媚薬魔法の優しい使い方

りりぃこ

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ジャスの三日間①

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 ※※※

 一方のジャスの方はというと。


 ジャスは、アウルから貰った薬の小瓶を持って家路を急いでいた。

 急いだものの、ジャスの住んでいた村に着いたのはもう夜だった。

 ジャスはまず家に帰らず、マリカの婚約者である、シバの家に向かった。


「ごめんください」

 恐る恐る声をかけて戸を開ける。

「ジャス!!帰ってきたのか!」

 中からシバが出てきてジャスの肩を強く掴んだ。

「心配したんだぞ!急に大魔法使いのところに行くだなんて言うから……」

「すみません、ご心配おかけしました」

「無事で良かったよ」

 シバは優しく笑ってみせ、ジャスを家の中に通した。

「あの、姉は元気?」

「ああ。マリカ!ジャスが帰ってきたぞ!」

 シバが大きな声で呼ぶと、家の奥の方からマリカが出てきた。

「ジャス!心配したじゃない!」

 満面の笑みでジャスを出迎える。

「よかった。帰ってきてくれて」

「マリカ…何か、前より良くなった?」

 ジャスがマリカの様子を見てシバに問いかける。

 以前は、マリカはいつもぼんやりと焦点の合わない目をして、「アウル様に会いたい、会いたい」と苦しそうに呻いたり、魘されたりしていたのだ。

 しかし今はちゃんと目も合うし会話も出来ている。

「うん、まあ対処療法なんだけど、催眠に効果のある凄い苦い薬あるでしょ?あれを定期的に飲んでもらったら、ある程度正気に戻る事に気づいてね」

 シバが説明しながら真緑の粉薬を見せる。

「うちで取り扱ってる薬で一番苦い奴だ。……そういえば強い刺激を与えれば解呪できるって言ってたな……」

 ジャスはボソッと呟いた。これはうまく行けばアウルの所に戻る必要は無いのでは?

「どうしたの?考え事?」

 マリカがジャスの顔をのぞき込む。

 マリカの顔がジャスに近づいた時だった。突然、マリカの表情が変わった。

 トロンとしてのぼせたような目をして、ジャスに縋り付いた。

「マ、マリカ?」

「匂いがする」

「え?」

「ジャスから、アウル様の匂いがするわ」

「マリカ!!」

 シバはすぐにジャスからマリカを引き離す。

「落ち着いて。匂いなんて気のせいだよ」

「そうだよ。僕は全然そんな匂いしないよ」

「ううん!私にはわかるわ!ねぇジャス、アウル様に会って来たんでしょう?私も連れて行ってよ」

「そんな事、できる訳ない!」

 マリカの豹変に、ジャスはすっかり怯えてしまった。ジャスの困惑をよそにシバは慣れた手付きでマリカの頭に布団を優しく被せた。

「マリカ、落ち着いて。さあもう寝ようよ」

「ねえ、アウル様に会いたいの」

「わかったわかった。さあこっちにおいで」

 シバは優しくマリカに話しかけながら寝室に誘導していった。


 ジャスは呆気にとられてその様子を見ていた。どれだけシバはこんな様子のマリカを見てきたのだろうか。シバの気持ちになると、胸が痛んだ。



「薬を飲ませても、あくまでも、対処療法に過ぎないんだ。だからこそああしてたまに、何かの刺激でまた元に戻ってしまう」

 マリカを何とか寝かしつけたらしいシバが寝室から戻ってきながら言った。

「やっぱり、根本をなんとかしないと」

 シバはそう言いながらジャスの為にお茶を入れる。

 ジャスは急いで荷物の中から、アウルから貰った小瓶を取り出した。

「ごめん、すぐに渡せばよかったんだけど。これ、誘惑魔法の効力を抑える薬。一時的に、だけど」

 小瓶をみてシバは怪訝そうな顔をした。

「この形の瓶は魔法使いの作る魔法薬の瓶じゃないか。どこで手に入れたんだい」

「大魔法使いアウルの所」

 ジャスの答えに、シバは目を丸くした。

「大魔法使いに、本当に会ってきたのか!!」

「うん、でも、解呪はしてもらえなかった。これを持ってくるので精一杯だった」

 ジャスは苦しそうに言った。

「ごめん。僕の力不足」

「そんな事ない!よく無事だったな」

 シバはジャスの背中を優しくさすった。

「魔法薬なら、今よりもっとマリカは楽になるだろう。解呪なら、時間をかけてゆっくりやっていこう」

 シバの優しい言葉に、ジャスは泣きそうになった。

「ああ。そうだ、夕飯まだだろう。食べていくといい。今日はマリカの特製スープだよ」

 そう言ってシバはそそくさと台所へ行ってスープの用意をしだした。

 久しぶりのマリカの手料理は美味しかった。

「本当は、解呪する方法も聞いたんだ」

 食事をしながらジャスはボソリと言った。

「そうか。もしかして、なかなか難しい方法かな?」

 シバが尋ねるとジャスは頷いた。

「強い刺激を与えればいいらしいんだ。瀕死になるほど殴るとか…」

「それは無理だ」

 シバは即答した。

「違う方法を探すしかない」

「うん、シバならそう言うと思ってた」

 ジャスは少しホッとした。

「正直、僕は少し考えちゃったんだ。そうすれば姉が治るならって」

「でも、多分、ジャスもやらないと思うよ」

 シバは優しく言った。

「うん、そうかも」

 ジャスは頷いた。


 その日はシバの所に泊めてもらうことにした。自分の家に帰るのは億劫だったのだ。







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