人と希望を伝えて転生したのに竜人という最強種族だったんですが?〜世界はもう救われてるので美少女たちとのんびり旅をします〜

犬型大

文字の大きさ
328 / 550
第五章

閑話・一心に祈れば

しおりを挟む
「またですかぁ? もういい加減メイスで殴って静かにさせましょうか?」

「こらこら、聖職者たる者がそのようなことを口にしてはなりませんよ。……とはいえ苦情が寄せられているのも確かです」

「日中夜を問わずにうるさいんですから寝不足ですよ……」

 響き渡るは叫び声、泣き声、慟哭、なんでもいいけどとりあえずうるさい男の大きな声である。
 教会内部に四六時中鳴り響くので色々なところからどうにかしてくれと苦情が出ている。

 大司教であるオルダンタスも頭を悩ませていた。
 声を上げて慟哭するはダリルという男なのだが普通の人ではなかった。

 一日中声を上げて泣いてたら喉が枯れ、涙が枯れて大人しくなるだろう。
 けれどダリルも疲れはしても数日間も泣き続けている。

 オルダンタスを補佐してくれている修道司祭であるアドラスもゲンナリした顔をしている。
 このままでは本当にメイスで殴って止めてしまいそうだ。

 メイスで殴ったところでダリルなら死にもしないだろうがそんな止め方しては神様が悲しんでしまわれることだろうとため息をつく。
 オルダンタスはダリルのところに向かった。

 泣き続けるダリルの気持ちは分からないことではないからまた難しい。
 慟哭に負けないように強めにノックをすると少女がドアを開けてくれた。

 大司教であるオルダンタスを見て驚いた顔をしていたが、少女はすぐにペコリと頭を下げて礼をした。
 褒めてあげたいところだがドアを開けたままだとうるさいのでまずは中に入ってドアを閉める。

 質素な部屋の中で窓近くにあるベッドの上に1人の女性が寝ている。

「……相変わらずのようですね」

 ゆっくりと呼吸を繰り返し、微動だにしないその姿は死んでいるようにも見えた。
 そしてそのベッド横に膝をつき、声を上げて泣いているのがダリルであった。

 大柄の男性で心優しい男であるけれど普段から声が大きく注意されることも多い人である。
 今は特に感情の制御が聞いていないのでオルダンタスの耳も破裂しそうなほどの声が出ている。

 ベッドに寝ている女性はテレサと言って少し前までは良く笑い、慈善活動にも精を出す慈愛に満ちた女性だった。
 けれども今はほとんどの時間を寝て過ごしている。

 とある事情から起きる時間が短くなり、寝る時間が長くなってきているのだがダリルはテレサが寝ている間こうして泣き続けているのである。
 事情が事情だけにダリルを諌めにくいのも当然の話である。

「ダリル……ダリル!」

 オルダンタスがダリルに声をかけるがダリルの耳には届かない。

「ダリル、聞こえますか。……ダリル。ふぅ……」

 ダリルはオルダンダスが何回も声をかけたり肩を叩いたりするが全く反応を示さない。
 こうした集中力は時として役立つのだがこんな時には周りに目を向けて欲しいものである。

「オルダンタス様?」

 声をかけることを諦めたオルダンタスはテーブルに置いてある水差しを手に取った。
 一度気でも落ち着けるのに水でも飲むかと思ったらオルダンタスはその水差しをダリルの上で逆さにした。

 中に入った水がダリルに降り注ぐ。

「ダリル、お久しぶりですね」

「オ、オルダンタス様……」

 水をかけられてようやくオルダンタスの慟哭が止まる。
 これで止まらなかったら水差しで殴るしかなかったので気づいてくれてよかった。

「一体どのような用件でいらっしゃったのですか?」

 水をかけられたことなど気にしていないダリルが普通にオルダンタスに対応する。
 目の下が黒くなっているダリルは泣き続けて寝ていないことがオルダンタスにも分かった。

「いつまでそのようにしているつもりですか?」

「しかし……テレサがこのようになってしまったのは私の力不足が原因です。例えこのまま目覚めないとしたら私は、どうしたら……」

 再び目に悲しみの感情が浮かび始める。
 また泣き出してしまう。

「泣いて何かが変わるのですか?」

 泣き出す前に止めなければならない。

「ですが何が出来るのですか?」

「私たちは何者ですか?」

「何者とは何ですか?」

「泣くぐらいなら神に祈りなさい。私たちは神に仕える聖職者なのです。一心に祈れば神も道を示してくれることでしょう。泣いていてもなんともなりませんがあなたが真摯に祈ればその思いは届くでしょう」

「…………」

「祈祷室を1つ確保しました。好きなだけ祈りなさい。テレサさんが起きた時にはあなたのことを呼びに行かせますので祈ってみてはどうですか?」

「……そうですね、テレサのために祈ります」

 祈祷室は防音仕様になっているので少なくともこれでしばらく静かになる。
 オルダンタスの機転にダリルは神に祈りを捧げて静かになり、教会は以前の静けさを取り戻した。

 時折テレサは目を覚まして、ひどい顔をしたダリルを見て心配そうにしていた。
 なのでまたオルダンタスは考えを巡らせて、テレサが起きた時に顔色が悪いとテレサの体に悪いとダリルを説得して食事と睡眠を取らせることにも成功した。

「流石にオルダンタス様を尊敬します」

「急になんだい?」

「最近すっかりダリル様も大人しくなりました。祈りを捧げながらも食事と睡眠をちゃんと取るようになりましたし、伝え方を考えるだけでうまく人を動かせる感心しました」

「つまり今までは尊敬していなかったのかい?」

「尊敬していないことはありませんが大司教なんて立場、上すぎてよくわからないですからね」

 オルダンタスは穏やかな性格をして人々の信頼も厚い。
 仕事っぷりも真面目でアドラスがオルダンタスに付くことになってからも苦労をかけられた経験は少ない。

 大司教として大きな仕事をしていることをまだ目の前で見たことがないので大司教の凄さを分かっていなかった。
 けれどもダリルに対するやり方は非常に巧みで頭の良さを感じさせた。

「うおぉおーーーー!」

「な、何ですか?」

 突如として聞こえてきた雄叫び。

「この声は、ダリルですね」

 あくまで冷静なオルダンタスだが書類仕事の手を止めて立ち上がると祈祷室に向かう。
 声の感じからして問題が起きた雰囲気はなかったが何があったのかは把握しておかねばならない。

 防音仕様の祈祷室を突き破って声が聞こえてくるほどなのだから何かがあったことは確かである。

「オルダンタス様!」

 祈祷室に着いてみるとダリルの方から祈祷室から飛び出してきた。

「どうかなさいましたか?」

 また泣き出したりしたらどうしようと思いながらも不安は見せずにダリルに質問する。
 ただダリルの顔は明るく見えるので悪いニュースはなさそうだ。

「テレサを……テレサを救うために神の天啓がありました!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~

エース皇命
ファンタジー
 学校では正体を隠し、普通の男子高校生を演じている黒瀬才斗。実は仕事でダンジョンに潜っている、最近話題のAランク冒険者だった。  そんな黒瀬の通う高校に突如転校してきた白桃楓香。初対面なのにも関わらず、なぜかいきなり黒瀬に抱きつくという奇行に出る。 「才斗くん、これからよろしくお願いしますねっ」  なんと白桃は黒瀬の直属の部下として派遣された冒険者であり、以後、同じ家で生活を共にし、ダンジョンでの仕事も一緒にすることになるという。  これは、上級冒険者の黒瀬と、美少女転校生の純愛ラブコメディ――ではなく、ちゃんとしたダンジョン・ファンタジー(多分)。 ※小説家になろう、カクヨムでも連載しています。

異世界サバイバルゲーム 〜転移先はエアガンが最強魔道具でした〜

九尾の猫
ファンタジー
サバイバルゲームとアウトドアが趣味の主人公が、異世界でサバゲを楽しみます! って感じで始めたのですが、どうやら王道異世界ファンタジーになりそうです。 ある春の夜、季節外れの霧に包まれた和也は、自分の持ち家と一緒に異世界に転移した。 転移初日からゴブリンの群れが襲来する。 和也はどうやって生き残るのだろうか。

人の才能が見えるようになりました。~いい才能は幸運な俺が育てる~

犬型大
ファンタジー
突如として変わった世界。 塔やゲートが現れて強いものが偉くてお金も稼げる世の中になった。 弱いことは才能がないことであるとみなされて、弱いことは役立たずであるとののしられる。 けれども違ったのだ。 この世の中、強い奴ほど才能がなかった。 これからの時代は本当に才能があるやつが強くなる。 見抜いて、育てる。 育てて、恩を売って、いい暮らしをする。 誰もが知らない才能を見抜け。 そしてこの世界を生き残れ。 なろう、カクヨムその他サイトでも掲載。 更新不定期

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します

burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。 その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。

タイム連打ってなんだよ(困惑)

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
「リオ、お前をパーティから追放する。お前のようなハズレスキルのザコは足手まといなんだよ」  王都の冒険者ギルドにて、若手冒険者のリオは、リーダーの身勝手な都合によってパーティから追い出されてしまい、同時に後宮では、聖女の降臨や第一王子の婚約破棄などが話題になっていた。  パーティを追放されたリオは、ある日商隊の護衛依頼を受けた際、野盗に襲われる可憐な少女を助けることになるのだが、彼女は第一王子から婚約破棄された上に濡れ衣を着せられて迫害された元公爵令嬢こと、アイリスだった。  アイリスとの出会いから始まる冒険の旅、行く先々で様々な思惑によって爪弾きにされてしまった者達を受け入れていく内に、彼はある決意をする。 「作ろう。誰もが幸せに過ごせる、そんな居場所を」  目指すべき理想、突き動かされる世界、そしてハズレスキル【タイム連打】に隠されたリオの本当の力とは?    ※安心安全安定安泰の四安揃った、ハピエン確定のハズレスキル無双です。 『エ○ーマンが倒せない』は関係ありません。

処理中です...