ヒトの飼い方

トマトふぁ之助

文字の大きさ
5 / 5

宇宙でふたり

 その後キリル所有の無人惑星は栄えた。光太郎は進化のできない晩年の地球に人間を増やし続け、大都市一個分まで人口を増やしたところで新しい住民を望まなくなった。復活させた人間の知り合いがあらかた寿命を迎えたことが大きな要因らしい。あれから100年、少しも老いることない健康な青年に、しかし拠り所はなくなってしまったようだ。
 「トウキョウに行かなくていいのかい」
 「俺がいなくても住民たちは管理されていますので、あなたの仕事を手伝います。一応食わせてもらっている身ですから」
 キリルもまた、その孤独につけ込んだ。光太郎を側に置いてから、宇宙在来生物研究員としてのペーパーワークをこなす時間が増えた。彼が増やしてくれた同族のおかげで論文制作も倍のペースで進んでいる。何十体と増えたキリルのクローンは家事労働他何にでも実に都合よく稼働していた。
 目の前で光太郎が複数の惑星から送られてきた研究報告書をてきぱき分類している。負けず劣らずこれもよく働くもので、ニンゲンの頭脳労働も馬鹿にはできないと思えてくる。
 「久しぶりにしようか」
 「……もう蟲下しはしたでしょう。お、俺も、もう歳ですし……」
 「そうか。残念至極」
 林檎のように真っ赤になる光太郎は確かに百二十歳、肉体年齢は青年期のままだが、ニンゲンとしては間違いなく老齢だ。肩にかけていた触手を降ろして、淹れてもらったヴァーヒーのマグを掴む。
 「…………っ」
 「む。美味い。腕が上がったね、……?コウタロウ?脈拍が乱れているが大丈夫か」
 「うるさい!!急に自由意志を尊重するふりをしないで下さい!!人間は宇宙人みたいに野蛮じゃないんですよ!も、もっと、段階があるんです」
 「段階。交尾への発情プロセスのことか」
 「そういう即物的な感じじゃなくてぇ……!!ふ、雰囲気とか……」
 光太郎が2本しかない腕で空をかくが、そのジェスチャーで伝わるものはなさそうだ。キリルは三角頭をうねらせて思考する。なぜ急に興奮し出したのだろう。
 「そうか、君本当は交尾したかったのか」
 「はぁ!?」
 「違うのかい。一度拒否するように見せかけて更なる求愛行動を欲していたのでは?私のアプローチが生温かったな、すまない」
 「違うっ!もういい、あなたに期待した俺が馬鹿でした!!」
 「待て待て」
 「離せぇ!!」
 書斎を出ていこうとする彼を触手で絡め取って引き寄せる。憤慨している光太郎の抵抗は抱き込まれた段階で大人しくなり、キリルはますます確信を強めた。おそらく交尾自体は拒まれていない。その上で、何かの「期待」を受けているのだ。
 「必ず君を満足させてみせる。大丈夫だ、脳機能を壊さない限界値を見極めて行うから安心してくれ」
 ちがうぅ……と地を這うような声で光太郎が鳴く。異星間コミュニケーションの難しさを実感しながら、キリルはお気に入りのニンゲンを抱えて書斎を出て行った。
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜

トマトふぁ之助
BL
 某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。  そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。  聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

繋ぎの婚約を契約通り解消しようとしたら、王宮に溺愛軟禁されました

こたま
BL
エレンは子爵家のオメガ令息として産まれた。年上のアルファの王子殿下と年齢が釣り合うオメガ令息が少なく、他国との縁組も纏まらないため家格は低いが繋ぎとして一応婚約をしている。王子のことは兄のように慕っており、初恋の人ではあるけれど、契約終了時期か王子に想い人が現れた時には解消されるものと考えていた。ところが婚約解消時期の直前に王子宮に軟禁された。結婚を承諾するまでここから出さないと王子から溢れるほどの愛を与えられる。ハッピーエンドオメガバースBLです。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。顔立ちは悪くないが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…? 2025/09/12 ★1000 Thank_You!!

お客様と商品

あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。