軍用義体を取り上げられてセクサロイドに脳殻移植されたTS重サイボーグ傭兵(元40代おっさん)が少年の性癖をバキバキに折る話 代表作

ぱふぇ

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ACT 4:MERCENARY

[17] 単身ペントハウスに乗り込んだムコの殺戮が始まる。

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 眼下のダンスフロアでは、100人くらいの群衆がストロボを浴びて脈打っていた。ここまで響いてくる重低音で、ケツの下の金属がビリビリ共振してる。
 警備詰所を出た後、俺はクラブのメインスペースに移動していた。といってもフロアに降りたわけじゃない。正確には、高所に張り巡らされたキャットウォーク。客の目に触れないように設計された、メンテナンススタッフ専用の空中回廊だ。ここなら何かあった時の退路も確保しやすい。

 ムコの視聴覚A/Vフィードは、視界の隅にサムネイルサイズで浮かべてある。あいつがエレベーターに向かってる間、俺は待つ以外にやることがない。
 冷たい金属のグレーチングの上で多少マシな体勢を見つけて、膝の上にハンドヘルドデッキを置いた。

 さっきトイレで絞め落とした奴からクローンしたトークン、あれが思った以上に優秀だった。フルクリアランス権限ってことは、このビルのサブネットのほぼ全域に首を突っ込めるってことだ。
 今は通信サーバーに潜り込んで、アーカイブされたメッセージログを漁ってる。
 別に覗き見趣味があるわけじゃないが、ムコが上で実際の仕事を全部やってる間、ここで指くわえて待ってるだけってのは退屈すぎる。何か使える情報が転がってるかもしれないし。暇つぶしにしては生産的だろ。

 強化視野HUDの上でログをスクロールしていく。大半はナイトクラブの内部通信として予想通りの内容だった。
 警備員の一人がサイドビジネスでパーティドラッグを捌いてる痕跡を見つけた。今度「体液」の処理を押し付けられたらマジで辞めるってキレてるフロアスタッフ同士の愚痴とか。バーテンダーが同僚を口説いてる一連のやり取りも出てきたけど、速攻でスキップした。他人のエロメッセ読むのが嫌だったんじゃなくて、スペルが酷すぎて萎えたからだ。

 フィルタを調整して、外部への発信記録だけを抽出する。クラブの従業員が業者に送ったメッセージがずらっと並んだ。大半はどうでもいいゴミだ。
 でも一件、引っかかるものがあった。

 二者間のプライベートなやり取り。
 片方のタグは「HAUSER_D」、ハウザーの個人端末からの送信だろう。
 問題はもう片方だ。「EXTERNAL_SECURE(秘匿外部通信)」とだけ表示されてて、発信元の詳細が完全にマスクされてる。普通の取引先や業者なら、こんな匿名化処理をわざわざかける理由がない。
 気になって、スレッドを開いた。

[EXTERNAL_SECURE]:なぜうちに接触してきた?
[HAUSER_D]:仕事を依頼したい。内密にだ。
[EXTERNAL_SECURE]:内容による。
[HAUSER_D]:上層地区の空域を抜けるフライトの確保だ。AV一機分。バシリスクに目をつけられてて、通常の手段じゃ出られない。手配できるか?
[EXTERNAL_SECURE]:お前の状況は耳に入ってる。ネットワークが広いものでな。聞きたいのは、我々に泣きついてきた理由だ。
[HAUSER_D]:取引を持ちかけに来た。金以外に提示できる報酬がある。
[EXTERNAL_SECURE]:続けろ。
[HAUSER_D]:バシリスクの内部情報だ。俺は長年あいつらの帳簿を管理してた。相当なものが手元にある。
[EXTERNAL_SECURE]:大きく出たな。本物だという証拠は?
[HAUSER_D]:サンプルを送る。これで判断してくれ。

[ファイル転送: 暗号化済み]

[EXTERNAL_SECURE]:検証に少し時間をくれ。
[EXTERNAL_SECURE]:解析班が精査した。担保として申し分ない。
[HAUSER_D]:フルパッケージは無事に空域を抜けてから引き渡す。それまでは俺の保険だ。
[EXTERNAL_SECURE]:データの価値を考えれば呑める条件だ。いいだろう、取引成立だ。
[EXTERNAL_SECURE]:それと警告しておく。もしデータが偽造だったり、約束を反故にしたりしたら。
[HAUSER_D]:分かってる。
[EXTERNAL_SECURE]:ブラックドッグは契約を守る。そちらも同様に期待する。

 ――ブラックドッグ。
 その単語に血の気が引いた。
 ブラックドッグPMC、傭兵組織だ。あいつらには寧黑ネイヘイの資本がついてる。戦争で成り上がった新興中華系メガコーポが、資金供給という名の長いリードで繋いでる番犬の一匹。
 バシリスクとブラックドッグは、互いの喉笛を狙い合ってる。単なる競合ってだけじゃない。数年前の抗争で、互いに何十人も殺し合ったとか聞いた。握手じゃ清算できない血の借りがある。

 スレッドを読み進めた。

[HAUSER_D]:もう一つ頼みがある。AVに乗り込むまでの護衛だ。バシリスクが強硬手段に出てくる可能性がある。手持ちの警備だけじゃ、本気の襲撃には対応できない。
[EXTERNAL_SECURE]:上層地区への派遣は相応の追加コストが発生するが。
[HAUSER_D]:構わない。
[EXTERNAL_SECURE]:いいだろう。うちのオペレーターを一人送る。
[HAUSER_D]:一人? 護衛が欲しいと言ってるんだ。形だけのお守りじゃなくて、実際に機能する戦力を。
[EXTERNAL_SECURE]:そいつがいれば一人で事足りる。
[EXTERNAL_SECURE]:1時間以内にそちらに到着する。コールサインは「オーメン」だ。

 スレッドはそこで終わっていた。
 俺はしばらく画面を見つめたまま固まってた。読んだばかりの情報が、ゆっくりと浸透していく。

 ……かなりまずい状況じゃないか?

 これはバシリスクから聞かされてた話とはかけ離れてる。
 ハウザーは個人的に雇ったチンピラどもと籠城してて、逃がし屋を使って街を出る予定。それを俺たちが先回りして回収する。そういう段取りだったはずだ。
 ターゲットがバシリスクの機密情報と引き換えに、敵対PMCと取引してるなんて一言も聞いてない。

 そしてブラックドッグは、取引を成立させるためにスペシャリストを送り込んだ。もう配置についてる。このビルのどこか、ムコとターゲットの間に。
 ただの傭兵じゃない。ここにいるってことは、チェックポイントを通過した上で殺しができる人間だ。 

 オーメン。
 重度の軍用拡張サイバネを積んでたら、チェックポイントのスキャンでアウトだ。わかってるのは、一般市民に偽装できるレベルの見た目、装備ってこと。
 でもブラックドッグがたった一人を送り込むだけで済ませてるって事実が、そいつがどれだけヤバいかを物語ってる。

『エレベーターについた。今から上がるぞ』

 リンク越しにムコの声が割り込んできた。女声のまま。わずかにノイズが乗ってる。
 俺は慌ててムコのフィードを拡大した。もう金属の壁に囲まれて、ドアがスライドして閉まるところだった。

「ムコ、待ってくれ。ヤバいことになった」
『どうした?』
「ハウザーに増援がいる。俺らが把握してなかったやつだ」

 言葉を選んでる余裕はない。

「バシリスクの敵対PMCがオペレーターを送り込んでた。オーメンって名前だ。もう上にいるかもしれない」

 返事がない。

「ムコ? 聞こえてるか?」

 POVフィードが激しく乱れた。ムコの合成音声が途切れ途切れに入ってくる。

『――繰り返してくれ。聞こえ――が――』

 そしてフィードが真っ暗になった。

「ムコ? ……ムコ!」

 ……クソッ。
 サブネット経由でムコが乗ってるエレベーターの状態を確認した。5階。ペントハウス階。箱は到着してる。そしてムコへのリンクは、到着した瞬間に落ちた。
 デッキの操作盤に指を走らせた。暗号化リンクは俺側ではまだアクティブ……信号強度最大。問題はこっちじゃない。俺は虚空に向かって発信してる。

 ジャミングだ。間違いない。最上階をカバーする局所的な信号抑制か何かで、A/Vリンクが遮断された。

 足元のキャットウォークが揺れた。
 俺は反射的に支柱の影に体を押し付けて、グレーチング越しに下を覗いた。
 クラブ地上階の警備員が複数人。俺のいるキャットウォークの一段下を、足早に移動してる。

「――急げ、全フロアをロックダウン。上からの指示だ」
「客はどうすんだよ?」
「今いる奴らは飲み終わらせていい、だが新規は入れるな」
「何かあったのか?」
「上でトラブルだとよ。それ以上は俺らの給料じゃ知る必要のないことだ。黙って仕事しろ」
「また面倒なことになりそうだな……」

 3人は角を曲がって視界から消えた。声はクラブの重低音にかき消されていく。

 上からの指示。トラブル。
 まずい……ハウザーに察知された。
 気絶した警備員が発見されたのか、それとも別の理由か。何にせよ、ビル全体が警戒態勢に入ろうとしてる。

 通信途絶。敵の数も配置も不明。その中には、ブラックドッグが敵地に単独で送り込むくらい信頼してるオペレーターが一人。

 ……ムコはそこに真っ直ぐ歩いていってる。

 ◇ ◇ ◇ 

 ディートリッヒ・ハウザーは、底から這い上がってきた男だった。
 10年前、バシリスク系列の店でドアを守るだけの用心棒バウンサーだった。威嚇には十分な体格と、余計な口を利かない程度の分別。それだけが取り柄の、掃いて捨てるほどいる駒の一人。
 ただし、どの手に金を握らせ、どの喉を切るべきか。その嗅覚だけは、周囲より多少マシだった。
 クラブ・クリサリスの前任マネージャーがインプラントを焼かれて港に浮いた日、空いたポストを自分がどう埋められるか具体的な提案を携えて、彼はアダーの前に立っていた。

 以来、ハウザーは組織の金を洗い、帳簿を操作し、利益の端を少しずつ、少しずつ掠め取ってきた。バシリスクが気づく頃には、逃亡資金は十分すぎる額に膨らみ、逃走経路も計画してあった。

 逃げ切れる――そう確信していた。
 だが今、その確信が目の前で崩壊しつつある。

「下は何をやってる!?」

 パニックルームの壁面を埋めるモニターには何も映っていなかった。有用な情報は何も、と言うべきか。
 4階のセキュリティハブで最初の異常が報告された瞬間、ハウザーは腹心の部下だけを引き連れ、迷わずここへ退避した。ペントハウス最深部の強化シェルター。四方を分厚い隔壁に囲まれている。だが守られているという実感が、まるで湧いてこない。

「……報告が錯綜していて……巡回要員の半数近くが、通信途絶だと」

 側近の声が上擦っていた。

「残ってる全員をこのフロアに集めろ」
「全員引き上げさせて、防御配置についてます」

 ハウザーは傍らのグラスを掴んだ。中身を一息で飲み干し、焼けるような感覚で神経を落ち着かせる。

 バシリスクだ。
 わかっていた。アダーが始末しに来ることくらい、最初から織り込み済みだ。あの老いぼれた蛇は裏切りを絶対に許さない。
 だが、こんな殺し屋が来ることは想定していなかった。
 重サイボーグが自由に動けない上層地区で、監視網を掻い潜り、警備を一人また一人と沈黙させていく何者か。チェックポイントのスキャンを通過できる程度の軽度拡張で、これだけのことをやってのける。
 そんな手札が、あの蛇の手の内にあったのか?

「ペントハウス直通エレベーターが上昇中です」

 側近の声が、ハウザーの思考を断ち切った。

「アクセスコードは?」
「4階配置のグレイソンのものです」

 応答のない男の一人だった。

「映せ」

 メインモニターが切り替わる。

 エレベーターの中に、女が立っていた。
 たった一人。
 状況全てを差し置いて男の本能を殴りつけてくるシルエット。それが一分の隙もないスキンタイトのスーツに包まれている。

 エレベーターが停止し、開く。
 非常灯の赤い光の中、女はペントハウスのホワイエへ踏み出した。
 ハウザーは呆然とモニターを見つめていた。

「丸腰の女一人? 何の冗談だ……」

 モニターで、警備チームがすでに動いている。コンパクトなポリマーフレームハンドガン、ゲッケルG5/9Cを構え、フレーム下のウェポンライトで影を掃射しながら散開している。

 彼らには女が見えていない。
 女はT字路の壁に張り付いて待っていた。先頭の男が角を曲がった瞬間、その腕を掴んで引き落とした。銃口が男自身の足元を向く。

 ――パスッ。
 サプレッサー越しの乾いた破裂音。

 9ミリ弾がブーツの甲を貫いた。男が叫ぶ。女は悲鳴を無視して腰を落とし、背負い投げの要領で大理石の床に叩きつけた。即座にのしかかり、腕を関節と逆方向にねじり上げる。握りしめたままのG5/9Cが暴発し、天井を穿つ。男は角の向こうへ引きずり込まれた。

 2人目と3人目が駆け寄ってきた。銃口が中空を探す。女の姿がない。
 視線を下げた時には、女はすでに伏射姿勢を取っていた。最初の男の首を太腿で挟んで拘束したまま、手には奪い取ったG5/9Cを構えている。
 パスッ。2人目の膝が砕けた。バランスを失って前のめりに倒れる。
 パスッ。3人目の膝関節も正確に撃ち抜かれた。
 心臓、喉、脊椎。重要部位バイタルラインには誰もが防弾皮膚バリスティックスキンを入れる。だからプロがまず狙うのは、換装しにくい関節部。
 2人が床に倒れ込む間に、女の銃口が跳ね上がった。それぞれの眉間に1発入れて確殺。
 脚の下で最初の男がまだもがいていた。女は髪を掴んで頭を固定し、後頭部に撃ち込んで黙らせた。

 立ち上がり、振り向きざまに流れるように撃つ。角を曲がってきた4人目の胸郭に命中。ボディアーマーのケブラー繊維に食い込み、よろめかせたが、貫通はしない。女は間を置かず、その顔面に1発。男が仰向けに倒れた。

 静寂が戻った。

 女は親指でマグキャッチを弾いた。空のマガジンが床に落ちる。一番近い死体の腰から予備を抜き取り、グリップに叩き込んだ。スライドを引けば、新たな初弾がチャンバーに滑り込む。

 パニックルームの中で、ハウザーは口を半開きにしたまま固まっていた。

「なん……っ、なんなんだ、あのアマは……!?」

 モニターの中で、女はペントハウスを進んでいた。奪ったG5/9Cを手に。構えはCARシステム。銃を胸元に密着させ、肘を絞り、視線の延長線上に銃口を固定している。屋内での近接戦闘に特化した射撃姿勢だ。

 メインラウンジに到達した。
 2階分の吹き抜けになった大部屋で、上層を囲むように回廊が巡っている。女がその中二階メザニンに出た瞬間、側面から待ち構えていた男と鉢合わせた。

 女の側に躊躇はなかった。
 左手がネクタイを掴んで引き寄せ、同時に右手の銃口が腹に押し当てられた。
 パスッ、パスッパスッ。
 密着状態で3発。男の体が痙攣した。崩れ落ちる頭に止めの1発。
 背後で銃声が弾けた。女はすでに身を沈めていた。振り返りながらの応射。柱の影から半身を晒した射手の膝に2発が吸い込まれ、床に転がり出た顔面にすかさず1発。

 メザニンの反対側から、別の男が発砲した。弾丸が女の頬をかすめ、傍らの柱に穴を穿つ。
 数発撃ち返したところで、女のG5/9Cのスライドがロックバックした。弾切れ。
 女は空の銃を投げつけた。600グラム超の金属塊が男の顔面に直撃する。怯んだのは一瞬。だがその一瞬で、女は距離を詰めている。
 腕が男の利き手に絡みついた。肘関節をロックし、外側にねじり上げる。男も抵抗した。揉み合いながら、銃の支配権を奪い合う。
 両者が密着し、手すりに激突した。
 そして、越えた。

 メザニンから1階のメインフロアへ、2つの体が絡み合ったまま落下していく。
 床に激突し、投げ出される。

 メインフロアに配置していた男たちが一斉に発砲した。家具を遮蔽物にして、落下地点に弾丸を叩き込む。
 女は自由落下の運動エネルギーを殺さなかった。着地とともに転がり、ソファの影で身を起こす。足元にローテーブルがあった。ヒールの踵がその端を捉えた。分厚いガラスの天板が、盾のように跳ね上がった。
 連射がガラスに集中した。天板が砕け散る。弾の勢いは殺された。だが銃撃は止まない。女は移動を強いられた。
 砕けたガラスの破片を浴びながら横に跳び、バーカウンターに飛び込む。周囲のボトルが次々と弾け、ウイスキー、ウォッカ、ジン、琥珀と透明の液体が、きらめく破片とともに降り注いだ。

 女の姿がカメラの視界から消えた。
 男たちが慎重に距離を詰めた。銃口をカウンターに向けたまま、ジリジリと。

 カウンターの縁から女の細腕が現れたとき、その手には小さな棒状の金属が握られていた。先端が針のように尖っている。
 アイスピック。

 女は片手を軸にカウンターを乗り越え、最も近くにいた男に激突する。
 勢いのまま、アイスピックが顎の下から突き入れられた。口蓋を貫き、脳幹に達する。男の目が見開かれたまま固まった。
 倒れていく体を引き寄せ、盾にする。男の背中に銃弾が叩き込まれる。
 女は被弾も厭わない強引さで距離を詰めた。アイスピックを引き抜き、用済みの死体を突き飛ばし、次の射手に迫る。銃を持つ手首を掴み、外側にねじ上げた。
 アイスピックが脇腹に突き刺さる。
 一度。
 二度。
 三度。
 男の体が痙攣し、G5/9Cが乱射された。天井に、壁に、9ミリ弾がめちゃくちゃに穴を開けていく。
 女の手が男の顎を掴み、頭を固定する。顔を寄せる。唇が触れそうなほど近く。呼吸が混じり合う距離で、男の瞳孔が恐怖に開ききっていくのを、女は感情のない目で見つめていた。
 最後の一撃。
 アイスピックが眼窩に突き立てられた。
 まるでマティーニのオリーブを串刺しにするかのような、正確無比な一突きで。

「――~~ッ!! あの女は何者だッ!?」

 ハウザーは唾を飛ばして叫んだ。

「顔を照合しろ、使えるデータベース全部で!」
「やってます。ですが顔認識が……エラーを吐き続けてます。何度やっても人物としてヒットしません」
「どういう意味だ!?」
「返ってくるのは……製品分類です」

 側近が顔を上げた。その顔には困惑が張り付いていた。

「システムはあの女を、製品としてフラグしています。セクサロイドだと」

 ハウザーの思考が一瞬、空転した。

「セクサ、ロイド……?」

 モニターに視線を戻した。
 問題の女が、殺戮の中から立ち上がるところだった。
 プラチナの髪を顔から払う。つけている口紅は血のような深紅だったが、今は擦れていた。頬にかけて引きずられた赤い筋が、無表情に笑みの近似を与えている。
 女が顔を上げ、そこにあるのがわかっていたように、カメラを直視した。

 ハウザーの喉が引き攣った。
 レンズを通して、電子信号を越えて、この鉄の箱に縮こまっている自分を見透かされている。そんな錯覚を覚えた。あの顔に表情はない。だが視線だけが、這って逃げ出したくなるような強度を持っている。
 知らず、一歩後ずさっていた。

 女の腕が上がった。手にはG5/9C。
 乾いた銃声とともに、モニターが暗転した。

「……ブラックドッグに現金支払いを倍にすると伝えろ。AVをここに寄越させろ、今すぐだ。……さもなきゃ全員死ぬぞッ!!」

 側近たちが弾かれたように動き出した。
 一人を除いて。

 その男は後ろの壁にもたれ、腕を組んだまま動かない。黒い髪が無造作に目にかかっている。払いのけるのも面倒だとでも言うように。
 纏うものはすべて白かった。白いジャケット、白いタクティカルスーツ、そしてサイバネティクスの四肢さえも真っ白なポリマーで仕上げられている。パニックルームの暗がりを背に、その姿は亡霊じみていた。

「ブラックドッグ最高のオペレーターだと聞いたぞ。――オーメン」

 ハウザーが鋭く言った。
 オーメンと呼ばれたその男は、小さく肩をすくめた。

「最高ってのは大袈裟だな。まあ、信頼できる、くらいにしといてくれ」

 声に緊張の色はない。

「なら出て行って、あの女をドアから遠ざけろ。そのために金を払ってるんだ」
「言いにくいんだがな、ハウザーさん」

 オーメンは壁に預けていた背を起こした。

「俺のハンドラーがこの仕事を持ってきた時、契約内容はもっとシンプルだったはずだ。あんなのは聞いてない」

 白い指が、沈黙したモニターを指す。

「バシリスクがどこから掘り出してきたか知らないが。アレが何であれ、普通のルールで動いてないのは確かだな」
「俺をここから出すのが契約だろう!! お前の組織がそう保証した!!」
「もちろん。そのつもりで来てる」

 男は肩を回し、首を鳴らす。コキリ。それから反対側も。

「ただ、期待値だけは擦り合わせておきたい。時間はいくらか稼げる。だが生憎、俺は奇跡を起こせるタイプじゃない」
 
 パニックルームのドアに向かって歩き、解除機構に手をかけて、立ち止まる。

「AVを呼ぶなら急いだ方がいい。あの女をどれだけ楽しませておけるか、俺自身わからないんでね」

 そう言ってジャケットを脱ぎ捨てた。

「今日は厄日みたいだな。あんたにとっても、俺にとっても」

 凶兆オーメンというコードを与えられた白い不吉の象徴ブラックドッグが、化け物を迎えに出て行った。
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