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第二章
女神はワーウルフに目をつけました2
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「……様、お助けください」
「うわっ!」
ユリディカが後ろを振り向くと女性がすぐそこにいて驚いた。
陶磁器のような白い肌の美しい女性は目の前のユリディカではなく女神像を見上げていた。
手を組んで祈るような格好の女性の周りを回るようにしてユリディカは観察する。
自分が人だったらこんな感じの清楚美人だろうか、と。
多分違う。
「あれ、これって……」
女性は杖を持っていた。
よく見ると女神像が抱えるようにして持っていたものに似ている。
「ていうか……これなに?」
その変な光景をユリディカは理解できないでいた。
ドゥゼアもいないし、ここは一体どこで周りの人々にはなぜ自分が見えていないのか。
こんなことしている場合じゃないのにとユリディカは焦る。
「これは記憶……過去のまだ穏やかだった時のこと……」
「えっ?
あ、あれ?」
声がしてさらに振り返ると目の前に別の女性が立っていた。
一瞬見覚えがあると思ったらそれは女神像と同じ顔をしていた。
翼が生えていて優しそうに微笑んでいるその女性はどう見てもユリディカのことを見ていた。
「わ、私のこと見えるの?」
誰にも見られないのも困惑するがその中で唯一ユリディカのことが見える相手も得体が知れなくて警戒する。
「はい、私があなたをここに呼んだのですから」
「あなたは誰?
ここは一体なに?
どうして誰も私が見えないの……?
ドゥゼアとレビスは?」
聞きたいことはたくさんある。
ユリディカが多くの質問をぶつけても女性は穏やかな笑みを崩さない。
「私は忘れた神……元は愛と守護を司るアリドナラルという神でしたが今はもう信者もおらず忘れ去られた存在です。
ここはあなたたちがいた神殿の上、はるか昔には地上にあった町の姿です」
聴いていて心地が良くなるような声。
アリドナラルはゆっくりと後ろに下がると女神像の前で翼を広げた。
「これは私。
そして今この光景は私があなたに見せているかつてありし日の幻想。
あなたのお友達は無事です。
本来資格のない侵入者はガーディアンに倒されるのですがあなたと話したかったので敵対しないようにしました」
「なんでこんなことを?」
いくら考えてもユリディカには目的が分からない。
神様に呼ばれる理由なんて全く思いつかない。
「私たちは平和に暮らしていました。
しかしそんな平和も長くは続きませんでした」
「な、なに?」
地面が揺れ出した。
気づくとその場にはアリドナラル以外にいなくなっていて、遠くから叫び声が聞こえてくる。
不安に胸が締め付けられるような思いがして周りをキョロキョロと見ていると神殿に杖を抱えた女性が入ってきた。
「最後の希望……これを奪われてはいけない。
アリドナラル様申し訳ございません……こうするより方法はなかったのです」
女性は女神像の後ろに回り込むと隠し通路のスイッチを作動させる。
女神像の後ろにある床が開いて階段が現れ、女性はその中に駆け込んでいった。
「きゃ……きゃああ!」
その直後、神殿の天井が落ちてきてユリディカは目をつぶった。
「…………あれ?」
再び目を開けると周りは凄惨な光景が広がっていた。
美しかった町は完全に崩壊していた。
建物は崩れ、人が倒れているのが見えた。
魔物であるユリディカもひどく心が痛んだ。
「破壊の神の使徒が我々に従うように要求しました。
けれど我々はそれを良しとしなかった。
そして戦争が始まりました。
ですが我々の抵抗も虚しく、我々は敗北したのです」
そこに黒い騎士が現れた。
中でも特徴的なのは目が真っ黒なことだった。
瞳だけではなく白眼の部分まで黒く染まっていてユリディカも強い圧力に恐怖を感じた。
姿が見えていないと分かっていても逃げ出したくなる。
その黒い騎士はほとんどが崩れ去っている中で唯一と言っていいほど無事であった女神像の前で立ち止まる。
剣を抜いて、無慈悲に女神像を切り裂いた。
「破壊の使徒……望むのは支配。
従わなければ死あるのみ」
「……なんて悲しい…………」
「悲しんでくれるのですね」
ユリディカの目からは涙が流れていた。
人間に同情などするはずがないのに、なぜか胸が苦しくて悲しくて。
その行いが非道なものであることに怒りを覚えた。
「死んだ人も、失われた信仰も、もはや戻りはしません。
ただ破壊の神も好き勝手しすぎました。
破壊の波を広げればそれを止めようとするものも出るもの。
破壊の使徒は打ち果たされて世界に平和は戻りました」
「……なんで私にこのことを?」
「いかに相手を踏み潰そうとも希望は残るのです」
周りの景色が流れるように変わっていく。
気づけばそこは地下にある杖を持った女神像がある部屋だった。
ただそこにドゥゼアとレビスの姿はなく、祈るように膝をついている女性がいた。
「我々の希望……神物はこちらに隠していきます。
いつか…………良い人がこれを見つけてくれますように。
奴らの手に、これが渡りませんように」
女性はつぶやくように祈りを捧げると頬を伝う涙を拭った。
再び大きく女神像に頭を下げると地下を出ていった。
「うわっ!」
ユリディカが後ろを振り向くと女性がすぐそこにいて驚いた。
陶磁器のような白い肌の美しい女性は目の前のユリディカではなく女神像を見上げていた。
手を組んで祈るような格好の女性の周りを回るようにしてユリディカは観察する。
自分が人だったらこんな感じの清楚美人だろうか、と。
多分違う。
「あれ、これって……」
女性は杖を持っていた。
よく見ると女神像が抱えるようにして持っていたものに似ている。
「ていうか……これなに?」
その変な光景をユリディカは理解できないでいた。
ドゥゼアもいないし、ここは一体どこで周りの人々にはなぜ自分が見えていないのか。
こんなことしている場合じゃないのにとユリディカは焦る。
「これは記憶……過去のまだ穏やかだった時のこと……」
「えっ?
あ、あれ?」
声がしてさらに振り返ると目の前に別の女性が立っていた。
一瞬見覚えがあると思ったらそれは女神像と同じ顔をしていた。
翼が生えていて優しそうに微笑んでいるその女性はどう見てもユリディカのことを見ていた。
「わ、私のこと見えるの?」
誰にも見られないのも困惑するがその中で唯一ユリディカのことが見える相手も得体が知れなくて警戒する。
「はい、私があなたをここに呼んだのですから」
「あなたは誰?
ここは一体なに?
どうして誰も私が見えないの……?
ドゥゼアとレビスは?」
聞きたいことはたくさんある。
ユリディカが多くの質問をぶつけても女性は穏やかな笑みを崩さない。
「私は忘れた神……元は愛と守護を司るアリドナラルという神でしたが今はもう信者もおらず忘れ去られた存在です。
ここはあなたたちがいた神殿の上、はるか昔には地上にあった町の姿です」
聴いていて心地が良くなるような声。
アリドナラルはゆっくりと後ろに下がると女神像の前で翼を広げた。
「これは私。
そして今この光景は私があなたに見せているかつてありし日の幻想。
あなたのお友達は無事です。
本来資格のない侵入者はガーディアンに倒されるのですがあなたと話したかったので敵対しないようにしました」
「なんでこんなことを?」
いくら考えてもユリディカには目的が分からない。
神様に呼ばれる理由なんて全く思いつかない。
「私たちは平和に暮らしていました。
しかしそんな平和も長くは続きませんでした」
「な、なに?」
地面が揺れ出した。
気づくとその場にはアリドナラル以外にいなくなっていて、遠くから叫び声が聞こえてくる。
不安に胸が締め付けられるような思いがして周りをキョロキョロと見ていると神殿に杖を抱えた女性が入ってきた。
「最後の希望……これを奪われてはいけない。
アリドナラル様申し訳ございません……こうするより方法はなかったのです」
女性は女神像の後ろに回り込むと隠し通路のスイッチを作動させる。
女神像の後ろにある床が開いて階段が現れ、女性はその中に駆け込んでいった。
「きゃ……きゃああ!」
その直後、神殿の天井が落ちてきてユリディカは目をつぶった。
「…………あれ?」
再び目を開けると周りは凄惨な光景が広がっていた。
美しかった町は完全に崩壊していた。
建物は崩れ、人が倒れているのが見えた。
魔物であるユリディカもひどく心が痛んだ。
「破壊の神の使徒が我々に従うように要求しました。
けれど我々はそれを良しとしなかった。
そして戦争が始まりました。
ですが我々の抵抗も虚しく、我々は敗北したのです」
そこに黒い騎士が現れた。
中でも特徴的なのは目が真っ黒なことだった。
瞳だけではなく白眼の部分まで黒く染まっていてユリディカも強い圧力に恐怖を感じた。
姿が見えていないと分かっていても逃げ出したくなる。
その黒い騎士はほとんどが崩れ去っている中で唯一と言っていいほど無事であった女神像の前で立ち止まる。
剣を抜いて、無慈悲に女神像を切り裂いた。
「破壊の使徒……望むのは支配。
従わなければ死あるのみ」
「……なんて悲しい…………」
「悲しんでくれるのですね」
ユリディカの目からは涙が流れていた。
人間に同情などするはずがないのに、なぜか胸が苦しくて悲しくて。
その行いが非道なものであることに怒りを覚えた。
「死んだ人も、失われた信仰も、もはや戻りはしません。
ただ破壊の神も好き勝手しすぎました。
破壊の波を広げればそれを止めようとするものも出るもの。
破壊の使徒は打ち果たされて世界に平和は戻りました」
「……なんで私にこのことを?」
「いかに相手を踏み潰そうとも希望は残るのです」
周りの景色が流れるように変わっていく。
気づけばそこは地下にある杖を持った女神像がある部屋だった。
ただそこにドゥゼアとレビスの姿はなく、祈るように膝をついている女性がいた。
「我々の希望……神物はこちらに隠していきます。
いつか…………良い人がこれを見つけてくれますように。
奴らの手に、これが渡りませんように」
女性はつぶやくように祈りを捧げると頬を伝う涙を拭った。
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