きっかけとその先に

天井つむぎ

文字の大きさ
19 / 28

気持ち良くない

しおりを挟む
『血液型は? 誕生日は? 歳はいくつですか、好きな食べ物はなんですか、どこ出身なんですか』
 休憩が終わる直前、坂下は店長と一緒に店へと戻り、日和に頭を下げて謝罪した。放心状態だったが肩と髪を濡らす彼女にタオルを渡し、「ごめんね」と一言。特に表情も態度も変わらず仕事を再開していたし、店長に深く問い詰められることもなかった。
(気まずい空気にさせてしまったな)
 半分以上も食べ残したカレーをラップで包む。おかずを残したのは人生初の体験だ。
  ソファに腰を掛けてテレビを見ても音声が右から左へ流れるばかり。金色の艶々オムレツにときめくこともない。
「暇だな」
──ピンポーン。
 宅配便だった。この間注文したばかりの玩具がだろう。大箱をいそいそ開ける。今度はピンク色と黒色の袋。童話の主人公なら先にどっちを開封するだろうか。
『これを君に』
『……手作りの指輪?』
 テレビの中では甘いロマンスが映し出される。若いカップルが四葉のクローバーの指輪を楽しげに見つめ、愛を誓い合った。
 両手の質量が増した気がし、電源を切る。
(気持ち良いことしたら忘れられるよ、きっと)


「んひっ、ひあっ、へ……ふうっ!」
 最初は玩具の先っぽすら入らなかった。
ずぽずぽ。シリコン生地特有の臭い、胃を圧迫する生地は柔らかくたしかに芯を持ったもの。離せばぱっくり割れたアナルからローションが垂れ落ち、じわじわ痛みがやってくる。
「あ、うぁっ、やうっ……!」
 横一列に並べた玩具を尻の中へ収めていく。小さいのから大きいものまでを順序良く腰を下ろし、喘いでみせる。
(本物はこんなもんじゃない。きっと熱くてカウパーや精液がたくさん溢れる。僕だけじゃなく、相手も気持ち良くないと絶対にダメ)
「いあっ、あっ、ああっ!!」
 真ん中辺りまで来て、屈伸する脚に負担がかかってきた。立ち上がれず、自分のペニスでさえへなる。
「はぁ……、はぁ、はあ……」
(全然……。全然、気持ち良くない。お腹いっぱいでもすぐ虚しさに襲われる)
『首輪の約束も出来ないのになんですか』
 坂下が叫んだ言葉の数々は時間を重ねるごとに、玩具をハメる度に風船のように膨らんでいった。
 彼女の言うことも一理ある。サキは自分に対して「可愛い」「良い子」と褒めてくれるが、付き合いたいや自分のSubにしたい等は口にしたことがない。
(乳首弄って、ペニスもやれば……)
 衣服の上からコリコリ撫でる。感じないのなら摘んで、引っ張る。
「いっ……!」
 べったべったな手で短小性器を扱こうが、
「気持ち良くない……」
 一週間のオナ禁後、性感帯に触れるだけですぐにイケる身体になった。嬉ションする変態豚に生まれ変わっても「いいかな」なんて苦笑いする時もあったではないか。
「……痛い」
 自分の性感帯をなぞろうが突こうが、ローションボトルを全部かけてしまおうが。
 どこも気持ち良くならなければ、勃起すらしない。体は正直だというのか。
(お、おかしいな。敏感になるんだよね? サキさんに指示された時は……)
 そこで、気付く。テレフォンセックスを始める際に告げられた約束事。「これから日和さんの射精管理は私がやるから、辛くても我慢だよ」と声を潜めて囁かれた。
「サキさんとのルール破っちゃった……や」
 ぐうっと喉の奥が鳴り、限界寸前だった涙腺のダムが決壊した。
(そりゃイケないよね。サキさんとの約束を破っちゃったんだから。もう、イクことも出来ないのかな)
 きっと泣く理由は他にあるのだろうが、日和は馬鹿な子供みたいに泣きじゃくった。心の声が聞こえないくらい、激しく大声で。
 メッセージを送信したけれど、既読は深夜三時になってもつかないままだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

守り守られ

ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師 患者 瀬咲朔 腸疾患・排泄障害・下肢不自由 看護師 ベテラン山添さん 準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん 木島 尚久 真幌の恋人同棲中

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

世界で一番優しいKNEELをあなたに

珈琲きの子
BL
グレアの圧力の中セーフワードも使えない状態で体を弄ばれる。初めてパートナー契約したDomから卑劣な洗礼を受け、ダイナミクス恐怖症になったSubの一希は、自分のダイナミクスを隠し、Usualとして生きていた。 Usualとして恋をして、Usualとして恋人と愛し合う。 抑制剤を服用しながらだったが、Usualである恋人の省吾と過ごす時間は何物にも代えがたいものだった。 しかし、ある日ある男から「久しぶりに会わないか」と電話がかかってくる。その男は一希の初めてのパートナーでありSubとしての喜びを教えた男だった。 ※Dom/Subユニバース独自設定有り ※やんわりモブレ有り ※Usual✕Sub ※ダイナミクスの変異あり

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

待てって言われたから…

ゆあ
BL
Dom/Subユニバースの設定をお借りしてます。 //今日は久しぶりに津川とprayする日だ。久しぶりのcomandに気持ち良くなっていたのに。急に電話がかかってきた。終わるまでstayしててと言われて、30分ほど待っている間に雪人はトイレに行きたくなっていた。行かせてと言おうと思ったのだが、会社に戻るからそれまでstayと言われて… がっつり小スカです。 投稿不定期です🙇表紙は自筆です。 華奢な上司(sub)×がっしりめな後輩(dom)

【完結】俺だけの○○ ~愛されたがりのSubの話~

Senn
BL
俺だけに命令コマンドして欲しい 俺だけに命令して欲しい 俺の全てをあげるから 俺以外を見ないで欲しい 俺だけを愛して……… Subである俺にはすぎる願いだってことなんか分かっている、 でも、、浅ましくも欲張りな俺は何度裏切られても望んでしまうんだ 俺だけを見て、俺だけを愛してくれる存在を Subにしては独占欲強めの主人公とそんな彼をかわいいなと溺愛するスパダリの話です! Dom/Subユニバース物ですが、知らなくても読むのに問題ないです! また、本編はピクシブ百科事典の概念を引用の元、作者独自の設定も入っております。 こんな感じなのか〜くらいの緩い雰囲気で楽しんで頂けると嬉しいです…!

処理中です...