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禊
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ベットでじゃれ合おうとする弦人を、ハナは「あとで!今日は何か用事があるって言ってたじゃないですか!」となんとか宥めた。
弦人は不満そうだったが、その言葉に、用事を思い出したようで渋々ハナを開放した。
「さて、大事な用事の件なんだけどね」
部屋を出て、弦人はハナと廊下を歩きながら説明した。
「ヤクザの世界じゃ、仁義に欠ける事をしたら禊を果たさなきゃだめなんだけどさ」
「はあ」
ハナは曖昧に相槌を打ちながら弦人に付いていく。
「私関係あるんですが?」
「大ありなんだよ」
「はあ」
「ところでハナちゃん、セイラちゃんにいじめられてなかった?」
突然出てきたセイラの名前に、ハナはドキッとした。しかし、よく考えれば、嫌がらせしてやると宣言された割に、別になにもされた記憶はない。
「いや、いじめられめないですけど?」
「そっか。セイラちゃんをどうしようかと悩んでてね。
悪意は明らかにあったんだけど何もまだしてなかったみたいだし、実際はハナちゃんが殴られてるのを止めてくれたり、証拠になる動画とってあったりで、処分しにくくて。
ただ、凹んではいるけど、ちょっと不貞腐れた感じであんまり反省している様子はなくて……」
「ちょ、ちょっと待ってください。なんの事ですか?証拠動画?殴られてるのを止めてくれた?」
ハナは目をつぶり、頭を抱えながら思い出そうとした。
「そういえば……あの時助けてくれた色白で美人でコケシに似てた人……あの人セイラさんに似てたかも」
「セイラちゃんノーメイクだと、コケシに似てるんだ……」
「そっか。今度会ったらお礼言わないと」
「でも、ハナちゃんに意地悪しようとしてたみたいだよ」
弦人の言葉に、ハナはパチクリさせて答えた。
「しようとしただけで、何もされてないですよ?」
「そうだけど……まあ、じゃ一ヶ月くらいの減給にしておこうかな」
「別に減給もしなくても……。私、セイラさんが私に意地悪しようとする気持ち、すごくわかるし……」
ずっと弦人を好きだったなら、ぽっと出の訳のわからない女に取られたなら、そりゃ冷静になれないだろう。
「私だって、立場が変わればそうなるかもしれないし」
「そっか。でもね、そうもいかないんだよ。まあ一ヶ月の減給は、うちの組で一番軽い禊だから大丈夫」
弦人はハナを励ますようにポンポンと背中を叩くと、家の奥にある和室に案内した。
「さて、問題は、こっちなんだよね」
弦人は申し訳無さそうな顔をしている。
「じつは、池田隼が、ハナちゃんのマンションに拳銃を持って行ったのは、市原がそう仕組んだんだ」
「市原さんが?」
弦人が説明しながら開けた扉の向こうには、市原が真剣な顔で目を瞑って座っていた。
「市原、覚悟は出来てる?」
「はい」
ハナは、その光景を見てゾッとした。
市原の目の前には、金属バットやゴルフクラブ、ハンマー、小刀などが置かれていた。
まさかこれは。
「俺はね、市原の事が大切なんだ。だからどうしても市原には甘いから、手加減しちゃうと思うんだ。でも、怖い思いをしたのはハナちゃんだから……」
そう言って、弦人はハナの手を優しく握った。
「是非ハナちゃんに市原を殴ってリンチしてもらえたら……」
「無理無理無理!!」
ハナは全力で拒否した。
「あ、ハナちゃん素手は無理だよね?鉄バットとかゴルフクラブとか好きなの使って」
「使いません!!」
「やっぱり殴るとか抵抗ある?あ、ヤクザらしく小指切る?」
「切りません!」
ハナは真っ赤になって叫んだ。
「一体これはなんですか!?」
「何って、市原の禊だよ。俺に内緒で妙な画策をして、ハナちゃんを怖い目に合わせたんだからね」
弦人はそう言って、市原に優しく微笑んだ。
「ていうか、こんな状態でずっと市原さん待たせてたんですか!?私の家具置いてある部屋案内してる場合じゃなかったでしょ!さっきまでちょっとイチャイチャしてたのが申し訳ない!」
「だって、市原が心の準備したいから、少し別な部屋でイチャイチャでもしてて下さいって言ったから……」
「そんな文字通り受け取らないでよ」
ハナは呆れたように言った。
「私は殴ったりしません。そりゃ、何てことしてくれたのよ!くらい思ってますけど。
それ以上に市原さんにはお世話になってるし、最近は貴様って呼ばなくなってちょっと優しいし」
ハナは必死になっていうが、弦人は困った顔をして諭すように言った。
「でも、何もしないわけにはいかないよ。若頭の女に手を出したらこうなるっていう牽制にもなるんだ」
その言葉に、ハナはキッと弦人を睨んだ。
「なら!さっきセイラさんの話の時に言ってた減給でいいじゃないですか」
「減給?」
「そう!」
ハナの提案に、弦人は少し考えこんで、そして手を打った。
「よし!そうだね、ハナちゃんの言う通りだ。リンチは無し。その代わり向こう一年間無給労働とマンション没収ね」
「無給!?」
「マンション没収!?」
ハナと市原は、思わず声が重なってしまった。
「無給はヤバくないですか?それも一年って。それも、マンション没収って、どこに住むんですか?」
「大丈夫、ここに住めばいいよ。新人さんとか住み込みで何人か住んでるし。まあみんなで雑魚寝だけどね。
お金も必要になったら組で貸してあげるよ。トイチだけどね」
弦人の言葉に、市原は神妙な面持ちで頭を下げた。
「分かりました」
「良かったね。痛い思いしなくて」
にこやかに微笑む弦人に、市原は微妙な顔で、
「痛い思いならいくらでも耐えれる自信があったんだが……」
と呟いた。
「精神的に責めてくるタイプのヤクザだ……」
ハナも、思わず小声で呟いた。
弦人は不満そうだったが、その言葉に、用事を思い出したようで渋々ハナを開放した。
「さて、大事な用事の件なんだけどね」
部屋を出て、弦人はハナと廊下を歩きながら説明した。
「ヤクザの世界じゃ、仁義に欠ける事をしたら禊を果たさなきゃだめなんだけどさ」
「はあ」
ハナは曖昧に相槌を打ちながら弦人に付いていく。
「私関係あるんですが?」
「大ありなんだよ」
「はあ」
「ところでハナちゃん、セイラちゃんにいじめられてなかった?」
突然出てきたセイラの名前に、ハナはドキッとした。しかし、よく考えれば、嫌がらせしてやると宣言された割に、別になにもされた記憶はない。
「いや、いじめられめないですけど?」
「そっか。セイラちゃんをどうしようかと悩んでてね。
悪意は明らかにあったんだけど何もまだしてなかったみたいだし、実際はハナちゃんが殴られてるのを止めてくれたり、証拠になる動画とってあったりで、処分しにくくて。
ただ、凹んではいるけど、ちょっと不貞腐れた感じであんまり反省している様子はなくて……」
「ちょ、ちょっと待ってください。なんの事ですか?証拠動画?殴られてるのを止めてくれた?」
ハナは目をつぶり、頭を抱えながら思い出そうとした。
「そういえば……あの時助けてくれた色白で美人でコケシに似てた人……あの人セイラさんに似てたかも」
「セイラちゃんノーメイクだと、コケシに似てるんだ……」
「そっか。今度会ったらお礼言わないと」
「でも、ハナちゃんに意地悪しようとしてたみたいだよ」
弦人の言葉に、ハナはパチクリさせて答えた。
「しようとしただけで、何もされてないですよ?」
「そうだけど……まあ、じゃ一ヶ月くらいの減給にしておこうかな」
「別に減給もしなくても……。私、セイラさんが私に意地悪しようとする気持ち、すごくわかるし……」
ずっと弦人を好きだったなら、ぽっと出の訳のわからない女に取られたなら、そりゃ冷静になれないだろう。
「私だって、立場が変わればそうなるかもしれないし」
「そっか。でもね、そうもいかないんだよ。まあ一ヶ月の減給は、うちの組で一番軽い禊だから大丈夫」
弦人はハナを励ますようにポンポンと背中を叩くと、家の奥にある和室に案内した。
「さて、問題は、こっちなんだよね」
弦人は申し訳無さそうな顔をしている。
「じつは、池田隼が、ハナちゃんのマンションに拳銃を持って行ったのは、市原がそう仕組んだんだ」
「市原さんが?」
弦人が説明しながら開けた扉の向こうには、市原が真剣な顔で目を瞑って座っていた。
「市原、覚悟は出来てる?」
「はい」
ハナは、その光景を見てゾッとした。
市原の目の前には、金属バットやゴルフクラブ、ハンマー、小刀などが置かれていた。
まさかこれは。
「俺はね、市原の事が大切なんだ。だからどうしても市原には甘いから、手加減しちゃうと思うんだ。でも、怖い思いをしたのはハナちゃんだから……」
そう言って、弦人はハナの手を優しく握った。
「是非ハナちゃんに市原を殴ってリンチしてもらえたら……」
「無理無理無理!!」
ハナは全力で拒否した。
「あ、ハナちゃん素手は無理だよね?鉄バットとかゴルフクラブとか好きなの使って」
「使いません!!」
「やっぱり殴るとか抵抗ある?あ、ヤクザらしく小指切る?」
「切りません!」
ハナは真っ赤になって叫んだ。
「一体これはなんですか!?」
「何って、市原の禊だよ。俺に内緒で妙な画策をして、ハナちゃんを怖い目に合わせたんだからね」
弦人はそう言って、市原に優しく微笑んだ。
「ていうか、こんな状態でずっと市原さん待たせてたんですか!?私の家具置いてある部屋案内してる場合じゃなかったでしょ!さっきまでちょっとイチャイチャしてたのが申し訳ない!」
「だって、市原が心の準備したいから、少し別な部屋でイチャイチャでもしてて下さいって言ったから……」
「そんな文字通り受け取らないでよ」
ハナは呆れたように言った。
「私は殴ったりしません。そりゃ、何てことしてくれたのよ!くらい思ってますけど。
それ以上に市原さんにはお世話になってるし、最近は貴様って呼ばなくなってちょっと優しいし」
ハナは必死になっていうが、弦人は困った顔をして諭すように言った。
「でも、何もしないわけにはいかないよ。若頭の女に手を出したらこうなるっていう牽制にもなるんだ」
その言葉に、ハナはキッと弦人を睨んだ。
「なら!さっきセイラさんの話の時に言ってた減給でいいじゃないですか」
「減給?」
「そう!」
ハナの提案に、弦人は少し考えこんで、そして手を打った。
「よし!そうだね、ハナちゃんの言う通りだ。リンチは無し。その代わり向こう一年間無給労働とマンション没収ね」
「無給!?」
「マンション没収!?」
ハナと市原は、思わず声が重なってしまった。
「無給はヤバくないですか?それも一年って。それも、マンション没収って、どこに住むんですか?」
「大丈夫、ここに住めばいいよ。新人さんとか住み込みで何人か住んでるし。まあみんなで雑魚寝だけどね。
お金も必要になったら組で貸してあげるよ。トイチだけどね」
弦人の言葉に、市原は神妙な面持ちで頭を下げた。
「分かりました」
「良かったね。痛い思いしなくて」
にこやかに微笑む弦人に、市原は微妙な顔で、
「痛い思いならいくらでも耐えれる自信があったんだが……」
と呟いた。
「精神的に責めてくるタイプのヤクザだ……」
ハナも、思わず小声で呟いた。
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