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愛してるの範疇
しおりを挟むジャスがコーヒーを飲み終えて居間へ行くと、アウルとジャスは向かい合って座ったまま黙っていた。
「あーえっと。どこまで話し合いは済んだの?」
ジャスがたずねると、アウルはギロリと睨んだ。
「テメェが来るのを待ってたんだよ。ったくノロノロしやがって」
「だ、だってあんな熱湯コーヒーそんなすぐに飲めないし……」
言い訳をしながら、ジャスも二人の席の間に座ろうとした。しかし、アウルに近くに座れと言われて、仕方なくアウルの近くに椅子を持っていった。
「さて、ところで考えてくれたかな?」
クロウは声を上げた。
「俺を選ぶ?それともジャスくんを選ぶ?」
「テメェ、ずっと三日間監視してやがっただろ?だったらわかってんじゃねえのか?」
不機嫌そうに言うアウルに、クロウはパッと明るい顔をした。
「やっぱりそうなんだね?でもやっぱり、ちゃんとアウルの口から聞きたくて」
「俺は、ジャスを愛している」
アウルの放った言葉に、ジャスは目を丸くし、クロウは顔を歪めた。
「何を……?今」
「ちゃんと監視してて聞いてたんだろう?俺はジャスが好きだ。ジャスを愛している。そう言ったはずだ」
アウルは真っ直ぐにクロウを見つめた。そして、立ち上がり近づくと、顔を寄せてクロウの口にキスをした。
クロウは真っ赤になって立ち上がった。
「何でこの、タイミングで!」
「俺は、やっぱりテメェとキスをしても、欲情はしねえ。不快でもねえけどな」
アウルはそう言い放つと、また椅子に偉そうに座った。
クロウは動揺した顔で立ち上がったままだった。
「そんなの、分かってる!わざわざ言ってくれなくてもね!」
クロウは泣いているかのように叫んだので、ジャスはオロオロと立ち上がった。
しかし、アウルは落ち着いた様子で、クロウに言い聞かせるように静かに言った。
「これだけはハッキリさせておかねえとだめだ。俺はテメェに欲情はしねえ。たとえテメェと結婚するとなっても、契のためにセックスはするが、それ以外過度な接触をするつもりはない。それでも俺と結婚したいのか」
「したいんだよ」
クロウは即答した。
「アウルが俺を愛していなくても」
「愛してねえなんて言ってねえだろう」
クロウは呆れたように言った。
「テメェはもう愛しているだのなんだのの範疇を超えてんだよ。テメェは俺の半身だ。テメェは俺自身なんだよ。テメェが近くにいねえとかはあり得ねえんだ。だから」
アウルは魔法を使って、立ったままのクロウを座らせた。
「だから、俺はテメェを選ぶしか選択肢がねえんだ」
「アウル……」
クロウは呆然とした顔で椅子に座り込んでいた。
ずっと黙って様子を見ていたジャスも、なんだかホッとして胸を撫で下ろした。
「ところで、悪かったな。子供じみた嫌がらせして」
偉そうに、謝っているような雰囲気は一切出さずにアウルがクロウに言った。
クロウは苦笑いしながら答えた。
「まあ、いい気分ではなかったけどさ」
チラリとクロウがジャスを見るので、ジャスはバツが悪くなって顔をそらした。
「俺はもっと酷い事した自覚はあるしね。アウルを手に入れる為なら何でもしようと思ってたんだ。もっと酷い事されても仕方ないと思ってたよ」
「ほう」
アウルは、何となく何かを期待するような目でクロウの言葉を待った。
「もっと酷い事?」
「まあ、酷い事されたいわけじゃないけど。でも何をされてもいいとは思ってた」
クロウは肩をすくめて答えた。
その途端、アウルはニヤリと笑ってみせた立ち上がった。
「言質は取ったぜ」
アウルの言葉と同時に、家が小さく揺れた。
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