悪役皇女の巡礼活動 ~断罪されたので世直しの旅に出ます~

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第一章

善きことをする男2

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「う……」

「起きたかい?」

「う、うわっ! くっ……!」

「早急に動くと傷が開くよ」

 目が覚めて隣にヘルムを被ったやつがいたら驚いてしまうのは仕方ない。
 ベッドから飛び起きてテシアから距離を取った男は脇腹の痛みに顔を歪めた。

 額に乗せていたタオルがパサリと落ちる。

「簡単に止血をして包帯を巻いてある。神聖力での治療はしていないから安心するといい」

 世の中の人がみんな同じ神を信仰しているわけではない。
 中には教会を毛嫌いしていたり自然に身を任せたままの方がいいと考える人もいる。

 神官たちによる聖なる力での治療をありがたがる人は多いけれど嫌だと拒否する人も一定数いる。
 そんな人を勝手に神聖力で治療すると後々面倒なことになるので同意が得られないのなら通常のケガの処置だけに留めるのが常識である。

 余程の緊急事態であれば別の話だが、今回は普通の処置でも死にはしなさそうだったので宿に戻って止血をして包帯を巻いておいた。

「あなたが助けてくださったのですか?」

「いいえ、神があなたをお助けになったのでしょう」

 少しぼんやりとした記憶を引き出してみるとヘルムを被った人がいきなり盗賊に切り込んできて助けてくれたことを思い出した。
 この隙になんとかせねばならないと残る同族を倒したもののそのまま気を失ってしまった。

「感謝します。あなた……いや、あなたたちのおかげで助かった」

 男は頭を下げながらもう一人いたことを思い出して言い方を修正する。

「どれも神のお導きによるものです」

 こうした時には神様も便利で、とりあえず神のおかげだと言っておけば返しには困らない。

「あなたは神官……なんですか?」

「はいそうです」

 声色をやや低めに保ってテシアは答える。
 改めて顔を見てみると綺麗な顔立ちをしている。

 夜空のような漆黒の瞳に濡れたような艶やかさもある黒い髪、顔は整っていて甘すぎない男性らしさもある。
 今は怪我の影響から少し青白くはなっているがそれもまた儚さがあるように顔を魅せる。

「あら、起きられましたか」

 そこにハニアスが入ってきた。
 このまま起きなければ一度ぐらい包帯を変えるつもりで替えの包帯、傷口を拭くためのタオルと水を持ってきていた。

「ああ、どうも助けていただいてありがとうございます」

「助けるのが間に合ってよかったです」

 頭を下げた男にハニアスも下げ返す。

「あなたたちは一体……?」

「私たちは巡礼をしております神官です。私はハニアス。こちらはテシアと申します」

「俺はキリアンと申します。どうして助けてくれたんですか?」

「厄介事に首突っ込んで自ら死のうとしているバカがいるから止めてくれって頼まれたのさ」

「テシア様……」

 テシアの歯に衣着せぬ物言いにハニアスは少しだけ呆れた表情を浮かべた。
 大きくいえば間違ったものではないが言い方というものがある。

「いいか、勇気を持って行動することと向こう見ずに無謀な行動することは違うんだ」

 テシアの言葉にグサリときたキリアンは渋い顔をした。

「最悪あんたが死ぬだけならいい。だがあんたの蛮勇は村人たちも危険に晒したんだぞ」

 テシアの声から怒りを感じるなとハニアスは思った。
 命を投げ出すような行動だけを怒っているのではなさそうだ。

「あんたがあのまま倒れれば盗賊は村人があんたをけしかけたのだと考えるだろう。そうなったらその代償を払うのは誰だ?」

「そ、それは……」

「村人たちだ。あんたのことを理由にもっと金をせびるかもしれない。下手すれば怒りのままに誰かが傷ついたかもしれない。助けようとする気概は認めるが、確実さも考えもなしに行動すれば迷惑を被るのはあんた以外の人なんだよ」

 確かにそうかもしれないとハニアスは思った。
 降って湧いたように急に村人でもない人が盗賊を討伐になんてこない。

 すると少なくとも誰かが盗賊のことを話した。
 もしかすると盗賊を倒したようにお願いしたと考えるかもしれない。

 真実がいかなるものであれ盗賊は怒るだろう。
 その怒りの矛先が向けられる先は村人である。

 キリアンの行いは村人たちを助けるどころか一歩間違えれば危険に晒す行いなのであった。
 テシアが怒っているのはそこだった。

 今回はたまたまテシアたちが通りかかって助けに行き、奇襲に成功したからよかった。
 そうでなかったらそれこそ兵士が差し向けられるような惨事が起きていたかもしれないのだ。

「……その通りです。申し訳ない」

 言い訳のしようもないテシアの忠告にキリアンは大きく項垂れた。

「そもそもなぜ一人で助けようなどと突っ走った?」

 よく考えれば一人じゃ厳しいことぐらい分かるはずだ。
 そんなに急を要する事態にも見えなかったが事情があったのかもしれない。

「……俺は善きことをしなければならないのです」

「はぁ?」

 生来の正義感の持ち主であることをそう表現しているのだろうかとテシアは思ったがなんだか違いそうである。

「事情は話せませんが俺は善きことをしなきゃいけないんです。ただ助けたいという思いは確かにありました」

 顔を上げたキリアンの目は真剣であるがテシアはヘルムの中で呆れた顔をした。
 善きことをしなければならないとは何なのか。

 教会の教えとしても善行を進んで行うことは推奨されているし人としてもすべきことであるが、義務のようにやらねばならないことではない。
 それに独善的な善行は時として善行たり得ないこともある。

 危険とまではいかないがどこか独りよがりな考えであるとテシアは苦々しく思った。

「……良いことをするのは構わないがその過程と、その行動が産む結果をしっかり考えるんだ」

「深く反省します……」

 ただキリアンはバカでもなさそう。
 善きことをしなければならないということの危うさをある程度分かっていそうな雰囲気もあった。
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