人と希望を伝えて転生したのに竜人という最強種族だったんですが?〜世界はもう救われてるので美少女たちとのんびり旅をします〜

犬型大

文字の大きさ
337 / 550
第五章

浅き欲望の果て9

しおりを挟む
「あぁ~。いいわぁ~」

 そんなことしてる場合じゃないだろうとツッコミが入りそうだがもはや我慢の限界だった。
 ネズミが熱すぎて汗もかいたし、避けるのに地面を転がって全身がジャリジャリしていた。

 長いこと体すら拭けていなかったので不清潔さにうんざりしていた。

 水溜りは程よい深さもあってつかるのにちょうどよかった。
 槍を抜いて転がり入った時は熱すぎるぐらいだと思っていたが、悩んでいる間に少し冷めてよりいい温度になっている。

 服ごと入るのも背徳的な感じがしてまた良かった。
 正確にはお風呂でもなく、怒る人もいないのでなんでもいいだろう。

 魔物は倒したし石を集めなくてよいので気楽なものだ。
 警戒はしなくてはいけないが、多くの人がやられていたので近い周辺の奴隷のほとんどが集まっていたと見てよい。

 それほど警戒もしなくても大丈夫なはずだ。

「やっぱり風呂はいいな……」

 タオルもないのでバシャバシャとお湯をかけながら顔や体を手で軽く擦るぐらいにしてリュードの入浴は終わった。
 一応トーイにも聞いてみたけど苦笑いで断られてしまった。

 どっちにしろ水溜りに突っ込んでしまって濡れていたので入浴しようがしまいが大きく気にしない。
 服は固く絞って水気を払ってよしとする。
 
「さて、進むか」

「ええっ、先に行くんですか?」

「少なくともここで魔物と沢山の奴隷たちと仲良くしてるつもりはないよ」

 もう石は集まったので危ない橋は渡りたくない。
 最初にいた部屋に閉じこもっていれば安全なのではないかとトーイは考えていた。

「まあ戻ってもいいけど、安全だとは限らない。それに石を集めたらどうするのか分からないし、何より引きこもっていても食料も何もないだろ」

「あっ……」

 リュードの方は多少節約しながら食べていたのでまだ少し残っていたけれど、いつ終わるか分からない状況下で二人が満足できるほどの量は到底ない。

「籠もってても腹が空くだけだ。こんな地下に食べ物があるかは分からないけど長く続けるつもりならどこかに食べ物ぐらい用意してあるはずだ。危険は伴うけど移動するしかない」

「……そうですね」

 このくだらない殺し合いの終わりがいつで、どうやったら終わるのかリュードたちは知らない。
 今はとりあえず生きねばならない。

 最後まで希望を捨てず、足掻いて、命を諦めないでいなければならないのだ。

「行こう」

「分かりました」

 石は集まったから目的を生存にシフトして動くことができる。
 先に敵がいることを察知できるなら危険は避けても問題なくなったのだ。

 もっと飢えていたならネズミを食べられるか検討するけど、今の状況でネズミはちょっとご遠慮したい。
 食はそれほど太くないのに遠慮なく食べてしまったことをトーイは後悔した。

 ただどの道数日分しかない食料なら節約したところでそれほど結果は変わらなかっただろう。
 戻っても石を抱えて飢えるだけならどこかに行こうとリュードたちは移動することにした。

「トーイはどこから来たんだ?」

「私はえっと……あっちの道……だと思います」

 流石に広いだけあって部屋に繋がる道はいくつもある。
 進むと決めた以上どこか違う場所に向かわねばならない。

 部屋の作りがシンプルすぎてトーイもどの道から来たかやや不安げだったけど、間違っていてもそんなに大きな問題じゃない。
 トーイが来たと思われる道とリュードが来た道から遠いところにある道を選ぶ。

 遠い道ならば回り回ってトーイやリュードの来た道に出ることが無さそうな道を選んだのである。

「トーイ、これ使え」

 そしてリュードはトーイと武器は交換することにした。
 リュードがハンマーを持ち、トーイが槍を持つ。

 トーイにハンマーは重すぎたが、捨てていくにはもったいない武器である。
 ナイフぐらいならズボンに忍ばせることはできるが、槍とハンマーの両方持つのは出来ない。

 槍も置いておくにはもったいない武器なのでトーイに渡してリュードがハンマーを使うことにした。
 トーイが槍を活用出来るかは分からないけどハンマーよりはマシだろう。

「しっかし……ここは一体なんなんだ?」

 歩きながらずっと思っていた疑問を口にする。
 一都市の下にこんな広い空間があるだなんて意味が分からない。

 洞窟があっても別におかしことはないけれど、掘り進めて広げたような痕跡があちこちにある。
 その上綺麗な掘り進め方をしたところもあれば雑に広げたようなところもある。

 この場所が何なのか疑問に思わずにはいられない。

「ここは……何というか色々な用途で使用されていた場所です」

 リュードがポツリと呟いた言葉にトーイが答えてくれた。
 元々ここは綺麗な湧水が出ることから村ができて、交通の便の良さから人が集まり、町へと発展していった。

 村ができた時にはここの下に洞窟があるなんて知られていなかったが、規模が大きくなるにつれて開拓が進んで洞窟の存在が判明した。
 平和で、人の流れもあって、コロシアムなんかもできて、これからも発展が望まれる都市、それがマヤノブッカだった。

「昔は良いところだったと聞いたことがあります。けれどマヤノブッカも平和ではいられませんでした」

 ある時戦争の災禍がマヤノブッカを襲った。
 当時はトゥジュームではなく別の国に属していたマヤノブッカだが、隣国の王子が王女の求婚を断ったという理由で始まった戦争に巻き込まれたのである。

 最初は攻め込む側だったので被害はなかったが、段々と戦況が悪化して国境まで押し返されると前線はマヤノブッカになった。
 マヤノブッカは周辺が開けていて防御に弱い。

 しかしそれでいながら交通の要所となっていたので取ったり取られたりを繰り返すことになった。
 その戦争のために使われたのがこの地下の洞窟であった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~

エース皇命
ファンタジー
 学校では正体を隠し、普通の男子高校生を演じている黒瀬才斗。実は仕事でダンジョンに潜っている、最近話題のAランク冒険者だった。  そんな黒瀬の通う高校に突如転校してきた白桃楓香。初対面なのにも関わらず、なぜかいきなり黒瀬に抱きつくという奇行に出る。 「才斗くん、これからよろしくお願いしますねっ」  なんと白桃は黒瀬の直属の部下として派遣された冒険者であり、以後、同じ家で生活を共にし、ダンジョンでの仕事も一緒にすることになるという。  これは、上級冒険者の黒瀬と、美少女転校生の純愛ラブコメディ――ではなく、ちゃんとしたダンジョン・ファンタジー(多分)。 ※小説家になろう、カクヨムでも連載しています。

異世界サバイバルゲーム 〜転移先はエアガンが最強魔道具でした〜

九尾の猫
ファンタジー
サバイバルゲームとアウトドアが趣味の主人公が、異世界でサバゲを楽しみます! って感じで始めたのですが、どうやら王道異世界ファンタジーになりそうです。 ある春の夜、季節外れの霧に包まれた和也は、自分の持ち家と一緒に異世界に転移した。 転移初日からゴブリンの群れが襲来する。 和也はどうやって生き残るのだろうか。

人の才能が見えるようになりました。~いい才能は幸運な俺が育てる~

犬型大
ファンタジー
突如として変わった世界。 塔やゲートが現れて強いものが偉くてお金も稼げる世の中になった。 弱いことは才能がないことであるとみなされて、弱いことは役立たずであるとののしられる。 けれども違ったのだ。 この世の中、強い奴ほど才能がなかった。 これからの時代は本当に才能があるやつが強くなる。 見抜いて、育てる。 育てて、恩を売って、いい暮らしをする。 誰もが知らない才能を見抜け。 そしてこの世界を生き残れ。 なろう、カクヨムその他サイトでも掲載。 更新不定期

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します

burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。 その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。

タイム連打ってなんだよ(困惑)

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
「リオ、お前をパーティから追放する。お前のようなハズレスキルのザコは足手まといなんだよ」  王都の冒険者ギルドにて、若手冒険者のリオは、リーダーの身勝手な都合によってパーティから追い出されてしまい、同時に後宮では、聖女の降臨や第一王子の婚約破棄などが話題になっていた。  パーティを追放されたリオは、ある日商隊の護衛依頼を受けた際、野盗に襲われる可憐な少女を助けることになるのだが、彼女は第一王子から婚約破棄された上に濡れ衣を着せられて迫害された元公爵令嬢こと、アイリスだった。  アイリスとの出会いから始まる冒険の旅、行く先々で様々な思惑によって爪弾きにされてしまった者達を受け入れていく内に、彼はある決意をする。 「作ろう。誰もが幸せに過ごせる、そんな居場所を」  目指すべき理想、突き動かされる世界、そしてハズレスキル【タイム連打】に隠されたリオの本当の力とは?    ※安心安全安定安泰の四安揃った、ハピエン確定のハズレスキル無双です。 『エ○ーマンが倒せない』は関係ありません。

処理中です...