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第五章
浅き欲望の果て9
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「あぁ~。いいわぁ~」
そんなことしてる場合じゃないだろうとツッコミが入りそうだがもはや我慢の限界だった。
ネズミが熱すぎて汗もかいたし、避けるのに地面を転がって全身がジャリジャリしていた。
長いこと体すら拭けていなかったので不清潔さにうんざりしていた。
水溜りは程よい深さもあってつかるのにちょうどよかった。
槍を抜いて転がり入った時は熱すぎるぐらいだと思っていたが、悩んでいる間に少し冷めてよりいい温度になっている。
服ごと入るのも背徳的な感じがしてまた良かった。
正確にはお風呂でもなく、怒る人もいないのでなんでもいいだろう。
魔物は倒したし石を集めなくてよいので気楽なものだ。
警戒はしなくてはいけないが、多くの人がやられていたので近い周辺の奴隷のほとんどが集まっていたと見てよい。
それほど警戒もしなくても大丈夫なはずだ。
「やっぱり風呂はいいな……」
タオルもないのでバシャバシャとお湯をかけながら顔や体を手で軽く擦るぐらいにしてリュードの入浴は終わった。
一応トーイにも聞いてみたけど苦笑いで断られてしまった。
どっちにしろ水溜りに突っ込んでしまって濡れていたので入浴しようがしまいが大きく気にしない。
服は固く絞って水気を払ってよしとする。
「さて、進むか」
「ええっ、先に行くんですか?」
「少なくともここで魔物と沢山の奴隷たちと仲良くしてるつもりはないよ」
もう石は集まったので危ない橋は渡りたくない。
最初にいた部屋に閉じこもっていれば安全なのではないかとトーイは考えていた。
「まあ戻ってもいいけど、安全だとは限らない。それに石を集めたらどうするのか分からないし、何より引きこもっていても食料も何もないだろ」
「あっ……」
リュードの方は多少節約しながら食べていたのでまだ少し残っていたけれど、いつ終わるか分からない状況下で二人が満足できるほどの量は到底ない。
「籠もってても腹が空くだけだ。こんな地下に食べ物があるかは分からないけど長く続けるつもりならどこかに食べ物ぐらい用意してあるはずだ。危険は伴うけど移動するしかない」
「……そうですね」
このくだらない殺し合いの終わりがいつで、どうやったら終わるのかリュードたちは知らない。
今はとりあえず生きねばならない。
最後まで希望を捨てず、足掻いて、命を諦めないでいなければならないのだ。
「行こう」
「分かりました」
石は集まったから目的を生存にシフトして動くことができる。
先に敵がいることを察知できるなら危険は避けても問題なくなったのだ。
もっと飢えていたならネズミを食べられるか検討するけど、今の状況でネズミはちょっとご遠慮したい。
食はそれほど太くないのに遠慮なく食べてしまったことをトーイは後悔した。
ただどの道数日分しかない食料なら節約したところでそれほど結果は変わらなかっただろう。
戻っても石を抱えて飢えるだけならどこかに行こうとリュードたちは移動することにした。
「トーイはどこから来たんだ?」
「私はえっと……あっちの道……だと思います」
流石に広いだけあって部屋に繋がる道はいくつもある。
進むと決めた以上どこか違う場所に向かわねばならない。
部屋の作りがシンプルすぎてトーイもどの道から来たかやや不安げだったけど、間違っていてもそんなに大きな問題じゃない。
トーイが来たと思われる道とリュードが来た道から遠いところにある道を選ぶ。
遠い道ならば回り回ってトーイやリュードの来た道に出ることが無さそうな道を選んだのである。
「トーイ、これ使え」
そしてリュードはトーイと武器は交換することにした。
リュードがハンマーを持ち、トーイが槍を持つ。
トーイにハンマーは重すぎたが、捨てていくにはもったいない武器である。
ナイフぐらいならズボンに忍ばせることはできるが、槍とハンマーの両方持つのは出来ない。
槍も置いておくにはもったいない武器なのでトーイに渡してリュードがハンマーを使うことにした。
トーイが槍を活用出来るかは分からないけどハンマーよりはマシだろう。
「しっかし……ここは一体なんなんだ?」
歩きながらずっと思っていた疑問を口にする。
一都市の下にこんな広い空間があるだなんて意味が分からない。
洞窟があっても別におかしことはないけれど、掘り進めて広げたような痕跡があちこちにある。
その上綺麗な掘り進め方をしたところもあれば雑に広げたようなところもある。
この場所が何なのか疑問に思わずにはいられない。
「ここは……何というか色々な用途で使用されていた場所です」
リュードがポツリと呟いた言葉にトーイが答えてくれた。
元々ここは綺麗な湧水が出ることから村ができて、交通の便の良さから人が集まり、町へと発展していった。
村ができた時にはここの下に洞窟があるなんて知られていなかったが、規模が大きくなるにつれて開拓が進んで洞窟の存在が判明した。
平和で、人の流れもあって、コロシアムなんかもできて、これからも発展が望まれる都市、それがマヤノブッカだった。
「昔は良いところだったと聞いたことがあります。けれどマヤノブッカも平和ではいられませんでした」
ある時戦争の災禍がマヤノブッカを襲った。
当時はトゥジュームではなく別の国に属していたマヤノブッカだが、隣国の王子が王女の求婚を断ったという理由で始まった戦争に巻き込まれたのである。
最初は攻め込む側だったので被害はなかったが、段々と戦況が悪化して国境まで押し返されると前線はマヤノブッカになった。
マヤノブッカは周辺が開けていて防御に弱い。
しかしそれでいながら交通の要所となっていたので取ったり取られたりを繰り返すことになった。
その戦争のために使われたのがこの地下の洞窟であった。
そんなことしてる場合じゃないだろうとツッコミが入りそうだがもはや我慢の限界だった。
ネズミが熱すぎて汗もかいたし、避けるのに地面を転がって全身がジャリジャリしていた。
長いこと体すら拭けていなかったので不清潔さにうんざりしていた。
水溜りは程よい深さもあってつかるのにちょうどよかった。
槍を抜いて転がり入った時は熱すぎるぐらいだと思っていたが、悩んでいる間に少し冷めてよりいい温度になっている。
服ごと入るのも背徳的な感じがしてまた良かった。
正確にはお風呂でもなく、怒る人もいないのでなんでもいいだろう。
魔物は倒したし石を集めなくてよいので気楽なものだ。
警戒はしなくてはいけないが、多くの人がやられていたので近い周辺の奴隷のほとんどが集まっていたと見てよい。
それほど警戒もしなくても大丈夫なはずだ。
「やっぱり風呂はいいな……」
タオルもないのでバシャバシャとお湯をかけながら顔や体を手で軽く擦るぐらいにしてリュードの入浴は終わった。
一応トーイにも聞いてみたけど苦笑いで断られてしまった。
どっちにしろ水溜りに突っ込んでしまって濡れていたので入浴しようがしまいが大きく気にしない。
服は固く絞って水気を払ってよしとする。
「さて、進むか」
「ええっ、先に行くんですか?」
「少なくともここで魔物と沢山の奴隷たちと仲良くしてるつもりはないよ」
もう石は集まったので危ない橋は渡りたくない。
最初にいた部屋に閉じこもっていれば安全なのではないかとトーイは考えていた。
「まあ戻ってもいいけど、安全だとは限らない。それに石を集めたらどうするのか分からないし、何より引きこもっていても食料も何もないだろ」
「あっ……」
リュードの方は多少節約しながら食べていたのでまだ少し残っていたけれど、いつ終わるか分からない状況下で二人が満足できるほどの量は到底ない。
「籠もってても腹が空くだけだ。こんな地下に食べ物があるかは分からないけど長く続けるつもりならどこかに食べ物ぐらい用意してあるはずだ。危険は伴うけど移動するしかない」
「……そうですね」
このくだらない殺し合いの終わりがいつで、どうやったら終わるのかリュードたちは知らない。
今はとりあえず生きねばならない。
最後まで希望を捨てず、足掻いて、命を諦めないでいなければならないのだ。
「行こう」
「分かりました」
石は集まったから目的を生存にシフトして動くことができる。
先に敵がいることを察知できるなら危険は避けても問題なくなったのだ。
もっと飢えていたならネズミを食べられるか検討するけど、今の状況でネズミはちょっとご遠慮したい。
食はそれほど太くないのに遠慮なく食べてしまったことをトーイは後悔した。
ただどの道数日分しかない食料なら節約したところでそれほど結果は変わらなかっただろう。
戻っても石を抱えて飢えるだけならどこかに行こうとリュードたちは移動することにした。
「トーイはどこから来たんだ?」
「私はえっと……あっちの道……だと思います」
流石に広いだけあって部屋に繋がる道はいくつもある。
進むと決めた以上どこか違う場所に向かわねばならない。
部屋の作りがシンプルすぎてトーイもどの道から来たかやや不安げだったけど、間違っていてもそんなに大きな問題じゃない。
トーイが来たと思われる道とリュードが来た道から遠いところにある道を選ぶ。
遠い道ならば回り回ってトーイやリュードの来た道に出ることが無さそうな道を選んだのである。
「トーイ、これ使え」
そしてリュードはトーイと武器は交換することにした。
リュードがハンマーを持ち、トーイが槍を持つ。
トーイにハンマーは重すぎたが、捨てていくにはもったいない武器である。
ナイフぐらいならズボンに忍ばせることはできるが、槍とハンマーの両方持つのは出来ない。
槍も置いておくにはもったいない武器なのでトーイに渡してリュードがハンマーを使うことにした。
トーイが槍を活用出来るかは分からないけどハンマーよりはマシだろう。
「しっかし……ここは一体なんなんだ?」
歩きながらずっと思っていた疑問を口にする。
一都市の下にこんな広い空間があるだなんて意味が分からない。
洞窟があっても別におかしことはないけれど、掘り進めて広げたような痕跡があちこちにある。
その上綺麗な掘り進め方をしたところもあれば雑に広げたようなところもある。
この場所が何なのか疑問に思わずにはいられない。
「ここは……何というか色々な用途で使用されていた場所です」
リュードがポツリと呟いた言葉にトーイが答えてくれた。
元々ここは綺麗な湧水が出ることから村ができて、交通の便の良さから人が集まり、町へと発展していった。
村ができた時にはここの下に洞窟があるなんて知られていなかったが、規模が大きくなるにつれて開拓が進んで洞窟の存在が判明した。
平和で、人の流れもあって、コロシアムなんかもできて、これからも発展が望まれる都市、それがマヤノブッカだった。
「昔は良いところだったと聞いたことがあります。けれどマヤノブッカも平和ではいられませんでした」
ある時戦争の災禍がマヤノブッカを襲った。
当時はトゥジュームではなく別の国に属していたマヤノブッカだが、隣国の王子が王女の求婚を断ったという理由で始まった戦争に巻き込まれたのである。
最初は攻め込む側だったので被害はなかったが、段々と戦況が悪化して国境まで押し返されると前線はマヤノブッカになった。
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