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パンドラの箱

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 頭の中身がトルコアイスの如く、縦に勢いよく伸ばされたかのような心地の悪い感覚が襲う。意識はハッキリしている分、気分は最低だ。意識の転移がされたことには違いないが、通常Core内での意識転移でこのようなひどい感覚に陥ることはない。おそらくCore外のサーバーへの転移、それも転移時間の長さから複数の踏み台サーバーを経由していることが予想される。

やがて伸びきった意識がゴムのようにもとに戻り、自分という意識が顕在化される。

 目の前には床、締まりの無い表情、かつ、じっとりとした目で辺りを見回す。

6畳間ほどのワンルームで、窓もなく、生活感の無い部屋。身を隠すためのアジトといった印象だ。

ようやく身を起こし、頭に散乱した情報から状況を整理しようと、頭の中のcpuがようやく稼働を始める。

謎の暴漢の突撃、知らないロリ少女、意識の転移、知らない部屋……

自分と少女の間に微妙な無言の間が生まれ、やや気まずさを感じていると、

「ここはしばらくは大丈夫じゃろ。」
ひとりごとか、問いかけるか判断つかない声量で少女が声を発する。

辺りを警戒しつつも、どこか余裕すら感じさせるような少女。何事もなかったかのような調子で問いかける。

「なんじゃぁ?おぬし、命の恩人に対して礼もなしかや?」

「ありがとう………ございます。」
反射的に言葉がでた。



「で。なぜ貴様が追われておるのか、心当たりはあるじゃろ?」

非日常的な状況。もっとパニックになったり、少女に質問攻めをしたりするのが自然なのかもしれない。しかし、少女ははじめから自分に対しての敵意は一切感じられなかったため、不思議と自然に心が非日常を受け入れる。

そして、何より心当たりがあった。

 Coreのプライベートルームで偶然見つけた数字の羅列とキー情報。数字の羅列はCore内のプライベートアドレスを示し、その場所でデータの受け渡しがされた。データへのアクセスのためにはキー情報と生体意識認証が必要だった。
 Coreのプライベートルームは生前の父が遺し、相続したもの。生体意識認証を設定しているということは確実に息子である自分以外の手に渡らないようにしている。つまり、父はこうも手の込んだやり口を使ってまで、何かを自分に伝えようとしていた。認証を突破したものの、肝心のデータ自体が暗号化されていた。復号するためのキー情報などの指示はなく、完全に暗礁に乗り上げた状況だった。データの暗号化がRSA暗号によるものと仮定して、ヒントなしで復号するにはスーパーコンピュータを使っても確実に寿命の方が早く尽きる。

その矢先にこのような状況。今である。

少女に敵意はないとはいっても、父がそこまでして隠したデータの中身が分からない以上、どこまで自身の現状を伝えようか思案する。

「開けたのだろう?パンドラの箱を。だが、箱の中身が何かまではわかっておらぬか。」

少女が口にした言葉に、思わず表情が歪む。



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