祖母孝行したいけど、兄弟でキスはできない

りりぃこ

文字の大きさ
26 / 58

今回は違ったら?

しおりを挟む


 紅茶と炭酸のペットボトルを抱えて戻ると、なぜか茉莉花は元気にアスレチックを楽しむ子供たちの写真を楽しそうに撮っていた。


「何してるんですか」

「ちゃんと、そこにいる親御さんに撮影許可取ったし」

「そうでなくて」

 さっきまで凹んでいたようなのは一体何だったのか。

 智紀は脱力しながら茉莉花に紅茶を渡した。

「ありがと、150円だよね」

「別にいいですよ」

「良くない。さすがに高校生から奢られるのキツイ」

 そう言って、茉莉花は智紀に小銭を握らせた。


「カメラ持ってたらさ、子供たちが撮って撮ってってうるさくてさ。勝手に撮って不審者通報されてもやだし、必死であの子たちの親探したよねー」

 茉莉花は受け取った紅茶を飲みながら笑って言った。

 元気になったようでホッとした。智紀は無邪気な子供達に感謝しながら、自分もペットボトルを開けて口に含む。

 その時、パシャ、と音が鳴った。

「おー、さすが弟ちゃん、イケメンは絵になるねえ。炭酸飲料のCMみたいな写真取れたよ」

「俺には撮影許可取らないんですか?」

「保護者から取った方いい?お兄様から?」

 ケラケラと笑う茉莉花を見て、智紀はそういえば気になっていた事を思い出した。

 茉莉花の機嫌が良くなっている今がタイミングかもしれない、と思って、智紀は勇気を出して聞いてみた。


「そういえば、茉莉花さん、兄貴と何かありました?」

「何か?」

 茉莉花は一瞬だけ目を泳がせたが、すぐに「ああ」と笑ってみせた。

「ごめん、お兄様に、『見損なった』とか言っちゃった。もしかして気にしてるかな?そんなマジに捉えなくていいのに」

「見損なった?」

 まあ、女子からそんなことを言われたら、祥太ならショックを受けそうだが。

「一体、兄貴は、何しでかして見損られたんですか?」

「いや、だからマジに捉えなくていいって。お兄様は何もしでかしてないよ、本当。弟ちゃんが気にする事じゃない。それにしても参ったな、気にしてんのかな。後で謝りのメッセ送っとく」

 茉莉花は、それ以上何も言うつもりは無いらしく、強引に話を打ち切るように智紀から顔をそらした。


「さて、せっかく来たし、ちょっと向こうも見てみない?弟ちゃんのいうとおり、部屋案もいいけど、あっちにも初杜のコスプレにぴったりっぽいスポットあるんだ。あっちはあんま人通りも少ないんだよね。まあでも私的にはあんまり好きなロケーションじゃないんだよねー。なんかたまにポイ捨てされたゴミ落ちてるしさ、前なんかあの辺りで犬のこんもり踏んじゃってマジで最悪でさ……」

 茉莉花が早口でまくし立てていたその時、スマホの通知音が鳴った。

 茉莉花のスマホのようだ。

 一旦話を止めてスマホを確認した茉莉花は、一瞬面倒くさそうな顔をした。

「何か、大事な連絡ですか?」

「ん?んー、多分大丈夫」

 そう言ってスマホを乱暴にカバンに突っ込んだ。

「さ、あっち行こ」

 そう言って、茉莉花はアスレチック広場の子供達に手を振ると、先に立って歩き出した。

 智紀も後ろから着いていく。


 茉莉花の様子はおかしかった。

 公園内を歩きながらも上の空のようで、スマホを突っ込んだカバンを何度もチラチラ見ている。

「あのぉ、さっきやっぱり大事な連絡入ってたんじゃ?」

 智紀はおそるおそる声をかけた。すると茉莉花は肩をすくめてみせた。

「いや、多分大丈夫だって。その、さっきのは見守りアプリの通知」

「見守りアプリ」

 智紀も存在を知っている。

 決まった時間に、高齢者が元気かそうでないか、助けが必要か不要か、を通知してくれるアプリだ。

「私、今おばあちゃんと二人暮らしでさ。前に大学行ってる時におばあちゃんが倒れてからスマホに入れるようになったやつなんだけど」

「もしかして、SOSの通知来たんですか?なら早く帰らないと」

「違う違う。報告無し、の通知が来たの」

 茉莉花はそう言って苦い顔をしてみせた。

「おばあちゃん、適当でさ、前も報告無し、でビビって授業早退して帰ったら単にスマホ庭に放置してて元気です報告しないでいただけだったことあってさ。多分今回もそれだって。電話も全然出ない人だからさー」

「今回は違ったら?」

 智紀の口調は重かった。

「違ったら大変です。帰りましょう」

「大丈夫だって。それにこの通知、一応私の親の方にも行ってるし」

「親御さん、今スマホ見てないかもしれないし、遠くにいるかもしれない」

「脅さないでよ」

「帰りましょう」

 智紀は茉莉花の腕を掴んで公園の出口に向かおうとした。


「マジで、大丈夫だって」

「大丈夫ならいいじゃないですか!」

 なぜか智紀の方が怯えているようだった。

「じゃあ俺のわがままで帰るって事にして下さい。俺が、その通知が気になって落ち着かないから帰りたいって事にして下さい。お願いします」

 智紀の真剣な様子に、茉莉花は戸惑いながらも頷くしかなかった。

「分かった。帰る。強引さはお兄様と同じだね」

「通りに出てタクシー拾いましょう」

「いや、そんな急がなくても」

「お願いします」

 智紀の真剣な表情に、渋々茉莉花はタクシー代があるか財布の現金を確認した。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした

鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、 幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。 アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。 すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。 ☆他投稿サイトにも掲載しています。 ☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

【完結】毎日きみに恋してる

藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました! 応援ありがとうございました! ******************* その日、澤下壱月は王子様に恋をした―― 高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。 見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。 けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。 けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど―― このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。

押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました

cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。 そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。 双子の妹、澪に縁談を押し付ける。 両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。 「はじめまして」 そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。 なんてカッコイイ人なの……。 戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。 「澪、キミを探していたんだ」 「キミ以外はいらない」

【完結】end roll.〜あなたの最期に、俺はいましたか〜

みやの
BL
ーー……俺は、本能に殺されたかった。 自分で選び、番になった恋人を事故で亡くしたオメガ・要。 残されたのは、抜け殻みたいな体と、二度と戻らない日々への悔いだけだった。 この世界には、生涯に一度だけ「本当の番」がいる―― そう信じられていても、要はもう「運命」なんて言葉を信じることができない。 亡くした番の記憶と、本能が求める現在のあいだで引き裂かれながら、 それでも生きてしまうΩの物語。 痛くて、残酷なラブストーリー。

借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます

なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。 そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。 「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」 脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……! 高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!? 借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。 冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!? 短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

処理中です...