37 / 58
イチャイチャは部屋でしたい派
しおりを挟むカシャ、と音がして我に返ると、米村がウイッグをイジられている智紀にカメラを向けていた。
「嫌なら言ってくれ」
ダルそうに言いながら、勝手にカシャカシャシャッターを押している。
「米村っち、ちゃんと許可取ってからだよ!」
茉莉花が米村を叱る。米村は一瞬だけシャッターの手を止めて、智紀をじっと見た。
「嫌だったか」
「いえ。その、嫌とかじゃないんですけど。何が目的ですか?」
「いや、おもしれえな、と思って。メイキングっつーの?」
米村は、撮った写真をチェックしながら言った。
「コスプレとか興味ねーけど。でも何かが出来上がっていくのはおもしれえなと思って。写真映えする顔してるし。まあ嫌ならやめるけど」
「メイキング!いいじゃん!」
智紀の代わりに茉莉花がキャッキャと答える。
「いいよね。メイキング。完成品もいいけど、出来上がる工程もいいよね!」
「狭山に聞いてねえけど。で、どうなの?嫌?」
「あー……SNSとかに、上げないなら……」
「上げねーよ」
「じゃあ……」
持ち前の流されやすさで、智紀は許可してしまった。
ウィッグの調整が終わった。
茉莉花は調整した二つのウィッグを丁寧にしまう。
「箱に入れたから、撮影まで崩さないようにね。お兄様に一応被ってもらって後で写真送って。あ、米村っち、よかったら米村っちも撮影来なよ。いいメイキング撮らせてあげまっせー」
「興味はあるな」
米村はダルそうなくせに乗り気な返事をする。
智紀はふと疑問に思った。
「その前に、どこでやるんですか?前にロケーション探し中途半端になってた気がするんですが」
「さっちんの部屋」
「さっちんの部屋……え?うち!?」
智紀は慌てた。
「そんなの、いつ決まったんですか!?」
「お兄様に、『弟ちゃんは外より部屋でイチャイチャしたい派らしいんだけどどこがいいと思う?』って前にメッセージ送ったらさ」
「語弊!!」
智紀は赤くなる。
「『俺もイチャイチャは部屋でしたい派です』って返って来てさ」
「兄貴も兄貴で何言ってんだよ」
「で、じゃあさっちんの部屋でするかってことに。お兄様はいいって言ってたけど」
「ええ……」
智紀はちょっと否定的な声を上げた。しかしよく考えてみれば、逆に家以外でやる場所はない気がする。茉莉花の家はだめだと言っていたし。
「でもそれしかないよなぁ」
腹をくくるように智紀は呟いた。茉莉花は智紀に言い訳するように言った。
「ちゃんとお兄様だけじゃなく、ご両親とさっちんのヘルパーさんにも許可取ったよ」
「まって!」
智紀は聞き捨てならない言葉に慌てた。
「いつの間にうちの親にも!?てかヘルパーさんにも!?」
「だって、お家借りるならちゃんと家主に許可取らないと。あと、うるさくするのって、さっちんの体調にも影響したらだめだから一応ヘルパーさんにも……そしたら、ヘルパーさんは、『もしさち子さんに秘密にしたいなら、その間にさち子さんお散歩に連れていきましょうか』って言ってくれてね。まあさっちんの体調が悪かったりするならその時はちゃんと遠慮するから」
知らないうちに完璧に準備が進んでいるのに、智紀はクラクラしてきた。
「茉莉花さんって……凄いですね……」
「こう見えて、仕事ができる女って、バイトでもゼミでも褒められてんだよ」
茉莉花はドヤ顔をしてみせる。
「だから、あとで一応米村っちみたいな怪しい成人男性も参加していいか確認するね」
「俺って怪しい?」
ちょっと不満げに口を尖らせる米村を無視して、茉莉花は「ギャッ」と言いながら立ち上がった。
「ヤバいヤバい、バイト時間ギリギリ!じゃ、また連絡するね!米村っち、あとはよろしくー」
バタバタと走って部屋を慌ただしく去っていく茉莉花を見送りながら、米村がぽんと優しく智紀の肩を叩いた。
「全く事情がわかんねーけど、オタクの行動力には敵わねえよな」
「いや、でもそれくらいじゃないと進まないでありがたいですよ。あと、米村さんが来てくれるのって、考えようによっては少し心強い気がします」
「お前はいい子だな。顔もいいし、モテるだろ」
「いや、全然モテないですよ」
「そんな事ねえだろうが。俺が女だったら……」
「ストップ!!その台詞は良くないとおもいます!!」
部屋のドアのところから鋭い声が上がった。
遅れてやって来た幸田の声だ。
「あー、幸田さん遅いよ。茉莉花さんもうバイト行って帰っちゃったよ」
文句を言う智紀に、幸田は何やら怒った顔をしてある。
「だって補習あったんだもん。竹中くんが心細いから一緒に来てっていうから急いで終わらせて来たんだよ。それより!おばあちゃんの知らないところで別カプ作ってるのは良くないと思います!」
「は?」
「私が見たところ、竹中くんのおばあちゃん、かなりの頑固者……ああいうタイプはね、別カプは許せないタイプだよ!それなのに、それなのに……!竹中くんにはお兄さんがいるでしょ!!」
「何が?」
「この祖母不孝者!!」
「何で!?」
智紀は、幸田の怒りポイントが全く理解できずに困惑しっぱなしだ。
米村はよくわからないまま、「痴話喧嘩すんな。ほら、缶ジュース奢ってやるから」とダルそうになだめてくれた。
14
あなたにおすすめの小説
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』
放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。
「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」
身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。
冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。
「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」
得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。
これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
橘若頭と怖がり姫
真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。
その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。
高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる