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第一章
ゴブリンはお猿と対峙する2
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ある程度距離を空けて座るボス猿と向かい合うがボス猿が本気になれば逃げるに短く、戦うには遠い中途半端な距離である。
琥珀色の目がジッとドゥゼアを見据えている。
魔物の世界に礼儀なんてあってないようなものであるが無礼だけは働けない。
勝手に用件だけ話し出せるのは魔物としての格が同じか上でなければならない。
レビスとユリディカは隠れきれないのにドゥゼアの後ろに隠れようとしている。
「……何をしにきた、ゴブリン」
低くて腹に響くようなボス猿の声。
「アラクネの使いとして来た。
盗まれたものを返してほしいと」
「なぜ自ら来ない?
クモでもよかろう?」
「アラクネの腹の中まで俺は知らないけれど戦いになった時にクモの1匹でも多い方がいいだろう?」
つまりアラクネには戦うつもりがあるということを遠回しに伝える。
目の前のボス猿も強そうだ。
アラクネともいい勝負をしそうであるが糸を操り知能の高いアラクネには及ばなさそう。
猿にしてもそうだ。
器用さやパワーなどで猿はクモに勝っているかもしれない。
しかしクモの糸に絡め取られれば遥かに上回るパワーでもないと逃げられない。
魔法でも使えるなら話は別だけどやや特殊な戦い方をするクモを相手に猿は不利な相手であると言っていい。
「俺たちが帰ってこなきゃそれだけであんたたちの意思表示になる」
徹底的にアラクネが戦いの姿勢を見せているように見せかける。
別にアラクネは戦うつもりだなんて直接言ってないしただ少しアラクネの威を借りているだけなのだ。
「ただ俺たちを送って来たことからわかるように返してくれるならアラクネも隣人であることに異論はない」
「……今はまだ返すことができない」
「事情があるなら聞かせてほしい」
今はまだ、と言った。
なら裏を返せば何かの用事が終われば返してくれるということだ。
その事情がアラクネを説得できるものなのか分からないけれどただ興味本位で盗んだのではないのだけマシである。
ゴブリンの身であるドゥゼアに解決できる問題でもなさそうだけどもし解決出来るなら解決して返してもらいたい。
「俺たちに話して何かが変わるものでもないだろ?」
人の世界ならともかく厳格な情報統制なんてない。
ドゥゼアたちに事情を話したとしてそれでドゥゼアたちに何が出来るわけもない。
その通りであるとボス猿も思った。
アラクネが送って来たというから特殊なゴブリンかと思ったが堂々としている他に能力がありそうにも見えない。
むしろ高度な警告かもしれないと思い始めるほどである。
「ならば見せてやる」
ボス猿は立ち上がって歩き始めた。
ついてこいということなのだろうとドゥゼアたちも距離を保ったままボス猿を追いかける。
山の上には穴が空いていた。
そこにボス猿は入っていく。
覗き込んでみるとやや急な傾斜になっていて意外と奥が深そうな空洞状になっている。
「なんだ?」
中に降りてみる。
穴から光が差し込む空洞の中には猿たちが横たわっていた。
みな苦しそうで起きている猿たちが心配そうな顔をしていた。
その中の1体が杖のようなものを持っている。
木を削り出したようなものではなく明らかに人工物な綺麗な杖で、あれがアラクネの言っていたものかとすぐに分かった。
「何があった?」
「ここよりさらに奥、俺たちですら足を踏み入れない場所でナワバリ争いがあった。
そのせいで大きな動きがあった。
いろんな魔物が動いて、新たなナワバリを作ろうとした。
俺たちの山にもナワバリを狙うものが来た」
ボス猿は淡々と話し始めた。
「ここは俺たちの巣だ。
だから戦った」
ボス猿が近くにいた1体の猿に手を伸ばして体を返した。
「何とか戦って追い返したが奴は諦めていない。
だがこちらの被害も大きい」
「傷跡……これは牙の穴か」
猿の肩には丸く傷跡があった。
太くて鋭い何かに噛まれたことがドゥゼアには分かった。
「そして毒か」
傷口の周りが紫色に化膿していた。
これは毒でこうなったのをドゥゼアは見たことがあった。
「相手は蛇だ」
今、猿たちはコボルトたちが置かれていたように引けぬ戦いを強いられていた。
ここよりももっと奥のより強い魔物の間で戦いが発生した。
強い魔物同士なのでただ戦うだけじゃ済まず、その余波は周りに大きく影響を及ぼした。
結果的に幾らかの魔物が押されるようにナワバリを放棄した。
そうして始まったナワバリ争いの連鎖。
コボルトたちがウルフに襲撃されたのもこうした余波の末端での出来事であった。
そして猿たちはその余波の真っ只中にいた。
他の魔物に押されてナワバリを探していた蛇の魔物が猿たちが住まう山に目をつけた。
たった1体の大蛇だったのだが相手は強大だった。
猿たちは力を合わせて戦ったが毒を扱い、暴れる蛇に猿は何体もやられた。
そして生き残ったけれどこうして毒にやられた猿も多くいたのである。
「それとあの杖とは何の関係が?」
「アラクネが自慢していた」
杖を手に入れるのには意外と苦労があった。
元々は冒険者が持っていたのがあの杖である。
琥珀色の目がジッとドゥゼアを見据えている。
魔物の世界に礼儀なんてあってないようなものであるが無礼だけは働けない。
勝手に用件だけ話し出せるのは魔物としての格が同じか上でなければならない。
レビスとユリディカは隠れきれないのにドゥゼアの後ろに隠れようとしている。
「……何をしにきた、ゴブリン」
低くて腹に響くようなボス猿の声。
「アラクネの使いとして来た。
盗まれたものを返してほしいと」
「なぜ自ら来ない?
クモでもよかろう?」
「アラクネの腹の中まで俺は知らないけれど戦いになった時にクモの1匹でも多い方がいいだろう?」
つまりアラクネには戦うつもりがあるということを遠回しに伝える。
目の前のボス猿も強そうだ。
アラクネともいい勝負をしそうであるが糸を操り知能の高いアラクネには及ばなさそう。
猿にしてもそうだ。
器用さやパワーなどで猿はクモに勝っているかもしれない。
しかしクモの糸に絡め取られれば遥かに上回るパワーでもないと逃げられない。
魔法でも使えるなら話は別だけどやや特殊な戦い方をするクモを相手に猿は不利な相手であると言っていい。
「俺たちが帰ってこなきゃそれだけであんたたちの意思表示になる」
徹底的にアラクネが戦いの姿勢を見せているように見せかける。
別にアラクネは戦うつもりだなんて直接言ってないしただ少しアラクネの威を借りているだけなのだ。
「ただ俺たちを送って来たことからわかるように返してくれるならアラクネも隣人であることに異論はない」
「……今はまだ返すことができない」
「事情があるなら聞かせてほしい」
今はまだ、と言った。
なら裏を返せば何かの用事が終われば返してくれるということだ。
その事情がアラクネを説得できるものなのか分からないけれどただ興味本位で盗んだのではないのだけマシである。
ゴブリンの身であるドゥゼアに解決できる問題でもなさそうだけどもし解決出来るなら解決して返してもらいたい。
「俺たちに話して何かが変わるものでもないだろ?」
人の世界ならともかく厳格な情報統制なんてない。
ドゥゼアたちに事情を話したとしてそれでドゥゼアたちに何が出来るわけもない。
その通りであるとボス猿も思った。
アラクネが送って来たというから特殊なゴブリンかと思ったが堂々としている他に能力がありそうにも見えない。
むしろ高度な警告かもしれないと思い始めるほどである。
「ならば見せてやる」
ボス猿は立ち上がって歩き始めた。
ついてこいということなのだろうとドゥゼアたちも距離を保ったままボス猿を追いかける。
山の上には穴が空いていた。
そこにボス猿は入っていく。
覗き込んでみるとやや急な傾斜になっていて意外と奥が深そうな空洞状になっている。
「なんだ?」
中に降りてみる。
穴から光が差し込む空洞の中には猿たちが横たわっていた。
みな苦しそうで起きている猿たちが心配そうな顔をしていた。
その中の1体が杖のようなものを持っている。
木を削り出したようなものではなく明らかに人工物な綺麗な杖で、あれがアラクネの言っていたものかとすぐに分かった。
「何があった?」
「ここよりさらに奥、俺たちですら足を踏み入れない場所でナワバリ争いがあった。
そのせいで大きな動きがあった。
いろんな魔物が動いて、新たなナワバリを作ろうとした。
俺たちの山にもナワバリを狙うものが来た」
ボス猿は淡々と話し始めた。
「ここは俺たちの巣だ。
だから戦った」
ボス猿が近くにいた1体の猿に手を伸ばして体を返した。
「何とか戦って追い返したが奴は諦めていない。
だがこちらの被害も大きい」
「傷跡……これは牙の穴か」
猿の肩には丸く傷跡があった。
太くて鋭い何かに噛まれたことがドゥゼアには分かった。
「そして毒か」
傷口の周りが紫色に化膿していた。
これは毒でこうなったのをドゥゼアは見たことがあった。
「相手は蛇だ」
今、猿たちはコボルトたちが置かれていたように引けぬ戦いを強いられていた。
ここよりももっと奥のより強い魔物の間で戦いが発生した。
強い魔物同士なのでただ戦うだけじゃ済まず、その余波は周りに大きく影響を及ぼした。
結果的に幾らかの魔物が押されるようにナワバリを放棄した。
そうして始まったナワバリ争いの連鎖。
コボルトたちがウルフに襲撃されたのもこうした余波の末端での出来事であった。
そして猿たちはその余波の真っ只中にいた。
他の魔物に押されてナワバリを探していた蛇の魔物が猿たちが住まう山に目をつけた。
たった1体の大蛇だったのだが相手は強大だった。
猿たちは力を合わせて戦ったが毒を扱い、暴れる蛇に猿は何体もやられた。
そして生き残ったけれどこうして毒にやられた猿も多くいたのである。
「それとあの杖とは何の関係が?」
「アラクネが自慢していた」
杖を手に入れるのには意外と苦労があった。
元々は冒険者が持っていたのがあの杖である。
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