媚薬魔法の優しい使い方

りりぃこ

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忘れ物

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 その後、クロウはアウルの体の様子を再度確認し、充分修復がされているのを見てから、帰っていった。


 ジャスはリンドーからもらった計画書を見ながら、家の中を少し確認する。

 一部ちゃんと片付けた方がいい所があるかもしれない、と思いながら見回っていたときだった。

 床に、小さな鍵が落ちているのに気づいた。

「これリンドーの忘れ物じゃないかな?」

 ジャスがアウルに鍵を見せると、アウルは興味が無さそうに言った。

「どうせ明日も来るだろ。その時に返せばいい」

「でも、家の鍵とかだったらどうしよう。家に入れないよ」

「1日くらい平気だろ」

「平気じゃないでしょ。僕ちょっと追いかけて来ようかな」

 ジャスはそう言って玄関に向かおうとした。

 アウルは面倒くさそうに言った。

「もう近くにはいねえだろ。どこから来たのかも知らねえのに、迷子になるだけだぞ」

「まあ、そうだけど」

 ジャスはそう言いながらも心配そうに鍵を見つめた。そんな様子をみたアウルは、大きなため息をついた。

「まあ、この辺にいるかどうかだけは調べてやるよ」

 そう言って、水晶玉を取り出すと、何やら呪文を唱えた。

「ああ、すぐ近くに、誰かいるようだな。確かに何かを探しているような様子だ。こいつがリンドーかもしれねえな」

「本当?急いで返してくるよ。どの辺?」

「テメェが前に俺に捕まった辺りだな」

「わかりやすいけど嫌な言い方だな」

 ジャスは苦笑いすると、鍵を持って外に向かった。



 リンドーは確かに森の中で何かを探すようにうろついていた。

「リンドー?」

 ジャスが声をかけると、リンドーはハッとして顔を上げた。

「ああ、アウル様の花嫁様」

「その言い方やめて。僕はジャス」

 そう言うと、ジャスはリンドーに鍵を見せた。

「これ、君の?家に落ちてたよ」

「ああ!ありがとうございます!探してたんです」

 リンドーはペコペコと頭を下げながら鍵を受け取った。

「会社の宿舎の鍵なんです。無くしたら入れなくなりますし、社長に死ぬほど怒られるところでございました」

 そう言って、丁寧に鍵を鞄に仕舞った。

「社長さん怖いんだ」

「ええ……っと、まあ怖いといいますか」

 リンドーは苦笑いした。

「まあ、私のようなあまり力仕事が得意でない者には特に厳しいなあと思うことはあります。まあそれ以前に、鍵を無くすなんて、ただの自業自得ですけどね」

「大変なんだね」

 ジャスはうまい言葉が見つからずにありきたりな相槌を打ってしまった。

「あ、よろしければ鍵のお礼に、それを磨きましょうか?専用器具でピカピカにできます」

 リンドーは話を変えるかのように、ジャスの腕輪を指さした。アウルの付けた、魔法の銀の腕輪だ。

「あ、これは大丈夫。取れないんだ」

 ジャスは困ったように言った。

「魔法の腕輪らしくて」

「もしかしてアウル様からの愛のプレゼントですね?羨ましいです」

 リンドーはパッと顔を輝かせた。

「愛の、とかではないよ」

 ジャスは慌てて言う。そんなジャスを無視して、リンドーは腕輪を手に取り、うっとりと観察した。

「まるで結婚指輪のようですね」

「違うってば」

「確かに、これは外せませんね。あ、でもつけたままでも磨けます」

 いらない、大丈夫、と言おうと思ったジャスだったが、少しだけ思い直した。

「……やっぱり少しだけ磨いてもらおうかな」

 そう言って手を差し出した。


 リンドーの仕事は丁寧で早かった。ほぼ手首には触らずに腕輪だけをきれいに磨いていく。

「出来ました。いかがですか」

「きれいになってる。ありがと……」

 お礼を言おうとした瞬間、襟首を掴まれる感覚に襲われた。これはいつもの……。

「ありがとう!じゃあ僕はこれで!!」

 ジャスは慌てて早口で挨拶すると、見えない手に襟首を掴まれて引きずられていった。

 リンドーはポカンとした顔でジャスを見送った。



「何なんだよいつもいつも!」

 ジャスは引きづられてきた先に仁王立ちしていたアウルに文句を言った。

「何なんだじゃねえよ。一応逃げていかねえか確認しについていっただけた。鍵渡すだけに何グダグダしてやがる」

 アウルは怖い顔でジャスを睨む。ジャスも言い返した。

「もうちゃんと花嫁になるって決めたって言っただろ。逃げないってば。つーか別にそんなグダグダしてたわけじゃ」

「何をしてた。随分と楽しそうだったな」

「別に楽しそうなことはしてないけど」

「随分大人しく手を触らせてたじゃねえか。俺からはすぐ離れようとするくせに」

「いや、だって」

 ジャスは困惑してしまった。まるで嫉妬しているようではないか。

「そんな言い方、するなよ」

 ジャスが思わずそう呟くと、アウルは大きなため息をついた。

「ふん、まあ仕方ねえ。今はいい。すぐに家に帰れ」

 それだけ言うと、アウルは先に家の方へ行ってしまった。

 ジャスはなんだか居心地の悪さを感じながらアウルの後をついて行った。
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