祖母孝行したいけど、兄弟でキスはできない

りりぃこ

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うちでは撮影出来ない

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※※※※

 そうしてやって来た打ち合わせの日。


 茉莉花との待ち合わせは、自然公園だった。

 親子連れがたくさん遊具で遊んでいる。


「今日は、ロケーションを決めようと思ってさ」

 そう言う茉莉花の首には、大きなカメラがあった。

「私は、ロケーション決めてからコスプレのコンセプトを決めたいんだよね。これ、こだわり」

 意気揚々と話す茉莉花はとてもご機嫌だ。

 祥太と何かあったのでは、と思ったのは気のせいだったのだろうか。それとも、単に祥太が今日は欠席だから気楽なのだろうか。


「ここは、おすすめのロケーションなんですか?」

 智紀がたずねると、茉莉花はニヤリと笑った。


 園内のベンチに座るように促されて腰を下ろす。

 茉莉花は持っていた大きな荷物から、これまた大きなアルバムを取り出した。

「おおお、すげえ」

 中身を見て、智紀は思わず感嘆の声を上げた。

 何枚もの風景写真が並べられており、どれもこれも素人目から見ても美しいものだった。荒々しい木々、寂しげに佇む大きな岩、青空の映える草原、海の写真や古民家の写真もあり、それらは角度を変えて何種類もあった。

「写真、上手いんですね」

「見くびっちゃいけないよ。これでも賞とか入ったことあるんだから。……まあ下の賞だけだけど」

「下でも何でも凄いじゃないですか」

「ふふん。そう言われるとマジで嬉しい」

 茉莉花はそう言いながら、アルバムのページをめくった。

「この辺りの写真が、この自然公園で取った写真。あそこのアスレチック広場の向こう側がね、いかにも森の中って感じの写真が撮れていいんだよね」

「へえ」

 確かに、茉莉花の撮った写真で見ると、木々の生い茂った森の中の写真に見える。まったく、整備された自然公園の中とは思えない。


「ハルとナツとの出会いの場所だったら、この自然公園がぴったりだと思って」

 そう言って、茉莉花は急にアルバムを閉じると、さっさと立って歩き出した。

 智紀は慌てて後を追う。


 子供達がたくさん遊んでいるアスレチック広場を通り過ぎ、少し行ったところに、大きな木が何本もあるところがあった。


「ここに、しようかと思って。ちょっと弟ちゃんで試し撮りしようかな、って今日は思ってたん……だけど……」

 そう言いながら、茉莉花は苦笑いした。

「完全に無理じゃんこれ」

「そうですね」

 智紀も頷いた。


 子供たちがたくさんいるのだ。


 よく考えたらアスレチック広場の近くなんだから当たり前だ。


「他の人が、特に子供がいるところでカメラ構えるのはよろしく無いね」

 茉莉花は呻く。

 智紀の方も、あんな立派なカメラで撮影されるところを人に見られるのは恥ずかしい。


「ちなみに、さっきのアルバムみたいな写真はどうやって撮ったんですか?」

 智紀がたずねると、茉莉花は肩をすくめて答えた。

「いつもは平日来てるんだよ。大学の授業が無いタイミング見計らってさ。土日は人が多いかなって思って今まで避けてたんだけど、いやあ、まさかこんなに混んでるとは。弟ちゃんはまだ高校生だから、平日撮影は無理そうかなって思って土日に来てみたんだけど……」

 考え直さないと、と茉莉花は呟きながら、自分のアルバムを開いてブツブツ言い出した。


 智紀は、公園を見渡しながら単純な事を思っていた。


 ――外で撮られるのは、やっぱり恥ずかしい。


 かと言って、今更やめたいとは言えないし。

 智紀もブツブツ言っている茉莉花の横で、アルバムをチラ見しながら考えた。

 そして、ふと思ってたずねてみた。


「外じゃなくて、中で撮影するのはだめですか?」


「中?」


 キョトンとする茉莉花の手から、アルバムを取ってページをめくった。

 そしてあるページを指さした。

「この古民家とか、ちょっと似てませんか?その、主人公の家に。いや、俺もパラパラとしか読んでないからうろ覚えですけど。こんな、昔ながらの、縁側があって、庭があって、って感じでしたよね?」


 アルバムの写真の古民家。あえてセピア色で撮影されているが、とてもさち子の部屋に似ていた。そして、さち子の部屋から見える庭にも似ていた。


 前に幸田が数学のテスト勉強をしにさち子の部屋に来た時に言っていた事を思い出したのだ。


『このおばあちゃんの部屋って、ハルの部屋に似てません?』

『昔の家はみんなこんな感じだったんだよ』


「出会いシーンもいいですけど、その、イチャイチャ?をするなら主人公の部屋っていいんじゃないですかね」

 古民家なら、通りすがりの人に撮影を見られたりしないんじゃないか、との思いで、智紀は必死で提案してみる。


 チラリと茉莉花の顔を見てみると、思った以上に険しい顔をしていた。

「だめ、なんですか?」

 おそるおそる智紀がたずねると、茉莉花はハッと顔を上げた。

「いや、弟ちゃんの意見はなかなかいい」

「ありがとうございます」

「ただ、どこの古民家使うかだよなぁ。撮影させてくれそうな古民家があるかどうか」

「この写真はどこのお家なんですか?」

 何気なくたずねると、茉莉花の顔がこわばった。

「この写真は、うちの家の部屋の写真」

「へえ!」

「でも、うちでは撮影出来ない」

「そうなんですか」

「マジでごめん」

「いや、別にそんな真剣に謝らなくても」

「ごめん……」

 智紀は慌てた。家に入られたくない人はいくらでもいるだろうし、そんな大したことではないような気がするのに、茉莉花の顔はとてもこわばっていた。


「いや、その、そりゃあ茉莉花さんのお家の人だって、勝手に家の中で撮影されたら嫌かもしれないですし、そんなの当たり前ですよ」

 智紀は必死になって言った。 しかし、茉莉花の顔はこわばったままだ。


 ――ああくそ、こういう時、兄貴なら何とかして溶かしてあげられるんだろうな。


 智紀は情けなくなって、「ジュース何か買ってきます」とだけ言って、その場を離れた。




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