群青に消える桜

恋人になるには

  恋に発展するまで、俺は何時間も費やさないといけない。今まで、友達以下と思われている人にそれ以上の関係を望んでしまうと、友達以上の努力と時間が必要になってくる。それでも俺は、いつかこの気持ちが届く事を信じて、ただひたすらと長い道のりを歩んでいかないといけない。
  「キーンコーンカーンコーン」
授業終了を告げるチャイムが怠惰な空気が流れる教室に鳴り響いた。真面目に授業を受ける人もいれば、寝ている人もいる。俺も寝ている人の中の1人で、大あくびと軽い伸びをして立ち上がり、学級委員の一人が授業終了の号令をした。
  春の日差しは、学生の敵だと思うようになったのは、ちょうど中学2年だったと思う。
そんな事を思いながら、ボケェーと窓の外を見ていた。そして、軽く笑う。「ふっ」と。
  「どーしたよ、青斗そんな顔して」
  「何がだよ」
  「そんな馬鹿みたいなボケェーとした顔してんぞ」
  「マジで！」
俺は、慌てて窓ガラスに映る自分の顔を見た。そこには、いつもの俺がいた。
  「何にもなってねぇーじゃん」
俺は、隣にいる健に思い切りツッコんだ。
  「何信じてんだよ」
「ははは」と2人とも笑う。こんなゆるい毎日が俺にとって、とても心地よいものだった。
  「よう青斗。一緒に帰ろうぜー。」
  「そうだな。今日は、図書委員無いしいいよ。」
俺は椅子から立ち上がりそう言った。
  「どっか寄ってこうぜ。」
  「そうだな。じゃあ、あそこにするか」
俺は近くにあったファストフードの店を指指した。
  「オッケー」
  店内には、ちょうど帰り時という事で学生がぼちぼちいた。俺は、バニラシェイクとポテトを頼み、健はチョコシェイクとハンバーガーを頼んで席へと自分達の品を持って向かった。
ガヤガヤとした喧騒の中、俺はバニラシェイクを一口飲み、健にとある相談をした。
  「佐倉さんとの関係をこれからどうやって縮めていけばいいのかな？」
俺は、ポテトを一本見つめてそう聞いた。
  「さぁな」
健からの答えは、思った以上に簡単でさっぱりしたものだった。
  「さぁなって。健、俺は真面目に聞いてんだよ。」
  「別にどうでもいいからこんな答えを返したわけじゃ無い。」
そう言って健はチョコシェイクを一口飲み再び口を開いた。
  「恋の形なんて人に違う。だから、お前だけのやり方で佐倉さんってのを惚れさせたらいいんだよ」
  「俺だけのやり方…」
  「そうだよ。だから、これ以上俺は何も言えない。」
パクリとハンバーガーを健は大きな口で頬張った。
  「だからさ、なんだろ…恋愛は、十人十色だよ。青斗の良さで勝負したらいいんじゃ無いか？」
そう言って健は、また大きな口でハンバーガーを頬張る。俺も、バニラシェイクを一口飲む。どろっとした甘さとが口に広がる。つくづく恋とは難しいそう思った放課後だった。
  家に帰り、すぐに自分の部屋に行く。ブレザーとカバンをベットに放り投げる。すぐさま自分もベットにダイブする。「ギシッ」とした音が部屋中に広がる。頭の中で健に言われた事を思い出し、考える。どうしたら佐倉さんに恋人として思われるか。どうやったらいいか。そんな事を考えて瞬きをしている間に、健と食べたポテトとバニラシェイクがようやく消化されて、身体がポカポカと温かくなってきた。だんだんと瞬きする眼が重くなってきた。やばい、寝る。そう思った頃にはもう夢の中だった。
  そこから、ちゃんと夕飯を完食して、風呂に入り、そこから自室でゆっくりと佐倉さんの事を考えていた。最近ずっと、佐倉さんの事で頭がいっぱいで、暇さえあれば彼女の事ばっかり考えている。そこまで、俺の生活の一部に溶け込んでいる事に、驚きと嬉しさが混じった感情が俺の中で入り混じっている。
そして、今まで苦だった学校が、なぜか胸躍る遠足に行くような感じで飛び跳ねたい気持ちが生まれる。
  「これが、人を好きになる人の反応なのかな」
俺は、「むふふ」と笑いながら、ベットに入り、「早く明日が来ますように」と願いながら眠りについた。
  その日の朝はとても強烈に嬉しかった。それは、俺の隣にはあの佐倉さんがいるんだもの。詳しく話すと、珍しく朝早起きした俺は、時間に余裕を持って朝食を食べ、余裕を持って登校した。そしたら偶然にも、佐倉さんとの登校時間が重なったようで、学校までの、決して長くは無いけど通学路を歩いて登校しているわけだ。早起きは三文の得とは、このことだと思った。
  「佐倉さんは普段こんなに早いの？」
俺は、この胸のドキドキを悟られまいと頑張って冷静を装って質問した。
  「普段はこのくらいかな」
淡々と答えた佐倉さんはいつもの感じで、無表情だった。
  「野々村君はこんなに早いの？」
  「今日は珍しく朝早起きしたから、普段は遅刻ギリギリだよ」
俺は、軽く微笑みを浮かべて答えた。
  「へぇーそうなんだ」
またしても、淡々と冷淡に答えた。
  「……」
  「……」
沈黙が痛い。なんか話題になるものを、少しでも恋人になるよアピールをしないといけない。しかし、ワヤワヤしてしまってうまく話せない。
  「あのっ」
佐倉さんの声が聞こえて振り向くと、上目遣い気味の佐倉さんが小さな口を開き、
  「私、初めてなの。こうやって友達と2人で会話しながら登校するの」
  「そう、なんだ」
友達と言う言葉が、腹の底に落ちて重たい鉛のように俺にのしかかった。そうだよな、俺と佐倉さんはまだ友達。恋人になるには、もっとアピールしないといけない。胸が急に、強い握力で握り潰される感覚がした。いけない、焦っては。と何回も心の中でお経のように唱えた。ガヤガヤとした、喧騒が耳に入ってきた。もうそろそろ学校も近づいてきた。佐倉さんとの時間もこれで終わってしまう。何かいい案が無いか、無い脳みそをフルに使う。
  『恋愛は、十人十色だよ』
耳にこだましたのは健の言葉だった。
  「あっあのさ、今日の昼休み一緒に過ごさない」
俺は出来るだけ自分の顔が赤くならないか、細心の注意をして言った。
  「うん、いいよ」
  「マジで！じゃあいつもいるベンチね。」
そう言って俺は、自分の顔がにやけるのをガマンして、柔らかく笑った。
  健の言葉通り急がすに慌てずやっていけばいい。俺のやり方で恋人になっていく。俺の決意はダイヤのように硬く固まっていた。
     あの事件がなければ…