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第一章
新たなる門出
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なんとハニアスはさらりと一緒に行きますと答えた。
拍子抜けするほどの答えであったがハニアスの方も何かを感じていたのである。
1人で巡礼の旅をするぐらいならテシアと一緒に行く方がいい。
決断の早さはいかにも肉体派らしくはあった。
「明日旅に出ようと思います」
ビノシ商会に行って物を受け取ってきたテシアはマリアベルとハニアスを部屋に呼んで宣言した。
「そうかい。それは寂しくなるね」
「もう準備はできているのでいつでも出発できます」
「それじゃあ今日はお別れだから良い店でも……テシア、何をするつもりだ?」
にこやかに笑ってテシアはテーブルの上に置いてあったナイフを鞘から抜いた。
それで何をするのかとマリアベルが怪訝そうな顔をする。
「テシア……テシア!?」
テシアは腰まである長い髪を掴むとナイフを当て、そして一息に切った。
「良い子のテシアは終わり。明日からは私は出発する。皇女じゃないただのテシアとして」
ある意味での決意の表れ。
美しく伸ばしてきた髪を切って過去の自分と決別する。
「何もそんなことしなくても……」
「旅をする上であまり髪が長くても邪魔になります。それにこうして旅に出るつもりなのです」
テシアはナイフの横に置いたあったヘルムを被った。
すっぽりと頭を覆ってしまうもので、確かに髪が長いと少々被る時に邪魔にはなりそうである。
「ま、まさか……そこにある鎧は……」
「ええ、旅につけていくものです」
なぜ部屋に鎧があるのかマリアベルは気になっていた。
鎧はビノシ商会に頼んでいたもの。
テシアは鎧を着用して旅に出るつもりだったのである。
「なんでまたそんな面倒な……」
流石のマリアベルも困惑を隠せない。
神官騎士でもない神官の巡礼で鎧を身につけていく人など見たことがない。
身を守るという意味では分からなくもないが装備としては鎧は過分すぎる。
「私がテシアとして生きるためです」
「なんだって?」
「ほら、私って美人でしょう?」
「…………そうだね」
容姿に関しては言葉の返しようもない。
マリアベルもテシアほどの美貌の持ち主は見たことがなかった。
「きっと顔を晒して歩けば問題となることもあるでしょう。便利なことも多いのですが私はテシアとしてちゃんと中身を見てほしいのです」
テシアという人として旅先では過ごしたい。
顔を晒して歩けば見た目だけで良くも悪くも先入観が生まれてしまう。
だからヘルムを被ることにした。
顔が見えないテシアでもありのままに接してくれる人とありのままに接したいと思ったのである。
「まあ、テシアの好きにするといい」
どの道ヘルムを被るなと強制はできない。
テシアにはテシアの考えがあるのだとマリアベルは受け入れた。
「ヘルムを被るのも髪を短くするのいいけどちゃんと髪は整えなさい」
テシアの髪はナイフで適当に切ったのでギザギザになっている。
短い髪の方が便利なことも多い。
テシアの顔なら短くしていても似合うので文句はないが流石に適当すぎる。
「そうですね。そうします」
「ほんと、予想もつかないことをする」
「これまで全部計画計画で動いてきましたから」
ハニアスもまたちょっと驚いた顔をしていた。
「どうですか、似合いますか?」
「似合いますが私ももう少し整えた方がいいと思います。やりましょうか?」
「ではお願いできますか?」
意外とハニアスは器用でなんでも出来る。
人の髪を切ることもできるようなのでテシアはハニアスに髪を整えてもらった。
その後マリアベルの奢りでささやかながらお別れの食事会をした。
拍子抜けするほどの答えであったがハニアスの方も何かを感じていたのである。
1人で巡礼の旅をするぐらいならテシアと一緒に行く方がいい。
決断の早さはいかにも肉体派らしくはあった。
「明日旅に出ようと思います」
ビノシ商会に行って物を受け取ってきたテシアはマリアベルとハニアスを部屋に呼んで宣言した。
「そうかい。それは寂しくなるね」
「もう準備はできているのでいつでも出発できます」
「それじゃあ今日はお別れだから良い店でも……テシア、何をするつもりだ?」
にこやかに笑ってテシアはテーブルの上に置いてあったナイフを鞘から抜いた。
それで何をするのかとマリアベルが怪訝そうな顔をする。
「テシア……テシア!?」
テシアは腰まである長い髪を掴むとナイフを当て、そして一息に切った。
「良い子のテシアは終わり。明日からは私は出発する。皇女じゃないただのテシアとして」
ある意味での決意の表れ。
美しく伸ばしてきた髪を切って過去の自分と決別する。
「何もそんなことしなくても……」
「旅をする上であまり髪が長くても邪魔になります。それにこうして旅に出るつもりなのです」
テシアはナイフの横に置いたあったヘルムを被った。
すっぽりと頭を覆ってしまうもので、確かに髪が長いと少々被る時に邪魔にはなりそうである。
「ま、まさか……そこにある鎧は……」
「ええ、旅につけていくものです」
なぜ部屋に鎧があるのかマリアベルは気になっていた。
鎧はビノシ商会に頼んでいたもの。
テシアは鎧を着用して旅に出るつもりだったのである。
「なんでまたそんな面倒な……」
流石のマリアベルも困惑を隠せない。
神官騎士でもない神官の巡礼で鎧を身につけていく人など見たことがない。
身を守るという意味では分からなくもないが装備としては鎧は過分すぎる。
「私がテシアとして生きるためです」
「なんだって?」
「ほら、私って美人でしょう?」
「…………そうだね」
容姿に関しては言葉の返しようもない。
マリアベルもテシアほどの美貌の持ち主は見たことがなかった。
「きっと顔を晒して歩けば問題となることもあるでしょう。便利なことも多いのですが私はテシアとしてちゃんと中身を見てほしいのです」
テシアという人として旅先では過ごしたい。
顔を晒して歩けば見た目だけで良くも悪くも先入観が生まれてしまう。
だからヘルムを被ることにした。
顔が見えないテシアでもありのままに接してくれる人とありのままに接したいと思ったのである。
「まあ、テシアの好きにするといい」
どの道ヘルムを被るなと強制はできない。
テシアにはテシアの考えがあるのだとマリアベルは受け入れた。
「ヘルムを被るのも髪を短くするのいいけどちゃんと髪は整えなさい」
テシアの髪はナイフで適当に切ったのでギザギザになっている。
短い髪の方が便利なことも多い。
テシアの顔なら短くしていても似合うので文句はないが流石に適当すぎる。
「そうですね。そうします」
「ほんと、予想もつかないことをする」
「これまで全部計画計画で動いてきましたから」
ハニアスもまたちょっと驚いた顔をしていた。
「どうですか、似合いますか?」
「似合いますが私ももう少し整えた方がいいと思います。やりましょうか?」
「ではお願いできますか?」
意外とハニアスは器用でなんでも出来る。
人の髪を切ることもできるようなのでテシアはハニアスに髪を整えてもらった。
その後マリアベルの奢りでささやかながらお別れの食事会をした。
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