人と希望を伝えて転生したのに竜人という最強種族だったんですが?〜世界はもう救われてるので美少女たちとのんびり旅をします〜

犬型大

文字の大きさ
202 / 550
第四章

愚かなる目論み5

しおりを挟む
「領主様、ルフォン様、お逃げください。私が時間を稼ぎますので」

 これ以上会話を引き伸ばそうにも少し声をかけるだけでも攻撃を加えてきそうな雰囲気がある。
 もはや残された道はなく、倒れたリュードがどうなのかを気にかける余裕もヴィッツにはなかった。
 
 命をかければ少しぐらい時間を稼げる。
 2人が山を逃げるためにペラフィランの注意を引こうとヴィッツは覚悟を決めた。

「ラストちゃんは逃げて」

「ルフォン!」

「私はリューちゃんを置いていかない」

 ルフォンが庇うようにして倒れるリュードを背にペラフィランを睨みつける。
 例えリュードが死んでいたとしてもルフォンはリュードのことを見捨てはしない。

「え、でも……」

 ラストはどうしたらいいのかわからなくなった。
 ペラフィランに立ち向かうほどの勇気もなく、みんなを見捨てて逃げられるほどの非情さもラストにはなかった。

 ルフォンは寝るために身につけていたフード付きのマントを脱ぎ捨てた。
 どうしても野宿しなければいけなさそうなのでいつ魔人化してもいいようにと戦闘衣を着ていてよかったとルフォンは思った。
 
 流石に戦闘衣の上に着ている服を敵の目の前で脱ぐことはできないので破けてしまうことになるがそれぐらいは仕方ない。
 リュードと違って毛が多いので魔人化した時の膨張率でいったらルフォンの方が高いために緩めの服でも耐えられるものは少なかった。

 今日の服は前にリュードが褒めてくれたから気に入っていたけど大事なのは服じゃなくリュードだ。
 目の前で魔人化するルフォンを見て、ラストは本当に人狼族なんだと現実から目を逸らしたことを考えた。

「リューちゃんを……許さない!」

「それはこちらのセリフだ!」

 遠吠えのように一度吠えて先に仕掛けたのはルフォンだった。
 地面を蹴りペラフィランに接近する。

 ペラフィランは近づくルフォンを前足を振り下ろし迎撃するがかすりもしない。
 ルフォンは振り下ろされた前足をナイフで切り付けながらペラフィランの懐に入り込む。

「グアッ!」

 ペラフィランの胸が浅く切り裂かれる。
 もっと深く切るつもりだったのだがペラフィランの毛が思っていたよりも固くて刃が入っていかなかった。

 久方ぶりの痛みにペラフィランは思わず声を出した。

「クッ……私から離れろ!」

 集中力の高まったルフォンの思考は早く、行動は速い。
 ペラフィランが何かをしようとしている気配を感じ取ったルフォンは素早く距離を取った。

 次の瞬間ペラフィランが全身から電気を放つ。
 ルフォンはすでに当たらない位置にまでいたけれど、まだペラフィランに近ければ痺れて手痛い反撃を食らっていたかもしれない。

「卑怯で、矮小な人如きがナメるなよ!」

 ペラフィランが魔法を使う。
 空中がわずかに光り、雷が落ちてくる。

 次々と落ちてくる雷をルフォンはペラフィランに接近しながら回避していく。

「食らえ!」

 その時を狙っていたペラフィランは再び体から電気を発する。

「なに!」

 そのまま接近してくるかと思われたルフォンは急ブレーキをかけてすぐに飛び退いた。
 ペラフィランの電撃はルフォンまで届かず驚きに目を見開く。

 怒りに身を任せているように見えてルフォンはちゃんと冷静さも持ち合わせていた。
 雷を放つほんのわずかな変化を見逃さずに瞬時に回避行動を取ったのだ。

「こちらですよ」

 すぐ近くで声がしてペラフィランはヴィッツに接近されていることにようやく気づいた。
 先に動き出したルフォンに呆気に取られていたヴィッツだったがすぐに正気を取り戻して動き出していた。

 ルフォンは機を伺うヴィッツのことを分かっていた。
 ヴィッツもヴィッツでペラフィランの意識から完全に忘れられていたので、ルフォンの視界に入るようにしながら回り込んでいた。

 短いアイコンタクトを交わしたルフォンはそのまま攻撃したい気持ちを抑えて隙を作るように動いた。
 ルフォンが引いたことに驚いたペラフィランは無防備にヴィッツに足を切り付けられた。

 見た目よりも固い。
 ペラフィランからすれば取るにたらないぐらいの浅い傷しか付けられなかった。

 少し顔をしかめたヴィッツは反撃される前に距離を取る。

「殺してやる!」

 それでも痛みは伴うし、翻弄するようなルフォンやヴィッツの動きにイライラが募る。
 ペラフィランの怒りが強くなり、全身の毛が逆立つ。

 何としても、絶対に殺してやると強い意志を持ってルフォンたちを睨みつける。

「ルフォン!」

 ペラフィランが飛び上がり前足を振り下ろしながらルフォンに襲いかかる。
 あの巨大にしてとんでもない速さであった。

 距離なんて関係なく一瞬で詰め寄ってきたペラフィランの攻撃をルフォンは間一髪かわした。
 怒りを込めた眼差し同士がぶつかり、ルフォンは本能的にヤバいと思った。

 ルフォンの方を向いたペラフィランは口を開けて雷を放った。
 そうして防げるものでもなかったがルフォンはナイフをクロスして雷を防御しようとした。
 
 多少の威力は減じれたのかもしれない。
 けれどナイフを電撃が伝わり、全身を駆け抜ける痛みと共にルフォンは吹き飛ばされた。

「きゃああああっ!」

 魔人化が解けて地面を転がっていったルフォンはグッタリと動かない。
 逃げることを忘れたラストが我慢できずルフォンに駆け出す。

 ほんの数秒の出来事でヴィッツがフォローに入る隙もない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

人の才能が見えるようになりました。~いい才能は幸運な俺が育てる~

犬型大
ファンタジー
突如として変わった世界。 塔やゲートが現れて強いものが偉くてお金も稼げる世の中になった。 弱いことは才能がないことであるとみなされて、弱いことは役立たずであるとののしられる。 けれども違ったのだ。 この世の中、強い奴ほど才能がなかった。 これからの時代は本当に才能があるやつが強くなる。 見抜いて、育てる。 育てて、恩を売って、いい暮らしをする。 誰もが知らない才能を見抜け。 そしてこの世界を生き残れ。 なろう、カクヨムその他サイトでも掲載。 更新不定期

ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~

エース皇命
ファンタジー
 学校では正体を隠し、普通の男子高校生を演じている黒瀬才斗。実は仕事でダンジョンに潜っている、最近話題のAランク冒険者だった。  そんな黒瀬の通う高校に突如転校してきた白桃楓香。初対面なのにも関わらず、なぜかいきなり黒瀬に抱きつくという奇行に出る。 「才斗くん、これからよろしくお願いしますねっ」  なんと白桃は黒瀬の直属の部下として派遣された冒険者であり、以後、同じ家で生活を共にし、ダンジョンでの仕事も一緒にすることになるという。  これは、上級冒険者の黒瀬と、美少女転校生の純愛ラブコメディ――ではなく、ちゃんとしたダンジョン・ファンタジー(多分)。 ※小説家になろう、カクヨムでも連載しています。

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

タイム連打ってなんだよ(困惑)

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
「リオ、お前をパーティから追放する。お前のようなハズレスキルのザコは足手まといなんだよ」  王都の冒険者ギルドにて、若手冒険者のリオは、リーダーの身勝手な都合によってパーティから追い出されてしまい、同時に後宮では、聖女の降臨や第一王子の婚約破棄などが話題になっていた。  パーティを追放されたリオは、ある日商隊の護衛依頼を受けた際、野盗に襲われる可憐な少女を助けることになるのだが、彼女は第一王子から婚約破棄された上に濡れ衣を着せられて迫害された元公爵令嬢こと、アイリスだった。  アイリスとの出会いから始まる冒険の旅、行く先々で様々な思惑によって爪弾きにされてしまった者達を受け入れていく内に、彼はある決意をする。 「作ろう。誰もが幸せに過ごせる、そんな居場所を」  目指すべき理想、突き動かされる世界、そしてハズレスキル【タイム連打】に隠されたリオの本当の力とは?    ※安心安全安定安泰の四安揃った、ハピエン確定のハズレスキル無双です。 『エ○ーマンが倒せない』は関係ありません。

ザコ魔法使いの僕がダンジョンで1人ぼっち!魔獣に襲われても石化した僕は無敵状態!経験値が溜まり続けて気づいた時には最強魔導士に!?

さかいおさむ
ファンタジー
戦士は【スキル】と呼ばれる能力を持っている。 僕はスキルレベル1のザコ魔法使いだ。 そんな僕がある日、ダンジョン攻略に向かう戦士団に入ることに…… パーティに置いていかれ僕は1人ダンジョンに取り残される。 全身ケガだらけでもう助からないだろう…… 諦めたその時、手に入れた宝を装備すると無敵の石化状態に!? 頑張って攻撃してくる魔獣には申し訳ないがダメージは皆無。経験値だけが溜まっていく。 気づけば全魔法がレベル100!? そろそろ反撃開始してもいいですか? 内気な最強魔法使いの僕が美女たちと冒険しながら人助け!

異世界サバイバルゲーム 〜転移先はエアガンが最強魔道具でした〜

九尾の猫
ファンタジー
サバイバルゲームとアウトドアが趣味の主人公が、異世界でサバゲを楽しみます! って感じで始めたのですが、どうやら王道異世界ファンタジーになりそうです。 ある春の夜、季節外れの霧に包まれた和也は、自分の持ち家と一緒に異世界に転移した。 転移初日からゴブリンの群れが襲来する。 和也はどうやって生き残るのだろうか。

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

処理中です...