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血だらけ
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それから2日ほど経った。
その間、食料店の店主はまたやってきて料理をセットして帰っていった。初め、料理に手をつけないでいたら、少し悲しそうな顔をしたので、二度目からは食べるようにした。
アウルもクロウも帰っては来なかった。
クロウの話しぶりからすると、すぐに帰ってくるのだと思っていたが、全く帰ってくる気配がない。
「いつまで閉じ込めておくつもりだよ」
ジャスは忌々しげに呟く。
荷物も見つからないし家からも出られない。
イライラが募って爆発しそうになっていた時だった。
「ちょっと、手伝って!!」
音も無く玄関にクロウが現れた。
泥だらけで必死な顔をしており、大きな布を被った何かを抱えていた。
突然現れたので、ジャスは一瞬動けなかった。
しかし、すぐに、クロウの抱えている布を被せられているものがアウルだと気がついた。
「な、何?」
「水を、大きい樽に入れて持ってきて。あときれいな布巾も!アウルの部屋に」
そう指示すると、クロウは布を被せられたままのアウルを、部屋に飛ばした。
帰ってきたら文句を言ってやろうと思っていたジャスだったが、只ならぬ様子に、思わずクロウの指示に従う。
大きな樽を用意して水を入れようとしたが、なぜか水の出が悪く、チョロチョロとしか貯まらなかったので、時間がかかった。
水を持って部屋に行くと、布を被ったままのアウルに向かって、クロウが必死になって魔法をかけていた。
「えっと、水。なんかうまく水が出なくてあんまり沢山持ってこれなかったけど」
ジャスが恐る恐るクロウに樽を渡す。
「多分、アウルの力が弱くなってるから、家にかかってる水とか電気とかの魔法も弱まっちゃったんだとおもう。
少しでもいいから、ちょっとそれでもアウルの顔を拭いてもらえる?」
「やめろ!!」
突然アウルが大きな声を出した。
「ジャス、テメェは見るんじゃねえ」
「は?」
「ちょっと、アウル!そんなこと言ってる状態じゃないでしょ!」
クロウが必死に言った。
「俺はあんまり魔法が上手くできないんだから、早く処置しなきゃだめなんだからジャスくんにも手伝ってもらわないと」
「問題ねえ。俺も自分で処置する」
そう言ってちらりと覗いたアウルの顔は、真っ赤に染まっていた。血のようだ。
「とにかく、ジャスは部屋から出ていけ。見るんじゃねえ」
アウルにそう言われると、ジャスは襟首を魔法で掴まれて部屋の外に追い出された。
「な、何なんだよ……」
意味がわからなすぎてジャスは混乱した。
何であんなに血だらけなんだ?誰かにやられてきたのか?
どうしても気になったジャスはそっと部屋を覗いてみた。
クロウが必死になって魔法をかけながらアウルに言っている。
「ねえ、痛いでしょ?自分で魔法かけるのにも限界があるって。せめて消毒だけでもジャスくんに手伝って貰って……」
「駄目だ。……またアイツが悪夢を見たらどうする」
「また悪夢取ってあげるよ」
「それでも駄目だ。アイツに怖い思いをさせるわけにはいかねえ」
アウルの声は震えていた。
痛いのだろうか。苦しそうだ。
ジャスはイライラとした気持ちが湧き上がってきた。
僕を怖がらせない為に?
パイソンにやられたアウルを見て、僕が眠れなくなったから?
だから?だから血だらけの姿を見せたくないと?
ジャスは無意識に部屋に入っていた。
「テメェ、出ていけっつったろうが!」
ジャスの姿をみてアウルが怒鳴る。
ジャスは無視して布を被ったアウルに近づいた。そしてそっと布に手をかけた。
怒鳴ったくせに抵抗しなかったのは、痛みが激しすぎたせいなのか体力が消耗していたからなのか。大人しく布を剥がされたアウルの姿は、悲惨なものだった。
右頬の半分はえぐれるようになくなっており、左の目は潰れている。
体のほうも、服のあちこちが破れており、肌の方は酷いことになっているのだろう。
「見るんじゃねえ」
「平気。こんなの、薬屋してたらいつも見てる」
嘘だった。ここまで酷いものを見たことがない。むしろ、ここまで酷くて生きている人を見たことがない。これが魔法使いという人種なのだろう。
「僕を舐めないでほしいね。あのときは人の殺意に充てられて悪夢を見ちゃったんだ。別に怪我しただけなんて平気だ」
そう言って、ジャスは水の樽で布巾を濡らしてアウルの血を軽く拭った。
「クロウ、今何をしているの?僕に出来ることは?」
ジャスは真っ青な顔のクロウにたずねる。
「今俺はアウルの目と肌の修復魔法をかけてる。でもこの魔法は気絶するほど痛いはずなんだ。アウルが自分で感覚を麻痺させる魔法を使っているんだけど……」
「僕の荷物はどこ?それに痛み止めが入っている。魔法には到底及ばないかもしれないけど」
「台所の戸棚、取手を右に3回、左に1.5回回せば開く」
「分かった。消毒出来るものは?」
「魔法薬の棚の中に薄緑色の四角い瓶がある。あと、軟膏も持ってきてもらえる?前にパイソンの時に使ったと思う。鍵はこれ。
あと、水も大量に欲しい。水が台所でたくさん出せないようなら外で汲んできてほしいんだけど……アウル、家の閉じ込めの結界解ける?」
アウルは黙って頷いて小さく指を振った。多分今ので結界が解けたのだろう。
ジャスは鍵を受け取るとすぐに台所に向かった。
戸棚を言われたとおり開けて自分のの荷物を取り出した。そして薬棚の鍵も空けて言われた通りの薬と軟膏を取り出す。
ふと、ジャスは思った。
荷物が、見つかった。
薬の入っている棚も鍵が開いて取り放題になった。
今は明るくて森を通り抜けるのに問題の無い時間だ。
そして、アウルが大怪我をしていてクロウもその看病で忙しい。
閉じ込めの結界が解けたということは、外にも出られる。
逃げるチャンスが、今度こそ逃げるチャンスだ。
ジャスは荷物を握りしめて外にでた。
逃げるチャンス。逃げる……逃げる…??
「ああー!もう!僕は本当に!!とりあえず今は!」
ジャスは頭を振って決心する。
泉の方へ向かい、水を汲んで、またアウルの家に戻ったのだった。
その間、食料店の店主はまたやってきて料理をセットして帰っていった。初め、料理に手をつけないでいたら、少し悲しそうな顔をしたので、二度目からは食べるようにした。
アウルもクロウも帰っては来なかった。
クロウの話しぶりからすると、すぐに帰ってくるのだと思っていたが、全く帰ってくる気配がない。
「いつまで閉じ込めておくつもりだよ」
ジャスは忌々しげに呟く。
荷物も見つからないし家からも出られない。
イライラが募って爆発しそうになっていた時だった。
「ちょっと、手伝って!!」
音も無く玄関にクロウが現れた。
泥だらけで必死な顔をしており、大きな布を被った何かを抱えていた。
突然現れたので、ジャスは一瞬動けなかった。
しかし、すぐに、クロウの抱えている布を被せられているものがアウルだと気がついた。
「な、何?」
「水を、大きい樽に入れて持ってきて。あときれいな布巾も!アウルの部屋に」
そう指示すると、クロウは布を被せられたままのアウルを、部屋に飛ばした。
帰ってきたら文句を言ってやろうと思っていたジャスだったが、只ならぬ様子に、思わずクロウの指示に従う。
大きな樽を用意して水を入れようとしたが、なぜか水の出が悪く、チョロチョロとしか貯まらなかったので、時間がかかった。
水を持って部屋に行くと、布を被ったままのアウルに向かって、クロウが必死になって魔法をかけていた。
「えっと、水。なんかうまく水が出なくてあんまり沢山持ってこれなかったけど」
ジャスが恐る恐るクロウに樽を渡す。
「多分、アウルの力が弱くなってるから、家にかかってる水とか電気とかの魔法も弱まっちゃったんだとおもう。
少しでもいいから、ちょっとそれでもアウルの顔を拭いてもらえる?」
「やめろ!!」
突然アウルが大きな声を出した。
「ジャス、テメェは見るんじゃねえ」
「は?」
「ちょっと、アウル!そんなこと言ってる状態じゃないでしょ!」
クロウが必死に言った。
「俺はあんまり魔法が上手くできないんだから、早く処置しなきゃだめなんだからジャスくんにも手伝ってもらわないと」
「問題ねえ。俺も自分で処置する」
そう言ってちらりと覗いたアウルの顔は、真っ赤に染まっていた。血のようだ。
「とにかく、ジャスは部屋から出ていけ。見るんじゃねえ」
アウルにそう言われると、ジャスは襟首を魔法で掴まれて部屋の外に追い出された。
「な、何なんだよ……」
意味がわからなすぎてジャスは混乱した。
何であんなに血だらけなんだ?誰かにやられてきたのか?
どうしても気になったジャスはそっと部屋を覗いてみた。
クロウが必死になって魔法をかけながらアウルに言っている。
「ねえ、痛いでしょ?自分で魔法かけるのにも限界があるって。せめて消毒だけでもジャスくんに手伝って貰って……」
「駄目だ。……またアイツが悪夢を見たらどうする」
「また悪夢取ってあげるよ」
「それでも駄目だ。アイツに怖い思いをさせるわけにはいかねえ」
アウルの声は震えていた。
痛いのだろうか。苦しそうだ。
ジャスはイライラとした気持ちが湧き上がってきた。
僕を怖がらせない為に?
パイソンにやられたアウルを見て、僕が眠れなくなったから?
だから?だから血だらけの姿を見せたくないと?
ジャスは無意識に部屋に入っていた。
「テメェ、出ていけっつったろうが!」
ジャスの姿をみてアウルが怒鳴る。
ジャスは無視して布を被ったアウルに近づいた。そしてそっと布に手をかけた。
怒鳴ったくせに抵抗しなかったのは、痛みが激しすぎたせいなのか体力が消耗していたからなのか。大人しく布を剥がされたアウルの姿は、悲惨なものだった。
右頬の半分はえぐれるようになくなっており、左の目は潰れている。
体のほうも、服のあちこちが破れており、肌の方は酷いことになっているのだろう。
「見るんじゃねえ」
「平気。こんなの、薬屋してたらいつも見てる」
嘘だった。ここまで酷いものを見たことがない。むしろ、ここまで酷くて生きている人を見たことがない。これが魔法使いという人種なのだろう。
「僕を舐めないでほしいね。あのときは人の殺意に充てられて悪夢を見ちゃったんだ。別に怪我しただけなんて平気だ」
そう言って、ジャスは水の樽で布巾を濡らしてアウルの血を軽く拭った。
「クロウ、今何をしているの?僕に出来ることは?」
ジャスは真っ青な顔のクロウにたずねる。
「今俺はアウルの目と肌の修復魔法をかけてる。でもこの魔法は気絶するほど痛いはずなんだ。アウルが自分で感覚を麻痺させる魔法を使っているんだけど……」
「僕の荷物はどこ?それに痛み止めが入っている。魔法には到底及ばないかもしれないけど」
「台所の戸棚、取手を右に3回、左に1.5回回せば開く」
「分かった。消毒出来るものは?」
「魔法薬の棚の中に薄緑色の四角い瓶がある。あと、軟膏も持ってきてもらえる?前にパイソンの時に使ったと思う。鍵はこれ。
あと、水も大量に欲しい。水が台所でたくさん出せないようなら外で汲んできてほしいんだけど……アウル、家の閉じ込めの結界解ける?」
アウルは黙って頷いて小さく指を振った。多分今ので結界が解けたのだろう。
ジャスは鍵を受け取るとすぐに台所に向かった。
戸棚を言われたとおり開けて自分のの荷物を取り出した。そして薬棚の鍵も空けて言われた通りの薬と軟膏を取り出す。
ふと、ジャスは思った。
荷物が、見つかった。
薬の入っている棚も鍵が開いて取り放題になった。
今は明るくて森を通り抜けるのに問題の無い時間だ。
そして、アウルが大怪我をしていてクロウもその看病で忙しい。
閉じ込めの結界が解けたということは、外にも出られる。
逃げるチャンスが、今度こそ逃げるチャンスだ。
ジャスは荷物を握りしめて外にでた。
逃げるチャンス。逃げる……逃げる…??
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