媚薬魔法の優しい使い方

りりぃこ

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幸せだったよ

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 ジャスが村に戻って一ヶ月程たった。

 ジャスは不満そうな顔で、マリカとシバの前に立っていた。

「何で結婚式しないの?」

 結婚式の予定は立てていたはずだ。

 ドレスの用意もしていた。

 ご馳走を村のみんなに振る舞うんだと、料理が下手な癖に気合を入れていた。



「どうして?結婚式するんじゃなかったの?」

「うーん、村のみんなに、結構迷惑をかけちゃったしね」

 マリカは気まずそうに言った。

「そんなの、誰も気にしてないよ。本当だよ。マリカのせいじゃないのはみんな知ってる」

「私達がちょっと気にしちゃうんだよ」

 マリカは小さく笑った。

「大丈夫よ。結婚式しなくったって、私とシバは仲良く暮らしてるんだし」


 ジャスは不満だった。

 マリカはあんなに楽しみにしてたのに。

 しかし、確かに結婚式しなくても二人は全く気にしていないようなので、ジャスがこれ以上首を突っ込むわけにはいかない。


「そうは言ってもなぁ」

 ジャスがぶつくさ言いながら、マリカとシバの家を後にしてふらふら歩いている時だった。

 父親が、ジャスを見つけて走ってきた。

「ああ!ジャス!よかった、探した。大変なんだ」

「な、何?」

「とにかく、店に来てくれ!」

 父親に言われて、ジャスは慌てて走って店に向かった。

「な、何だ!これ!」

 薬屋の店の前には、大量の荷物が置かれている。

 店の前にはまだ数人の人がいて、次々と荷物を店の前に置いていく。

 そのうちの一人に、ジャスは見覚えがあった。

「店主さん!食料店の!」

 声をかけられて、店主は顔をあげた。

 アウルの行きつけの、高級食料店の店主だ。

「お久しぶりでございます。ジャス様」

「な、何をしてるの?」

「ご注文の品をお届けしているところでございます」

「ち、注文?注文なんてしてないけど」

 慌ててジャスが言うと、しれっとした顔で店主は言った。

「アウル様からの注文でございます」

「アウルから?」

「ええ、アウル様が、こちらに届けるようにと」

 ふと、荷物を見ると、大量の荷物の中身は全て食材だ。

「こ、こんなとこにまで届けてくれるの?」

「普段はやっておりませんが、アウル様はお得意様でございますし、料金の3倍の値段を頂いておりますので」

 店主は飄々と答える。

 なんだか、同じような言葉を前も聞いたな、と思って、思わずジャスは笑ってしまった。

「お詫び、だそうですよ」

 店主はふと言う。

 ジャスは首をかしげる。

 店主はまた言う。

「ジャス様とマリカ様へのお詫びだと申しておりました」

「お詫び?らしくないな」

 ジャスは笑った。

「大体、お詫びなら直接来ないとだめだろ」

「今会ったら、気持ちがブレてしまう、とか何とか言っておりましたが」

 店主がしれっと言うので、ジャスは思わず口をつぐんでしまった。

 それに気づいてか気づかずか、店主は続けた。

「誰かと美味しい、と言いながら、食べてほしいそうですよ」

 店主はそういって微笑んだ。ジャスは初めて店主の笑顔を見た。

 店主は荷物を運び終えると、丁寧におじきをして立ち去っていった。


「なんか、凄いものが来ちゃったな……」

 父はあ然とした様子で、店前に運び込まれた食材を見つめていた。



「ジャス!お父さん、なんか大変なことがあったって……なにこれ!?」

 あとからやってきたマリカが、食材の山を見て悲鳴をあげた。

「アウルからのお詫びの品だよ」

「お、お詫び……?って、こんな、見たことないよこんな高級食材……それもこんなに……」

 マリカは困惑した様子で荷物を見つめた。

「何人前なのこれ……村の人達に分けてもまだ余りそう……」

 マリカの言葉に、ジャスはハッとした。

 そして、マリカに向かって、笑顔で言った。

「仕方ないなぁ。宴をするしかない、よね」

「宴……?」

「村の人達みんな招待して宴でもしないと、消費しきれないよ。ついでだから、結婚式もしちゃおうよ」

「はっ?」

 マリカは目を丸くした。

「だ、だってそんな」

「ついでだよついで。シバにも聞いておいでよ。なあ父さんもそう思わない?」

 ジャズに言われて、すぐに意図を察した父は、大きく頷いた。

「ああ。そうだな。シバくんに聞いておいで。きっと賛成してくれる」

 ジャスと父に言われて、マリカは小さく、でも嬉しそうに頷いた。



 マリカとシバの結婚式は、次の日すぐに執り行われた。

 村の料理自慢達が腕を奮った高級料理が次々と出され、大いに盛り上がった。


 マリカはキレイだった。


 よかった。本当によかった。

 ジャスはマリカのドレス姿を見ながら何度もそう言った。

 好きな人の花嫁になれて、本当にマリカは幸せだ。



 宴も終盤に差し掛かり、動きやすいワンピースに着替えたマリカが、ジャスの隣に座った。

「ありがとうジャス。結婚式提案してくれて」

「そんな。アウルの詫びの品があったから、きっかけが出来ただけだよ」

 ジャスはそう言って笑った。

「美味しいね、この料理。食材もいいけど、村の人達、すっごく張り切って作ってくれたもんね」

 マリカはそう言って笑った。

「そうだね、美味しいね」

 ジャスはそう笑う。

「それにしても、大魔法使いは、いつもこんないい物食べてるの?ジャズもこんな食事を毎日してたの?」

「いや、奴とは食事はあんまり……あ、いや」

 ジャスは、言葉を切って言い換えた。

「そうだよ。こんないい食事ばっかりしてたよ。アイツは、花嫁を大事にするやつだったから、いい食事取らされてた」

「そっか。よかった」

 マリカはホッとしたように言った。

「ジャスは、思ったより、幸せだったのかな?」

 マリカの問いに、ジャスは間髪入れずに大きく頷いた。


「うん、あの3ヶ月、なんやかんやで、幸せだったよ」


 マリカに安心させる為にそう言った、はずだったが、言葉にしてみたら本当に幸せだったような気がしてきた。


 おかしいな。僕はアウルが好きじゃなかったはずなのに。

 でも、多分、幸せだったよ。


 誰かが新しいワインを開けた音がした。




 end

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