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呼笛①
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※※※※
アウルの薬が効き、次の日には全くキスの欲求がなくなった。
「薬、効いた!」
ジャスがつい声に出してしまった。
「良かったな。もう襲ってくんじゃねぇぞ」
「しねぇよ!」
アウルの言葉にジャスは真っ赤になって言い返す。
「なぁ、あの昨日のクロウの話、本当に良かったのか?あんな適当に決めて」
ふとジャスがたずねる。
「一応、何百年も一緒にいる相手だろ?」
「テメェに関係ねぇだろ」
アウルのがそっけなく言うので、まぁ、とジャスは答えるしかなかった。
確かに関係無いか。
その時だった。
突然、ピーっという高音が家中に鳴り響いた。
「な、何?」
ジャスは耳を塞いで縮こまった。何かの警告音に聞こえたのだ。
しかし、アウルは動揺することなく、静かにその音に耳を傾けていた。
「ドロップか」
アウルは呟いた。
そして、少し険しい顔で考え込むと軽く荷物を整え始めた。
「ちょっとだけ出かけてくる」
それだけ言うと、スッと消えた。
アウルが消えてすぐに、高音は消えた。
「何だったんだ?」
残されたジャスは呟いた。そして、妙に険しい顔だったアウルが気になった。
※※※※
アウルは長閑な田舎町の、一軒の家の前に姿を現した。
ここに来るのは5年ぶりくらいか。と呟いて、目の前の家に入った。
「本当に来た……アウル様」
その家の中には、小柄な中年の男がいた。
アウルは男の顔を見るなり、殺気立った顔になった。
「テメェに呼笛を渡した覚えは無い。その呼笛はドロップのだろう。何でテメェが使っている」
アウルは男に詰め寄る。
男は慌てて言った。
「違うんです!違うんです!これはドロップの代わりに使ったんです」
「なら、ドロップ自身が使えばいいだろう」
「できないんです!ドロップは死んだんです。ついさっき!!」
「は?死んだ?」
「ええ、ついさっき。1時間ほど前に」
アウルは一瞬言葉を失った。
しかしすぐにこの男の意図を察して言った。
「生き返らせてほしいんだな。彼女を」
「ああ、そうだ」
「俺が昔、ドロップに渡した契約書をつかうのか」
「ああ。ここにある」
男はアウルに一枚の羊皮紙を渡す。
アウルは一目だけその羊皮紙を見ると、静かに尋ねた。
「死因は?」
「病死だ。2年ほど前から患っていた」
「なら無理だ。今生き返らせても病が治るわけではない。すぐにまた死ぬ。2度死なすことになるぞ」
アウルは冷たく言った。死ぬ直前に戻すならまだしも、2年も時間を戻すなんて、自分も何年も魔法が使えなくなってしまう。そんなリスクは抱えられない。
「構わない」
「は?」
思いがけない男の言葉に、アウルは思わず聞き返した。しかし男は、また同じことを言った。
「構わない。すぐにまた死んでも」
「……おい、ドロップはテメェの娘だろう。よくもそんな……」
「昔、アウル様は、村一つ買える程価値のある財宝を、ドロップに託したんですよね!?その在処がわからないんだ。その在処が分かったらあとはいい!!」
男は狂気の目をしていた。
アウルは、その男、ドロップの父親の顔を、汚らしいものを見るような目で見ていた。
「相変わらずだ。あの頃と変わらないな」
そう吐き捨てた。
ただ、アウルはドロップに財宝なんて渡した覚えはない。
おそらくドロップが、父親に何か理由があって噓を伝えていたのだろう。
「断る」
それだけ言ってアウルは帰ろうとした。
しかし父親は、アウルの服を掴んでニヤニヤして言った。
「待って下さい。これは魔法の契約書のはず。勝手に断ったりはできないのでは?」
【魔法使いアウルは、いつでも希望すれば一度だけ、蘇りの魔法を汝の為に使おう。ただし、死後すぐに呼ぶこと】
アウルは、5年前にドロップに渡した魔法の契約書を読み返し、苦い顔になった。
※※※※
アウルが家に戻ったのは、その後すぐだった。
「ああ、早かったね。……え、どうしたんだ?」
ジャスは見たこともないくらい暗い顔をしているアウルに驚いた。
アウルはジャスの質問には答えず、ナニやら忙しそうに動き出した。
「これから準備して、仕事に行く。死んだ女を生き返らせる」
「……前みたいに、クロウは一緒に行かないのか」
ジャスはたずねる。アウルはまったく面白く目を合わせない。
「行かねえ。昨日から外国で仕事だって言ってたろ。その仕事が何日かかるかわからねぇ」
「大丈夫なの?」
「仕方無え。今回のは断るわけにはいかねぇ。クロウを待っていたらいつになるか分からねぇからな」
アウルは真剣な顔をしていた。
そして、すぐに準備をする、と言って部屋に閉じこもってしまった。
ジャスがアウルの仕事を見たのは一度だけだったので、詳しいことはわからない。しかし、前回は1日かけて準備してクロウも連れて行って…という感じだったのに、今回は妙に焦っているように感じた。
アウルはすぐに部屋から出てきて、何やら薬品とカバンをジャスに放り投げた。
「これ、詰めておけ」
それだけいうと、アウルは家中に何やら魔法を、かけ始めた。
「あのー、アウル。何かあるの?今回の仕事」
「何か?」
アウルはギロリと睨む。
「いや、あの、なんか焦っているように見えたし」
「ああ。人の時間を戻すのは、木を戻すよりも魔力の消費が激しい。死んでからすぐにやらねぇとその分魔法が使えなくなる日数も伸びる」
アウルの説明に、ジャスはなるほど、とだけ言って、大人しくカバンに荷物を詰めだした。
「テメェも一緒に来い」
「え?僕何も出来ないけど。前に御神木の時にも荷物持ちくらいしか……」
「荷物持ち必要だ。それに」
アウルは言葉を切って、少し言い淀んだ。
「何?」
「……それに、今回は誰かにいてもらわねえと、俺が何するかわからねぇ」
アウルはボソリと言った。
ジャスは、アウルの言葉に困惑してしまった。
「どういうこと?アウルが何かするのを、僕が止められるとは思えないんだけど」
「それでもいい」
アウルは手を止めて、今度はジャスの目をしっかり見て言った。
「ちょっと今から話をさせろ」
アウルの薬が効き、次の日には全くキスの欲求がなくなった。
「薬、効いた!」
ジャスがつい声に出してしまった。
「良かったな。もう襲ってくんじゃねぇぞ」
「しねぇよ!」
アウルの言葉にジャスは真っ赤になって言い返す。
「なぁ、あの昨日のクロウの話、本当に良かったのか?あんな適当に決めて」
ふとジャスがたずねる。
「一応、何百年も一緒にいる相手だろ?」
「テメェに関係ねぇだろ」
アウルのがそっけなく言うので、まぁ、とジャスは答えるしかなかった。
確かに関係無いか。
その時だった。
突然、ピーっという高音が家中に鳴り響いた。
「な、何?」
ジャスは耳を塞いで縮こまった。何かの警告音に聞こえたのだ。
しかし、アウルは動揺することなく、静かにその音に耳を傾けていた。
「ドロップか」
アウルは呟いた。
そして、少し険しい顔で考え込むと軽く荷物を整え始めた。
「ちょっとだけ出かけてくる」
それだけ言うと、スッと消えた。
アウルが消えてすぐに、高音は消えた。
「何だったんだ?」
残されたジャスは呟いた。そして、妙に険しい顔だったアウルが気になった。
※※※※
アウルは長閑な田舎町の、一軒の家の前に姿を現した。
ここに来るのは5年ぶりくらいか。と呟いて、目の前の家に入った。
「本当に来た……アウル様」
その家の中には、小柄な中年の男がいた。
アウルは男の顔を見るなり、殺気立った顔になった。
「テメェに呼笛を渡した覚えは無い。その呼笛はドロップのだろう。何でテメェが使っている」
アウルは男に詰め寄る。
男は慌てて言った。
「違うんです!違うんです!これはドロップの代わりに使ったんです」
「なら、ドロップ自身が使えばいいだろう」
「できないんです!ドロップは死んだんです。ついさっき!!」
「は?死んだ?」
「ええ、ついさっき。1時間ほど前に」
アウルは一瞬言葉を失った。
しかしすぐにこの男の意図を察して言った。
「生き返らせてほしいんだな。彼女を」
「ああ、そうだ」
「俺が昔、ドロップに渡した契約書をつかうのか」
「ああ。ここにある」
男はアウルに一枚の羊皮紙を渡す。
アウルは一目だけその羊皮紙を見ると、静かに尋ねた。
「死因は?」
「病死だ。2年ほど前から患っていた」
「なら無理だ。今生き返らせても病が治るわけではない。すぐにまた死ぬ。2度死なすことになるぞ」
アウルは冷たく言った。死ぬ直前に戻すならまだしも、2年も時間を戻すなんて、自分も何年も魔法が使えなくなってしまう。そんなリスクは抱えられない。
「構わない」
「は?」
思いがけない男の言葉に、アウルは思わず聞き返した。しかし男は、また同じことを言った。
「構わない。すぐにまた死んでも」
「……おい、ドロップはテメェの娘だろう。よくもそんな……」
「昔、アウル様は、村一つ買える程価値のある財宝を、ドロップに託したんですよね!?その在処がわからないんだ。その在処が分かったらあとはいい!!」
男は狂気の目をしていた。
アウルは、その男、ドロップの父親の顔を、汚らしいものを見るような目で見ていた。
「相変わらずだ。あの頃と変わらないな」
そう吐き捨てた。
ただ、アウルはドロップに財宝なんて渡した覚えはない。
おそらくドロップが、父親に何か理由があって噓を伝えていたのだろう。
「断る」
それだけ言ってアウルは帰ろうとした。
しかし父親は、アウルの服を掴んでニヤニヤして言った。
「待って下さい。これは魔法の契約書のはず。勝手に断ったりはできないのでは?」
【魔法使いアウルは、いつでも希望すれば一度だけ、蘇りの魔法を汝の為に使おう。ただし、死後すぐに呼ぶこと】
アウルは、5年前にドロップに渡した魔法の契約書を読み返し、苦い顔になった。
※※※※
アウルが家に戻ったのは、その後すぐだった。
「ああ、早かったね。……え、どうしたんだ?」
ジャスは見たこともないくらい暗い顔をしているアウルに驚いた。
アウルはジャスの質問には答えず、ナニやら忙しそうに動き出した。
「これから準備して、仕事に行く。死んだ女を生き返らせる」
「……前みたいに、クロウは一緒に行かないのか」
ジャスはたずねる。アウルはまったく面白く目を合わせない。
「行かねえ。昨日から外国で仕事だって言ってたろ。その仕事が何日かかるかわからねぇ」
「大丈夫なの?」
「仕方無え。今回のは断るわけにはいかねぇ。クロウを待っていたらいつになるか分からねぇからな」
アウルは真剣な顔をしていた。
そして、すぐに準備をする、と言って部屋に閉じこもってしまった。
ジャスがアウルの仕事を見たのは一度だけだったので、詳しいことはわからない。しかし、前回は1日かけて準備してクロウも連れて行って…という感じだったのに、今回は妙に焦っているように感じた。
アウルはすぐに部屋から出てきて、何やら薬品とカバンをジャスに放り投げた。
「これ、詰めておけ」
それだけいうと、アウルは家中に何やら魔法を、かけ始めた。
「あのー、アウル。何かあるの?今回の仕事」
「何か?」
アウルはギロリと睨む。
「いや、あの、なんか焦っているように見えたし」
「ああ。人の時間を戻すのは、木を戻すよりも魔力の消費が激しい。死んでからすぐにやらねぇとその分魔法が使えなくなる日数も伸びる」
アウルの説明に、ジャスはなるほど、とだけ言って、大人しくカバンに荷物を詰めだした。
「テメェも一緒に来い」
「え?僕何も出来ないけど。前に御神木の時にも荷物持ちくらいしか……」
「荷物持ち必要だ。それに」
アウルは言葉を切って、少し言い淀んだ。
「何?」
「……それに、今回は誰かにいてもらわねえと、俺が何するかわからねぇ」
アウルはボソリと言った。
ジャスは、アウルの言葉に困惑してしまった。
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