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助けに来なきゃ……
しおりを挟む「何も無いとは思うんだけどなー」
家の前で、茉莉花がタクシーを降りながらブツブツと言った。
「タクシー代結構かかった。何もなかったらおばあちゃんからちょっと出してもらわないと」
「何もなかったら、俺も出します。……あの、半分くらいなら……」
「いいって。高校生が無理すんなー」
茉莉花は笑いながら、智紀の背中をポンポン叩く。
「じゃ、弟ちゃんは帰っても大丈夫だから。なんかあったら……何もなくても連絡するから」
そう言って、茉莉花は家の玄関へ消えていった。
「帰ってもいいっていってもなぁ」
茉莉花がそう言ったとは言え、ちょっと気になる。でも勝手に家を覗き込むのも忍びない。
智紀は周りを何となくウロウロしていた。
その時だった。
勢いよく玄関のドアが開いて、茉莉花が飛び出してきた。
「あ、弟ちゃんまだいてくれた。ねえ、ちょっと手伝ってくれる?」
「あ、うん」
茉莉花の勢いに押されて、智紀は家の中に入る。
入ってすぐの階段の下に、人が倒れているのが見えた。
「えっ!大丈夫ですか?」
「この人、私のおばあちゃん。階段から転んで動けなかったっぽい。ちょっと運ぶの手伝って」
この人が、さち子の入院中隣のベッドだった亮子さんか。その節はどうも、なんて挨拶できる雰囲気ではないのは明らかだが。
「動けなかった?救急車は呼びました?」
「そんなもの、呼ばなくていい!恥ずかしい!」
茉莉花の祖母、亮子が叫んだ。
「転んで救急車?恥ずかしくて近所に顔向け出来ないよ」
「そんな事言っても!!」
「だいたい、茉莉花なんだその髪型は!いつそんな派手な色にしたんだ!それに、このガキは誰だ!」
「今そんな事言ってる場合!?」
茉莉花は亮子に怒鳴った。
「いっつもそうだ!私が髪染めて何か迷惑かけてんの!?男連れてきてなんか文句あるの!?おばあちゃんなんか、助けに来なきゃよかっ……」
「タクシー呼びました!」
智紀が茉莉花の言葉を遮るように言った。
「茉莉花さん、保険証とかおくすり手帳とか用意しておいて下さい。俺、玄関まで亮子さん連れていきます」
有無を言わせぬ智紀の言葉に、茉莉花も亮子も黙り込んでしまった。
智紀は、亮子の近くに座り込んだ。
「亮子さん、はじめまして。俺、竹中って言います。竹中さち子って覚えていますか?」
「またあの人の孫か」
吐き捨てるように言われて、智紀はキョトンとした。
「えっと……」
「弟ちゃん、気にしないで。ばあちゃんと話してると気分悪くなるよ」
居間から茉莉花が叫ぶ。
「あー……えっと、痛いところありませんか?」
智紀は気を取り直してたずねる。
亮子は黙ったまま、足首と肩に目線をやる。
「えっと、じゃあ、ちょっと動かしますけど……えっと大丈夫かな……怪我して動かせない人は、動かさないのが鉄則だって保健の時間に習った気がするけど……」
「どうしょうもないじゃん。救急車嫌なんだから」
茉莉花は保険証を持って戻ってきた。
「内出血とか無さそうだし、そこまで酷い痛みでもないみたいだから、大丈夫だと思う。てか、万が一大変なことになっても弟ちゃんのせいではないから。確実にばあちゃんのせいだから」
茉莉花がそう言い放った時、玄関の外にタクシーが到着した。
智紀はとりあえず、茉莉花と協力して亮子を玄関まで運び、その後はタクシーの運転手とも協力して乗せた。
「ありがとう。ごめんね」
茉莉花がそう言うと、タクシーは病院へ向けて出発した。
残された智紀は、ふと振り返り、茉莉花の住む家を見つめた。
この家はさち子の部屋に似ていた。
家の造りの話ではない。小物一つ一つ似ていたし、壁に掛かっているのが家族写真なのも同じだ。小さな観葉植物の種類までも同じだった。
多分、さち子と亮子は趣味が合うんだろう。だから入院中色んな話をしたはずだ。
話をしたはずなのに、亮子はさち子のことを「あの人」と冷たく言った。
――もしかして、兄貴が様子がおかしかったのって……。
智紀はぼんやりと思いながら、茉莉花の家を後にした。
その日の夜、大したことは無かったけど、しばらく入院になった、と茉莉花から連絡が入った。
大したことが無かったならよかった。
更に後日、茉莉花から申し訳無さそうに言われた。
「ごめん、忙しくなるから、君たちのおばあちゃん孝行、協力出来なくなりそう」
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