人と希望を伝えて転生したのに竜人という最強種族だったんですが?〜世界はもう救われてるので美少女たちとのんびり旅をします〜

犬型大

文字の大きさ
16 / 550
第一章

優勝と小さな嫉妬1

しおりを挟む
 優勝した次の日はよほど気分が良いものだろうと想像していた。
 しかし実際の次の日の朝の気分は上々とはいかなかった。

 疲労は抜けず、身体中が筋肉痛になっていた。
 リュードが目を覚ました時にはもう両親のどちらも家にはいなかった。

 ヴェルデガーは医療班として、メーリエッヒは出場者としてすでに力比べ会場の方に行ってしまっていた。
 力比べは昨日に子供部門終了後に大人女性部門を準々決勝まで終わらせて、今日は準決勝から再開となる。

 子供部門チャンピオンのテユノは大人女性部門にも出場したけど流石に敵わず初戦敗退してしまった。
 大人女性部門もドンドンと進んでいき準決勝に残っているのはなんとリュードの母のメーリエッヒ、さらにはルフォンの母のルーミオラも残っていた。
 
 実はこの2人は優勝候補で毎年争い合う間柄なのである。
 女性たちの中でも頭一つ抜けて強いので今年も例に漏れず2人のうちどちらかが優勝を掻っ攫うのだろうなというのが周りの予想である。

 リュードの個人的には後数年もすればテユノが良い対抗になって力比べをもっと盛り上げてくれるのではないかと期待している。

 リュードも会場に行こうかと思って未だに気だるい体を無理やり起こして2階の自室から1階に下りるとテーブルの上に透き通った緑色の液体が入ったビンが置いてあった。

 リュードの家では万能薬とも呼ばれる、ヴェルデガー特性魔法ポーション(上級)である。
 上級はリュードの主観の話だけどヴェルデガーのポーションは他の家の人がわざわざ譲って欲しいとくるほどの効果がある。
 
 風邪などの体調不良からそれなりの怪我まで何でもござれの万能薬なのだ。
 ヴェルデガーが魔力を込めながら精製したポーションは非常に効果が高い。

 優勝者は大怪我でない限り回復させられないなんて謎ルールがあるけど家にある薬を飲んだところで誰にも文句は言えない。
 これにはヴェルデガーの優しさを感じずにいられない。

 けれどちょっと問題もある。
 リュードはポーションの蓋をとって覚悟を決めて一気にポーションを飲み干す。

「うへぇ……にがっ」

 非常に効果の高いポーションなのだが恐ろしく苦いのだ。
 良薬口に苦しというが鼻を抜ける青臭さと舌に鈍く残り続ける苦さだけはどうにもならない。

 これはポーション全体に言えることだから仕方ない。
 ただ効果の実感は早く訪れる。

 飲んだそばからお腹のあたりが暖かくなるような感じがして、それがじんわりと全身に広がっていき不調が大きく軽減されて体が軽くなる。
 完全に治してくれるとまではいかないけど大分楽になった。

 体の調子が回復してくるとお腹が空いていることに気がついてしまった。
 けれど周りを見てもテーブルにはポーション以外朝ごはんの用意もない。

 力比べ時期の朝ごはんといえばもう分かりきっていることだからキッチンを見に行くこともなく家を後にして会場に向かう。
 村にはもう人っ子一人おらず会場の方から歓声だけが聞こえる。

 力比べが始まっていることと空腹に突き動かされて早足で会場まで行くと準決勝の試合が始まったところだった。
 試合も気になるけどまずは腹ごしらえが先。

 闘技場を囲う柵の出入り口に控室となる小屋が建てられていて、その横にあるかまどなどが作られている炊き出し場所がある。

 ちょっとした屋台のようになっているこの場所で朝ごはんを食べろというのだ。
 村の中でも料理が上手い人たちがいくつかのメニューを作っては並べてそれをみんな自由に持っていって食べて良い。

 見た目的には屋台とか炊き出しであるが形式はビュッフェにも似ている。
 ちょっといい素材を使ったり大鍋で作ったりしている料理はまた美味く、大人も子供も料理を大きな楽しみの1つとしている。

 なんといっても無料で食べ放題なことは大きい。
 育ち盛りのリュードも好きなように食べて良いのである。
 
 一応力比べの観戦もしたかったリュードは持ったまま食べれる肉の串焼きを袋に10本ほど貰ってどこか観れる隙間でもないか探すことにした。
 普段こんな肉だけ食べていたらメーリエッヒに怒られるものだけど今日は出場者なのでいないしなんてたってお祭りだからいいのである。

 どこか空いているところはないかと探しながら我慢しきれず1本取り出してほおばる。
 大きめにカットされた肉は噛むたびに肉汁が溢れ出てきて、塩だけの串とタレの串があってそれぞれ永遠に食べられるのではないかと思えるほど美味い。

「リューちゃーん!」

 ほとんど食べることに脳のリソースを割いて歩いているとルフォンの声が聞こえた。
 いつのまにか待機場所の逆側まで来ていた。

 ちょうどこちら側が村から1番遠いところにもなり、人も少なくなっていた。
 ルフォンの他に同年代ぐらいの子供たちが集まっていて、背の低い子供たちはここらの人の少ないところから観戦しているようだった。

「おいっ、手に持ってるんだけど……」

 とっさに串焼きを避難させたためバンザイするような格好でがら空きの胴体にルフォンが手を回して抱きついてくる。
 嬉しそうに耳をたたんで尻尾を激しく振っているルフォンを見ていると叱責する気分もわかない。

 最近スキンシップが激しくやたらと密着してくるのはリュードとしても満更ではない。
 けれど人目を気にせずどこでも密着してくるのはリュードにとってはまだ恥ずかしくもある。

「ふんふん、いい匂い」

「俺の朝ごはんだけど……食べるか?」

 ルフォンがスンスンと匂いを嗅いでリュードの串焼きに視線を向ける。

「はむ」

「それは食べかけの」

「うふふ、美味しいね」

「まあ……いいけど」

 新しい串でも1本やろうかとしたところルフォンは首を伸ばして食べかけの串の肉を咥えた。

 一個一個お肉は別だから間接キスというわけでもないけどなんて事はないようにペロリと唇の油を舐めて見上げてくるルフォンにはドキリとしてしまう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~

エース皇命
ファンタジー
 学校では正体を隠し、普通の男子高校生を演じている黒瀬才斗。実は仕事でダンジョンに潜っている、最近話題のAランク冒険者だった。  そんな黒瀬の通う高校に突如転校してきた白桃楓香。初対面なのにも関わらず、なぜかいきなり黒瀬に抱きつくという奇行に出る。 「才斗くん、これからよろしくお願いしますねっ」  なんと白桃は黒瀬の直属の部下として派遣された冒険者であり、以後、同じ家で生活を共にし、ダンジョンでの仕事も一緒にすることになるという。  これは、上級冒険者の黒瀬と、美少女転校生の純愛ラブコメディ――ではなく、ちゃんとしたダンジョン・ファンタジー(多分)。 ※小説家になろう、カクヨムでも連載しています。

異世界サバイバルゲーム 〜転移先はエアガンが最強魔道具でした〜

九尾の猫
ファンタジー
サバイバルゲームとアウトドアが趣味の主人公が、異世界でサバゲを楽しみます! って感じで始めたのですが、どうやら王道異世界ファンタジーになりそうです。 ある春の夜、季節外れの霧に包まれた和也は、自分の持ち家と一緒に異世界に転移した。 転移初日からゴブリンの群れが襲来する。 和也はどうやって生き残るのだろうか。

人の才能が見えるようになりました。~いい才能は幸運な俺が育てる~

犬型大
ファンタジー
突如として変わった世界。 塔やゲートが現れて強いものが偉くてお金も稼げる世の中になった。 弱いことは才能がないことであるとみなされて、弱いことは役立たずであるとののしられる。 けれども違ったのだ。 この世の中、強い奴ほど才能がなかった。 これからの時代は本当に才能があるやつが強くなる。 見抜いて、育てる。 育てて、恩を売って、いい暮らしをする。 誰もが知らない才能を見抜け。 そしてこの世界を生き残れ。 なろう、カクヨムその他サイトでも掲載。 更新不定期

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します

burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。 その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。

俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨
ファンタジー
普通の高校生として生きていく。その為の手段は問わない。

処理中です...