媚薬魔法の優しい使い方

りりぃこ

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ジャスの三日間②

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 次の日の朝、ジャスは早起きをしたつもりだったが、シバはもっと早く起きていた。大工であるシバは、朝からひと作業終えてきたのだ。

「お、ジャス早いね」

「シバも相変わらず」

「さて、そろそろマリカが起きてくる頃だ。昨日貰った魔法薬を飲ませる準備でもしようか」

 シバに促されてジャスは小瓶を取り出す。

 確か、一滴程で1日分だと説明された。ジャスは一滴を一杯のコップの水に溶かした。

「ふと思ったんだが、これは本物だよな?」

 突然シバはそういう。

 確かに、本物だという保証はどこにもない。しかしジャスはハッキリと答えた。

「大丈夫だよ」



 アウルが言っていた「マリカをキツイ目に合わせたい訳じゃねぇ」というのは本心のはずだ。なんせ食事をしないと怒ったり、火傷してないかと人を裸にしようとしたり、見知らぬ人に高価な治療薬をも渡す男だ。

「大丈夫。そういう騙しはしない人だ」

「ジャスが言うならそうなんだろう」

 シバはそうニッコリすると、マリカを起こしに行った。ポヤーっとした顔で起きてきたマリカにコップを渡す。

「ね、これはアウル様からマリカに飲んでほしいって貰ってきたお薬だよ」

「わあ、アウル様が私に?嬉しい」

 マリカはうっとりとした表情で一気にコップを飲み干した。



 マリカの体が一瞬光った。



「マリカ?」

 恐る恐るシバが呼びかける。

「シバ?ああ、私なんかすごく長い夢を見てた気がする……」

 マリカがそう言ってシバに近づく。

「マリカ、今どこかに行きたいかい?」

「どこかって?」

「僕以外の男の所に」

「ううん、まさか。ああ、そうね……。私この数日、どこかに行きたがってたわね……。どこに行きたかったんだっけ?」

 首をかしげるマリカを、シバは抱きしめた。

「思い出さなくていい。思い出さなくていいよ」



「よかった」

 ジャスは二人の様子を見てホッと息をついて呟いた。



「ジャス、ありがとう」

 少し落ちついた様子のシバがジャスに言った。

「一時的に薬で抑えているだけなのかもしれないが、これで精神的にマリカも僕も楽になった」

「うん、よかった。一瓶にはいってる量で、どれ位の期間持ちそうかな」

 ジャスは瓶を持ち上げながら目測してみる。

「そうだな…2ヶ月分くらいはありそうだが…3ヶ月はもたなそうだな」

「あーやっぱりか」

 ちゃんと計算して量を渡したな、とジャスは内心歯ぎしりをした。

 アウルにとってのタイムリミットである3ヶ月以内に、花嫁になる決心を固めろと言う事だろう。

 ジャスは思わず大きなため息をついた。


 とりあえずマリカの事はなんとかなったので、シバの家を後にして自分の家に帰ることにした。

 しかし自分の家に帰るのは億劫だった。なぜなら、こちらにもアウルの魔法がかかっているのだ。



「ただいま」

 ジャスがそう言って玄関を開けると、父が薬の調剤作業をしていた。作業の手を止めてジャスに近づく。

「ジャスか。一体今までどこに行ってたんだ!」

「ちょっとね」

「ちょっとじゃない!お前はどこかに行ってしまうし、マリカもあいつの家から帰ってこないし」

「あいつって……シバはマリカの婚約者じゃないか」

「何を言ってるんだ。マリカはあの大魔法使い様に選ばれたのだぞ!大魔法使いの所に嫁がなくてどうするんだ!」

「やめてくれよ、本当に」

 ジャスはうんざりして父から離れる。

 両親もアウルに都合の良い様に催眠魔法をかけられているようで、どうにかしてマリカをアウルの所にやろうとしている。とりあえず今の所ウザいだけなので放っておいているが、ただただ面倒くさい。

「ところで母さんは?店?」

「ああ。お前も帰ってきたなら顔を見せて来なさい」

 父に言われて素直に店の方に向かう。


 店、の方に向かうと、母が常連客と話をしているところだった。ジャスの姿を見つけると、パッと顔を明るくした。

「ジャス!ちょっと出かけてくるって言ったっきり、戻ってこないから心配してたのよ」

「あーごめん。ごめん」

 ジャスは素直に謝る。

「あらー、良かったわね、お母さんずっと心配してたのよ」

 常連客もニコニコしながらジャスに話しかける。

「すみませんなんか放浪息子で」

 ジャスも常連客にニッコリと笑いかける。母は常連客に咳止め薬を渡しながら、はぁ、とため息をついた。

「ジャスは戻ってきてくれたけど……マリカも早く戻ってきてくれないとね。ずっとシバくんが匿ってるのよ」

「……あー、あんた…それは」

 常連客は困惑した顔をする。ジャスは思わず母から見えないように常連客に頭を下げる。


 常連客も知っているのだ。マリカに起きた事情と、両親も魔法にかかっておかしくなってしまっていることを。あえてジャスが広めたのだ。そうでないと両親の話を鵜呑みにした人がシバに迷惑をかけるかもしれない。


「まあ、そんなマリカちゃんの事は心配しなくていいさ、ねえ」

 理解のある常連客は母の肩をポンと叩き、そしてジャスには少し同情の顔を向ける。


 客がいなくなると、母は店頭で薬の整理を始めた。

「ごめんね。お店の事も放って、なかなか帰ってこなくて」

 ジャスは母の肩越しに話しかけた。母はニッコリと笑いながら言った。

「いいのよ、ちゃんと元気でいてくれたんだから。あんたももう大人なんだし好きにしてていいんだから。まあ、どこに行くかくらいは言ってほしかったけど」

「ごめん」

 謝るジャスに、母はポンポンと優しく背なかを叩く。その後にハァとため息を一つついた。

「まあ、それよりもマリカよねえ……いくら好きにしていいとはいえ、こんなにアウル様を待たせるんじゃご迷惑だわ」

「あー、それは大丈夫。大丈夫だよ」

 ジャスは慌てて言った。

「マリカはシバのところで花嫁修行してるんだよ。シバは大工だから器用だから、いろんな事教えてくれてるんだよ」

 なかなか適当で無理がありそうな言い訳をしてみたが、母は「そうなの?」といっただけでそれ以上追求する事は無かった。


 母の元気な様子を見て安心したジャスは店の外に出た。


 その時、誰かに見られているような視線を感じた。ふと周りを見渡した瞬間、大きな影が鳥のようにサッと飛び立つのが見えた。明らかに鳥や動物ではなく人型だった。

「魔法使い?」

 空を飛ぶ人なら魔法使いだろうか。アウルは今魔法が使えないし、クロウなら黙っていないで話しかけてきそうだ。と言う事は二人とは別の魔法使いだろう、とジャスは思った。

「意外に身近にいるのかな、魔法使いって」


 だとしたら、1人くらい善意で解呪とかしてくれる魔法使いはいないだろうか、と都合のいい事をぼんやりと考えたが、甘い考えだと思い直し、ジャスは頭をブルブル振るのだった。

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