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第7話
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「これがあの人からの手紙なのね」
「はい。そうです」
「お疲れ様、杉さん」
「いえいえ、このぐらいお安い御用です」
「いつもありがとね。杉さん」
「そんな事ありません」
「では、さっそく読ませてもらいますわ」
「私はこれで失礼します。ごゆっくりしてお読みください」
これでよかったのだろうか。
そんな不安が頭をよぎる。
夜、風呂場で考えるのはその事ばかりだ。
湯船に浸かって1日の疲れをとるが、頭の思考はとどまる事を知らない。
どんどん、マイナスな思考だけが頭の中を占領していく。
どうしたらいいんだ。どうすれば良かったんだ。
答えのない自問自答が頭の中を通過する。
グルグルと絶え間なく。
いくら考えても、答えなど出てくるはずもなく、重い体を持ち上げて俺は、脱衣所にでた。
体の水分を乾いたタオルで拭いて、寝巻きに着替える。
夜ご飯は、何も作る気力もなく買いだめしたカップ麺で済ませた。
自分の書いた手紙が誰かの笑顔になる。
そんな事を今まで想像して書いた事など一度もなく、自分の気持ちをだらだらと書くぐらいと思っていた手紙が、突然の誰かの為になるなんて事は初めての事だ。
どんな事を書けばいいのか。
どんな事を書けば相手は傷つかなくて済むのか。
そんな事を書いた手紙に果たして、俺の気持ちがこもっているのか。
考えと言うのは止まることを知らないみたいだ。
どうしても、足立美沙さんの事を考えると不安になる。
俺は、彼女の事について何も知らない。
そんな俺が、彼女の事に出来る事は何もない。
思い考えを振り切ろうと早めに寝た。
翌日。晴天。
晴れ晴れとした空が俺の目にじりじりと入ってくる。
学校の為、いつものように身支度をして、玄関を開けるとそこには、足立咲さんがいた。
「おはよー。仲間君」
「おはよう。足立さん」
俺は、後ろにたじろぎ朝の挨拶を返した。
「なんで、足立さんが俺の家知ってるの?」
「ん、あー杉さんに聞いたんだ」
「そうなんだ」
「うん」
足立さんは、キョロキョロと家の中を見ていた。
「足立さん、なんか用かな?」
「そうだ!お姉ちゃんがね、手紙読んだって!」
「そうなんだ、」
朝からその話題がきて、頭が昨日の考えに戻ってしまった。
「どうしたの?元気ないみたいだけど」
「あっうん、大丈夫だよ。はは」
「それならいいけど」
なんでだろう。冷や汗が背中を伝うのがわかる。
自分でもわからない。
考えすぎなのかもしれない。それが正解かもな。そんな事を頭の中で考える。
「じゃあ、学校行こうか」
足立咲さんはそう言ってニコッとした微笑みを向けてくる。
「そうだね」
作り笑いの笑顔で答える。
こうやって、女の人としかも同級生と歩くなんて初めての事で俺はなんとも言えぬ緊張を覚えていた。
足立咲さんはどんな顔をしているのか?そう思って彼女の方をチラ見する。
足立咲さんは普通に小声で鼻歌を歌いながら何くわぬ顔で歩いていた。
彼女は、隣に異性がいるのに緊張とかしないのか?そんな疑問が頭の中に浮かんだ。
「足立さんって、こうやって並んで歩いても緊張しないの?」
「うーん。あんまりしないかな」
「そうなんだ」
「あっもしかしてこう並んで歩いてると恋人どうしみたいって思ったのかなぁ~」
「ぶふっ、そそんなわけないよ」
「慌ててる。かわいい~」
足立咲さんはいつもの小悪魔のような笑顔を向けてくる。
俺は、その笑顔にほっとしていた。
~とある街の病院~
「これがあの人の返事の手紙なのね」
「はい。そうです」
「ここに書いてあるのは間違いないのね」
「彼は嘘をつけない性分なので事実だと思います」
「そうよね。やっぱりあの事を覚えていないのね」
「そのようですね」
「やっぱり、私にもあの力があれば…」
「それはあまりにも危険ですので、お辞めになられた方が」
「でも、1度だけでもいい。あの力さえ」
「また、お父様がご心配になられます」
「そう、よね」
「はい」
学校に着くと、毎日の喧騒がそこにあった。
変わらない日常。
変わってはいけない日常。
あの手紙以来、俺の周りにはたくさんの出会いと問題が舞い降りてきた。
なぜ足立美沙さんは俺の事を知っているのか?
なぜ俺は、足立美沙さんの事を何も知らないのか?
グルグルと行ったり来たりで、頭の中がとてもせわしない。
昔の俺に何があったのか?その事を聞ける人は多分、俺の家族と足立美沙さんだけだ。
しかもあいにく2人ともいない。なんとも運とタイミングが悪い。
こんな事で大丈夫なのか?今回の件で、本来あった心配性が悪化していってるのがわかる。
ため息と共に教室に入る。
ガヤガヤとしたざわめきがいつもの騒がしいクラスでほっとする。
ここに来れば、いつもと同じ日常だと思う。変わらずに世界は動いている。そんな事を実感する場所だ。
「おっす!おはよう!悠」
「おはよう、本間」
本間のこの挨拶も俺の中の毎朝の恒例行事みたいなものだ。むしろこれがないと朝と実感しないと思う。
「なぁ本間。国木田はどうしたんだ?」
「さぁな?俺も朝からみてねぇんだよ」
本間とセットで挨拶してくる国木田の姿が見当たらない。
「ちょっと、俺トイレ行ってくる」
「おう、行ってこい」
本間が急いで教室からでていき、俺は教科書などを机の引き出しに入れる。
休みかな?国木田?なんて事を考えていると、前側のドアから入ってきた。
「おはよう、国木田」
俺は国木田の近くに小走りで寄って行った。
「あぁおはよう」
少しだけ俺の顔を見て国木田は挨拶を返す。
この一連の行動を少し不審に思ったが、国木田も人間だ。何か悩み事もあるのだろう。そう思って、俺は国木田に聞いてみる。
「なぁ、国木田。なんか悩みとかあるか?」
すると、はっとした顔になった。
「い、いや何でもない。むしろ何もない」
「じゃあ何でさっきあんなに驚いたんだ」
「お前が、変な事を言うから」
「俺、何も変な事言ってないよ」
「そうか。なら俺の空耳かな」
「そうかもな、ははは」
「ははは」
そんな事を話してたら、トイレから戻った本間が国木田を見つけて、開口一番に飛びつく。
「おっはよー。心配したぜ国木田ぁぁ~」
「そうか。ありがとな」
「へへ~褒められたぜ!」
これが俺たちの通常運転だ。そんな事を感じて、俺はほっとしていた。
昼休み。俺は、図書室に仕事があり、昼飯を食べた後、誰もいない図書室で1人本の整理をしていた。
埃のかぶった本を1冊1冊取り出して、付近で表紙と背表紙を綺麗にふく。
そんな作業を続けていると、ふと1冊の本を見つけた。
本のタイトルは『時空旅行』と言う本。
初めてみる本なのに、なぜか懐かしく感じてしまう。なぜだ。
俺は、パラパラと本をめくり軽く流し読みをしてみた。
時空を移動できる能力をもつ人が時空を旅するだけの本。
しかし、俺はこの初めてみる本に異様な懐かしさを感じた。
これは何なんだ。おかしい。変だ。一体俺の思考はどうなっているんだ?
俺は、昼休みのベルが鳴った後急いで、『時空旅行』と言う本を借りた。
「何~その本すげぇ」
教室に戻り、自分の席について教科書など授業の準備をしていると、本間が机の上に置いていた本に興味を示した。
「この本、図書室にあったの?」
「そうなんだ。で、なぜか俺はこの本を借りたと言うわけだ」
「へぇ~」
「てか、そろそろ授業始まるから、席に戻っとけよ」
「あーい」
本間が自分の席に戻った後すぐに教科の先生がきた。
俺は急いで、机の上の本を直した。
放課後。俺は足立咲さんに呼ばれた。
足立咲さんは、『時空旅行』を持ってこいと言っていた。
片手に本を持って、屋上に向かう。
そこには、春の風を受けて仁王立ちの足立咲さんがいた。まぁ呼んだのは彼女だし当たり前か。
「ねえ、仲間君。その本さ、懐かしいって思ったでしょ」
俺はドキッとした。なぜ彼女は俺が思った事を知っているんだ?
「あっ、その顔は『何でわかったんだ』って顔だね」
どうやら彼女は俺の心の中が読めるらしい。
「この本と俺に何か関係があるのか?」
「知りたい?」
「うん、知りたい」
ゴクリと生唾を飲み込む。
「その本ね。実はお姉ちゃんが好きな本なんだ」
家に着いた俺は、わけのわからない感情に襲われていた。
なぜ俺が、足立美沙さんの好きな本について知ってる?んだ。
しかも、「懐かしい」なんて事を思ってしまった。
俺は全く知らないのに、何でこう思ってしまうんだよ。
俺の心に自問自答するが答えは返ってこない。
ざわついた気分を変えるために、俺は今日借りてきたあの本。『時空旅行』を読む。
ぱらりと1ページずつめくる。
初めて読む本なのに、こんなに懐かしいなんて。
俺の中に知らない記憶があるのというのか?
そんな事を考えながら、黙々と本を読んだ。
内容は、どこにでもあるSFだった。
主人公の男の子が時空を超えて、好きな女の子に愛の告白をする。端的に言えばこうなる。
そこまでの冒険などは、何度も読んだ事がある、SFと同じでなぜこの本が懐かしいのか不明だった。
ここまで、俺の海馬にあるすべての記憶が一斉に手を挙げたような変な感覚は、今までで初めてだった。
どこにでもある、普通のSFがここまでとは。
唖然とした気持ちを抱えるにつれ、とある考えが浮かんだ。
「この本は、足立美沙さんと関係あるのではないのか?」
これはあくまで予想だが、あの夢の事といい、今回のこの本といい、俺の知らないものがこんなに懐かしいなんて思うはずがないと。
これは予想だが、やってみないと意味がない。
と意気揚々と意気込んだが、この問題を解決する方法がない。
やっぱり、明日咲さんに聞いてみよう。そしたらこのモヤモヤも晴れるかもしれない。
そんな事を考えながら、布団の中に入った。
夢の中だと気付いたのは、自分の体を見てからだ。
今の季節では考えられないぐらい、ふかふかのコートを着ていた。この格好で1発で分かった。
周りを見渡せば、しんしんと降る雪を急ぎ足で歩く人々。
俺は、道の真ん中でただ突っ立ってた。
『歩こう』そんな事を考えても、足は地に根をはったみたいで動かない。
おかしい。なんで自分の体なのに自由にできないんだ。
動こうと悪戦苦闘していると、遠くから俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。
それはどこかで聞いた声だ。懐かしい。
その瞬間、俺の体はすっと力がぬけたような感じがした。
俺は、自分の名前を呼ばれた方を振り返った。
そこには、1人の女性が……
パッと目が覚めた。
布団から勢いよく上がり、周りをキョロキョロ見渡す。
いつもの家だ。
どうやら、またもや夢オチだったみたいだ。
なんて事だ。なんかおかしい。なんでだ?
疑問を口にすればキリがない。
頭を支配するのは、この疑問だけだ。
『俺は、どうなっているんだ?』
雲ひとつない空の下を俺は、憂鬱になりながら歩いていた。
するとどこかで声がした。
「何するんですか!」
女の子の声だ。
俺は、すぐに俺の中にある変な正義感が働いた。
すると、男3人に囲まれた女の子がいた。
何か言い合っているようだ。
「あの、すみません」
そう声をかけると、3人の男がギロリとこっちを向いてきた。怖い。
「なんかようかよ。クソガキ」
「女の子が可愛そうなんでそろそろ囲うのやめてあげたらどうですか?」
そう言うと「お前には関係ないだろ」と男の1人が言ってきた。
女の子を見ると何くわぬ顔でこっちを向いてきた。
「だったら、コソコソとせまい場所でそんな事をするなんて女々しいですね」
「お前には…」
「もうちょっと人通りのある所でやった方が男らしいですよ」
男が話す最中に話を割り込んでさっさと女の子を救出。
握った腕の柔らかさにドキドキして走り去る。
何もなかったように俺はその子に「大丈夫?」と聞いた。
女の子は「うん」といって「助けてくれてありがとう」それだけを残して去っていった。
朝からいい事をしたという謎の充実感で胸がいっぱいになり、危うく学校に遅刻するところだった。
教室に入り安堵のため息をつくと、後ろから声をかけられた。
「仲間君おはよう」
「足立さん、おはよう」
ビクッとなりながら、俺は平静を装い挨拶を返した。
「今日の昼休み、ちょっといいかな?」
昼休みの俺の予定はなく、二つ返事でオッケーした。
なんの話だろうか?毎度のように予想を立てる。
もしかして、あの本のことなのだろうか?
そんな事を考えながら授業を受ける。
昼休み。俺は、足立さんに呼ばれた屋上に向かった。
そこには、すでにメロンパンをもぐもぐしてた足立さんがいた。
「ごめん、待たせて」
「いいよ。私も今来たところだから」
「ところでさ、用事って何かな?」
足立さんの食べる手が止まった。
「あの本ね、お姉ちゃんが大好きな本なんだ」
「そうなんだ」
「実はね、仲間君ねあの本読んだ事あるんだよ」
聞かされた言葉は意外でしかも、信憑性がひどく薄い話だ。
さすがに冗談だ。そんな事を考えた。
「俺はあの本、昨日はじめて見つけて、読んだんだよ。過去に読んだ事なんて」
「そうなんだ」
「うん」
「じゃあさ、あの本を見て懐かしいとか思わなかった?」
「なつ、かしい、」
確かに、初めて見つけた時はなぜかわからないが懐かしいと思ってしまった。
「懐かしいとか思ったら、お姉ちゃんにまた手紙書いてあげてね」
そう言って、足立さんは去っていった。
「また手紙かよ」
苦々しい思いが胸に広がった。
「はい。そうです」
「お疲れ様、杉さん」
「いえいえ、このぐらいお安い御用です」
「いつもありがとね。杉さん」
「そんな事ありません」
「では、さっそく読ませてもらいますわ」
「私はこれで失礼します。ごゆっくりしてお読みください」
これでよかったのだろうか。
そんな不安が頭をよぎる。
夜、風呂場で考えるのはその事ばかりだ。
湯船に浸かって1日の疲れをとるが、頭の思考はとどまる事を知らない。
どんどん、マイナスな思考だけが頭の中を占領していく。
どうしたらいいんだ。どうすれば良かったんだ。
答えのない自問自答が頭の中を通過する。
グルグルと絶え間なく。
いくら考えても、答えなど出てくるはずもなく、重い体を持ち上げて俺は、脱衣所にでた。
体の水分を乾いたタオルで拭いて、寝巻きに着替える。
夜ご飯は、何も作る気力もなく買いだめしたカップ麺で済ませた。
自分の書いた手紙が誰かの笑顔になる。
そんな事を今まで想像して書いた事など一度もなく、自分の気持ちをだらだらと書くぐらいと思っていた手紙が、突然の誰かの為になるなんて事は初めての事だ。
どんな事を書けばいいのか。
どんな事を書けば相手は傷つかなくて済むのか。
そんな事を書いた手紙に果たして、俺の気持ちがこもっているのか。
考えと言うのは止まることを知らないみたいだ。
どうしても、足立美沙さんの事を考えると不安になる。
俺は、彼女の事について何も知らない。
そんな俺が、彼女の事に出来る事は何もない。
思い考えを振り切ろうと早めに寝た。
翌日。晴天。
晴れ晴れとした空が俺の目にじりじりと入ってくる。
学校の為、いつものように身支度をして、玄関を開けるとそこには、足立咲さんがいた。
「おはよー。仲間君」
「おはよう。足立さん」
俺は、後ろにたじろぎ朝の挨拶を返した。
「なんで、足立さんが俺の家知ってるの?」
「ん、あー杉さんに聞いたんだ」
「そうなんだ」
「うん」
足立さんは、キョロキョロと家の中を見ていた。
「足立さん、なんか用かな?」
「そうだ!お姉ちゃんがね、手紙読んだって!」
「そうなんだ、」
朝からその話題がきて、頭が昨日の考えに戻ってしまった。
「どうしたの?元気ないみたいだけど」
「あっうん、大丈夫だよ。はは」
「それならいいけど」
なんでだろう。冷や汗が背中を伝うのがわかる。
自分でもわからない。
考えすぎなのかもしれない。それが正解かもな。そんな事を頭の中で考える。
「じゃあ、学校行こうか」
足立咲さんはそう言ってニコッとした微笑みを向けてくる。
「そうだね」
作り笑いの笑顔で答える。
こうやって、女の人としかも同級生と歩くなんて初めての事で俺はなんとも言えぬ緊張を覚えていた。
足立咲さんはどんな顔をしているのか?そう思って彼女の方をチラ見する。
足立咲さんは普通に小声で鼻歌を歌いながら何くわぬ顔で歩いていた。
彼女は、隣に異性がいるのに緊張とかしないのか?そんな疑問が頭の中に浮かんだ。
「足立さんって、こうやって並んで歩いても緊張しないの?」
「うーん。あんまりしないかな」
「そうなんだ」
「あっもしかしてこう並んで歩いてると恋人どうしみたいって思ったのかなぁ~」
「ぶふっ、そそんなわけないよ」
「慌ててる。かわいい~」
足立咲さんはいつもの小悪魔のような笑顔を向けてくる。
俺は、その笑顔にほっとしていた。
~とある街の病院~
「これがあの人の返事の手紙なのね」
「はい。そうです」
「ここに書いてあるのは間違いないのね」
「彼は嘘をつけない性分なので事実だと思います」
「そうよね。やっぱりあの事を覚えていないのね」
「そのようですね」
「やっぱり、私にもあの力があれば…」
「それはあまりにも危険ですので、お辞めになられた方が」
「でも、1度だけでもいい。あの力さえ」
「また、お父様がご心配になられます」
「そう、よね」
「はい」
学校に着くと、毎日の喧騒がそこにあった。
変わらない日常。
変わってはいけない日常。
あの手紙以来、俺の周りにはたくさんの出会いと問題が舞い降りてきた。
なぜ足立美沙さんは俺の事を知っているのか?
なぜ俺は、足立美沙さんの事を何も知らないのか?
グルグルと行ったり来たりで、頭の中がとてもせわしない。
昔の俺に何があったのか?その事を聞ける人は多分、俺の家族と足立美沙さんだけだ。
しかもあいにく2人ともいない。なんとも運とタイミングが悪い。
こんな事で大丈夫なのか?今回の件で、本来あった心配性が悪化していってるのがわかる。
ため息と共に教室に入る。
ガヤガヤとしたざわめきがいつもの騒がしいクラスでほっとする。
ここに来れば、いつもと同じ日常だと思う。変わらずに世界は動いている。そんな事を実感する場所だ。
「おっす!おはよう!悠」
「おはよう、本間」
本間のこの挨拶も俺の中の毎朝の恒例行事みたいなものだ。むしろこれがないと朝と実感しないと思う。
「なぁ本間。国木田はどうしたんだ?」
「さぁな?俺も朝からみてねぇんだよ」
本間とセットで挨拶してくる国木田の姿が見当たらない。
「ちょっと、俺トイレ行ってくる」
「おう、行ってこい」
本間が急いで教室からでていき、俺は教科書などを机の引き出しに入れる。
休みかな?国木田?なんて事を考えていると、前側のドアから入ってきた。
「おはよう、国木田」
俺は国木田の近くに小走りで寄って行った。
「あぁおはよう」
少しだけ俺の顔を見て国木田は挨拶を返す。
この一連の行動を少し不審に思ったが、国木田も人間だ。何か悩み事もあるのだろう。そう思って、俺は国木田に聞いてみる。
「なぁ、国木田。なんか悩みとかあるか?」
すると、はっとした顔になった。
「い、いや何でもない。むしろ何もない」
「じゃあ何でさっきあんなに驚いたんだ」
「お前が、変な事を言うから」
「俺、何も変な事言ってないよ」
「そうか。なら俺の空耳かな」
「そうかもな、ははは」
「ははは」
そんな事を話してたら、トイレから戻った本間が国木田を見つけて、開口一番に飛びつく。
「おっはよー。心配したぜ国木田ぁぁ~」
「そうか。ありがとな」
「へへ~褒められたぜ!」
これが俺たちの通常運転だ。そんな事を感じて、俺はほっとしていた。
昼休み。俺は、図書室に仕事があり、昼飯を食べた後、誰もいない図書室で1人本の整理をしていた。
埃のかぶった本を1冊1冊取り出して、付近で表紙と背表紙を綺麗にふく。
そんな作業を続けていると、ふと1冊の本を見つけた。
本のタイトルは『時空旅行』と言う本。
初めてみる本なのに、なぜか懐かしく感じてしまう。なぜだ。
俺は、パラパラと本をめくり軽く流し読みをしてみた。
時空を移動できる能力をもつ人が時空を旅するだけの本。
しかし、俺はこの初めてみる本に異様な懐かしさを感じた。
これは何なんだ。おかしい。変だ。一体俺の思考はどうなっているんだ?
俺は、昼休みのベルが鳴った後急いで、『時空旅行』と言う本を借りた。
「何~その本すげぇ」
教室に戻り、自分の席について教科書など授業の準備をしていると、本間が机の上に置いていた本に興味を示した。
「この本、図書室にあったの?」
「そうなんだ。で、なぜか俺はこの本を借りたと言うわけだ」
「へぇ~」
「てか、そろそろ授業始まるから、席に戻っとけよ」
「あーい」
本間が自分の席に戻った後すぐに教科の先生がきた。
俺は急いで、机の上の本を直した。
放課後。俺は足立咲さんに呼ばれた。
足立咲さんは、『時空旅行』を持ってこいと言っていた。
片手に本を持って、屋上に向かう。
そこには、春の風を受けて仁王立ちの足立咲さんがいた。まぁ呼んだのは彼女だし当たり前か。
「ねえ、仲間君。その本さ、懐かしいって思ったでしょ」
俺はドキッとした。なぜ彼女は俺が思った事を知っているんだ?
「あっ、その顔は『何でわかったんだ』って顔だね」
どうやら彼女は俺の心の中が読めるらしい。
「この本と俺に何か関係があるのか?」
「知りたい?」
「うん、知りたい」
ゴクリと生唾を飲み込む。
「その本ね。実はお姉ちゃんが好きな本なんだ」
家に着いた俺は、わけのわからない感情に襲われていた。
なぜ俺が、足立美沙さんの好きな本について知ってる?んだ。
しかも、「懐かしい」なんて事を思ってしまった。
俺は全く知らないのに、何でこう思ってしまうんだよ。
俺の心に自問自答するが答えは返ってこない。
ざわついた気分を変えるために、俺は今日借りてきたあの本。『時空旅行』を読む。
ぱらりと1ページずつめくる。
初めて読む本なのに、こんなに懐かしいなんて。
俺の中に知らない記憶があるのというのか?
そんな事を考えながら、黙々と本を読んだ。
内容は、どこにでもあるSFだった。
主人公の男の子が時空を超えて、好きな女の子に愛の告白をする。端的に言えばこうなる。
そこまでの冒険などは、何度も読んだ事がある、SFと同じでなぜこの本が懐かしいのか不明だった。
ここまで、俺の海馬にあるすべての記憶が一斉に手を挙げたような変な感覚は、今までで初めてだった。
どこにでもある、普通のSFがここまでとは。
唖然とした気持ちを抱えるにつれ、とある考えが浮かんだ。
「この本は、足立美沙さんと関係あるのではないのか?」
これはあくまで予想だが、あの夢の事といい、今回のこの本といい、俺の知らないものがこんなに懐かしいなんて思うはずがないと。
これは予想だが、やってみないと意味がない。
と意気揚々と意気込んだが、この問題を解決する方法がない。
やっぱり、明日咲さんに聞いてみよう。そしたらこのモヤモヤも晴れるかもしれない。
そんな事を考えながら、布団の中に入った。
夢の中だと気付いたのは、自分の体を見てからだ。
今の季節では考えられないぐらい、ふかふかのコートを着ていた。この格好で1発で分かった。
周りを見渡せば、しんしんと降る雪を急ぎ足で歩く人々。
俺は、道の真ん中でただ突っ立ってた。
『歩こう』そんな事を考えても、足は地に根をはったみたいで動かない。
おかしい。なんで自分の体なのに自由にできないんだ。
動こうと悪戦苦闘していると、遠くから俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。
それはどこかで聞いた声だ。懐かしい。
その瞬間、俺の体はすっと力がぬけたような感じがした。
俺は、自分の名前を呼ばれた方を振り返った。
そこには、1人の女性が……
パッと目が覚めた。
布団から勢いよく上がり、周りをキョロキョロ見渡す。
いつもの家だ。
どうやら、またもや夢オチだったみたいだ。
なんて事だ。なんかおかしい。なんでだ?
疑問を口にすればキリがない。
頭を支配するのは、この疑問だけだ。
『俺は、どうなっているんだ?』
雲ひとつない空の下を俺は、憂鬱になりながら歩いていた。
するとどこかで声がした。
「何するんですか!」
女の子の声だ。
俺は、すぐに俺の中にある変な正義感が働いた。
すると、男3人に囲まれた女の子がいた。
何か言い合っているようだ。
「あの、すみません」
そう声をかけると、3人の男がギロリとこっちを向いてきた。怖い。
「なんかようかよ。クソガキ」
「女の子が可愛そうなんでそろそろ囲うのやめてあげたらどうですか?」
そう言うと「お前には関係ないだろ」と男の1人が言ってきた。
女の子を見ると何くわぬ顔でこっちを向いてきた。
「だったら、コソコソとせまい場所でそんな事をするなんて女々しいですね」
「お前には…」
「もうちょっと人通りのある所でやった方が男らしいですよ」
男が話す最中に話を割り込んでさっさと女の子を救出。
握った腕の柔らかさにドキドキして走り去る。
何もなかったように俺はその子に「大丈夫?」と聞いた。
女の子は「うん」といって「助けてくれてありがとう」それだけを残して去っていった。
朝からいい事をしたという謎の充実感で胸がいっぱいになり、危うく学校に遅刻するところだった。
教室に入り安堵のため息をつくと、後ろから声をかけられた。
「仲間君おはよう」
「足立さん、おはよう」
ビクッとなりながら、俺は平静を装い挨拶を返した。
「今日の昼休み、ちょっといいかな?」
昼休みの俺の予定はなく、二つ返事でオッケーした。
なんの話だろうか?毎度のように予想を立てる。
もしかして、あの本のことなのだろうか?
そんな事を考えながら授業を受ける。
昼休み。俺は、足立さんに呼ばれた屋上に向かった。
そこには、すでにメロンパンをもぐもぐしてた足立さんがいた。
「ごめん、待たせて」
「いいよ。私も今来たところだから」
「ところでさ、用事って何かな?」
足立さんの食べる手が止まった。
「あの本ね、お姉ちゃんが大好きな本なんだ」
「そうなんだ」
「実はね、仲間君ねあの本読んだ事あるんだよ」
聞かされた言葉は意外でしかも、信憑性がひどく薄い話だ。
さすがに冗談だ。そんな事を考えた。
「俺はあの本、昨日はじめて見つけて、読んだんだよ。過去に読んだ事なんて」
「そうなんだ」
「うん」
「じゃあさ、あの本を見て懐かしいとか思わなかった?」
「なつ、かしい、」
確かに、初めて見つけた時はなぜかわからないが懐かしいと思ってしまった。
「懐かしいとか思ったら、お姉ちゃんにまた手紙書いてあげてね」
そう言って、足立さんは去っていった。
「また手紙かよ」
苦々しい思いが胸に広がった。
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