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健太、仕掛ける。
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木曜日、まだ人影もまばらな支店オフィスに青山健太の姿があった。やり残した仕事があるわけではない。都会の電器店が軒を連ねる専門店で購入した防犯カメラを設置するために早く出勤したのだ。
健太が手に入れた防犯カメラは小型、高解像度の最新型だ。120時間分録画出来るHDDと接続し、専用ロムとアプリをインストールすることで自宅のノートパソコンでもスマートフォンでもリアルタイム画像も録画画像も確認出来る。
窓際の健太のデスクとガラスの間には奥行き40cmほどの窓台がある。それを遮るようにブラインドが吊るされているので、窓際の席の社員はブラインドの向こうの窓台にカタログなどを置いていた。健太もスチールから取り出した分厚い資料を片付けるのが面倒だからと窓台に乱雑に積んでしまっている。
その資料を少しずらして隙間を作り、そこにカメラを設置した。同様にHDDもカタログの間に挟み込んで有線で繋ぐ。機材の設置はこれで完了だ。次に、スマートフォンを操作し事前にインストールしていたアプリを起動する。画面に斜め向かいのビルが映る。後はカメラの画角を調整するだけだ。
「おはようございます。青山さん早いですね。」
出社してきた川上奈々美が声をかける。健太は机に置いたスマートフォンを覗きながら、奈々美を一瞥した。
「いっつもギリギリなのに。何してるんです?」
「よし、出来た。」
健太は顔を上げて、奈々美に言った。
「昨日買ってきた防犯カメラ。このアプリ、インストールして。」
「防犯カメラ買ったんですか!すごいですね。」
奈々美は嬉しそうにタブレットにアプリを入れて起動させる。
「わっ。綺麗に映ってる。」
健太が設置したカメラは前面道路からビルの正面3階あたりまでを捉えている。
「120時間録画出来るから、帰ってからでも出入りのチェック出来るし。貼りつかなくて済むから楽だろ?」
「あれ?アイコンもう1つありますよ?青山さんが映ってる!」
「保険だよ。川上の後ろの棚にダンボールが乗ってるだろ。それに細工したんだ。」
誰も触らないダンボール箱にレンズに合う穴を開けてカメラを仕込んでいる。奈々美はダンボールをちらっと見てから、改めて健太を見た。心なしか侮蔑の視線のように感じる。
「な、なんだよ。」
「やらしー。隠し撮りですか。」
「カメラは隠したけど、そのつもりならアプリ教えないだろ。そもそも、もし映ったとしても川上は後頭部くらいだよ!」
健太は言い訳をしているようで情けなくなってきた。それとは裏腹に奈々美は、
「それもそっか。」
と、どっちでもいいやと言わんばかりの反応を示した。言いたかっただけなのかもしれない。
その日の夕方、健太と奈々美はファーストフード店で合流した。法務局で取得した謄本と公図、閲覧情報を記入したノート。それによると旧村に住む地主の土地、家屋とその周辺で見つけた田畑のどれもがその人の所有のままだ。
「オレの思い過ごしかもな。昨日もただ留守なだけだったのかも。また行ってみよっか?」
「そうですね。調整区域だし、簡単には他人に名義変えられないもんね。」
「カメラまで仕掛けといて今更なんだけど、何の変哲もないテナントビルだったりして。」
健太のその発言に奈々美は間髪入れず反論する。
「そんなのあり得ない。だって表にテナント看板さえ出てないんですよ?そんな貸しビルありません。」
それは確かにそうなのだ。健太はうーんと唸って考えを巡らせてみた。
「帝都重工関連のこと探してて、1つ気になるニュースを見つけたんです。」
しばしの沈黙の後、奈々美がタブレットに新聞記事を表示させた。それによると、自動車道出口付近で大型貨物牽引車がカーブを曲がりきれずに側壁に衝突。運転手が死亡、とある。事故のインターが支店最寄りということと、亡くなった方がいること以外取り立てて気になることはなさそうだ。
「どこが気になる?」
奈々美は画面をスライドさせて別のページを示した。
「この事故、掲示板で話題になってたんです。スレッドがいくつも立ってるから要約すると。」
警察への事故の一報は料金所の職員からだったが、事故車の後続から牽引車とバンから降りてきた男たちが大型貨物を後から来た牽引車に付け替え、救急車やパトカーの到着前に走り去った。
「なんか怖いな。」
健太は背筋に悪寒が走りぶるっと身震いした。
健太が手に入れた防犯カメラは小型、高解像度の最新型だ。120時間分録画出来るHDDと接続し、専用ロムとアプリをインストールすることで自宅のノートパソコンでもスマートフォンでもリアルタイム画像も録画画像も確認出来る。
窓際の健太のデスクとガラスの間には奥行き40cmほどの窓台がある。それを遮るようにブラインドが吊るされているので、窓際の席の社員はブラインドの向こうの窓台にカタログなどを置いていた。健太もスチールから取り出した分厚い資料を片付けるのが面倒だからと窓台に乱雑に積んでしまっている。
その資料を少しずらして隙間を作り、そこにカメラを設置した。同様にHDDもカタログの間に挟み込んで有線で繋ぐ。機材の設置はこれで完了だ。次に、スマートフォンを操作し事前にインストールしていたアプリを起動する。画面に斜め向かいのビルが映る。後はカメラの画角を調整するだけだ。
「おはようございます。青山さん早いですね。」
出社してきた川上奈々美が声をかける。健太は机に置いたスマートフォンを覗きながら、奈々美を一瞥した。
「いっつもギリギリなのに。何してるんです?」
「よし、出来た。」
健太は顔を上げて、奈々美に言った。
「昨日買ってきた防犯カメラ。このアプリ、インストールして。」
「防犯カメラ買ったんですか!すごいですね。」
奈々美は嬉しそうにタブレットにアプリを入れて起動させる。
「わっ。綺麗に映ってる。」
健太が設置したカメラは前面道路からビルの正面3階あたりまでを捉えている。
「120時間録画出来るから、帰ってからでも出入りのチェック出来るし。貼りつかなくて済むから楽だろ?」
「あれ?アイコンもう1つありますよ?青山さんが映ってる!」
「保険だよ。川上の後ろの棚にダンボールが乗ってるだろ。それに細工したんだ。」
誰も触らないダンボール箱にレンズに合う穴を開けてカメラを仕込んでいる。奈々美はダンボールをちらっと見てから、改めて健太を見た。心なしか侮蔑の視線のように感じる。
「な、なんだよ。」
「やらしー。隠し撮りですか。」
「カメラは隠したけど、そのつもりならアプリ教えないだろ。そもそも、もし映ったとしても川上は後頭部くらいだよ!」
健太は言い訳をしているようで情けなくなってきた。それとは裏腹に奈々美は、
「それもそっか。」
と、どっちでもいいやと言わんばかりの反応を示した。言いたかっただけなのかもしれない。
その日の夕方、健太と奈々美はファーストフード店で合流した。法務局で取得した謄本と公図、閲覧情報を記入したノート。それによると旧村に住む地主の土地、家屋とその周辺で見つけた田畑のどれもがその人の所有のままだ。
「オレの思い過ごしかもな。昨日もただ留守なだけだったのかも。また行ってみよっか?」
「そうですね。調整区域だし、簡単には他人に名義変えられないもんね。」
「カメラまで仕掛けといて今更なんだけど、何の変哲もないテナントビルだったりして。」
健太のその発言に奈々美は間髪入れず反論する。
「そんなのあり得ない。だって表にテナント看板さえ出てないんですよ?そんな貸しビルありません。」
それは確かにそうなのだ。健太はうーんと唸って考えを巡らせてみた。
「帝都重工関連のこと探してて、1つ気になるニュースを見つけたんです。」
しばしの沈黙の後、奈々美がタブレットに新聞記事を表示させた。それによると、自動車道出口付近で大型貨物牽引車がカーブを曲がりきれずに側壁に衝突。運転手が死亡、とある。事故のインターが支店最寄りということと、亡くなった方がいること以外取り立てて気になることはなさそうだ。
「どこが気になる?」
奈々美は画面をスライドさせて別のページを示した。
「この事故、掲示板で話題になってたんです。スレッドがいくつも立ってるから要約すると。」
警察への事故の一報は料金所の職員からだったが、事故車の後続から牽引車とバンから降りてきた男たちが大型貨物を後から来た牽引車に付け替え、救急車やパトカーの到着前に走り去った。
「なんか怖いな。」
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