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第一章
クイーンを怒らせた
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ガダンが駆けつけた時、ニンクアは部屋から消えていた。
しかし黒狼会のボスであるズグは捕らえることはできたし、違法な植物は部屋に残されたままだった。
ニンクアと黒狼会との繋がりが分かるものも見つかった。
一応ニンクアは貴族だったらしくビノシ商会の行いは大問題となった。
けれどこれを好機とばかりにダイコクは集めていた黒狼会の犯罪の証拠や今回出てきた違法な植物、その影響が広がっていることなどの資料を国に叩きつけた。
それでも自国の貴族に手を出したことに難色を示していたのだが、教会もビノシ商会を援護し、ニンクアのことを非難するような声明を出した。
ゲレンネルは自分たちに民衆の非難の矛先が向くことを恐れて手のひらを返したようにビノシ商会の行いを正義によるものだと褒め始めたのである。
「例のものにつきまして少しずつは見つかっているのですが大量に保管されているようなところは未だにありません」
「ですが商売にしているということはどこかに倉庫のようなものがあるはずだ。少なくとも栽培場のようなものあるから町中ではなく外に目を向けて調べてみるんだ」
教会では割り当てられたアリアの部屋。
治療は受けたが体の中にまだ植物の成分が残っているのでそれが完全に抜け切るまで安静にしているようにとアリアは外出も許されなかった。
そこにダイコクがガダンを引き連れて事後の報告をしに来ていた。
ゲレンネルの国としての腹の内はともかくニンクアと黒狼会は危険な植物を売り捌く悪とされ、ビノシ商会はその悪行を止めようとした英雄的扱いをされていた。
このまま手柄を渡したくないゲレンネルがビノシ商会から受け取った証拠を元にして今は調査を行っているが、ニンクアの行方も違法な植物の保管場所もわかっていない。
けれどテシアはここまでされてニンクアを逃すつもりも許すつもりもない。
絶対に探して罪は償わせる。
それに逃してしまうとまた復讐に来るかもしれない。
町中にある怪しい場所や黒狼会の拠点などはしらみつぶしに探したのに見つからない。
まだ別にどこか拠点があるのだとテシアは考えた。
違法な植物も見つかっていないのでそうしたものを保管しておく場所があるはずなのだ。
「確かに町の東側に森が広がっていただろう? そこを中心に探すんだ」
そしてニンクアは背中を刺されるという大怪我をしている。
遠くに移動はできない。
テシアの推測では森の中のどこかに栽培場と保管しておく場所があり、そこにニンクアも逃げ込んでいると睨んでいた。
「分かりました。すぐに捜させます」
「見つけたら国の方に教えてあげるといい。利益と名誉が守れればそちらの方は何も言わないはずだ」
今回の件で動いたのがビノシ商会だということはもうみんな分かっている。
最後の手柄はゲレンネルの方にくれてやればいい。
実益はビノシ商会が、最後にニンクアを捕まえて裁いたという体面的な名誉はゲレンネルが持っていく。
これがいい引き際である。
「……お体大丈夫ですか?」
「ああ、もう治ったというのにみんな大袈裟だ」
「今からでも護衛をつけましょうか? こちらはだいぶ安定してきましたらのでガダンをテシア様に……」
「いいと言っているだろう?」
ダイコクが心配そうな目でテシアを見ている。
元皇女であるテシアが護衛もなく旅をすることをダイコクは心配していた。
こうして皇女時代に関わることで問題が起きた以上はテシアの身辺警護を強めた方がいいのではないかと思っている。
けれどテシアは首を振る。
「この旅は皇女テシアの旅じゃない。ただのテシアが世の中を見て回る旅なんだ。こうした問題が起きたときには助けも求めるけど基本的には自分の力でなんとかして前に進まなきゃいけないんだ」
「……テシア様のそうしたところ私はお好きですよ。ですが老婆心ながらに心配している老いぼれがここにいることは忘れないでいただきたいです」
「ありがとう、ダイコク。でもまだ老いぼれというには若いじゃないか?」
「いえいえ、そんなことはないですとも」
「テシア様を心配してるのは商会長だけではないですからね」
ダイコクの後ろに控えていたガダンも優しい目をテシアに向けている。
「うん、分かっているよ。今回のようなことが滅多に起こるとは思わないけどちゃんと気をつけるよ」
「またこうしたことがあったら今度はテシア様に止められても俺がついていきますからね」
「そうなったら頼りにするよ」
「それではあまり長いこと話していてもテシア様のお体にさわるかもしれません。それにニンクアを見つけて突き出してやらねば」
「もう大丈夫だって言ってるのに」
「ふふふ、それでも心配するのが年寄りというものです」
テシアを安心させるためにも。
話をし終えたダイコクはテシアの部屋を出るとすぐさま森をどう捜索するかを考え始めていた。
しかし黒狼会のボスであるズグは捕らえることはできたし、違法な植物は部屋に残されたままだった。
ニンクアと黒狼会との繋がりが分かるものも見つかった。
一応ニンクアは貴族だったらしくビノシ商会の行いは大問題となった。
けれどこれを好機とばかりにダイコクは集めていた黒狼会の犯罪の証拠や今回出てきた違法な植物、その影響が広がっていることなどの資料を国に叩きつけた。
それでも自国の貴族に手を出したことに難色を示していたのだが、教会もビノシ商会を援護し、ニンクアのことを非難するような声明を出した。
ゲレンネルは自分たちに民衆の非難の矛先が向くことを恐れて手のひらを返したようにビノシ商会の行いを正義によるものだと褒め始めたのである。
「例のものにつきまして少しずつは見つかっているのですが大量に保管されているようなところは未だにありません」
「ですが商売にしているということはどこかに倉庫のようなものがあるはずだ。少なくとも栽培場のようなものあるから町中ではなく外に目を向けて調べてみるんだ」
教会では割り当てられたアリアの部屋。
治療は受けたが体の中にまだ植物の成分が残っているのでそれが完全に抜け切るまで安静にしているようにとアリアは外出も許されなかった。
そこにダイコクがガダンを引き連れて事後の報告をしに来ていた。
ゲレンネルの国としての腹の内はともかくニンクアと黒狼会は危険な植物を売り捌く悪とされ、ビノシ商会はその悪行を止めようとした英雄的扱いをされていた。
このまま手柄を渡したくないゲレンネルがビノシ商会から受け取った証拠を元にして今は調査を行っているが、ニンクアの行方も違法な植物の保管場所もわかっていない。
けれどテシアはここまでされてニンクアを逃すつもりも許すつもりもない。
絶対に探して罪は償わせる。
それに逃してしまうとまた復讐に来るかもしれない。
町中にある怪しい場所や黒狼会の拠点などはしらみつぶしに探したのに見つからない。
まだ別にどこか拠点があるのだとテシアは考えた。
違法な植物も見つかっていないのでそうしたものを保管しておく場所があるはずなのだ。
「確かに町の東側に森が広がっていただろう? そこを中心に探すんだ」
そしてニンクアは背中を刺されるという大怪我をしている。
遠くに移動はできない。
テシアの推測では森の中のどこかに栽培場と保管しておく場所があり、そこにニンクアも逃げ込んでいると睨んでいた。
「分かりました。すぐに捜させます」
「見つけたら国の方に教えてあげるといい。利益と名誉が守れればそちらの方は何も言わないはずだ」
今回の件で動いたのがビノシ商会だということはもうみんな分かっている。
最後の手柄はゲレンネルの方にくれてやればいい。
実益はビノシ商会が、最後にニンクアを捕まえて裁いたという体面的な名誉はゲレンネルが持っていく。
これがいい引き際である。
「……お体大丈夫ですか?」
「ああ、もう治ったというのにみんな大袈裟だ」
「今からでも護衛をつけましょうか? こちらはだいぶ安定してきましたらのでガダンをテシア様に……」
「いいと言っているだろう?」
ダイコクが心配そうな目でテシアを見ている。
元皇女であるテシアが護衛もなく旅をすることをダイコクは心配していた。
こうして皇女時代に関わることで問題が起きた以上はテシアの身辺警護を強めた方がいいのではないかと思っている。
けれどテシアは首を振る。
「この旅は皇女テシアの旅じゃない。ただのテシアが世の中を見て回る旅なんだ。こうした問題が起きたときには助けも求めるけど基本的には自分の力でなんとかして前に進まなきゃいけないんだ」
「……テシア様のそうしたところ私はお好きですよ。ですが老婆心ながらに心配している老いぼれがここにいることは忘れないでいただきたいです」
「ありがとう、ダイコク。でもまだ老いぼれというには若いじゃないか?」
「いえいえ、そんなことはないですとも」
「テシア様を心配してるのは商会長だけではないですからね」
ダイコクの後ろに控えていたガダンも優しい目をテシアに向けている。
「うん、分かっているよ。今回のようなことが滅多に起こるとは思わないけどちゃんと気をつけるよ」
「またこうしたことがあったら今度はテシア様に止められても俺がついていきますからね」
「そうなったら頼りにするよ」
「それではあまり長いこと話していてもテシア様のお体にさわるかもしれません。それにニンクアを見つけて突き出してやらねば」
「もう大丈夫だって言ってるのに」
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