媚薬魔法の優しい使い方

りりぃこ

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時間がない

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 トントン、とドアをノックする音がした。

「ごめんください。いらっしゃいますか?」

 外から誰かが訪ねてきたようだ。リンドーの声だ。

「くそ、タイミング悪いのがクロウに似てやがる」

 ブツクサ文句を言いながら、アウルはジャスから手を離し、部屋を出ていった。


 ジャスはホッとしてベットからノロノロと起き上がる。確かに中毒症状は収まっているが、これは近々また発作が起きるやつでは?ジャスは大きなため息をつきながら部屋を出た。



 部屋から出ると、リンドーが座って何やら何枚もの紙をアウルに見せていた。

「お邪魔しております、花嫁様」

 リンドーは立ちあがってにっこりと挨拶した。

「以前アウル様からご依頼頂きました家具屋、何件かご紹介できるところを持ってきたんです」

「ああーうん」

 ジャスは乗り気ではない調子で曖昧に声を発する。とりあえずリンドーにコーヒーを出そうとすると、アウルが止めた。

「おい、待て。普通のでなく完全栄養食の魔法のコーヒー出せ。またさっきこいつ腹鳴らしやがった」

「えっ、き、聞こえてたんですか?気になさらないで頂けたら……」

「うるせえ、俺の前で腹鳴らす事は許さねえ」

 アウルがリンドーの持ってきた紙を見ながらきっぱりと言い張る。ジャスは苦笑いしながら魔法のコーヒーの方を入れてやる。

「まあまあ、断ると機嫌悪くなっちゃうから飲んであげてよ」

「い、いつもすみません……」

 リンドーは恐縮しながら大人しくコーヒーを受け取った。

「もう少し宿舎の食事の量を増やすようには頼めないの?」

 ジャスが聞くと、リンドーはゴソゴソと小さな紙を取り出した。

「あの、私今はあの会社の宿舎にはいないんです。辞めて独立したんです」

 その紙にはリンドーの新会社の情報が載っていた。

「まあその準備でちょっとお金が足りなくてちょっとだけ食事を我慢しちゃってました」

「食事は削るな。足りねえならうちに来い。遠慮すんな、食費はクロウから貰うからな」

「い、いえお気になさらないで下さい」

 リンドーは大慌てで言った。

「そ、その代わりと言っては何ですが、新会社の宣伝にアウル様のお名前借りさせて頂いてもよろしいでしょうか。私は大魔法使いの家の工事をしたことのある技師ですって」

「おお、なかなか抜け目無えな。いいだろう。どんどん自慢しろ」

 アウルはふんぞり返りながら笑った。

「あと、家具屋はここに決めた。約束取り付けておけ」

「かしこまりました」

 リンドーは恭しくアウルから紙を一枚受け取った。ちらりとジャスもその紙をみたが、一つ一つが目が飛び出そうな程の値段をしていた。

「世界が、違う……」

 ジャスは一人呟いた。

 その後、リンドーはサービスですと言いながら水道などの点検を始めた。

 何やらゴソゴソといろんな箇所の点検をし終えると、リンドーはジャスにたずねた。

「花嫁様の腕輪も、また磨きますか?」

「また?」

 アウルが少し怖い顔で睨んできたので、ジャスは慌てて言った。

「ほら、前に忘れていった鍵届けに行った時にも少しやってもらったんだ」

「ふうん」

 アウルは怖い顔で頷いた。

「一応、磨きにも自信あるんですが……」

 リンドーは言ったが、アウルの怖い顔に少し尻込みしたようだ。

「やめ、ますかね?」

「ああ。俺のもんだっつー証だ。勝手に触られんのは気分が悪い」

「も、申し訳ございません」

 リンドーは慌てて頭を下げた。ジャスはリンドーを庇うように言った。

「アウル、リンドーは好意で言ってくれたわけだから」

「だいたいテメェも勝手に触らせんじゃねえよ。前にパイソンに腕輪取られたの忘れてんのか」

「それは、だって。でもリンドーは悪い人じゃないし」

「だとしても駄目だ。テメェの姉のマリカは婚約指輪を他の誰かに預けたりするか?しねえだろ?」

「これ別に婚約指輪じゃないし」

 ジャスは小声でブツブツ言ったが、あんまり反論するもの良くないと判断してそれ以上言わなかった。

「ごめんなさい。私が余計な事言ったんです。設備の点検も終わったので、そろそろ帰ります。アウル様、家具屋さんとの約束取り付けたらまたご連絡します」

 そう言ってリンドーはそそくさと立ち去っていった。


「あーあ、行っちゃった」

 ジャスは、リンドーが立ち去っていったのを見て非難がましくアウルを見る。

「親切で言ってくれたのに」

「うるせえな。親切だろうが敵意むき出しだろうが関係ねえよ」

 アウルは悪びれもなく言い、また部屋へ戻ろうとした。その際に、不機嫌そうな顔で振り返った。

「あ、そうだ、テメェに薬作ってやろうと思ったが、やめた」

「えっ?薬って中毒症状抑えるやつ?」

「ああ。作らねえ」

「なんでだよ。頼むよ。じゃないとまた……」

「中毒症状が起きる前にねだるんだな。契を結んでくれって」

「そ、それは……」

 ジャスは思わず黙ってしまった。



「俺にだって時間がねえんだ。腕輪くらいじゃ繋げておけねえんだから」

 アウルはそう呟くと、部屋へ戻っていった。
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