313 / 550
第五章
始まる悪魔の大会2
しおりを挟む
「連れて行きなさい」
「はっ!」
外に待機していた兵士たちが男を引きずって連れて行く。
己の立場を忘れるとどうなるのか、説明する前に見せつけられてしまう形になった。
見事なかませ犬にされた筋肉奴隷だった。
「さて、愚か者はいなくなりました。単刀直入に用件を申しましょう」
パンと手を叩いて場の空気を一度仕切り直してウバが話し始める。
もう口を出せる者はいない。
「私が誰なのかあなたたちにとってはどうでもよく、私もお伝えするつもりがありません。興味があるのは……自由! それだけでしょう?」
御大層なご高説の滑り出しとしては上々だとリュードは思う。
「私は奴隷を抱えるような趣味がありません。ならばなぜあなたたちを高い金も出して買ったのかと言いますと私には欲しいものがあるからです」
ならばそれを金でも出して買うといいとリュードは思わざるを得ない。
「自由と私の欲しいもののトレード。実にわかりやすいお話でしょう。私の望むものを持ってきたら奴隷全員を自由にして差し上げます。ついでに今後のために持ってきた人にはいくらかお金でも差し上げましょう」
「……あんたの欲しいものってのはなんなんだ。ここにいる全員パンツしか持ってないぜ」
奴隷の1人が当然の疑問を口にする。
自由と引き換えにできるようなものを持っている人はここにはいない。
「何も今引き渡せと言うのではありません。近く、奴隷たちを競わせる秘密の大会が開かれます。その優勝賞品、それが私の欲しいものです」
「……つまりその大会とやらで優勝すればいいのか?」
「その通りです。分かりやすくて宜しいでしょう?」
「その大会は何をする大会なんだ?」
「それは始まってみないことにはなんとも言えません」
なんだ、秘密の大会ってと根掘り葉掘り聞きたいところだけど目立ちたくないので疑問は思うだけに留めておく。
「どうですか? 優勝するだけでよいのですよ?」
どうですかと聞かれてもこの質問に選択肢なんて有って無いようなもの。
奴隷の身分で拒否権なんてあるはずもない。
奴隷に興味がないのに奴隷を買った理由はその大会のため。
それなのにやりませんと言って、はいそうですかとなるなんて思えるお気楽者はこの場にいなかった。
「反対の人もいないようなのでみなさんご参加ということで。早速大会の方に向かいましょうか」
沈黙を肯定と捉えてすぐさま移動を開始する。
まだここについて座ってすらいないと文句も言えず、リュードたちはまた馬車に逆戻りになった。
「お前たちはどうして奴隷になったんだ?」
先ほど率先してウバに質問をしていた真人族の男が早速口を開いた。
左目の上に小さな傷があり青色の髪を後ろで縛っている。
体つきも鍛えられていて、この国の男性っぽさがない。
質問する勇気もあるしリュードを見下すようにも見ていない。
奴隷の中ではまともな人に見えた。
「なに?」
「言いたかなけりゃいいんだけどよ。俺はちょっと背伸びをしたら依頼に失敗しちまってさ。魔物にやられて仲間もみんな失っちまった。しかもよ、依頼主がきったねえ奴で、契約書の内容が失敗した時は一人一人に賠償金を請求するって小さーく書いてあって、生き残った俺1人に全員分請求しやがった。それで借金を返せず奴隷行きさ」
この世界では奴隷という身分があるのだけど合法的な奴隷というものもある。
リュードやトーイのようないきなり人権を剥奪された奴隷だけでなく、借金や犯罪行為などによって奴隷身分にされる人が一定数いるのである。
主に借金で首が回らなくなった人が合法奴隷となるのだけど合法奴隷でも人権がないわけでない。
合法奴隷を非道な扱いをすると奴隷を管理している冒険者ギルドや商業ギルドから制裁を受けることになる。
「……俺たちは攫われて奴隷にさせられたんだ」
「はぁ? 今時そんなことする奴……いるんだろうな。あんたらがそうだってんなら」
人を攫って奴隷にすることは違法としている国も多い。
それほど世界が綺麗でないことは冒険者であった者なら誰でも分かっているけれど、そんなことをしている人がまだいることに驚きが隠せない。
「そりゃ……なんて言ったらいいか分からないな。自己紹介もまだだったな。俺はウロダ。大会が始まったら敵になるか味方になるかも分からないが今は同じ奴隷仲間だ、よろしく頼むよ」
「俺はシューナリュードだ、よろしく」
「ト、トーイと申します。よろしくお願いします」
「しっかし人攫いで奴隷ねぇ……例の大会とやらがあるからそんなことやってんのかね?」
「……なるほど、確かにそうかもしれないな」
ウロダのような合法奴隷がいるのに人攫いから違法な奴隷まで買う理由が腑に落ちる。
その大会のために奴隷が欲しかったのだと考えると理由が分からなくもない。
合法奴隷は大体の場合何かを失敗した人がなるものだから不安材料がある。
違法な奴隷はどんな人が保証はされないが優秀な人な可能性がある。
とりあえず色んな人を揃える意味で人攫いから奴隷を買ったのだろう。
そうまでして欲しい優勝賞品とはなんなのだろうかの疑問は解消されない。
「はっ!」
外に待機していた兵士たちが男を引きずって連れて行く。
己の立場を忘れるとどうなるのか、説明する前に見せつけられてしまう形になった。
見事なかませ犬にされた筋肉奴隷だった。
「さて、愚か者はいなくなりました。単刀直入に用件を申しましょう」
パンと手を叩いて場の空気を一度仕切り直してウバが話し始める。
もう口を出せる者はいない。
「私が誰なのかあなたたちにとってはどうでもよく、私もお伝えするつもりがありません。興味があるのは……自由! それだけでしょう?」
御大層なご高説の滑り出しとしては上々だとリュードは思う。
「私は奴隷を抱えるような趣味がありません。ならばなぜあなたたちを高い金も出して買ったのかと言いますと私には欲しいものがあるからです」
ならばそれを金でも出して買うといいとリュードは思わざるを得ない。
「自由と私の欲しいもののトレード。実にわかりやすいお話でしょう。私の望むものを持ってきたら奴隷全員を自由にして差し上げます。ついでに今後のために持ってきた人にはいくらかお金でも差し上げましょう」
「……あんたの欲しいものってのはなんなんだ。ここにいる全員パンツしか持ってないぜ」
奴隷の1人が当然の疑問を口にする。
自由と引き換えにできるようなものを持っている人はここにはいない。
「何も今引き渡せと言うのではありません。近く、奴隷たちを競わせる秘密の大会が開かれます。その優勝賞品、それが私の欲しいものです」
「……つまりその大会とやらで優勝すればいいのか?」
「その通りです。分かりやすくて宜しいでしょう?」
「その大会は何をする大会なんだ?」
「それは始まってみないことにはなんとも言えません」
なんだ、秘密の大会ってと根掘り葉掘り聞きたいところだけど目立ちたくないので疑問は思うだけに留めておく。
「どうですか? 優勝するだけでよいのですよ?」
どうですかと聞かれてもこの質問に選択肢なんて有って無いようなもの。
奴隷の身分で拒否権なんてあるはずもない。
奴隷に興味がないのに奴隷を買った理由はその大会のため。
それなのにやりませんと言って、はいそうですかとなるなんて思えるお気楽者はこの場にいなかった。
「反対の人もいないようなのでみなさんご参加ということで。早速大会の方に向かいましょうか」
沈黙を肯定と捉えてすぐさま移動を開始する。
まだここについて座ってすらいないと文句も言えず、リュードたちはまた馬車に逆戻りになった。
「お前たちはどうして奴隷になったんだ?」
先ほど率先してウバに質問をしていた真人族の男が早速口を開いた。
左目の上に小さな傷があり青色の髪を後ろで縛っている。
体つきも鍛えられていて、この国の男性っぽさがない。
質問する勇気もあるしリュードを見下すようにも見ていない。
奴隷の中ではまともな人に見えた。
「なに?」
「言いたかなけりゃいいんだけどよ。俺はちょっと背伸びをしたら依頼に失敗しちまってさ。魔物にやられて仲間もみんな失っちまった。しかもよ、依頼主がきったねえ奴で、契約書の内容が失敗した時は一人一人に賠償金を請求するって小さーく書いてあって、生き残った俺1人に全員分請求しやがった。それで借金を返せず奴隷行きさ」
この世界では奴隷という身分があるのだけど合法的な奴隷というものもある。
リュードやトーイのようないきなり人権を剥奪された奴隷だけでなく、借金や犯罪行為などによって奴隷身分にされる人が一定数いるのである。
主に借金で首が回らなくなった人が合法奴隷となるのだけど合法奴隷でも人権がないわけでない。
合法奴隷を非道な扱いをすると奴隷を管理している冒険者ギルドや商業ギルドから制裁を受けることになる。
「……俺たちは攫われて奴隷にさせられたんだ」
「はぁ? 今時そんなことする奴……いるんだろうな。あんたらがそうだってんなら」
人を攫って奴隷にすることは違法としている国も多い。
それほど世界が綺麗でないことは冒険者であった者なら誰でも分かっているけれど、そんなことをしている人がまだいることに驚きが隠せない。
「そりゃ……なんて言ったらいいか分からないな。自己紹介もまだだったな。俺はウロダ。大会が始まったら敵になるか味方になるかも分からないが今は同じ奴隷仲間だ、よろしく頼むよ」
「俺はシューナリュードだ、よろしく」
「ト、トーイと申します。よろしくお願いします」
「しっかし人攫いで奴隷ねぇ……例の大会とやらがあるからそんなことやってんのかね?」
「……なるほど、確かにそうかもしれないな」
ウロダのような合法奴隷がいるのに人攫いから違法な奴隷まで買う理由が腑に落ちる。
その大会のために奴隷が欲しかったのだと考えると理由が分からなくもない。
合法奴隷は大体の場合何かを失敗した人がなるものだから不安材料がある。
違法な奴隷はどんな人が保証はされないが優秀な人な可能性がある。
とりあえず色んな人を揃える意味で人攫いから奴隷を買ったのだろう。
そうまでして欲しい優勝賞品とはなんなのだろうかの疑問は解消されない。
9
あなたにおすすめの小説
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~
エース皇命
ファンタジー
学校では正体を隠し、普通の男子高校生を演じている黒瀬才斗。実は仕事でダンジョンに潜っている、最近話題のAランク冒険者だった。
そんな黒瀬の通う高校に突如転校してきた白桃楓香。初対面なのにも関わらず、なぜかいきなり黒瀬に抱きつくという奇行に出る。
「才斗くん、これからよろしくお願いしますねっ」
なんと白桃は黒瀬の直属の部下として派遣された冒険者であり、以後、同じ家で生活を共にし、ダンジョンでの仕事も一緒にすることになるという。
これは、上級冒険者の黒瀬と、美少女転校生の純愛ラブコメディ――ではなく、ちゃんとしたダンジョン・ファンタジー(多分)。
※小説家になろう、カクヨムでも連載しています。
異世界サバイバルゲーム 〜転移先はエアガンが最強魔道具でした〜
九尾の猫
ファンタジー
サバイバルゲームとアウトドアが趣味の主人公が、異世界でサバゲを楽しみます!
って感じで始めたのですが、どうやら王道異世界ファンタジーになりそうです。
ある春の夜、季節外れの霧に包まれた和也は、自分の持ち家と一緒に異世界に転移した。
転移初日からゴブリンの群れが襲来する。
和也はどうやって生き残るのだろうか。
人の才能が見えるようになりました。~いい才能は幸運な俺が育てる~
犬型大
ファンタジー
突如として変わった世界。
塔やゲートが現れて強いものが偉くてお金も稼げる世の中になった。
弱いことは才能がないことであるとみなされて、弱いことは役立たずであるとののしられる。
けれども違ったのだ。
この世の中、強い奴ほど才能がなかった。
これからの時代は本当に才能があるやつが強くなる。
見抜いて、育てる。
育てて、恩を売って、いい暮らしをする。
誰もが知らない才能を見抜け。
そしてこの世界を生き残れ。
なろう、カクヨムその他サイトでも掲載。
更新不定期
(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。
【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜
KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。
~あらすじ~
世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。
そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。
しかし、その恩恵は平等ではなかった。
富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。
そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。
彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。
あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。
妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。
希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。
英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。
これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。
彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。
テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。
SF味が増してくるのは結構先の予定です。
スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。
良かったら読んでください!
魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します
burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。
その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる