さるのゆめ

トマトふぁ之助

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巣窟にて

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 幡の言い分はこうだった。本当に今夜、緋猿の封印儀式を行ってしまうこと。そうすれば幡という肉の檻で緋猿は守られ、呪紋を提示することで兄の体面も保つことができる。
 この小屋の周りには特殊な結界が張ってあるため、声が外に漏れることはないと言う。窓もないので遠慮する必要もない。
 「やり方はわかんだろ。さっさと抱け」
 幡は結えた紐を解き、その襟元を開く。白い首筋が燭台の灯りに照らされて浮かび上がった。渋面のまま緋猿の手を掴み、自らの薄い胸へと押し当てる。
 「…………たまげるなあ」
 「チッ、早く覚悟決めろよ!尻かしてやるっつってんだぞ!!」
 爪をついと滑らせれば破れてしまいそうな白磁の肌。指の腹から伝う心音は爆発しそうに激しいものだった。
 「早く突っ込んで出すもん出せや!!一晩しかねえんだぞ、さっさと済ませて寝たいんだ。朝が来たら説教が待ってんだからよ!」
 緋猿は首を傾げる。キャンキャン喚く青年の目が、威勢の割にまったく合わない。酔った火照りで誤魔化しているが首筋から頬にかけて嫌な汗が伝っている。
 「……なあ、幡よ。そう構えることではないぞ。儂とまぐわうつもりなら、まず肩の力を抜け」
 「んな悠長な、」
 「お前一寸前までおぼこだったのだぞ?そんななあ、儂だって腸を裂かれて糞を漏らす餓鬼の世話などしたくはない故、一呼吸つけ。ゆるりとせい」
 「はぁ……?」
 白無垢の裾ごと掬い上げられ、緋猿の膝へ召し上げられる。手をつけていなかったお猪口を摘み、それを幡の小さな手に握らせる。
 「お前は呑み方がなっとらん」
 「酒なんか入れば同じだろ……」
 「本当にそうか?同胞と飲み明かす夜も、お前は味わいもせず、一息に飲み干すのか?」
 「ん、ぐ……」
 「ほれ、舐めるくらいで結構。あとは好きにアテを選べ。……ふん、小童、肉より他に好物はないのか?まあいい。食えるうちに食っておけ」
 緋猿の誘導により、小屋の中の空気は緩み始めた。お互いへの愚痴から生活への労いに雪崩れ込み、共に最も長く過ごした件の中庭をぽつぽつと思い出して語り合った。大半は緋猿の思い出噺だ。緋猿の弟子たちが成長するにつれ生意気になり、師である己にばかりきつくなったとか、一座イチの助平は誰であったかなど、話すのはたわいも無いがまだ温みを残した話題であった。
 「くっだらねえ~!!」
 「お前とて笑っておるではないか。ン?いつの時代も猥談は手応えがあるな。実に良い」
 「……つうかさ、その、確かに楽しんだけど……。朝になるまでもう時間ねえんじゃねえの?」
 「ああそれか、忘れておったわ。よっと」
 「ウェエッ!?へ、部屋がっ」
 床が抜けた、と幡は思った。室内の四方、その床の一面だけを地の底へ落下させたように、がくんと幡たちは床板に乗ったまま薄い暗がりへ急降下した。身構える間も無く尻にずしんと衝撃が走る。それほど痛くはない。エレベーターが停止する時の衝撃を幾分強くした程度だ。
 「よし。あとはお前が仕上げてくれ」
 「はァ!?」
 「儂から取り上げた神域があるだろう。ここは常世だ。屋敷を広げても構わない」
 言葉の後すぐに、幡の片目に収められていた緋猿の領域が空間へ溶け出した。まだらに踊り、宙を漂った霞が瞬く間に輪郭をはっきりと取り戻し始める。神楽殿付きの超豪邸が幡の目の前に現れた。かつての澱んだ空気は何処へやら、ところどころ手入れのなされていない荒れ具合の割には、暖かく清浄な気が満たされていた。
 「こ、こんなんだったっけ……?」
 「お前の掃除のおかげかもな。建てたときより立派なのではないか?さあ行くぞ。呑み直して、それから一回眠ればいい。起きたらば何をする?なあに、急くことはない!神域ならば時間を気にすることもないからなあ」
 「え、ええっ!?おい待てよ!下ろせ!離せって!!」

 人の世と、神域に流れる時間はその速さが違う。洞窟に入ってすぐに出てきてみれば三年経っていた、なんてのはよくある昔話だが、その逆もまたあり得ることだ。戻る時間の座標がはっきりとわかっていれば、神域でいくら過ごそうとも寸分違わず現世に戻ってくることができる……らしい。世界を行き来することは基本的に自殺行為だ。戻れなくなった場合、世界の狭間を放浪し続ける羽目になる。そこらの不思議体験は一通りこなしているつもりの幡でも、これは些か恐ろしかった。
 「なあ、いつになったら……その……」
 「んん?ああ。そうさな。お前のほとが広がってからな」
 緋猿は少しも焦っていなかった。緋猿の神域で、昼間は荒れ果てた屋敷の掃除、夜になると小さな酒宴を楽しんだ。簡単な生活のための設備は少し整えればすぐに使えるようになり、風呂釜の修理を終えて緋猿と二人で酒を酌み交わした晩にはこの生活に妙な充足感さえ感じるようになっていた。
 「いや、だからぁ!!一発ヤればそれでいいんだって。前は入ったろ!?」
 「入れた、が正しいなァ。あれは千切れた腸をその都度治して使っていたのだ。流石に眷属たちのものはそこまでではないが、たまに事故があるでな。儂は特に太さがある故、耐え切れる人間がいないのよ。広げてやるに越したことはない」
 幡は顔を青くして尻に手を当てた。不本意ではあったが、今直腸には緋猿の指示で細い張型が仕込んである。
 「このゴミ糞レイプ猿……!じゃ、じゃぁいつになるんだよぉ……!!」
 「そうさなあ。あと一月はいるだろうなア」
 草木染めの着物を身に纏った幡の細い腰が丸太のような腕に抱かれる。酒宴のあとは、予行演習と称して挿入なしのふれあいを行うのが習慣になっていた。
 「焦るな焦るな、どれだけかけようとあの晩に戻してやる。現実で流れる時間に直せば、神域での暮らしなど瞬きほどにもならんよ」
 そう言って着物の帯を解く手つきは実に楽しそうであった。寝床へ運ばれて尻の穴を張型でいじめられる時間が、変な癖がついてしまいそうで幡には恐ろしかった。えげつなく勃起した異形の巨根に慄きながらのこきあいっこも、獣の手コキで空になったタマを懐紙で拭きながら身を預けたままする寝落ちも、本当ならそんな馴れ合いは必要ないとして拒否するべきなのだろう。幡の常識は徐々に破壊され、快楽に押し流されていった。単純に緋猿と過ごす時間が楽しかったことも要因の一つだ。何かにつけて歳上風を吹かせたがるこの魔猿は、文句を言いつつ非常に甲斐甲斐しく振る舞う。
 「う、うぅう……っ!!ぉ、ぐっ!!お♡そ、こぉ……ッ♡!!」
 「よーしよし。いいぞ……もう少し力を抜け。手前の感覚に集中しろ」
 穴を拡張する張型は日毎に大きなものになっていった。ごちゅごちゅと、突起付きの木型が腹の内側を幾度も刺激する。麻の浴衣を羽織った青年が床に転がされ、尻を高く掲げさせられている。とろみのついたローションは、かつて信者に貢がせたものらしかった。
 「皆使えんで無駄になっとったが、いやこれも便利よの」
 「ングう~っ……!!ひやっとする……ひっ!!ん、ふぐ、っ♡!!んぅうッ♡!!」
 「このしこりを叩くと目つきが変わること……たまらんなあ」
 「ん、ぁっ♡!!ああっ♡!!ぁんっ」
 目標の半分の太さを咥え込むまであっという間であった。幡が達して乱れるほど緋猿は喜び、細くしなやかな腕で扱かせた異形の根から、勢いよく精を浴びせかけた。朝まで共寝して昼は共同作業に飯炊き、神域の整備に努め、夜になれば言葉もなく体をすり寄せ合う日々が過ぎていく。
 ほとんど緋猿と同じものを腹に収めたとき、呼吸を乱れさせながら幡は無意識にキスをねだった。行為前の飲酒で熱った肌にひくひくと震えが走っている。ごろん、と褥に仰向けになり、覆いかぶさってくる魔猿の首に腕を回す。
 「はぁ、ん、ふー、くるし……!は、入った……くそでけー……!!ん、ふ……んむ」
 口腔を割って、幡の薄い舌が絡めとられる。絡めては離し、角度を変えながら宥めるようなキスを施された。張型を咥えた下腹がぞくぞくと疼く。全身を緩めるように浴衣を緩められ、大きな手で摩ったり、撫でられたりしていると恍惚感に呑まれそうになった。キスは徐々に深くなり、喉元さえ内から舐め上げられる始末だが、以前のような苦しさは薄く思えた。意識が霞んで力が抜ける。幡はぼんやりと、広がりきった後孔を収斂させた。
 およそ三十分はそうしていたらしい。蝋燭が切れたので、扱き合いの前に緋猿が交換に立った。横たわった青年は蕩け切った顔を布団へ擦り付け、ゆっくり息を整えている。
 「もう良さそうだな」
 緋猿の呟きが聞こえる。それさえも心地いい。ぞりぞり張型の引き抜かれる感覚に、幡は声もなく射精してしまった。
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