111 / 114
リンドー
しおりを挟む
迷いの森は、アウルの言う通り一本道で迷わなかった。
しかし、少し休憩しようと木陰に座ったとき、妙な気配を感じた。
誰かにつけられている。
ジャスは、それが誰なのか何となく察しがついていた。
「リンドー?」
ジャスが呼びかけると、リンドーがバツが悪そうな顔で出てきた。
「ずっとつけてた?」
「ええ……」
リンドーは恐る恐る、といった様子でジャスに近寄ってきた。
「ごめんなさい」
リンドーは急に頭を下げた。
「色々、騙すみたいな真似して」
「いいよ。クロウに言われたら断れなかったんでしょ」
ジャスはそう言って、リンドーに隣に座るように促した。
リンドーは素直に隣に座った。
「私は、結局クロウ様の計画がちゃんと成功したのかどうかわかりませんでした。でも、花嫁様がこうして村に帰ろうとしていると言う事は、クロウ様の計画は大成功だったんですね」
「あー……大成功ってことではないかな。結局、人間になったのはアウルじゃなくてクロウだったし。まあクロウ本人が受け入れてるからいいんだろうけど」
「大成功です」
リンドーは、ジャスの方を向かずに遠くを見ながらキッパリと言った。
「初めから、クロウ様は、アウル様を人間にするつもりなんてなかったんですから」
「え?」
ジャスは目を丸くして聞き返した。
「何それ。クロウがそう言ってたの?」
「いいえ。でもずっと見ていたので分かります」
リンドーは、ジャスの方を見ることなく微笑んでいた。
「まず、水道とかの工事だって、どちらかが魔法が使えるならする必要がないです。人間のように魔法の家の設備に不慣れなわけじゃないんですから。あれは、ふたりとも魔法が使えなくなることを見越して工事を仕向けたんです。
あと、ここ数年、クロウ様はとても働いてお金を稼いで貯めておりました。アウル様のお仕事の分も、仲介料搾取しているふりして貯め込んでおります。それはそれは、150年以上は働かなくても生活できるほどに。
他にも色々ありますが……」
リンドーはそこで言葉を途切れさせて、ジャスを見つめて静かに、そして丁寧に言った。
「何より、クロウ様はアウル様の全てが好きなのです。強大な魔力も含めて、アウル様の全てを手に入れたいのです」
「そ、その為に?その為にまさかあんな事を?アウルのすることは、全部お見通しだったってこと?自分が人間になることも?」
ジャスはゾッとして言った。
ゾッとしているジャスをよそに、リンドーは今度は顔を合わせずに言った。
「私は、クロウ様を魔法使いのまま、アウル様の側にいさせてあげたかった。でもそれはクロウ様の望みでは無かったようなんです」
そう言って、リンドーはポケットから小さな枯れた何かを取り出した。それは、あのアウルの家に生えた呪いのキノコの枯れたものだった。
「クロウ様から、初めて【お願い】をされた時、とても嬉しかったのです。詳しいことは教えてもらえなかったし、利用されているだけなのもわかってました。でも、初めてクロウ様に必要とされたのです」
リンドーは、情けなく干からびたキノコを大事そうに握りながら、フルフルと震えだした。ジャスは慌ててリンドーの顔を覗き込むと、リンドーは大粒の涙を流していた。
「リン、」
ジャスは声をかけようとしたが、何を言えばいいのか分からず、口をつぐんでしまった。
「やだ、泣くのは可笑しいですね。これで良かったんです。私もこれが望みだったんです。クロウ様がアウル様の幸せになってくれるのが……。あ、いっそ、振られた者同士、花嫁様と私が結婚しますか?」
「違うよ。もうやめようよ?」
ジャスは、思わずリンドーを抱き締めた。
「もうやめようよ。無理にそんな事言わなくていいと思う。もう終わってしまったんだから」
「でもっ、だってっ」
「好きだったんだから、泣くのは当たり前だよ」
ジャスの言葉を皮切りに、リンドーは声を上げて泣き出した。
「私が、隣にいたかった!ずっとずっと好きだったのに!どんなに人生が辛くても嫌な人に囲まれて生きてきても、クロウ様がいたからずっと生きてこられたのに!クロウ様とずっと一緒にいることを目標に生きてこれたのに!!結婚してくれるって言ったのに嘘つき!」
リンドーはジャスの胸の中でわあわあと喚くように暫く泣き続けた。
「スッキリした?」
暫く泣いたあと、我に返ったようにハッとジャスから体を離したリンドーは、恥ずかしそうに頷いた。
「すみません、お見苦しい所を」
「全然、そんな事ないよ」
「ジャス様、ありがとうございました。何だかスッキリしました」
リンドーが言うと、ジャスは目を丸くした。
「初めて、名前呼んでくれたね。今まで頑なに【花嫁様】だったのに」
「あ、あの……ええ」
リンドーはバツが悪そうな顔になった。
「ずっと、ジャス様が羨ましかったんです。花嫁様と呼び続けてたのは、私が呼ばれたかった呼び名なだけなんです。
でももう吹っ切れました。ごめんなさい、さっきは私達で結婚しますかなんて失礼な事言って」
「いや、いいんだ」
ジャスはぶんぶんと首を振った。
「でもほら、もう誰かの代わりは、やめておこうと思うんだ。リンドーも、そうしよう」
「そうですね」
晴れやかな顔になったリンドーは、枯れたキノコをくしゃくしゃに握りつぶすと、遠くへ放り投げた。
「これからは、別な人生の目標を探さなきゃ。仕事も独り立ちしたんだし。ありがとうございます、ジャス様」
「応援してる」
そう言って、ジャスとリンドーは別れた。
ジャスはリンドーの姿が見えなくなるまで見送ると、パンっと両手で自分の両頬を叩いた。
「僕も、切り替えていこう。終わってしまったんだから」
さっきリンドーに言い聞かせた言葉を、自分にも言い聞かせ、ジャスは自分の村へ急ぐのだった。
しかし、少し休憩しようと木陰に座ったとき、妙な気配を感じた。
誰かにつけられている。
ジャスは、それが誰なのか何となく察しがついていた。
「リンドー?」
ジャスが呼びかけると、リンドーがバツが悪そうな顔で出てきた。
「ずっとつけてた?」
「ええ……」
リンドーは恐る恐る、といった様子でジャスに近寄ってきた。
「ごめんなさい」
リンドーは急に頭を下げた。
「色々、騙すみたいな真似して」
「いいよ。クロウに言われたら断れなかったんでしょ」
ジャスはそう言って、リンドーに隣に座るように促した。
リンドーは素直に隣に座った。
「私は、結局クロウ様の計画がちゃんと成功したのかどうかわかりませんでした。でも、花嫁様がこうして村に帰ろうとしていると言う事は、クロウ様の計画は大成功だったんですね」
「あー……大成功ってことではないかな。結局、人間になったのはアウルじゃなくてクロウだったし。まあクロウ本人が受け入れてるからいいんだろうけど」
「大成功です」
リンドーは、ジャスの方を向かずに遠くを見ながらキッパリと言った。
「初めから、クロウ様は、アウル様を人間にするつもりなんてなかったんですから」
「え?」
ジャスは目を丸くして聞き返した。
「何それ。クロウがそう言ってたの?」
「いいえ。でもずっと見ていたので分かります」
リンドーは、ジャスの方を見ることなく微笑んでいた。
「まず、水道とかの工事だって、どちらかが魔法が使えるならする必要がないです。人間のように魔法の家の設備に不慣れなわけじゃないんですから。あれは、ふたりとも魔法が使えなくなることを見越して工事を仕向けたんです。
あと、ここ数年、クロウ様はとても働いてお金を稼いで貯めておりました。アウル様のお仕事の分も、仲介料搾取しているふりして貯め込んでおります。それはそれは、150年以上は働かなくても生活できるほどに。
他にも色々ありますが……」
リンドーはそこで言葉を途切れさせて、ジャスを見つめて静かに、そして丁寧に言った。
「何より、クロウ様はアウル様の全てが好きなのです。強大な魔力も含めて、アウル様の全てを手に入れたいのです」
「そ、その為に?その為にまさかあんな事を?アウルのすることは、全部お見通しだったってこと?自分が人間になることも?」
ジャスはゾッとして言った。
ゾッとしているジャスをよそに、リンドーは今度は顔を合わせずに言った。
「私は、クロウ様を魔法使いのまま、アウル様の側にいさせてあげたかった。でもそれはクロウ様の望みでは無かったようなんです」
そう言って、リンドーはポケットから小さな枯れた何かを取り出した。それは、あのアウルの家に生えた呪いのキノコの枯れたものだった。
「クロウ様から、初めて【お願い】をされた時、とても嬉しかったのです。詳しいことは教えてもらえなかったし、利用されているだけなのもわかってました。でも、初めてクロウ様に必要とされたのです」
リンドーは、情けなく干からびたキノコを大事そうに握りながら、フルフルと震えだした。ジャスは慌ててリンドーの顔を覗き込むと、リンドーは大粒の涙を流していた。
「リン、」
ジャスは声をかけようとしたが、何を言えばいいのか分からず、口をつぐんでしまった。
「やだ、泣くのは可笑しいですね。これで良かったんです。私もこれが望みだったんです。クロウ様がアウル様の幸せになってくれるのが……。あ、いっそ、振られた者同士、花嫁様と私が結婚しますか?」
「違うよ。もうやめようよ?」
ジャスは、思わずリンドーを抱き締めた。
「もうやめようよ。無理にそんな事言わなくていいと思う。もう終わってしまったんだから」
「でもっ、だってっ」
「好きだったんだから、泣くのは当たり前だよ」
ジャスの言葉を皮切りに、リンドーは声を上げて泣き出した。
「私が、隣にいたかった!ずっとずっと好きだったのに!どんなに人生が辛くても嫌な人に囲まれて生きてきても、クロウ様がいたからずっと生きてこられたのに!クロウ様とずっと一緒にいることを目標に生きてこれたのに!!結婚してくれるって言ったのに嘘つき!」
リンドーはジャスの胸の中でわあわあと喚くように暫く泣き続けた。
「スッキリした?」
暫く泣いたあと、我に返ったようにハッとジャスから体を離したリンドーは、恥ずかしそうに頷いた。
「すみません、お見苦しい所を」
「全然、そんな事ないよ」
「ジャス様、ありがとうございました。何だかスッキリしました」
リンドーが言うと、ジャスは目を丸くした。
「初めて、名前呼んでくれたね。今まで頑なに【花嫁様】だったのに」
「あ、あの……ええ」
リンドーはバツが悪そうな顔になった。
「ずっと、ジャス様が羨ましかったんです。花嫁様と呼び続けてたのは、私が呼ばれたかった呼び名なだけなんです。
でももう吹っ切れました。ごめんなさい、さっきは私達で結婚しますかなんて失礼な事言って」
「いや、いいんだ」
ジャスはぶんぶんと首を振った。
「でもほら、もう誰かの代わりは、やめておこうと思うんだ。リンドーも、そうしよう」
「そうですね」
晴れやかな顔になったリンドーは、枯れたキノコをくしゃくしゃに握りつぶすと、遠くへ放り投げた。
「これからは、別な人生の目標を探さなきゃ。仕事も独り立ちしたんだし。ありがとうございます、ジャス様」
「応援してる」
そう言って、ジャスとリンドーは別れた。
ジャスはリンドーの姿が見えなくなるまで見送ると、パンっと両手で自分の両頬を叩いた。
「僕も、切り替えていこう。終わってしまったんだから」
さっきリンドーに言い聞かせた言葉を、自分にも言い聞かせ、ジャスは自分の村へ急ぐのだった。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!
めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈
社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。
もらった能力は“全言語理解”と“回復力”!
……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈
キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん!
出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。
最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈
攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉
--------------------
※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる