媚薬魔法の優しい使い方

りりぃこ

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考え無しの馬鹿

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　部屋では、辛そうな顔をしたアウルが、さっきよりぐったりした様子でベットに横たわっていた。

　アウルの血の匂いと汗の匂いを感じた瞬間、こんな時なのに一瞬頭がぼーっとした。ジャスは勢いよく頭を振って煩悩を取り払った。

「もう自分で魔法を使ってはいられないみたいだ。俺がもう少し魔力があったら……」

　クロウが、修復の魔法をかけながら悔しそうに言う。

　ジャスは痛み止めをアウルの口に無理矢理流し込み、クロウの指示通りに薬を塗ったり血を洗い流したりした。

　怪我はかなり酷かった。

　意識が朦朧としているアウルは、何も言わずにぼんやりと宙を眺めているだけだった。

　どれ位時間が経っただろうか。

　明るかった窓辺は薄っすら暗くなりつつあった。

「もう大丈夫だと思う」

　汗だくのクロウがそう呟いた。

　クロウの修復の魔法で、片目や頬は元通りになっており、体の傷もある程度治っていた。

　追加で投与した多めの痛み止めの副作用で、アウルはぐっすり眠っている。

「こんなちゃんと治るんだな。魔法って」

　ジャスはアウルの姿を見て関心するように言った。クロウは苦笑する。

「うまい魔法使いなら、もっと早く、痛み止めも消毒も一人で全部できちゃうんだよ。俺はそういうの出来ないからアウルには辛い思いさせちゃったな」

　そう言ってクロウは優しくアウルに布団をかけた。

　そして静かに部屋を出た。

「俺は、やめたほうがいいって止めたんだ」

　台所でコーヒーを淹れながらクロウはポツリと言った。

「仕事はすぐに終わった。ジャスくんの事も心配だし、終わってすぐ帰るつもりだったんだけど、アウルは寄るところがあるって言って…」

　クロウはジャスの分のコーヒーも淹れながら続けた。

　正直、アウルの手当が終わったら、タイミングを見計らって逃げようと思っていたジャスだったか、クロウにコーヒーを手渡されて、渋々椅子に座った。

「アウルは…結構恨みを買ってる。まあそんな魔法つかいは多いから珍しいことじゃないけど。結構命を狙われている事が多い。アウルを攻撃してくるのはパイソンだけじゃないんだ。パイソンなんてただの嫌がらせジジイだからかわいいもんだけど」

「あれでかわいいもん……」

　ジャスはゾッとした。

「まあ、本気で定期的に攻撃してくるのはほんの2、3集団だけど。その恨みを買っていて定期的に狙ってくる集団に会いに行ったんだ」

「わざわざ？どうして？」

「金でも、宝でも薬でも、何でもいいから渡すから、もう関わらないようにしてくれと頼みに行ったんだ」

「関わらないように？」

　ジャスは首を傾げる。

　クロウは、じっとジャスを見つめて言った。

「ジャスくんに、こんな危険な世界を見せたくないからだよ」

「は？」

　ジャスは意味が分からず混乱した。

「僕は関係無いだろ」

　ジャスの言葉に、クロウは静かに首を振った。

「ジャスくんがパイソンに狙われた事が相当嫌だったみたい。あと、その後怯えさせちゃったことも。もう二度とジャスくんに怖い世界を見せないように、先手を打っておこうと思ったんだよ」

「そんなのっ」

　平和に暮らしていたジャスに、魔法使いの常識は分からない。ただ、そんな恨みを買っていて命を狙われている人達の所に行ってそんなこと言っても……。

「火に油を注ぐようなもんだろ……」

「そうだね。駄目だったね。わかりきってた事だよ」

　クロウは悔しそうに言った。

「俺がもっとちゃんと止めていれば……」

「馬鹿だな」

　ジャスはポツリと言った。

「そうなんだ。アウルは考え無しの馬鹿なんだよ」

　クロウは苦笑いをしながら同意した。

　アウルのことを馬鹿なんて言ったらクロウは気を悪くすると思っていたので、ジャスは少しだけ戸惑った。

「まあでも。散々やられても抵抗を一切しなかったアウルにはみんなドン引きしてたから、しばらくは何もしてこないんじゃないかな」

　クロウはそう言って一気にコーヒーを飲み干す。

「アウルの馬鹿に付き合ったら疲れちゃった。俺は一旦帰るね。明日また様子見に来るから」

　そう言ってクロウは立ち上がった。

「ジャスくん、アウルをよろしくお願いね」

　クロウはジャスの顔を見ずにそれだけいうと、スッと姿を消した。

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