたいに。
「その抜刀、ヒシガミのスキルウェアベースだな。どこの所属だった? 暗殺班か? 資産保護部門か? それとも新型義体のテストパイロットやってた口か?」
ムコが見下ろす。あの冷たい人工の瞳が何も明かさない。
「関係ない」
「まあそう言わずによ。ここにいるのは全員同業だろ」
声に嘲りが滲む。
「それとも俺たち下賤な兵卒と口きくのは、お前のプライドが許さねえってか。ええ? お高くとまったお嬢様よ」
ムコは瞬き一つしない。ただ繰り返す。
「俺の過去はお前には関係ない」
「つれねえな。まあいいさ」
アダーの口角が吊り上がる。
「じゃあお前の未来について話そうか。具体的には、敵陣ど真ん中で頭領にカタナ向けた後、マジでここから出られると思ってんのかって話だ」
そう言ってわざと首を傾ける。唸る刃がさらに迫って、防弾皮膚を破る一歩手前。
「俺を殺せるか? ああ、殺せるだろうな。で、その0.5秒後に俺の部下がお前を殺す。お前が何人か道連れにするかもしれん、しないかもしれん――どうでもいい。どっちにしろ、お前は死ぬ。そこのハナ垂れ小僧も死ぬ。奇跡が起きてこのビルを戦い抜けたとしても、バシリスクがお前を狩る。俺たちはこの一帯を所有してんだよ。あらゆる裏通り、下水道、お前が隠れられると思ってるネズミ穴全部、俺たちが押さえてる。小便一つしても、うちの誰かが痕跡を追うぞ」
目がムコを穿つ。
「だからここで質問だ、ソルジャー。お前の出口戦略は何だ? ドラマチックに退場するためだけに、事態をエスカレートさせたんじゃねえだろ。さあ、どうする?」
刃はまさにそこに留まってる。
ムコの目の裏で何かが回ってるのが見える。選択肢を並べて、勝率を弾いてる。こいつだって何十年もこの手のクソを潜り抜けてきた。もしかしたらアダーより修羅場を見てきてても全然おかしくない。
沈黙が引き伸ばされる。自分の心臓がドクドク暴れる音が、耳の奥で狂ったみたいに鳴り響いてる。
ついに、ムコが動いた。
でも誰一人として予想しなかったやり方で。
ムコがグリップを逆手に持ち替えて、カタバミ33-03を2人の間のローテーブルに真っ直ぐ突き立てた。
ズン、と単分子エッジが複合材を貫通して、床に刺さって墓標みたいに直立する。
戦闘放棄。その意思表示。
それから前に踏み出す。ブーツのヒールがテーブルを打つ。ブースの全ての銃が、この場にたったひとつの女体に追従する。
ムコは今、アダーの真正面に立ってる。無表情なドールフェイスで見下ろしてる。
そして――テーブルを踏み越えて、降りた。
アダーの膝の上に。
PMCのボスに、跨る形で。
「おおおおおっ、お前っ、なに……」
思わず立ち上がりかけた。
即座にアダーの部下に銃口で押し戻され、冷たい金属が頭皮にゴリッと食い込む。
が、そんなこと気にならない。
「……何やってんだよムコ!!!?」
2人の体勢は……親密なんて言葉じゃ全然生ぬるい。
ムコがアダーの太ももに跨って、あの卑猥で猥褻としか言いようがないデカ乳を、ちょうど目の高さに置いてる。110センチKカップ。視界を完全に埋め尽くす暴力的な質量。まともな男なら目を離すことなんて不可能。
あのタクティカルスーツが、ボディのありとあらゆる性的な起伏を高精細でマッピングしてる。今12人の男の前で、跨って大きく開いたデカ尻の食い込みも、くっきりと。長い脚が、交尾中の蛇みたいにアダーの脚に絡みつく。
ムコの手が上がって、軍用義体の広い肩に落ち着いた。
アダーに顔を近づける。耳に息がかかるくらい。セクサロイドOSにシミュレートされた吐息。呼吸の必要性からじゃなく、それがもたらす効果のために吐き出される。
「……俺がお前の役に立つと言ったら?」
静寂の中で、全員がそれを聞いた。
低い囁きのはずなのに、なぜかブース全体に届いて、テーブルの反対側からでも俺の背筋をゾクゾクさせる。
アダーの眉がピクリと持ち上がる。
「ほう?」
「俺は殺しが得意だ」
細い白い指がアダーの胸をなぞり上がる。防弾皮膚と有機組織の境目を、かり、と爪で軽く引っ掻く。
「でも他のことも得意だ。すごく。デモンストレーションが欲しいか?」
ムコの腰が前に転がった。故意の、ねっとりしたグラインドで、アダーの太ももを卑猥に擦り上げ、何について話してるのか一切の曖昧さを残さない。
ブース全体がゴクリと喉を鳴らした。
「マ……マジかよ」
部下の一人がかすれ声で呟く。
ああ、同感だ。マジかよ、だ。なんてこった。
こいつ……この状況で、PMCのボスを色仕掛けで丸め込もうとしてる。
アダーの手が、ムコの腰に動く。あのくびれたウエストの曲線を楽しんで、豊満なケツの上に悠々と落ち着く。一度強く揉んで、たっぷりした量感を試す。
叫び出したかった。テーブルひっくり返して、ムコをそこから引きずり上げて、肺が潰れるまで全力疾走したい。でも俺の頭には銃口、この狂気の賭けが目の前で展開するのを見てるしかできない。
「このボディが何のために作られたか、お前は知ってるだろう」
ムコの声がさらに低くハスキーに落ちる。
手が低く滑って、アダーの脚の付け根の内側をさする。奴が今確実に反応してる場所に、危険なほど近く。
「全ての肉、全ての感度が、男の愉しみのためにデザインされてる。――俺は、チンポで遊ぶオモチャだ」
……は?
お前、どこでそんな下品なワード……ッ!?
「このボディができることは、お前が所有するどの高級ドールも恥じ入らせるレベルだ。30秒以内に、神を見るほど激しくイかせてやる。あるいは何時間でも焦らせる。お前のチンポにキスして、しゃぶって、しごいて、もてあそぶ。そしてまさにここに連れて行って――」
ムコがアダーの手を絡め取り、自分の股間に導く。
「――先端だけを中に入れる。すぐに抜く。お前が俺をどれだけ濡らしたか教えてやるが、欲しいものは与えない。お前は震えて、汗だくになって、終わらせてくれって泣いて懇願する。俺の中に射精するためなら何でも差し出す気になるまで、何度も何度も繰り返す」
……っ、
マジかこいつ……っ!!
これはムコだ。あの寡黙な戦闘サイボーグ。感情の起伏がほとんどゼロの、機械みたいに冷静な元傭兵の男。
セクサロイドOSが並走してるせいでセックスには無頓着だが、それだって事務的で、セクハラされても眉一つ動かさないあいつ。
そのムコが……
頭がぶっ壊れそうだ。
今まであいつの口から絶対に、絶対に聞いたことのない言葉が次から次へと溢れ出てきて、脳の処理が追いつかない。
ムコの腰がゆっくりと円を描く。発情した雌猫みたいにアダーの脚に割れ目を擦りつける。スーツの生地越しに、グズった疑似膣の熱が伝わってるはずだ。
「……それとも手荒にやりたいか?」
声が危険な色を帯びる。
「溜まったフラストレーションを女にぶつけたい? いいぞ」
ムコの唇がフッと笑む。
「俺をレイプしろ」
その言葉がピンの抜かれた手榴弾みたいに空中に浮いた。
思考が一瞬真っ白になった。チンポがパンツの中で跳ねる。
レイプ。
ムコがレイプって言った。
ダメだ。
ダメダメダメダメ、考えるな。
「力づくで股を割り開いて、この乳を掴んで、髪を引っ張れ。面白くするのにちょうど十分抵抗してやる」
でも止められない。
俺の想像力がオーバードライブする。
脳裏に溢れてくるイメージ――
ムコがテーブルに、または壁に、手をついて前かがみ。顔のないデカいアルファ男が後ろに立って、手があの短い白髪に拳を作り、ムコが反抗すると即座に頭を引っ張り戻す。巨大なチンポが強引に入ってくる。華奢な背が弓なりに反る。
「お前は俺がもがく間、後ろから激しく突き上げる。俺が口走るノーだのストップだの全部――それがクソの意味も成さないって証明しながらな」
――……離せッ……抜け、っくそ、……抜け……ッ――
ムコの声を完全に無視して、あのバカ乳を後ろから乱暴に揉みしだきながら、焦って余計に締まるマンコをコキ穴にする。
「お前を世界で一番強い男の気分にさせてやる。このボディは何をしても壊れない。イラつくたび、パワーを感じる必要があるたびに……俺に全部ぶつけられる」
視界の端で捉えた。
アダーの部下の一人が手を下に持っていって、明らかにテント張ってる股間を調整した。さりげなくやろうとして派手に失敗してる。
別の奴は、ボスの膝の上を擦るムコのデカ尻に目が釘付け。
全員俺と同じことを考えてる。
ムコをそんな風に使うのがどんな感じか。
その気になれば誰でも瞬殺できる格上の男が、たまたま女の体に入ってるってだけで優位に立てて、オナホール扱いできるのがどんだけ気持ちいいか。
もれなく全員ビンビンになってる。
そして俺も……クソ、俺もだ。5分後には死んでるかもしれないってのに、完っ全に影響受けてる。
ムコがさらに近く身を寄せた。唇がほとんどアダーの耳に触れる。
「俺は武器だ」
囁く。
「それと同時に、お前が人生で経験しうる中で最もキツく、最も濡れて、最も反応のいい穴でもある。……好きに使えるぞ。今、正しい選択をすればな」
脳が溶けてる。
ムコの声――低い、まぎれもなく男性域の声が、クソみたいに下劣な言葉を連呼する。男の意識があのボディを性的に動かし、全力で男に媚びて、セックスで男を操作しようとしてる。
ムコが身を引いた。両手でアダーの顔を包み込み、アイコンタクトを強制する。
表情はまだあの完璧なドールマスクだが、目に何か捕食的なものが潜んでる。快楽と破壊を等しく約束する人外じみた何か。
セクサロイドOSの人格オーバーレイ。
「だからここで選べ。俺の脳殻を抽出して、ボディを売るか。車列襲撃の損失は回収できる。そしてお前はいつも通りのビジネスに戻る。それとも――」
親指がアダーの下唇をなぞる。
「――俺を手元に置いて、働かせる。一回きりの利益を超える価値を、このボディから引き出す。約束する、俺は自分の『仕事』が得意だ。殺し。セックス。またはお前が必要とするどんな下品なことでも」
◇
沈黙。
空気が濃くて窒息しそう。暴力寸前と性的な緊張感が等量で混ざり合って、ビリビリ荷電された空間に充満してる。誰かが咳でもしたら爆発する。そんな気配。
アダーがムコを見上げた。
その目にあるのは欲情じゃない。まあ、それだけじゃない。
評価だ。
「ハッ」
そして、笑い始めた。
「ハハハハハハハハハ!! 大したセールストークだ!!」
まだムコを膝に乗せたまま、心の底から可笑しいって感じで片手で顔を拭う。目尻に涙が浮いてるようにすら見えた。
「……ハーッ、クソ、参った。わかった、わかったよ。お前の勝ちだ。マンコ持ちのくせに、この場にいる誰よりもデケェ金玉ぶら下げてやがる。いや、ここ何年と見た中で最大級のタマだ。間違いねえ」
部下たちを見回す。
全員滑稽な状態で固まってた。ポーズは暴力を実行する直前の臨戦態勢なのに、股間はムコのパフォーマンスで半強制的に硬くさせられてる。
「おら、下ろせ下ろせ。全員だ。ショーは終わりだ。今日は誰も死なねえ」
銃口が一斉に下がって、ブースの緊張が解けた。テンションの張り詰めたワイヤーが弾けるみたいに。
隣の傭兵がようやく俺の頭からハンドガンを引く。俺は止めてた息を全部吐き出して、ソファに背中からドサッと崩れ落ちる。
アダーがムコに注意を戻す。
「俺はな、銃が出てきた時に態度を保てる奴が絶対的に好きだ。どう出るか見せてもらったぜ。パニクるか、戦うか、逃げようとするか。お前は真っ直ぐ俺の喉を狙いに来て、それが効かねえと見るや、この状況で唯一機能するカードを切りやがった」
ニヤリと笑う。
「クソ度胸もいいとこだぜ」
それから俺を指差す。
「お前もだ、小僧。そのヒョロヒョロで、パニクってはいたが逃げなかったな。命乞いもしなかった。いい根性だ。気に入った」
言葉が出ない。俺は口をバカみたいにパクパク開け閉めするしかなかった。
だって俺の脳みそはムコの「チンポで遊ぶオモチャ」のあたりで完全にブルースクリーン吐いて、まだ再起動が終わってないから。
「じゃあ仕事の件は有効か?」
ムコが何事もなかったかのように言った。今しがたPMCボスの膝の上で、ストリッパーみたいに腰をグラインドさせてたのが集団幻覚みたいだ。
「ああ、その申し出は最初から本物だぜ? ジャーゴンは嘘を言ってねえ」
肩をすくめる。
「ブッチャーの子飼い部隊を一人で切り刻んだ奴と、わざわざ戦争する気はねえよ」
アダーがムコに膝から降りるようジェスチャーし、ムコは応じた。
立ち上がり、そこに落ち着いた時と同じ流れるような優雅さで、テーブルに突き刺さった刀を回収する。そして俺の隣に座り直した。
ムコがもし今起きたことに動揺してるなら、それは欠片も見えない。
俺はというと、たっぷり2人分動揺してる。
アダーは残りの酒を一気に煽って、空のグラスをテーブルにバンと叩きつけた。
「合格だ。お前ら両方とも。バシリスクはイカれた奴を歓迎する」
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