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第一章
ゴブリンは猿と蜘蛛の仲介をします2
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「我が行こう」
ドゥゼアがどうしたものかと頭を悩ませているとボス猿が決心したように顔を上げた。
「アラクネとは我が話そう」
何にしても一度はアラクネに会って話さねばならない。
とてもじゃないけど許してもらえるとは思えずアラクネのものを盗みはしたがそのまま顔を合わせずに終わらせられもしない。
ドゥゼアとしてもボス猿がアラクネを説得してくれるとありがたい。
共闘は無理にしても杖の使用許可とミザラの採取はさせてもらいたい。
許してもらえるかも分からないので賭けにはなるがドゥゼアたちはアラクネのところに向かうことにした。
行くのはドゥゼアたちとボス猿。
ドゥゼアとしては自分だけ行ってレビスとユリディカにはもし何かがあったら逃げてほしかったのだけど嫌だと言って聞かなかった。
まあ気分としては悪くない。
共にあろうとしてくれることを不快には思いはしない。
だから結局ドゥゼアとレビスとユリディカは一緒に行動する。
山を降りて行ってアラクネのところに向かう。
この先にアラクネの巣があることを警告するように張られたクモの糸が目立ち始める。
ボス猿を先頭にしてさらに進んでいくと本格的にクモの巣が木に張られてきて、そして時折カサカサとクモの動く音がした。
どこか見られているような感覚にまとわりつかれながら進んでいくとクモが現れた。
大きめの個体でドゥゼアたちを待っていたようだ。
「女王がお待ちだ」
それだけ言うとクモはクルリと踵を返して奥に向かって歩いていく。
ボス猿はチラリとドゥゼアを見たがドゥゼアはボス猿を見ることもなくクモの後を追いかける。
景色が白くなる。
雪ではなく真っ白なクモたちの糸によって。
「あらぁ?
よく戻ってきたわね。
てっきり仲間を見捨てて逃げたのだと思っていたわよ」
アラクネはクモの巣に逆さになるようにぶら下がっていた。
薄く笑みを貼り付けた顔でドゥゼアを見下ろしている。
「それで杖は?
まさかそのお猿さんが杖の代わりなんて言わないわよね?」
言葉が冷たい。
刺すような殺気に手のひらに汗をかく。
「クモの女王よ、少し話を聞いてくれないか?」
切り出したのはボス猿だった。
ドゥゼアたちを庇うように前に出る。
これは猿たちが始めたことなのでボス猿が責任を持たねばならない。
盗み出したはいいけど使えもしなかった杖の活用法を見出して猿たちを治してくれたドゥゼアには恩もある。
腰を低く頭を下げるようなボス猿を見てアラクネが驚いた顔をした。
ボス猿は傲慢でもないがボスであるのでプライドはある。
容易く他の相手に頭など下げはしない。
「ふぅーん……よほどお困りなのね」
まさかドゥゼアがボス猿を連れてくるとは思いもしなかった。
それどころか帰ってくるとすら思っていなかった。
ただ盗んだだけじゃなく何か事情がありそう。
さらにはそんな猿たちに入り込むドゥゼアも面白い。
アラクネは小さく舌なめずりして地面に降りてきた。
万が一を警戒するように周りにクモたちも集まってくる。
「それで、何の用かしら?」
「あの杖を貸してほしい」
単刀直入なお願い。
ボス猿は地面に額がつくほど頭を下げた。
生き死にのかかった事態を前にしてプライドなど持ってはいられない。
一度蛇と戦ってこのままでは勝てないことが分かりきっている。
「……何があったのかしら?」
アラクネは説明を求めるようにドゥゼアに視線を向けた。
ボス猿は頭を下げ続け、ドゥゼアは何があったのかを説明した。
「ふーん。
確かに最近森が騒がしいわね」
アラクネは猿たちの事情に一定の理解を示したように見えた。
腕を組んで目を閉じて考える。
可哀想などという考えだけでは動かないだろう。
許すだけの理由、動くだけの利益があるのかを考えている。
自尊心だけならボス猿が頭を下げている時点で満たされているのでやはり必要なのは貸してやることがアラクネの利益になるかどうかだ。
ドゥゼアの考える利益とアラクネの考える利益が必ずしも一致しないこともありうる。
ドゥゼアはアラクネが考えをまとめるのを待つ。
横から口を挟まれることを嫌がりそうなので押し黙ってひたすらに待つのである。
もはやノーだった場合どうすればいいのかドゥゼアにも方法はない。
信じもしない神に祈るぐらいしか今はできないのだ。
「いいわ。
貸してあげる」
アラクネが目を開けてもボス猿は頭を下げたままだった。
その誠意にほだされたのではない。
何が隣人であるのがいいのかを考えた結果蛇よりも猿の方がいいと考えたのだ。
どうせ杖だって飾って置いておくぐらいで使ってもいないものである。
いきなりきて貸してくれと言われても渋ったかもしれないが相手の手元にあるならそのまま貸したままにしてもいい。
さらに蛇が猿に勝ってしまったら蛇とは猿よりも強いことになる。
アラクネは猿に負けるつもりはないけど猿に勝った蛇にも勝てるかは分からない。
猿が蛇に勝ったとしても杖ありきなら結局猿の方が弱いことに変わりはない。
確実に弱い相手が隣人の方がアラクネにとっても都合がいいのである。
ドゥゼアがどうしたものかと頭を悩ませているとボス猿が決心したように顔を上げた。
「アラクネとは我が話そう」
何にしても一度はアラクネに会って話さねばならない。
とてもじゃないけど許してもらえるとは思えずアラクネのものを盗みはしたがそのまま顔を合わせずに終わらせられもしない。
ドゥゼアとしてもボス猿がアラクネを説得してくれるとありがたい。
共闘は無理にしても杖の使用許可とミザラの採取はさせてもらいたい。
許してもらえるかも分からないので賭けにはなるがドゥゼアたちはアラクネのところに向かうことにした。
行くのはドゥゼアたちとボス猿。
ドゥゼアとしては自分だけ行ってレビスとユリディカにはもし何かがあったら逃げてほしかったのだけど嫌だと言って聞かなかった。
まあ気分としては悪くない。
共にあろうとしてくれることを不快には思いはしない。
だから結局ドゥゼアとレビスとユリディカは一緒に行動する。
山を降りて行ってアラクネのところに向かう。
この先にアラクネの巣があることを警告するように張られたクモの糸が目立ち始める。
ボス猿を先頭にしてさらに進んでいくと本格的にクモの巣が木に張られてきて、そして時折カサカサとクモの動く音がした。
どこか見られているような感覚にまとわりつかれながら進んでいくとクモが現れた。
大きめの個体でドゥゼアたちを待っていたようだ。
「女王がお待ちだ」
それだけ言うとクモはクルリと踵を返して奥に向かって歩いていく。
ボス猿はチラリとドゥゼアを見たがドゥゼアはボス猿を見ることもなくクモの後を追いかける。
景色が白くなる。
雪ではなく真っ白なクモたちの糸によって。
「あらぁ?
よく戻ってきたわね。
てっきり仲間を見捨てて逃げたのだと思っていたわよ」
アラクネはクモの巣に逆さになるようにぶら下がっていた。
薄く笑みを貼り付けた顔でドゥゼアを見下ろしている。
「それで杖は?
まさかそのお猿さんが杖の代わりなんて言わないわよね?」
言葉が冷たい。
刺すような殺気に手のひらに汗をかく。
「クモの女王よ、少し話を聞いてくれないか?」
切り出したのはボス猿だった。
ドゥゼアたちを庇うように前に出る。
これは猿たちが始めたことなのでボス猿が責任を持たねばならない。
盗み出したはいいけど使えもしなかった杖の活用法を見出して猿たちを治してくれたドゥゼアには恩もある。
腰を低く頭を下げるようなボス猿を見てアラクネが驚いた顔をした。
ボス猿は傲慢でもないがボスであるのでプライドはある。
容易く他の相手に頭など下げはしない。
「ふぅーん……よほどお困りなのね」
まさかドゥゼアがボス猿を連れてくるとは思いもしなかった。
それどころか帰ってくるとすら思っていなかった。
ただ盗んだだけじゃなく何か事情がありそう。
さらにはそんな猿たちに入り込むドゥゼアも面白い。
アラクネは小さく舌なめずりして地面に降りてきた。
万が一を警戒するように周りにクモたちも集まってくる。
「それで、何の用かしら?」
「あの杖を貸してほしい」
単刀直入なお願い。
ボス猿は地面に額がつくほど頭を下げた。
生き死にのかかった事態を前にしてプライドなど持ってはいられない。
一度蛇と戦ってこのままでは勝てないことが分かりきっている。
「……何があったのかしら?」
アラクネは説明を求めるようにドゥゼアに視線を向けた。
ボス猿は頭を下げ続け、ドゥゼアは何があったのかを説明した。
「ふーん。
確かに最近森が騒がしいわね」
アラクネは猿たちの事情に一定の理解を示したように見えた。
腕を組んで目を閉じて考える。
可哀想などという考えだけでは動かないだろう。
許すだけの理由、動くだけの利益があるのかを考えている。
自尊心だけならボス猿が頭を下げている時点で満たされているのでやはり必要なのは貸してやることがアラクネの利益になるかどうかだ。
ドゥゼアの考える利益とアラクネの考える利益が必ずしも一致しないこともありうる。
ドゥゼアはアラクネが考えをまとめるのを待つ。
横から口を挟まれることを嫌がりそうなので押し黙ってひたすらに待つのである。
もはやノーだった場合どうすればいいのかドゥゼアにも方法はない。
信じもしない神に祈るぐらいしか今はできないのだ。
「いいわ。
貸してあげる」
アラクネが目を開けてもボス猿は頭を下げたままだった。
その誠意にほだされたのではない。
何が隣人であるのがいいのかを考えた結果蛇よりも猿の方がいいと考えたのだ。
どうせ杖だって飾って置いておくぐらいで使ってもいないものである。
いきなりきて貸してくれと言われても渋ったかもしれないが相手の手元にあるならそのまま貸したままにしてもいい。
さらに蛇が猿に勝ってしまったら蛇とは猿よりも強いことになる。
アラクネは猿に負けるつもりはないけど猿に勝った蛇にも勝てるかは分からない。
猿が蛇に勝ったとしても杖ありきなら結局猿の方が弱いことに変わりはない。
確実に弱い相手が隣人の方がアラクネにとっても都合がいいのである。
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