媚薬魔法の優しい使い方

りりぃこ

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あぶなかった

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「やっほ~おはよ~!久しぶりーっ……って、ええぇ!!!」

 勝手に家に、そしてアウルの部屋にクロウが突入してきた。

 そして、ベットの上で服が乱れ、陰茎をアウルに口で弄ばれているジャスを見て、変な声を上げた。

「な、何してんの朝っぱらから」

 クロウに邪魔された形になって、アウルは明らかに不機嫌になり、陰茎から口を外すと、面倒くさそうに言った。

「見てわかるだろう。これから契を結ぶ」

「え?え?」

「違うんだ!契なんかじゃない!」

「違うの?アウル駄目じゃん、無理やりはさすがに」

「何言ってんだ。こいつが朝から俺を襲ったんだ」

「そんな馬鹿な。ねえジャスくん」

「………」

「え?本当なの?」

「いや、あの、それは違うとは言えないんだけども」

「あーもう、とりあえず話聞いてあげるから、二人共落ち着きましょう!」

 クロウに言われて、渋々アウルはジャスから手を離した。



「ジャスくん、どういう事か教えて?」

 クロウは、台所でコーヒーを入れながらジャスに優しく問う。

 ジャスは、さっき痴態をクロウに見られた事で、恥ずかしくてなかなか声が出なかった。


「さっきも言っただろうが。コイツから襲ってきたって」

「ちょっとアウルは黙ってて。ややこしくなる」

 クロウに言われてアウルは不貞腐れたが素直に黙る。もう一度クロウはジャスにたずねる。

「んーっと、襲ったっていうのは本当?」

「襲った、わけでは、ないけども」

「けど?」

「あの、寝ているアウルに……ちょっとキスを、して」

「キスっ!?」

 驚くクロウにアウルは面倒くさそうに言った。

「なんだよ。テメェだってよくイタズラでするだろうが」

「いや、俺のイタズラとは違うでしょ。ジャスくん一体どうした?」

 クロウの問いかけに、ジャスは自己嫌悪で真っ青になってしまった。

「本当に、ごめん。そんなつもりじゃなかったんだけど、どうしても日に日におかしくなって……」

「……もしかしてだけど、アウルなんかした?」

 クロウが今度はアウルに問いかけた。

「なんか、魔法かけた?」

「んなことしねぇよ。前に一度ムカついたからキスしただけだ」

「あー、ナルホド……」

 クロウは脱力したように顔を手で覆った。

「それは仕方ない。うん、ただの人間が魔法使いのキスを受けちゃったら、うん、そうなるよね。慣れないとそうなる」

 クロウはポンポンとジャスの肩を叩いて慰めるように言った。

「うんうん、中毒性高いからね。癖になっちゃうんだよね。ところでいつキスされたの?」

「い、一週間くらい前……」

「一週間!!」

 耐え性が無いと馬鹿にされると思い、ジャスは首を竦めた。


「一週間は、よく耐えたよ」

 思いがけずに、クロウは褒めるようにジャスをまたポンポン叩く。

「アウルの魔力で、よく耐えた、うん」

「手加減はしたぞ」

 アウルは心外、というように口を挟む。

「手加減ってどれくらい?」

「精神が壊れないくらいだな」

「全然手加減じゃないから、それ」

 クロウはツッコむ。

「よしよし、あぶなかったねぇ。どうやって耐えてたの?」

 クロウはジャスを慰めるように話しかける。

「冷たい水とか、あと、気づけ薬ももってたから……」

 ジャスがポツリポツリと言う。

 アウルは不満そうだ。

「クロウ、テメェ俺の味方じゃなかったのか?何でジャス寄りなんだよ。そろそろ花嫁の契結ばねぇとだめなんだからな、こっちは」

「そうなんだけどね。やろうと思えば、俺だってジャスくん押さえつけてでもアウルに契結ばせてあげたいんだけども」

 クロウの言葉にジャスはサッと青くなる。

「いや、しないよ。だって、無理やり契結んでその場は花嫁成立だろうけどさ。今後何百年って一緒にいることになるのに、しこりが残るみたいなのは避けたいでしょ」

 クロウの言葉に、アウルは渋々頷いた。


「とはいえ!焦っちゃうアウルの気持ちも痛いほど分かるので!」

 空気を変えるかのように明るくクロウは言って、何やら書類の束を取り出した。

「こちら、俺の知り合いの世話好き魔女様から、魔法使いの花嫁になっても良いっていう女のコの情報、持ってきましたー」

「はぁ?」

 アウルは顔をしかめる。

「いらねぇよ、そんなもん」

「何で?時間ないんだよ?すぐにでもこの子達はオッケーしてくれるよ?あ、顔とか性格気になる感じだよね?すぐに呼び寄せてお見合いも可能だよー」

 クロウは畳み掛けるように言う。

「どうしてもジャスくんじゃなきゃ駄目なの?好きになっちゃった?」

「そういうわけじゃねぇ」

 アウルは険しい顔で首をふる。

「じゃあいいじゃん。ねぇジャスくん」

 突然振られ、ジャスは慌ててコクコクと頷く。

「その方がいいよ。イヤイヤなる花嫁より、進んで花嫁になってくれる子の方が、きっと幸せになれるよ」

 ジャスの言葉は本心だった。


 ジャスの言葉に、アウルは黙った。

 そして適当に、クロウの持ってきた書類の束の一番上を掴んだ。

「コイツだ。コイツを連れてこい」

「え?もっとちゃんと見たほうがいいよ。お見合い必要だよね」

「いらねえ。クロウ、テメェが持ってきたなら、変な奴はいねぇだろ。ならテメェが選んだ奴らの中なら誰でもいい」

「んー、まあ信用してくれるのは嬉しいけどね」

 クロウは困惑したように言う。

「まあいいや。じゃあ世話好き魔女様に頼んで……」

「いや、俺はテメェ以外の魔女魔法使いに会いたくは無い。テメェが連れてこい」

「えー。でも俺はこれから一週間くらい外国に仕事に行くんだけど。悪いけど連れてきたりする暇はちょっと無いよ」

「その仕事の後でいい」

 ぶっきらぼうにアウルは言う。

 クロウはため息をついた。

「わかった。じゃあ俺の仕事が片付いたら、この子、連れてくるね」

 クロウは書類をヒラヒラさせる。

 そばで黙って聞いていたジャスが、おそるおそる尋ねた。

「えっと……じゃあ僕と姉はもういらないよね。もう開放でいいかな?」

「まだだ。ちゃんとクロウの連れてきた奴に会ってからだ。土壇場でやっぱりヤダってなる可能性もある」

 アウルはジャスの目も見ないで言う。

 ジャスはがっくりと肩を落とした。

「その代わり魔法薬作ってやる」

 アウルはボソリとそれだけ言うと、調合の部屋に行ってしまった。



「魔法薬って……」

「キスの中毒性を抑える薬だろうね」

 クロウはジャスに話しかける。

「できるの?」

「まあ、アウルにはお茶の子さいさいだろうね」

「そっか」

 ジャスはほっと息を吐いた。

「まぁ、色々あぶなかったね」

 クロウは少し笑いながらジャスに話しかける。

「ところで、どんな感じだったの?」

「え?」

 クロウの質問の意図がわからず、ジャスはきき返した。

「どんなって……なにが?」

「アウルの魔力の込めたキス。すごいんだろうなぁ」

 うっとりとクロウが言う。

「どんなだろうねー。あのアウルの魔力が……あー、いいなぁ」

「あー、いや。その」

 クロウの様子に、少しジャスは戸惑った。

「どうって、ぼーっとしててよく分からなかったけど……」

 ジャスがとりあえず答えると、クロウはまたうっとりとした。

「よくわからないくらいかぁ。本気を出せば精神こわれちゃうくらいの魔力だもんなぁ……はぁ……」

「あの、クロウ?」

 ジャスが、ボーッとした様子のクロウの顔を覗き込むようと、クロウはハッと我に返った。

「ああ、ごめんごめん。ちょっと思いを馳せてた」


 そうしているうちに、アウルが薬を持って部屋から出てきた。

「お、アウルも戻ってきたので、俺はもう行くね。さっきも言った通り、これから外国で仕事なんだ」

 じゃ、と慌てたようにクロウは去っていった。

「なんだあいつ、慌ただしいな」

 アウルはポカンとした。



 ジャスは、さっきのうっとりとしていたクロウの顔に、一抹のの不安を感じていた。


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