47 / 301
第一章
ゴブリンはお猿と対峙する3
しおりを挟む
「あの杖でどんな怪我も治していた人を倒したと。
だからこの杖で仲間を治して、蛇と戦わなきゃいけない」
いわゆる武勇伝自慢というもので杖を手に入れるのにいかに苦労したかをアラクネは話して回っていた。
「それは……」
そしてその話を聞いてドゥゼアは思った。
ボス猿の認識には大きな誤りがあると。
アラクネが戦った冒険者は強かった。
アラクネを狙いにくるほどの相手なのだから強者であることは間違いない。
ボス猿の話からしてこの杖を持っていた相手はおそらく治療を専門とする聖職者なのだろう。
戦ってダメージを与えてもすぐに味方を回復させてくるかなり厄介な相手だったはずだ。
それを誇張するように自慢したのだ。
ただボス猿は自慢をそのまんま受け取ってしまった。
その結果あたかもこの杖がそうした効果を持つようにボス猿は勘違いしてしまっている。
「杖だけじゃそんなことできない」
「なんだと!
お前、我々を騙すつもりか!」
ボス猿の毛が逆立って筋肉がパンと張って体が一回り大きくなる。
穏やかな表情が一変して怒りの顔をドゥゼアに向ける。
「分かってるんだろ?」
けれどドゥゼアは動じない。
一歩も引かずにボス猿の目を見つめる。
強く握られた拳が振るわれれば簡単にドゥゼアは殺される。
でも何の言い訳もしないでただドゥゼアはボス猿と向き合った。
他の猿たちも心配そうな顔をして状況を見つめていた。
一方でレビスやユリディカは怖がり、ドゥゼアの後ろに隠れながらもボス猿がドゥゼアを害するなら戦うつもりで覚悟もしていた。
「……どうしたらいい」
緊迫の睨み合いも長くは続かなかった。
ボス猿の体が元の大きさに戻って大きくうなだれた。
言わずとも結果など分かっていた。
ここに寝かされている猿を見ていれば分かることで杖に治療の効果などなかったのだ。
ボス猿もそんなことは理解していた。
だけどすがる希望が欲しかったのだ。
次に蛇に襲われたらもう勝てないかもしれない。
杖があるから大丈夫だと自分と仲間達を誤魔化してきたけれどもう限界だった。
「……杖は返す。
アラクネに謝罪を頼む」
ボス猿が手招きすると杖を持った猿が前に出てきてドゥゼアに差し出した。
「むっ!」
杖を持った瞬間温かな魔力が流れ込んできた。
肩の傷が治っていく。
「なるほどね。
もう少しばかりこの杖を借りててもアラクネも怒りゃしないだろう。
おい、まだ希望は捨てなくてもいいかもしれないぞ」
ドゥゼアはニヤリと笑った。
この笑顔は何かを思いついた時のもので少し悪く笑う顔がレビスもユリディカも意外と好きだった。
何をするつもりが知らないけどニヤリとする時のドゥゼアは何かをしてくれる。
ただまあ厄介事に首を突っ込もうとしていることだけは確かなのである。
だからこの杖で仲間を治して、蛇と戦わなきゃいけない」
いわゆる武勇伝自慢というもので杖を手に入れるのにいかに苦労したかをアラクネは話して回っていた。
「それは……」
そしてその話を聞いてドゥゼアは思った。
ボス猿の認識には大きな誤りがあると。
アラクネが戦った冒険者は強かった。
アラクネを狙いにくるほどの相手なのだから強者であることは間違いない。
ボス猿の話からしてこの杖を持っていた相手はおそらく治療を専門とする聖職者なのだろう。
戦ってダメージを与えてもすぐに味方を回復させてくるかなり厄介な相手だったはずだ。
それを誇張するように自慢したのだ。
ただボス猿は自慢をそのまんま受け取ってしまった。
その結果あたかもこの杖がそうした効果を持つようにボス猿は勘違いしてしまっている。
「杖だけじゃそんなことできない」
「なんだと!
お前、我々を騙すつもりか!」
ボス猿の毛が逆立って筋肉がパンと張って体が一回り大きくなる。
穏やかな表情が一変して怒りの顔をドゥゼアに向ける。
「分かってるんだろ?」
けれどドゥゼアは動じない。
一歩も引かずにボス猿の目を見つめる。
強く握られた拳が振るわれれば簡単にドゥゼアは殺される。
でも何の言い訳もしないでただドゥゼアはボス猿と向き合った。
他の猿たちも心配そうな顔をして状況を見つめていた。
一方でレビスやユリディカは怖がり、ドゥゼアの後ろに隠れながらもボス猿がドゥゼアを害するなら戦うつもりで覚悟もしていた。
「……どうしたらいい」
緊迫の睨み合いも長くは続かなかった。
ボス猿の体が元の大きさに戻って大きくうなだれた。
言わずとも結果など分かっていた。
ここに寝かされている猿を見ていれば分かることで杖に治療の効果などなかったのだ。
ボス猿もそんなことは理解していた。
だけどすがる希望が欲しかったのだ。
次に蛇に襲われたらもう勝てないかもしれない。
杖があるから大丈夫だと自分と仲間達を誤魔化してきたけれどもう限界だった。
「……杖は返す。
アラクネに謝罪を頼む」
ボス猿が手招きすると杖を持った猿が前に出てきてドゥゼアに差し出した。
「むっ!」
杖を持った瞬間温かな魔力が流れ込んできた。
肩の傷が治っていく。
「なるほどね。
もう少しばかりこの杖を借りててもアラクネも怒りゃしないだろう。
おい、まだ希望は捨てなくてもいいかもしれないぞ」
ドゥゼアはニヤリと笑った。
この笑顔は何かを思いついた時のもので少し悪く笑う顔がレビスもユリディカも意外と好きだった。
何をするつもりが知らないけどニヤリとする時のドゥゼアは何かをしてくれる。
ただまあ厄介事に首を突っ込もうとしていることだけは確かなのである。
23
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
異世界転生特典『絶対安全領域(マイホーム)』~家の中にいれば神すら無効化、一歩も出ずに世界最強になりました~
夏見ナイ
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺が転生時に願ったのは、たった一つ。「誰にも邪魔されず、絶対に安全な家で引きこもりたい!」
その切実な願いを聞き入れた神は、ユニークスキル『絶対安全領域(マイホーム)』を授けてくれた。この家の中にいれば、神の干渉すら無効化する究極の無敵空間だ!
「これで理想の怠惰な生活が送れる!」と喜んだのも束の間、追われる王女様が俺の庭に逃げ込んできて……? 面倒だが仕方なく、庭いじりのついでに追手を撃退したら、なぜかここが「聖域」だと勘違いされ、獣人の娘やエルフの学者まで押しかけてきた!
俺は家から出ずに快適なスローライフを送りたいだけなのに! 知らぬ間に世界を救う、無自覚最強の引きこもりファンタジー、開幕!
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる