群青に消える桜

ポレロ

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群青に消える桜

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  新緑の桜の木が、風でゆらゆらと揺れて、心地のいい音を立ている。俺は、ベンチに座って、その桜の木を見上げた。
「ミンミン」と蝉の鳴き声が耳に響きわたる。

  佐野と話してから、俺は、授業中ずっと考えを張り巡らせていた。
  どうやって、告白を切り出そうか?
  告白のセリフは、何がいいのか?
  そんな事ばかり考えていた。
『煩悩』そんな言葉が一番似合っているかもしれない。
  それでも、この気持ちは、いつかは伝えないといけないんだ。それが今日になった、それだけだ。
頭でいくら冷静を装っても、身体の方は反対に、心臓がバクバクと、激しい音を立てている。「おさまれ」といくら念じても、より一層激しくなるばかりだ。
これが、好きな人を思う気持ちなのか。
そんな、じんわりと胸があたたかくなっていく感覚がした。
  昼休み。いつものベンチで佐倉さんを待っていた。
  でも、いつもの様にワクワクとした気持ちではなく、ソワソワとした気持ちで、手汗が尋常ではないぐらいかいてきた。
  時折吹く風でカサカサと深緑色の桜の木を揺らす。
俺はふと、出会った日を思い出す。
あの春の事を。
  一目惚れで、それが初めての恋で、いろいろ悩んで、そして告白。
はっきり言って、今まで過ごした中で一番濃密だったと思う日々だ。
                    「好きだ」
  それだけを伝えたい。
  それだけでもいいから、届いて欲しい。
  俺の無け無しの頭で考えた、告白のセリフ。
いつかは、伝えるべき言葉を、今日この時に伝える。
俺は、首元にじっとりとした汗をかいていた。夏場の日向の暑さの汗ではなく、嫌な感じの汗だった。俺は、ポケットからハンカチを取り出して、首元を拭いた。口の中の水分が無くなっていく。握りしめる拳は、より一層の力を込めている。足は、時折ガクガクと震えている。
おかしいな、以前はこんな事なかったのに。
これが、告白前の男子の気持ちなのだとそう思う。
  これまで、いろんな友達の恋愛を沢山応援していたが、いざ、自分の番になると、どうしてこうも、緊張してしまうのか。
図書室の窓際の席に腰掛ける、佐倉さんを見守ればいいじゃないか。そう思ってしまう自分がいる。
でも、それじゃダメなんだ。自分の物にしたい。そう思う自分もいる。
どちらの方に従ったらいいんだ?俺の中に、大きなモヤモヤができる。どうしたらいいんだ?自問自答を繰り返してみるが、答えが見えない。そうやってモヤモヤしていたら
  「ごめん。待った?」
静かで、冷淡だけど時折優しさを含んだ声。
  「いっ嫌、全然」
緊張で声が上ずってしまった。おかしくないだろうか?そう思ってしまう気持ちをぐっと抑える。
  「さっ佐倉さん。話があるんだ」
  「何かな?」
  俺は、佐倉さんと向かい合い、口を開いた。
  「佐倉さん、俺は、君の事が好きです。
付き合ってください。」


  衣替えが終わり、本格的に秋になって行く、今日この頃。
特にやる事なく、ボォーと教室の窓の外を見ていた。
  あの日、俺は、佐倉さんに告白をした。
人生の中で初めて好きになった人。
その人は、もう居なくなっていた。

 夏休み明け、急にメールで佐倉さんに呼び出された。
あの日の返事かな?
そう思って、少しワクワクしていたが、彼女の口から出た言葉は、意外なものだった。
  「私の親が転勤になって、2学期から転校になったの」
冷淡な口調の中に、申し訳無さと、悲しさが入っていた。
  「そうなんだ……」
俺は、それしか言えなかった。
喉がカラカラになって、言葉が上手く出ない。
  「うん…だから、これを貰って欲しくて」
そう言って、佐倉さんは、一冊の本を鞄から出した。
                 『群青に消える桜』
  それが、この本のタイトル。
  「私と野々村君みたいで好きなんだ。」
  そう言ってはにかんだ佐倉さんは、とてもキレイだった。


  それから、俺は、本を読むようになった。
前みたいに佐倉さんと話したいとか、そんな考えではなく、ただ、佐倉さんとの関係を崩したくないから、そんな考えだった。

  それから、体育祭、文化祭が終わって、一年が過ぎた。
どれも、楽しんだが、頭の片隅には、いつも佐倉さんがいた。
  『俺は、本当に佐倉さんが好きなんだ』
  だんだんと心に一抹の寂しさと、モヤモヤを抱いていた。


  「野々村君」
その声に振り向いた。
聞いた事のある、冷淡だけど、優しさの含んだ声。
  そこには、桜色のワンピースを着た、佐倉さんがいた。
  「久しぶりだね」
  「うん」
俺は、佐倉さんに走りながら近づいた。
キラキラと光る太陽を背にしている佐倉さんは、とても眩しかった。
  「どうしてここにいるの?」
  「野々村君に急に会いたくなったんだ」
  「えっ」
彼女の口から出た言葉に、俺は戸惑った。
  「あの日の返事をまだしてなかったから」
ゴクリと生唾を飲み込み、ぐっと握りこぶしを強く握った。
  「私ね」
「バクバク」胸の音が俺の中で、最高潮に達している。
  「野々村君の事が」
目を閉じた。自分の体に気合をいれる。
                    「好きなんだ」
  パッと目を開けた。
  そこにいたのは、夢の中ではない、顔を赤くした、佐倉さんがいた。
  「だからね……よろしくお願いします」
  俺の頭の中が追いつかなかった。
  ボォーとした顔をこの時の俺は、していたのだろう。
クスクスと佐倉さんが笑っていた。
  「こっこちらこそ、お願いします」


  こうして、俺と佐倉さんは無事に恋人の関係になれたのだった。
  しかしながら、俺と佐倉さんは、離ればなれになったままで、今でも、遠距離恋愛進行中だ。
  それでもいい。
  なぜかって?それは、もちろん、こうして初々しい気持ちを忘れる事がないだろ。
このぐらいがいいんだよ。
  
  こうして、高3の春を、佐倉さんとの思い出のベンチに座って過ごす事が出来る。
  「ヒュー」
  風が桜の木を優しく揺らす。
  そして、桜の花びらが、群青色した空に消える。


                  「群青に消える桜」
  そう呟いて、本のページをめくる。
  さぁ行こう。佐倉さんと俺の新しい物語へ



                                                                  fin.
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