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番外編

【水樹、二十歳の誕生日編(十)】俺/僕は。(五)

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 唇がふやけるくらいキスをし、水樹はリュックから大事にしまい込んだあれを取り出した。
 青の濃淡が美しいレース編みの首輪カラーを。
「まだ着けたところを彼方にちゃんと見せてなかったよね。俺に着けてくれないかな」
 そう言って渡すと、目で「いいの?」と驚かれる。水樹は頷いて背中を向ける。腰まで伸びた青髪を二つに分け、胸の辺りで一つに纏めた。
 晒される白い項。空気に触れるだけで敏感になってしまう部位。火照りはあるものの、噛み跡も傷もない遊佐水樹の急所を守谷彼方に見せる。
 背後で息の震えがする。水樹は纏めた髪を握り締め、首を俯かせてその時を待った。
「く、苦しかったら言うんだよ?」
「う、うん」
 互いに緊張が隠せていない。
(着ける方も、着けられる方も、大事な相手だとなおさらなのかな)
 結ぶと一瞬、ぐっと首が締まる。水樹は唇を噛んで声や息が漏れるのを防ぎ、「できたよ」の合図で振り返った。
 正直、彼方と目を合わせられない。頼んでおいて今更な話だが、らしくないことをしたと羞恥に襲われる。
 首輪の中で汗をかき始め、洗わないと蒸れそうだ。
「……わあ」
 視線が絡むと、彼方の瞳が宝石みたいに輝いている。
「とっても似合っているよ。綺麗だ、水樹」
 首輪は、マイナスなイメージを持たれやすい。首輪を着けたことで「私はオメガです」と主張しているものだし、「まだ番がいないオメガ」と第三者が勝手に予想づける。
 これを贈った相手は、以前贈れられたネックレスを持ち、「首元にアクセサリー……お揃いだね」と花が咲いたように笑う。
──とくん、とくとくとく。
「綺麗……?」
「綺麗だよ。青のグラデーションがよく映える。どこまでも青く澄んだ心を持つ水樹と相性抜群だ。それに……その、僕と運命の番になる約束した恋人なんだって、顔がにやけるな、やばい」
 自分の頬をむにゅむにゅする彼方だったが、笑顔を隠せずに「着けたところを見せてくれてありがとう」と嬉しがってくれる。
「好き……」
「えっ? わっ!?」
 勢いを考えずに胸へ飛び込み、ほぼ甘噛みのキスマークをネックレスの隣につけた。塩気を感じたのはなぜだろう。
「ありがとう。彼氏で、番相手で……婚約者である彼方に褒められて嬉しい。『俺はずっと君のだよ』って励ましたかったけど、それ以上に元気出た」
 赤面を隠し切れずに笑うと、彼方はお返しと言わんばかりに鎖骨へキスマークをつけた。赤色のくっきりしたキスマークだ。鼓動がまた激しくなっていく。
「こちらこそ、元気貰ってばっかりだ。ありがとう。水樹が生まれてきてくれて、僕は幸せだね」
 首輪の周りにいくつも跡をつけられたが、水樹は愛の証に言葉にならぬ幸せを噛み締めていた。
(生まれてきて良かった。俺、絶対彼方と番になって結婚する)
 臍の下にまでキスマークがつく。ヒートの熱が再来するのが先か、気持ち良すぎて眠ってしまうのが先かと思っていた矢先、彼方は唇にキスをしてからこう告げた。
「僕、明日の便で帰るね」

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