25 / 58
うちでは撮影出来ない
しおりを挟む※※※※
そうしてやって来た打ち合わせの日。
茉莉花との待ち合わせは、自然公園だった。
親子連れがたくさん遊具で遊んでいる。
「今日は、ロケーションを決めようと思ってさ」
そう言う茉莉花の首には、大きなカメラがあった。
「私は、ロケーション決めてからコスプレのコンセプトを決めたいんだよね。これ、こだわり」
意気揚々と話す茉莉花はとてもご機嫌だ。
祥太と何かあったのでは、と思ったのは気のせいだったのだろうか。それとも、単に祥太が今日は欠席だから気楽なのだろうか。
「ここは、おすすめのロケーションなんですか?」
智紀がたずねると、茉莉花はニヤリと笑った。
園内のベンチに座るように促されて腰を下ろす。
茉莉花は持っていた大きな荷物から、これまた大きなアルバムを取り出した。
「おおお、すげえ」
中身を見て、智紀は思わず感嘆の声を上げた。
何枚もの風景写真が並べられており、どれもこれも素人目から見ても美しいものだった。荒々しい木々、寂しげに佇む大きな岩、青空の映える草原、海の写真や古民家の写真もあり、それらは角度を変えて何種類もあった。
「写真、上手いんですね」
「見くびっちゃいけないよ。これでも賞とか入ったことあるんだから。……まあ下の賞だけだけど」
「下でも何でも凄いじゃないですか」
「ふふん。そう言われるとマジで嬉しい」
茉莉花はそう言いながら、アルバムのページをめくった。
「この辺りの写真が、この自然公園で取った写真。あそこのアスレチック広場の向こう側がね、いかにも森の中って感じの写真が撮れていいんだよね」
「へえ」
確かに、茉莉花の撮った写真で見ると、木々の生い茂った森の中の写真に見える。まったく、整備された自然公園の中とは思えない。
「ハルとナツとの出会いの場所だったら、この自然公園がぴったりだと思って」
そう言って、茉莉花は急にアルバムを閉じると、さっさと立って歩き出した。
智紀は慌てて後を追う。
子供達がたくさん遊んでいるアスレチック広場を通り過ぎ、少し行ったところに、大きな木が何本もあるところがあった。
「ここに、しようかと思って。ちょっと弟ちゃんで試し撮りしようかな、って今日は思ってたん……だけど……」
そう言いながら、茉莉花は苦笑いした。
「完全に無理じゃんこれ」
「そうですね」
智紀も頷いた。
子供たちがたくさんいるのだ。
よく考えたらアスレチック広場の近くなんだから当たり前だ。
「他の人が、特に子供がいるところでカメラ構えるのはよろしく無いね」
茉莉花は呻く。
智紀の方も、あんな立派なカメラで撮影されるところを人に見られるのは恥ずかしい。
「ちなみに、さっきのアルバムみたいな写真はどうやって撮ったんですか?」
智紀がたずねると、茉莉花は肩をすくめて答えた。
「いつもは平日来てるんだよ。大学の授業が無いタイミング見計らってさ。土日は人が多いかなって思って今まで避けてたんだけど、いやあ、まさかこんなに混んでるとは。弟ちゃんはまだ高校生だから、平日撮影は無理そうかなって思って土日に来てみたんだけど……」
考え直さないと、と茉莉花は呟きながら、自分のアルバムを開いてブツブツ言い出した。
智紀は、公園を見渡しながら単純な事を思っていた。
――外で撮られるのは、やっぱり恥ずかしい。
かと言って、今更やめたいとは言えないし。
智紀もブツブツ言っている茉莉花の横で、アルバムをチラ見しながら考えた。
そして、ふと思ってたずねてみた。
「外じゃなくて、中で撮影するのはだめですか?」
「中?」
キョトンとする茉莉花の手から、アルバムを取ってページをめくった。
そしてあるページを指さした。
「この古民家とか、ちょっと似てませんか?その、主人公の家に。いや、俺もパラパラとしか読んでないからうろ覚えですけど。こんな、昔ながらの、縁側があって、庭があって、って感じでしたよね?」
アルバムの写真の古民家。あえてセピア色で撮影されているが、とてもさち子の部屋に似ていた。そして、さち子の部屋から見える庭にも似ていた。
前に幸田が数学のテスト勉強をしにさち子の部屋に来た時に言っていた事を思い出したのだ。
『このおばあちゃんの部屋って、ハルの部屋に似てません?』
『昔の家はみんなこんな感じだったんだよ』
「出会いシーンもいいですけど、その、イチャイチャ?をするなら主人公の部屋っていいんじゃないですかね」
古民家なら、通りすがりの人に撮影を見られたりしないんじゃないか、との思いで、智紀は必死で提案してみる。
チラリと茉莉花の顔を見てみると、思った以上に険しい顔をしていた。
「だめ、なんですか?」
おそるおそる智紀がたずねると、茉莉花はハッと顔を上げた。
「いや、弟ちゃんの意見はなかなかいい」
「ありがとうございます」
「ただ、どこの古民家使うかだよなぁ。撮影させてくれそうな古民家があるかどうか」
「この写真はどこのお家なんですか?」
何気なくたずねると、茉莉花の顔がこわばった。
「この写真は、うちの家の部屋の写真」
「へえ!」
「でも、うちでは撮影出来ない」
「そうなんですか」
「マジでごめん」
「いや、別にそんな真剣に謝らなくても」
「ごめん……」
智紀は慌てた。家に入られたくない人はいくらでもいるだろうし、そんな大したことではないような気がするのに、茉莉花の顔はとてもこわばっていた。
「いや、その、そりゃあ茉莉花さんのお家の人だって、勝手に家の中で撮影されたら嫌かもしれないですし、そんなの当たり前ですよ」
智紀は必死になって言った。 しかし、茉莉花の顔はこわばったままだ。
――ああくそ、こういう時、兄貴なら何とかして溶かしてあげられるんだろうな。
智紀は情けなくなって、「ジュース何か買ってきます」とだけ言って、その場を離れた。
10
あなたにおすすめの小説
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』
放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。
「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」
身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。
冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。
「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」
得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。
これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
橘若頭と怖がり姫
真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。
その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。
高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる